使い魔のフリーレン ~ゼロからの旅路~   作:お団子

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第65話『未踏破の洞窟(ダンジョン)②』

 

「ああもう! フリーレンを返しなさいよ!」

 ガン! と、開かなくなった宝箱を蹴り飛ばし、ルイズは叫んだ。

「いたっ……だだ……!」

「ご、ごめんなさいミス・ヴァリエール。もっと早く駆けつけていれば……」

 

 蹴った場所が悪かったのか、足を押さえて飛び跳ねるルイズを見て、シエスタは小さくため息をつく。

 まさか、こんなハプニングが起こるとは思ってもいなかったのだろう。彼女の未来予知も、どうやら万能というわけではないらしい。

 

「シエスタの嬢ちゃん、未来はどれくらい先まで見えるんだ?」

「一秒……読めれば十分って感じです。能動的に『視よう』と思うと、かなり集中しないといけないんですよね……」

「逆に自分に危機が迫った時は、無意識に『視える』ってわけか?」

「大体、そんな感じで合ってます」

 

 要するに、自身の身を守る分には役立つが、他人の危機を察知するには、まだ不得手な部分があるということだ。

 

「未来予知も万能じゃないのね……。あんたが隣にいたのに、スリに遭ったこともあったし」

 痛めた足を涙目でさすりながら、ルイズはぼやく。

 

「ご、ごめんなさい……」

「いいわよ。シエスタが謝ることじゃないわ。……というか、この騒ぎの原因が誰にあるのかは、はっきりしてるんだし」

 

 ルイズは膨れ面のまま、うんともすんとも言わなくなった宝箱を睨みつけた。

 

 少し落ち着いて〝魔力探知〟をしてみる。

 すると、かなり遠く……おそらく上層付近に、フリーレンらしき魔力反応を感じ取れた。

 この距離で自分が探知できているのなら、向こうもこちらの位置に気づいているはずだ。

 それなのに、迎えに来る気配はなく、フリーレンの魔力はそのまま先へと進んでいっている。

 

「その様子だと、相棒はこの洞窟のどこか別の部屋に飛ばされたみたいだな」

「ええ……それどころか、わたしたちを放置して先に進んでるわ……」

「え!? そ、そうなんですか!?」

 

 シエスタは思わず、あんぐりと口を開けた。

 だが――その反応を見て、ふと、何かを思い出したようだった。

 

 

『二人はもう『古代竜戦』や『夢の世界』で自分の中にある素質を見出している。でもまだ圧倒的に場数が足りない。こういう経験が自信につながるんだ』

 

 

 もともとフリーレンは、彼女たちに経験を積ませるために、この洞窟へ足を踏み入れたのだ。

 どこかで、こういう対応に出る可能性は十分にあった。

 

「『先に行ってるから、ついてこい』って、相棒なりに試練を与えてきたってところかね」

「フン、上等じゃない!」

 

 ルイズは胸を張り、小部屋を出る。

「あんな見え見えの罠に引っかかるバカエルフなんて知らないわ!

 わたしたちだけで行くわよ、シエスタ!」

 

 そう言い放ち、休憩部屋を後にして、さらに下の階層へと足を踏み入れた。

 シエスタはまだ迷っている様子だったが……やがて観念したように、ルイズの後を追った。

 

 

 

「それにしても、こんなところで人に会うとは思わなかったよ」

「私こそ、まさかエルフと遭遇するとは夢にも思わなかった」

 

 一方その頃、こちらはフリーレンの視点。

 彼女は今、アニエスと名乗る金髪の女性剣士と行動を共にしていた。

 

「アニエスはあまり恐れないんだね。私はエルフだっていうのに」

「敵意を向けられていない相手を、無暗に恐れる趣味はない。まして恩人ならなおさらだ」

 

 先ほどの戦闘、あれは善意で助太刀してくれたことは、アニエスにも十分伝わっていたらしい。

 彼女は朗らかな笑みを浮かべて、そう答えた。

 

「アニエスは、どうしてこの洞窟に?」

 やがて、フリーレンが先に問いかける。

 アニエスは顎に手を当て、少し考えてから答えた。

「武者修行、といったところかな」

「修行?」

「ああ。ここは名のある騎士やメイジですら踏破を諦めたという曰く付きの洞窟だ。その中で、自分の腕がどこまで通じるのか……要は腕試しだな」

 

 聞けば、彼女は何度もこの洞窟に挑んでは破れ、そのたびにどうやれば突破できるか、思案しながら踏破を目指しているという。

 

「だが、最近はああいう亡者が増えてきた気がする。前は、あんな連中はいなかったというのにな」

「……ふうん」

「逆に聞くが、お前はなぜここへ? この洞窟は、エルフのみに伝わる秘密の施設だとか?」

 問い返され、フリーレンは少し考えてから答える。

「エルフ専用ってわけじゃないけど……まあ、近い部分はあるかな」

「というと?」

「どうやら、師匠(せんせい)が作った洞窟みたいなんだ。最初は連れを鍛える目的で来ただけだったけど、今はこの洞窟そのものに興味が湧いてきた」

 

 それを聞いたアニエスは、目を見開いた。

 連れもエルフなのかと思いきや、全員人間……しかも一人は貴族だという。

 驚かないわけがない。

 

「その師匠……は、流石にエルフなのだろう?」

「いや、そっちも人間だよ。千年以上前のね」

「……驚いたな。エルフとは、そこまで長命なのか。それに、人間を師と仰ぐとは」

 

 ということは、この少女と呼んで差し支えない見た目のエルフは、少なくとも千年以上生きており、かつては人間に師事していたことになる。

 エルフとは、『聖地』を阻む怪物のような種族で、人間など塵としか見ていない……そんな噂が流布されている。

 だが、噂と実態は、どうやら当てにならないらしい。

 アニエスは、内心そう思った。

 すると、更にフリーレンはこう続ける。

 

「あの師匠が、この洞窟で何を遺したのかが気になるんだよね。もしかしたら、元の世界に帰る手段が見つかるかもしれない」

「……うん? 元の、世界?」

「ゼーリエも、ハルケギニアへ渡る魔法は持ってたって言ってたし。師匠がここで何をしていたのか、手掛かりくらいは見つかりそうだからね」

「ん? え? 別の世界……?」

 

 急に訳の分からない単語が飛び出し、混乱した様子で首をひねるアニエスをよそに、フリーレンは先へと歩き出した。

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

「だぁっ、くそ! なんだこの仕掛け! 全然、解除方法が分かんねえぞ!」

「オスマンでもお手上げとは……相当、難易度が高いダンジョンなんだろうね」

 

 在りし日のヒンメルはそう言って、強固に施錠された両開きの扉を前に、あれこれと試行錯誤するオスマンを眺めていた。

 メイジの中でも最上位ランク『スクウェア』に位置し、確かな実力を持つオスマンですら、この洞窟に施された魔法仕掛けには、完全に手を焼いている様子だった。

 

「いったい、どんな野郎がこんな仕掛けを施したんだよ! 作ったやつの顔が見てみてえぜ! メイジなら分かるからこそ、そこを突くように巧妙に隠された……意地の悪い作りしやがって!」

「この階層は、すでに全部回った。下へ進める扉は、これしかないんだ。オスマンの解除だけが頼りなんだが……」

「開かねえってことは、もうこの洞窟は諦めるしかねえってことか。せっかく、ここまで来たってのによ」

 

 デルフのぼやきに、オスマンはぴくりと強く反応した。

 

「んなことできっかよ!この程度で躓いてたら、未来の『賢者』なんて名乗れねえだろ!」

「つまり、何が何でも解除するつもりなんだね? オスマン」

 ヒンメルの問いかけに、オスマンは間髪入れずに言い返す。

「あたぼうよ!」

 威勢のいい言葉とともに、オスマンはぐるりとヒンメルの方を向いた。

 

「もうちょい待ってろよヒンメル! ぜってえこの意地悪な仕掛けを解除してみせる! この未来の賢者の名に懸けてな!」

「おう未来の賢者。右頬の腫れまだ残ってるぞ」

「あれだけ強烈なのをもらったらね……。僕も初めて見たよ。ビンタを食らって空中できりもみ回転した人」

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

「……ってなこともあったなあ。いやあ、懐かしい」

 

 懐かしむように、デルフが言った。

 一度思い出すと記憶が鮮明に蘇ったのか、彼の道案内のおかげで、ルイズたちは迷うことなく階下へと進むことができた。

 

「本当に愉快な方々だったのですね。学院長も、ヒンメル様も」

「まあな。オスマンの野郎はヒンメルのナルシストぶりばっか語ってたが、同じくらい、あいつ自身もバカやってたぜ。……だからこそ、馬が合ったんだろうな」

 

 シエスタの言葉に、デルフは振り返って笑った。

 

「っと、娘っ子。そろそろ杖を構えときな。嬢ちゃんも、俺の鯉口を切っとけ」

「え? どうしてよ」

「俺の記憶じゃあ、この辺りに門番の《ガーゴイル》が……ほら、来たぜ」

 

 螺旋階段を下りた先、細長い通路がルイズたちの前に現れる。

 十メイルほど先には両開きの石扉。その左右には、小鬼(インプ)を模したかのような彫像がそびえ立っていた。

 大きさは、ちょうどルイズたちと同じくらいだ。

 

 その彫像は、彼女たちがこの部屋に足を踏み入れた瞬間に動き出した。

 首をカタカタと鳴らし、石像特有の無機質な瞳をこちらへ向ける。

 

「門兵ガーゴイルのお出ましだ。来るぞ、嬢ちゃんたち!」

 

 デルフの警告と同時に、石像の一体が翼を広げ、跳躍した。

「――っ!」

 シエスタは即座にデルフを抜き放つ。構えはしたが、回避行動は取らない。

 

 その刹那、ガーゴイルは口から魔法球を放った。

 それを防いだのは、ルイズの〝防御魔法〟だった。

 

「大丈夫? シエスタ!」

「ええ、わたしは大丈夫です!」

 

 バリアではなく、必要な箇所だけを的確に展開した防御。

 ルイズはそのまま杖をガーゴイルへ向ける。

 

「こんな奴ら、わたしの〝一般爆裂魔法(エクスプロージョン)〟で――」

 

 その瞬間だった。

 未来を視たシエスタが、慌てて叫んだ。

 

「だ、駄目です! ミス・ヴァリエール! ここで大きな爆発を起こしたら、落盤して生き埋めになります!!」

「――なっ!?」

 

 慌てて杖を引っ込めるルイズ。

 その隙を突くように、もう一体のガーゴイルが動いた。

 腰に差した筒状の武器を引き抜き、彼女たちへ向ける。

 

「あれは……」

「……銃?」

 

 ルイズは首をかしげる。

 ハルケギニアには『銃』というものが存在する。火打石の火花で点火した火薬の圧力で、丸い弾を撃ちだす武器。

 弓より近距離の威力は勝るが、火薬を込める時間がかかるため速射性に劣る。命中精度も低い、平民用の武器だ。

 

 だが、ガーゴイルが持っている『銃』は、そこから『魔力弾』を連発で撃ち放ってきた。

 

 

「ちょ――」

「ミス・ヴァリエール!」

 

 銃を見て、一瞬考えてしまったルイズは、そこから撃ちだされる弾丸の速さに、〝防御魔法〟の展開が遅れてしまう。魔力操作がまだ未熟であるため、不意を突かれると発動が間に合わない。ルイズの欠点だ。

 直撃――その前に、シエスタがルイズを突き飛ばした。

 

(未来が……これしか『選べなかった』……!)

 

 弾幕は密すぎた。

 回避できる空間が、存在しなかったのだ。

 

 予想以上に弾幕を張ってきたため、回避できるスペースがなかったというのもあるのだが、シエスタにとって『未来予知』とは、『より安全に済ませるにはどうすればいいかという、選択式』なのである。

『無事じゃすまない』ことが確定してしまった場合、『どうすれば軽傷で済むか』、それによって浮かぶ選択肢を選び続ける。予知範囲が一秒にも満たないため、事前に対策をとることが出来ないが故の苦肉の策。

 そもそもとして、こうまで予知を戦闘に活用すること自体、シエスタは初めてだった。

 

『あの弾幕は、自分もルイズも無事じゃ済まない』。

 

 悟ったシエスタは、『どうすればこの状況をマシにできるか』、それのみを考えた結果『ルイズを無傷に、自分だけ被害を負う』形で何とかとどめたのである。

 ルイズの可能性を信じて……。

 

 その選択の果て。

 

「きゃっ!」

「シエスタ!!」

 

 シエスタは弾丸をまともに受け、吹き飛ばされた。

 

「大丈夫なの、シエスタ!?」

「だ、大丈夫ですけど……なにこれ……! 立てない!」

 

 彼女の身体には、とりもちのような魔力の繭が絡みついていた。

 外傷はないが、完全な拘束だ。シエスタはバタバタするも、立ち上がることが出来なさそうだった。

 

「外傷を負わせない、捕縛に特化した魔力弾か。いやにやさしいガーゴイルじゃねえか。こんな武器を使ってくるんだな」

 

 シエスタの手から離れ、遠くに転がっていたデルフが呟く。

 

「あんた、ここ来たことあるんでしょ!?だったら先に教えなさいよ!」

「いや、全然知らなかった。確かにここには来たし、ガーゴイルとも戦ったけどよ、相手の攻撃を許す前にヒンメルたちが倒しちまったからな」

 

 デルフの言葉に、ルイズは呻いた。

 確かに、古代竜討伐の英雄剣士と未来の大賢者だ。自分たちのようにまごつくことなく淡々と処理した絵が、脳内に浮かんできた。

 ならば、「そもそも知らなかった」のも仕方のないことといえるだろう。

 

「さあて、ここから先、どうするつもりだ娘っ子」

「くぅ……!」

 

 一旦『防御魔法』を『全面展開』し、弾幕をやり過ごしながら、ルイズは考える。

 だが、唯一の攻撃手段が『爆発』である以上、下手な攻撃は落盤の危険性がある。

 

『周囲に衝撃を発させず、奴らを一気に倒す』となると、どうすればよいか……。

 

 そうこうする間に、倒れたままのシエスタの下に、魔法陣が展開されつつあった。

 それは時計回りのような形で、十二時から三時の方へ、そして今は四時の方角へと回り始める。

「な、なにあれ……!」

「さあね。だがまあ、倒れたままの奴には何かしらのペナルティが入るみたいだな」

「な、それってなによ!」

「知らん、ヒンメルたちがこんなところで背中をつけたのを見たことないからな。こんな風になることすら今知ったよ」

 デルフの無情な答えに、ルイズは唇をかみしめた。

 この洞窟の設計構造からして、殺傷足らしめるものではないと思いたいが……、考えている時間ももったいない状況。

 これをどう打破するか、ルイズは今、たった一人での戦いを始めることとなった。

 

 

 

「なかなか強かったね」

「ああ……、私からすると、こうもあっけなく突破できるのか……という感じなのだがな」

 

 別の部屋にて。

 ルイズ達が戦闘を始めたのと同時刻。

 フリーレンもまた、アニエスとともにガーゴイルとの戦闘を行っていた。

 そして今はもう、終わったようだ。

 フリーレンは砕けたガーゴイルの手首を杖先でつつきながら、先の戦闘を振り返る。

 

「アニエスはよくここに来るの?」

「ああ、そして大体ここで敗北して入り口まで戻される」

 アニエスはそう言うと、軽く解説を始める。

 

「倒れたり意識を失うとな、その下で魔法陣を構築し始めるんだ。時計回りにぐるっと。それが完全に作られた瞬間、洞窟の入り口まで強制送還される」

「なるほど、倒れた人間が野垂れ死にしないようにの措置か」

「私も、何度も挑んでは返り討ちにあってな。今日こそ突破してやると意気込んでいた時にお前と会ったんだ」

「ふーん」

 そこまで聞くと、今度は壊れたガーゴイルの傍に転がっている、単筒に目を向ける。

 

(ルイズ達もこれと同じガーゴイルと戦闘中と。あの二人には良い訓練にはなるかな)

 

「不思議な武器だ。筒から弾丸を飛ばすのか」

「エルフには『銃』という概念はあまり浸透していないのか?」

「『銃』……か、中央や北側諸国ではあまりお目にかかれない兵器だね」

 

 フリーレンは、ここで初めてガーゴイルが携帯していた『弾丸を飛ばす単筒』に、目を向ける。

 

(中央? 北側諸国……?)

 内心、首をかしげるアニエスを置いて、フリーレンは手に取ってまじまじと見つめる。『ガンダールヴ』の力の大多数は才人の方に渡したとはいえ、武器を手にすると詳細が分析できる能力は、こちらにも残っている。

 

 そのルーンによる分析と自身の持つ解析能力と合わせて、この石兵が使ってきた武器について調べる。この石兵の強さの大半は、この未知なる兵器による弾幕にあるようだ。

 

 

『Mauser C96』

 1896年にモーゼル社が開発したという自動拳銃。

 それを文字通り『捕縛用の非殺傷弾』が撃てるように、魔改造した銃だ。

 

 ちなみにフリーレンの足元にはより連射に特化した『Schnellfeuer』もあった。……ただし、こっちは先の戦闘で破壊され、もう使い物にならなさそうだが。

 これらによる魔弾の連射には最初、フリーレンも驚いたが、石兵の性能自体はそこまで高くなかったというのもあり、結果的には無傷で突破した格好だ。

 

(弾は……これか)

 フリーレンは慣れた手つきでトリガー部分につけられたマガジンを外す。まるで使い方をわかっているかのように。

「なんか、銃を知らない割に随分慣れているじゃないか」

「『ガンダールヴ』のおかげで、この武器をどう扱えばいいかすぐ解析できるんだ」

(ガンダールヴ……?)

 

 疑問符という名の坩堝にずぶずぶはまっていくアニエスをよそに、フリーレンはマガジンの中身を見る。

 本来の銃は、このマガジンに多数の銃弾が装填できるようだが、その構造を一部改造しているのか、代わりに青白い結晶体が敷き詰められている。

 次いでフリーレンは、銃口を軽くのぞいてみる。レンズ状のものが何枚か入っているのが確認できた。

 

(火薬で撃ち出す物理的な弾丸の代わりに、魔力化した弾を発射する構造に変えているのか。この結晶石は……『風石』か)

 

 マガジンから覗く結晶石を、今度は分析する。

 ハルケギニアにはこういった『精霊石』と呼ばれる、魔力の結晶体があるのは授業ですでに知っている。

 特に『風石』は、ハルケギニア全土にわたり地中深くに存在しており、船を浮かせる原動力として活用しているのだとか。

 

(この結晶に刻まれた術式を見るに、当たった対象を捕縛する『とりもち弾』に変化する仕組みのようだな。随分器用な真似をする)

 

 マガジンの中に刻み込まれた文字を読み解き、そこまで分析したフリーレン。

 そう言えば……と、ここで鞄を呼び出し、その場に座り込んで中からあるものを取り出す。

 それは、何を隠そう『破壊の杖』だった。

 

(鞄がでてきた、どこから? それになんだあの筒……??)

 

 説明してくれないため、一人置いて行かれるアニエスをよそに、フリーレンは『古代竜戦での報酬としてもらった』、弾の入っていない『破壊の杖(M72ロケットランチャー)』を見る。

 

(まったく同じ構造……、というわけでもないけど。大雑把に言えばこの『杖』は、この銃の拡大発展版といったところか)

 

 これはどちらかというと、サイトの世界の技術なのかもしれない。

 彼の住む世界では、魔法が発展していない代わりにこういった技術が根幹に根付いているのかもしれない。

 さしずめこの銃も、本来は……人を殺傷足らしめる武器。火薬の衝突で弾丸を飛ばし、人体を貫くように作られた遠距離攻撃武器。

 いわゆる――――

 

 

「サイトの世界の〝人を殺す技術(ゾルトラーク)〟……といったところか」

 

 

(ぞ、ゾルトラーク……??)

 もうそろそろ突っ込みたい。

 だが、完全にこのエルフは一人の世界に没頭し始めている。

 アニエスもまた、どうすればよいのか……。一人先に進んでもいいのだが、あまりに気になる発言を繰り返すこのエルフの存在に、くぎ付けとなってしまっていた。

 

 

 

「――――くっ!」

 

 フリーレンが一人、のんびりと研究を始めている頃。

 ルイズたちの戦線は、依然として拮抗状態にあった。

 

 とにかく、あの銃から放たれる魔力弾には当たってはいけない。それは分かった。

 だが――かといって、打開策があるわけでもない。

 バリア状に展開した『防御魔法』の内側で、ただ耐えるしかなかったのだ。

 

 弾幕の嵐に晒されても、攻撃が『質量』を伴わない以上、防御自体は可能だ。魔力の持続にも問題はない。

 しかし、こちらから仕掛ける手段が、決定的に欠けている。

 

(ああもう……! だからこそ、爆発を克服したかったのに! 肝心なところで、まったく役に立たないじゃないのよ……!!)

 ルイズは内心で、何度も苛立ちを吐き散らした。

 

 フェルンだったら――。

 あの洗練された〝一般攻撃魔法(ゾルトラーク)〟で、きっと一瞬であの石兵たちを撃ち抜いてみせたことだろう。

 

 どうして自分は、いつもこんな面倒な戦いばかりを強いられるのか。

 そこまで考えた、その時――ふと、ある言葉が脳裏をよぎった。

 

 

『魔法使いにとって、何よりも重要なのは、強力な魔法ではなく、冷静な判断力と思考能力』

 

 

(……そうね。焦っても、仕方ない)

 ルイズは深く息を吸い、意識的に思考を切り替えた。

 

 このまま放っておけば、動けないままのシエスタがどうなるかわからない。彼女の下に敷かれた魔法陣は、もう九時の方角まで回ってきている。

 こんな危機的状況だからこそ、冷静になって行動するべき。そうやってカトレアを救出できたのだから。

 

 そうやって冷静になれたからこそ、頭の中でひらめく、新たな気付き。

 

(落盤させずに、強い振動を周囲に伝えずに……どうやって爆発させるか……! いや、待って! そうだわ!)

『こう』すれば、少なくとも『落盤』の心配なく『爆発魔法』は使える。

 後はもう、タイミング。……いや、勇気か。

 とはいえ、もうまごついていられない。これ以上縮こまっていたら、シエスタの下にある罠が発動してしまう。

 

(ええい! 女は度胸! 勝負あるのみ!)

 

 ルイズは『全面展開』を解除した。次いで、飛び跳ねながら銃を構えて撃ってくる、弾幕の発射地点を予測する。

 ガーゴイルが持っている魔改造銃は、魔力の弾丸を発射する。塩梅としては〝一般攻撃魔法〟とほぼ変わらないのだ。

 むしろ直線にしか飛んでいかないため、読みやすいまである。

 

 ルイズはそのまま、自分に当たるだろう弾丸にのみ先読みして『防御魔法』の破片を展開。

 そうすることで走りながら、この二体のガーゴイルが、『なるべく近くへ寄る』機会をうかがう。

 

「ミス・ヴァリエール! 今、杖を上に!」

『未来』で読めたのだろう、シエスタの助言を聞いたルイズは、言われるがまま杖先を上部に向ける。

 

 シエスタの魔法陣は、十一時を指している。これが最後のチャンス。

 その最後の最後で運気がルイズに回ってきた。二体の石兵が飛び跳ねる、そのちょうど合間に、二体は至近距離まで近づいた。

 

(ここだ!)

 ルイズはここで、防御魔法を『全面展開』する。ガーゴイルに向けて(・・・・・・・・・)

 これにより、二体の石兵はルイズの張るバリアに、閉じ込められたこととなる。

 

 

「防御魔法の中で『爆発』させれば、衝撃を伝えることなく攻撃ができるでしょう!?」

 

 

 そう、防御魔法は〝一般攻撃魔法〟の威力を効率よく霧散する術式が組まれている。

 そしてルイズの『爆発魔法』も、性質は〝一般攻撃魔法〟のそれと同様。

 

 つまり、バリアの中で一般攻撃魔法を撃つ分には、周囲に衝撃を与えることなく爆発が使えるのだった。

 これは魔力量が極めて大きいルイズだからこそ、許された戦法だった。

 

 

「今度こそ行くわよ! ――〝一般爆裂魔法(エクスプロージョン)〟!!」

 

 

 ルイズは杖先にためた魔力を、『防御魔法』の内部に指定。

 刹那、バリアの中で暴れる二体のガーゴイルの周囲が歪曲し、青白い大爆発を、バリアの中でのみ発生させる。

 

 防御魔法の破片が、爆発とともに散らばっていく。

 それに伴い、ガラガラと崩れ落ちる、石兵だった者の手足が、バラバラになった銃身が、ルイズの目の前へと落ちていった。

 

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