使い魔のフリーレン ~ゼロからの旅路~   作:お団子

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第48話『カトレアの病状』

 

「どうしたんだいルイズ? 久しぶりに会ったというのに、すごい泣き顔じゃないか」

 

 おどけたような表情で、ワルドはルイズに手を差し伸べる。

 ルイズは泣くのも忘れ、呆気にとられたような表情を浮かべた。

 一瞬だけだが、過去の記憶が一気にぶり返して、フリーズしてしまったのだ。

 

「ワルド……さま。どうしてここへ……?」

「え、ああ。実は久々に休暇を取ってね。昔お世話になった公爵や夫人に挨拶を……と思ったんだけど」

 

 ワルドは困ったように頬をかく。

 ルイズは思い出す。確か今のワルドは『魔法衛士隊』、グリフォン隊の隊長を務めるくらいに出世したと聞いていた。

 近年の衛士隊は金やらコネやらで心身ともに鍛え上げられた隊員がいないと聞くが、その中でもワルドは実力と実績でのし上がった数少ない叩き上げだ。何せ過去に『烈風』……、あの母から直々に魔法の特訓を受けたのだから。

 その実力あって得た二つ名は『閃光』。こと技の速さだけなら母に迫るのではと言わしめるほどの実力者となった。

 

 その立場故に、激務が忙しいとは聞いていた。ルイズでさえ、最後に会ったのはもう十年かそこらだ。

 婚約の約束でさえ、もうとっくに過去のものとなっていたとさえ思っていた。まあ、当時は婚約の意味をまだ深くは考えてなかった年だったし。親が決めていたことだし。

 さて、そんな十年ぶりとなった邂逅に困惑するルイズをよそに、ワルドは再び尋ねる。

 

「それにしても、本当に一体どうしたんだい? まさか、噂には聞いていたがカトレアの病状が……」

 

 それに対し、こっくりと頷くルイズ。

 ワルドは帽子を目深にかぶり直した。

 

「そうか……」

 当然、カトレアの病状の悪さも聞いてはいたが、まさかそこまで悪くなっていたとは。そんな表情をワルドは浮かべる。

 なんて言って慰めようか……。そんなことを考えていた時。

 

「ちょっとちびルイズ! どこにいったのよ……って、あら」

「やあ、エレオノール。久しぶりだね」

「ジャンじゃないの。まったく、来るんだったら連絡くらいよこしなさいよ。そんなこっそり来なくたっていいじゃない」

「ああ、これは失敬。こっちも色々ドタバタしてしまっていてね」

 

 ふくれっ面のエレオノールを、まあまあと宥めるワルド。

 ルイズはそれを、ただぽかんと見つめるのみ。

 

「それよりルイズから聞いたんだけど、カトレアの病気が悪化したって本当かい?」

「……ええ」

 

 認めるのが心底嫌そうに、歯噛みしながら答えるエレオノール。

 

「なにか、僕にできることはあるかい?」

「ないわよ。『水系統』のスクウェアたる父さまやトリステイン屈指の名医まで匙を投げたのよ。あの子の命はもう、三日もないと。それはもう、絶対動かないって……」

 

 エレオノールも、顔を俯かせる。プライド故に表情にこそ決して出さないが、「苦しい」という言葉が如実に伝わる顔つきをしていた。

 彼女でさえこうなのだから、もう本当にカトレアの余命は僅かなのだろう。

 その時だ。

 

 

 屋敷の一部屋から、眩いばかりの光が零れだす。

 場所は勿論、カトレアの部屋だった。

 

 

「は? なによあれ……?」

「い、一体あれはどういう……?」

 

 その光を見て呆気にとられるワルドとエレオノール。

 だがそれを見たルイズは、はっきりとその目に希望の彩りを灯し始めた。

 

(そうだ……、わたしには、フリーレンがいる!!)

 

 絶望に次ぐ絶望の情報で、まともに頭が働かなかったけど、今の自分には頼れる使い魔がいる。

 それに気付いたルイズは、いち早く小舟から抜け出し、桟橋から離れる。

「ちょ、ちょっと待ちなさいルイズ! 話はまだ――――!」

 慌てて妹の手をつかもうと動くエレオノール。しかし、つかむことはできなかった。

 なぜならルイズは、ふわりと宙を浮き、外からカトレアの部屋へと向かって行ったのだから。

 

「はぁ!? ルイズ! あんた、いつの間に『飛翔(フライ)』を……?」

(いや、『飛翔(フライ)』か? 今のは杖も詠唱も使わずに用いていたぞ?)

 

 エレオノールは動揺で見落としていたようだが、ワルドは驚きながらも即座に思考を働かせる。

 ここは衛士隊を務めていた歴戦の観察眼がものを言ったのだろう。

 

(噂に聞く、東方より伝わる魔法……か)

 

 鷹のように鋭い目を煌めかせながら、ワルドは最短、屋敷の中からカトレアの部屋へと向かった。

 遅れて気づいたエレオノールも、原因を突き止めるために足を動かした。

 

 

 

 さて、フリーレンがカトレアの病状を見る魔法を使おうとしていた頃。

 

「ちょ、ちょっとどきなさいあなた!」

「待ってください、ちょっとだけ、ちょっとだけ待ってください!」

 

 シエスタが、扉の前で必死になって時間稼ぎを行っていた。

 当然周囲には、カトレアの部屋に入るのを邪魔する、このメイドをどかさんと他の給仕が集まってくる。

 

「いい加減になさい! 雇われた給仕の分際で! なぜそこまで邪魔をするのですか!?」

「カトレアさまの、カトレアさまの病気を治すためなんです! 信じてください!」

「信じられるわけないでしょう! 平民のあなたが、『治水』のガストン氏でも分からない難病をどう治すというのですか!?」

 

 大きくなっていく声に、どんどんと周囲が集まっていく。まだメイジは来ないが、もう自分でもどうしようもない数の人数が集まってきた。

 正直、気絶してしまいたい。シエスタは恐怖で身体全体を震わせた。ド・ロレーヌの時以上の恐怖に襲われた時のことを、思い出していた。

 

 

『この平民ごときが! 貴族であるぼくを突き飛ばしていい道理などあるか! この場で成敗してくれる!』

『ちょっと待ちなさい! 今のはあんたを助けようとこの子が頑張ったんじゃないの!』

『んだとおゼロのルイズ! 落ちこぼれの癖にぼくに意見する気か!』

『ただ自分の見栄のために助けてくれた平民をなじるなんて、貴族のすることじゃないわ!』

 

 そんな風に口論してくれたからこそ、キュルケとタバサの二人がやってきて、最終的にあの三人がとりなしてくれたっけ。

 事情を聞いたキュルケは、ひと睨みでロレーヌを追い払ってしまった。

 

『ほら、大丈夫?』

 

 そう言って手を差し伸べてきたルイズの顔が、脳裏に過る。

 思い返せば、彼女には色んな意味で助けられていたことに気付く。

 マルトーの時も、彼女の力が無ければもっと酷い結果となっていたことだろう。

 悪徳の多い昨今、ちゃんと自分の道理を貫くルイズの事は何としても助けてあげたい。

 

(今度は、今度はわたしが、ミス・ヴァリエールやフリーレンさんを守る番なんだ!)

 

 だからシエスタは、普通の平民なら失神一歩手前のこの状況下でも、なんとか一歩も引かずに周囲を阻む。

 もしこの扉を開けてしまえば、そこには耳を元に戻したフリーレンがいる。そうなれば大混乱に陥る。誰も幸せになんてならない。

 だが、説明も無しにカトレアへの扉を阻むシエスタの願いが、周囲に理解されるわけもなく。

 あまりに鬱陶しいものだから、周囲もこのメイドに対して殺意が混じり始める。

 

「何をしているのですか、あなた達は」

「あ、ヴァリエール公爵夫人!」

 

 やがて、騒ぎを聞きつけ遂に公爵夫人が姿を現した。彼女の隣にはガストンもいる。

「そ、それがこのメイドが、カトレアさまへの道を阻んでおりまして……」

 それだけ聞いた夫人は、静かに片手を振って道を開けるよう指示する。

 すぐさま、シエスタへの包囲網は割れ、公爵夫人はシエスタの前に近づいた。

 

「なぜ、邪魔をするのですか?」

「……カトレアさまの病気を、治したく」

 

 シエスタの言葉に、ガストンは「馬鹿な!」と激昂する。

 ただの平民に、最高位の水メイジと認められた自分ですら治せないカトレアの難病を、診られるわけがない。これは傲慢ではない。平民ですらそう思うだろう事実だ。

 これは末期癌と判明し、余命まで正確に告げられた状態から「この薬を使えば病巣は消えます」と言われるに等しいことだった。

 

 しかし、夫人はガストンの激昂を、理解はしつつも「静かに」という意味合いで手で抑える。

「あの子の部屋の中で、何が行われているのですか?」

「…………」

 質問を変えてみるが、シエスタはだんまりした。答えたくないかのような表情だ。

 この様子、してみると彼女の隣にいたあの白髪の子が「当たり」なのだろう。聡明な夫人はそこまですぐに察した。

 

 おそらくあの部屋では、ルイズの使い魔となったエルフがいて、カトレアの病状を診ていると。

 この国の名医すら匙を投げた現状、異端と謗られようともあの子を救いたいと思うのは、おかしなことだろうか……。

 

「あの、夫人?」

 両者、だんまりとしてしまったので、この空気をどうしたものかとざわつく周囲。

 次の瞬間、扉の隙間すらもこぼれんばかりの光が、あふれ出し始める。

 さすがの夫人も、これは尋ねずにはいられない。

 

「あの光は?」

「いえ!? あの、その……」

 

 当然ながら、シエスタに答えられる筈もない。『予知』は極限まで集中するか命の危機を感じられなければ、発動しないのだ。

「失礼します夫人! 彼女は私の患者です! この異常事態を放っておくことはできませぬ!」

 使命感から、杖を取りだし強引に開けようとするガストン。

「どきたまえ!」

「ま、待って! 本当に待ってくださ――――!」

 しかし、ガストンは流暢に杖を振って扉を魔法で開ける。シエスタを突き飛ばすようなことをしなかったのは彼なりの矜持ゆえか。

 

 そして部屋を開けて、ガストンは驚きで目を見開いた。

 

 

 彼らの視界の先。それは白髪のエルフによって苦しそうにうめき声をあげているカトレアの姿だった。

 寝込んでいる彼女の口から、「言葉」そのものが吐き出されて宙を舞っている。それは徐々に細くなってエルフの持っている本に吸い込まれている。そんな塩梅であった。

 

 いかにも怪しげな魔術を使っているエルフという、たとえエルフへの偏見が無くてもこれを見て「治癒している」は、理解ができなかっただろう。

 

「ひいっ!? エルフ!!」

「な、なんでこんなところに……!」

 

 エルフへの恐怖で腰を抜かす中。ガストンは顔を赤らめて杖を、使用人の服を着たフリーレンの背中へと向けた。

「き、貴様! 一体何の真似だ! 今すぐカトレアお嬢様から離れろ!」

 恐怖をひた隠しにしながら、震える杖先で必死になって止めるよう叫ぶ。

 しかし、フリーレンは一瞬だけ振り向くが、「もう少し待って」と、それだけ告げて視線を本へと戻す。

 

「――――ッ! ダメです!」

 

 それを見て、真っ先に動いたのはシエスタだった。

 何か『見えた』のだろうか。彼女は何故か、杖を突きつけているガストンよりも中腰になって目を細めていたカリーヌの方へ抱き着いてきた。

 

「なっ!?」

 

 これを受けて、周囲は驚く。

 シエスタの命知らずぶりもそうだが、何故かこの状況でガストンではなくカリーヌに抱き着いたことに、呆気に取られる。

 

「お、お願いいたします! フリーレンさんのことを信じてください! 今ここで……、その、吹き飛ばしてしまっては誰も助からない!!」

 

 身体を小動物のように震わせて、カリーヌに抱き着きながら、懐に収めていた杖を持つ手を、抑えていた。

 

(――――この子……)

 

 事実、カリーヌもまた表情にこそ出さないものの、内心は驚愕していた。おそらくガストンよりも、周囲よりも驚いていた。

 

 扉が開かれる前まではシエスタを信じて待つつもりだったが……、苦しそうに口から文字を吐き出すカトレアを見て、一瞬心が怒りで満たされた。

 気づけばこの状況を止めさせようと、フリーレンに向けて反射的に『風魔法』を放とうとしていたのだ。

 この給仕の子は、それに気づいて先んじて止めに来たと。仮にも『烈風』の二つ名を冠する自分の神速の抜杖を、この子は見抜いてきた。

 

 やっぱり、ただの平民じゃない。カリーヌはシエスタの評価をさらに上方修正する。

 元々、最初に会った時はこの黒髪の子の方が「エルフ」だと思っていたぐらいには何かがあると、思わせる風格を漂わせていたのは知っていたが……。

 

(どうやらあなたが連れてきた子は、どちらもとんでもない子でしたね、エレオノール)

 

 そんなことを考えていく内に冷静さが戻ってきたのか、カリーヌは抑えられている手をの力を静かに緩める。

 

「大丈夫です。あなたのおかげで頭が冷えました。手を放してください」

「あ、はい……!」

 

 シエスタは緊張で強張らせながらも、おずおずと下がった後、「ほ、本当に申し訳ございません!」と、勢いよく頭を下げる。

「構いません」

 カリーヌは静かに答える。

 

「あ、あの……公爵夫人」

「ガストン、大丈夫です。彼女たちを信じましょう」

「し、しかし……」

 

 ガストンは杖を震わせながらどうしたものか、といった表情を浮かべていた。

 元々彼は、その生涯を医療にささげてきたメイジだ。ランクこそスクウェアだが、戦闘に関しては完全なる門外漢。

 相手がエルフということや近くにカトレアもいることもあって、攻撃魔法を放つことは自重していたが、このまま黙って見つめていろというのも……。

 

 その時だ。

 外側の窓から、ダンダンと叩く音が響いてくる。

 シエスタは慌てて窓の鍵を開ける。するとそこからルイズが入ってきた。

 

「フリーレン!」

 

 ルイズは悲壮な表情を浮かべて、フリーレンに駆け寄る。

「どう!? ちいねえさまは大丈夫そう?」

「今診ている。あと五分で終わるからもうちょっと待って」

 ルイズには事前に、この魔導書を使うとこうなるということは教えてある。なので驚きはしつつもフリーレンの言葉には素直に頷くことで応えた。

 

「あ、あの……母さま。これは」

「ちょっとルイズ! あんたいつの間に魔法を……って! なにこれ!!」

 

 今度は扉側から、使用人たちの壁をかきわけてエレオノールとワルドがやってくる。

 当然二人も、この状況に揃って唖然とした。

 

「あ、あんた! エルフだったの! わたしの妹に何をしているの!!」

 この状況を生み出しているフリーレンに詰め寄ろうとしたエレオノールだったが、その前にカリーヌによって押し戻される。

 

「な、母さま! 何故動かないのですか! あのエルフはカトレアを……!」

「診ているということらしいです。私はルイズの言葉を信じるとします」

 

 そうしてカリーヌは、その目をルイズに向ける。

 一瞬、恐怖で身をすくませるルイズだったが、カトレアを助けたい一心と、そして使い魔であるフリーレンの事を信じる意味合いで告げる。

 

「ええ、彼女……フリーレンはエルフですが、わたしの使い魔です。母さま、ワルドさま、エレオノール姉さま、どうかわたしの言葉を信じてこの場を預けてください!」

「何言ってるのよちびルイズ! あんたはそのエルフに頭をおかしくされているせいで正常な判断ができてないのよ! 分かってるの! エルフはわたし達ブリミル教徒にとってはね――――!」

「違います! フリーレンさんはそんなことをしません! そもそもフリーレンさんはこの世界のエルフじゃないんです! 異世界から来たというエルフなんです!」

 

 シエスタが大声でエレオノールの叫喚を遮った。平民に怒鳴られるなんて体験、初めてだったエレオノールはシエスタの気迫にたたらを踏む。

 異世界だとか、そんな言葉を咀嚼することすらできない。それほどの混乱がこの場を支配していた。

 

(異世界……か)

 

 ちなみにワルドに関しては、先ほどから興味深そうに顎髭を撫でて静観するのみ。

 エレオノールよりは冷静になって物事を俯瞰していた。

 

 

「……ああっ!」

 やがて、カトレアがより一層、辛そうな声を零す。

 そして口から吐き出し続けていた文字が、ここで止んだ。

 文字は最後の一片まで、開かれた本へと吸い込まれる。全ての文字を本に収めると、フリーレンはバン! と大きな音を立てて本を閉じた。

 

「終わったよ」

 

 そう言うと、フリーレンは立ち上がる。

 三つ編みの白髪を揺らしながら、その髪の両側から突き出した長耳に、人々は恐れ、腰を抜かす。

 最後まで厳しい表情のまま冷静に物事を見ていた夫人が、口火を切った。

 

「それで、どうですか? カトレアは」

「まだどんな症状かまでは。これから本の内容を清書して、お知らせいたしますのでしばしお時間を頂けたらと」

 

 聞けば、先ほどの魔導書は『どんな病状なのかを判断し、それをどうやって治すかを文字にして収める』ものであるらしい。

 先ほどまで苦しそうに吐き出していたあの文字列は、カトレアの病原とは何かを記した「情報」であるようだ。

 これからカトレアがどんな病状であるか、どう治療すればいいのか、必要な素材は何か、調べていく必要があるとのこと。

 

「どのくらいかかりますか?」

「一時間もかかりません。情報を精査した後、公爵夫人にお伝えします」

 

 フリーレンは片膝をついて夫人に告げる。

 ルイズは意外に思った。普段ずぼらでだらしないのにも関わらず、貴族に対してこんなに礼節を整えた対応ができるなんて。

 

 ……じゃあわたしへの対応は一体?

 そんな考えが一瞬ちらつくも、敬語口調で接されるフリーレンのほうがなんか不気味に感じたルイズは、今のままでいいやと思いなおす。

 

 一方のカリーヌも、フリーレンの立ち振る舞いに感心しながら頷いていた。

 上辺だけを語る昨今の貴族にも、彼女の姿勢を見習ってほしい。そんな言葉をすんでのところで飲み込みながら、カリーヌは言った。

「よろしい。では早速取り掛かってください。必要なものはすべて用意いたします。どうか、娘を頼みます」

 

 

 さて、一時間後。

 清書して情報をまとめたフリーレンは、夫人の私室へと場所を移す。

 金の装飾で彩られた、丸い白テーブルに囲みながら、フリーレンの正面にカリーヌ、隣にルイズ。

 さらに参加者としてエレオノール、ガストンの計五人が席についていた。

 

「では、早速聞かせてもらおうじゃない。あの子の病状について」

 

 エレオノールは足を組みながら鼻を鳴らす。先ほどから彼女は、フリーレンのことを心底胡散臭げに見つめていた。

 ガストンはそこまで露骨ではなかったが……、今までずっとカトレアの診断をしてきただけに、やはり疑惑が勝っているような目をしていた。

 

「フリーレン、ちいねえさまはどうなの?」

 

 ルイズも、不安げな表情で使い魔を見る。信頼はしているけど、余命幾許もないという状況。余裕もまたない。

 姉カトレアが助かるか否か。それはもう、フリーレンの……、正確にはフリーレンの友人が遺してくれた魔法にかかっている。

 

「まず、病状ですが……、確認したところ、『二つ』あるみたいですね」

「二つ……?」

 

 ガストンはふむと頷く。

 自分の診断が絶対正しいなんて妄信は抱いてない。重要なのはカトレアを治すこと。それを妨げるものは何か、長年かかってもつかめなかった。

 そんな中、エルフの扱う魔法はカトレアの病状をどう判断したのか、興味があるような表情に変える。

 

「確かに、カトレアは幼少期から身体が弱かった。その頃からいろんな医者にかかってきましたが、最後には皆、匙を投げた。今も付き合ってくれているのはガストンだけです」

 

 カリーヌは嘆息する。

 カトレアの病状は特殊で、急に身体のどこかが悪くなる。そこを薬や魔法で抑えると、今度は別の部分が悲鳴を上げる。その繰り返しで今をやり過ごしてきた。

 

「でも、確かに命を蝕むような、緊急の事態までには至らなかった。カトレアお嬢様の病状が深刻化したのは、約一ヶ月ほど前くらいからです」

「つまり、ちいねえさまは今も苦しんでいる病気の上に、更に重い病気が乗っかっているから死にかけているってこと?」

「合併症、ということなの?」

 エレオノールは賢らな表情で言った。

 ここで、フリーレンは医者のガストンに向けて尋ねる。

 

 

「お聞きしたいのですが、今のミス・カトレアは『異様に花を怖がったり』していませんか?」

 

 

「――――ッ!」

 ガストンは思わず立ち上がる。

 ルイズも、自分の魔法で作った花を見せた時、異様に怖がり始めていたカトレアを思い出す。

 

「ええ、一ヶ月前……。彼女の病気が予断を許さない状況になった時から。いつも窓際に置いてあった花瓶を見て、過敏に反応したのを期に、花を見るのも恐れるようになりました」

 

 ガストンはもう、一人の事態を解決する者としてフリーレンに情報を提供する。

 

「一ヶ月前を思い起こしてみて、何かミス・カトレアが変わったような『きっかけ』に、心当たりはありますか?」

「確か、その時期カトレアは『ブロア』に帰省してましたね。本当にいつ以来ともいえるくらいに元気でしたので」

 

 ブロアとはフォンティーヌ領にある一つの街だ。

 ヴァリエール家は非常に広い。その中の一つに、フォンティーヌ領はある。名目上ではあるが、カトレアは公爵より領地を分けあたえられているのだ。病弱のまま外に出られない娘を不憫に思って、である。

 ブロアは温暖な気候と豊かな自然に恵まれた土地。病気がちのカトレアにとっては、心から休まる場所でもあった。だからよく、彼女をブロアに連れていくことがあったし、カトレア自身も積極的に行くことが多かった。懐いた動物たちもブロアの出身が多いからだ。

 

「さらにお聞きしますが、ヴァリエール領で最近、なにか起こったりはしませんでしたか?」

「……というと?」

「例えば、住民が失踪したり、眠ったまま目を覚まさなかったり、錯乱症状を起こしてたり……」

 

 聞いたカリーヌは目を細める。

 確かに最近、ヴァリエール領及びフォンティーヌ領で、不穏なことが起こっている。

 

 急に村人がいなくなったり、眠ったまま目を覚まさなかったりするのだ。

 

 民の悲鳴を聞いて知らないふりをするほど公爵は卑劣漢ではない。何が原因なのか、調査に騎士隊を派遣したこともあったのだが、芳しい成果は得られず。

 妖魔の類が暴れているのだろうか? 公爵はそう考えており、近々本格的な討伐隊の編成を考えていたようだが、それと同時期、ブロアから帰ってきたカトレアの病が深刻化した。

 

「巷を騒がせる妖魔と、カトレアの病状に、関連性があるのですか?」

「もういい加減にしなさい! 早く結論を言いなさいよ!」

 

 カリーヌが質問すると同時に、エレオノールが結論を話せとせっつく。

 フリーレンは一度、周囲を見渡した後、口を開いた。

 

「先に言っておきます。これは私の世界に蔓延る症状。故にこのハルケギニアでは絶対に治せないもの。しかし早急に解決策を立てないと、カトレア嬢は永遠に帰らぬ人となる」

「だから、早く言って! 何があの子を苦しめているの! その原因とは一体何なの!?」

 

 ここでフリーレンはルイズ、カリーヌ、ガストン、そしてエレオノールという順番に見つめた後、清書した魔導書を開いて言った。

 

「では単刀直入に伝えます。ミス・カトレアを死に誘っている原因。……それは〝呪い〟です」

 

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