使い魔のフリーレン ~ゼロからの旅路~   作:お団子

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第67話『大魔法使いフランメの試練①』

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

「これは……」

「『封魔鉱』。魔法を無効化する特殊な鉱石だ」

 

 千年前の記憶の一片。

 在りし日のフランメと、当時のフリーレンは今、『封魔鉱』で彩られている洞窟の入り口に立っていた。

 

「決してこの洞窟に入るんじゃないぞフリーレン。一歩間違ってこの洞窟に入った日には、魔法使いである私達は無力だ。中に潜む小型魔物一匹にすら太刀打ちできなくなってしまう」

 

 フランメは洞窟前に転がっていた小石を拾上げ、フリーレンに向かって放り投げる。

 反射的に『当時の防御魔法』で防ごうとしたフリーレンだったが、魔法は発動せず。ごちんと、小石の『封魔鉱』は頭に当たる。

 

「いった……」

「悪い悪い、でもこれで良く分かったろ? こんなんでもかなり希少な鉱石だ。切り出せる技術さえ確立すれば、一生遊べて暮らせるだろう大金が手に入る」

 そこまで言ったフランメは、「まあ、今の技術じゃ無理だがな」と、補足する。

 

 

「ちなみに魔力を込めるとめっちゃ光る。覚えておいて損はないぞ」

「すっごいどうでもいい豆知識まで教えてくれて、ありがとう師匠」

 タンコブをさすりながら皮肉を言うと、フランメは豪快に笑って弟子の頭を撫でた。

 

 

「もし加工技術が更に進歩したら、魔法の在り方もまた大きく様変わりするだろうな。まあ……今の人類に『封魔鉱(これ)』はどうしようもない代物だが」

 

 

 封魔鉱は物質の中でも最大級の硬度を誇る。

 それに他の物質とは違い、魔法による切断や加工は不可能。故に人類はこの洞窟をどうこうすることができない。

 

 だが、いつかは、その眠りが解かれる日が来る。

 そう続けているかのような顔を、フランメは浮かべていた。

 

「魔法を無効化するのに、どうやって加工するんだろうね。私にはさっぱりイメージがつかない」

「だろうな。私もイメージできない。だが、『いつか』は必ずやってくる。対策は怠ってくれるなよフリーレン。時間にルーズなお前の事だ。その『いつか』なんて、お前がふと後ろを振り向いた日には、あっさりやってくるだろうからな」

 

 フランメはどことないしたり顔を、フリーレンに向けていた。

 その表情が何を物語っているのか、情緒が未発達な当時のフリーレンには、分かることも無かった。

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

「ああっ! 暗いよぉ怖いよ、暗いよ怖いよぉおおおおお!」

「ふん!! ぎぃぎぎぃ!」

「ぐぁはっ! があっはっ!!」

 

 世界はハルケギニア、時はその異世界で、旅を始めたころにまで揺り戻る。

 

 大魔法使いフランメの弟子。フリーレンは今、宝箱の罠にかかって、情けなくも下半身を露出させていた。

 それを助けるのは、出会ってまだ三十分と経っていない冒険者アニエス。

 煌めく金髪を揺らす、歴戦の剣士のような風格を漂わせる彼女は今、このエルフの欲望に付き合っていた結果、その尻拭いをさせられている真っ最中だった。

 

 ……一瞬、放っておこうかという思いが去来したが、まあせっかく知り合ったのだし、無碍にすることもあるまい。

 

 アニエスはとりあえず、フリーレンの両足を掴んで引っ張り上げようとした。

 しかし、なかなか宝箱は彼女の上半身を食んで離さない。

 今度は思い切り引っ張り上げるが、やはりどうにもならない。宝の奥で、フリーレンが苦しそうに呻いていた。

 

「はあっ、はあっ……くそ、ダメだ……」

 

 額に溜まった汗を拭いて、ひとまずフリーレンを放すアニエス。

 再び、フリーレンのだらしない尻と足が、たらりと地面に倒れた。

 

「ねえアニエス。ちょっといいかな?」

「なんだ……?」

「こういう時はね、引っ張るよりも押し込むんだ。こいつがオエッとなって噛むのを止めるから」

「犬か何かなのか?」

「多分ね。これは本物のミミックじゃないけど、それを模した仕掛けで作られた、魔法式の宝箱の罠だから。なるべく本物に近い性質で作られている筈だから」

 

 言われた通り、アニエスはフリーレンの尻を押し込んでみる。

 すると、本当に宝箱はえずき、フリーレンを吐き出してきた。

 

「ふう、助かった。ありがとうアニエス」

「まったく、私がいてよかったな。一人だったらずっとあのままだったってことなのだろう?」

「その時は宝箱の内側を攻撃するから大丈夫だよ。まあ、縦ロールになるからあまりしたくないけど」

 

 一息つきながら、フリーレンは言った。

 やがて彼女は立ち上がると、特に反省したような意志も見せず、けろりと洞窟探索を再開する。

「じゃあ早速、探索再開しよっか」

 

 

 数十分後。

 フリーレンとアニエスは、そこそこ広い部屋の中で休憩していた。

 彼女の目の前には、アニエスから見れば何とも言えないガラクタの山が広がっている。

 

「ふふん、大漁だ」

「ガラクタにしか見えないが……」

 

 だが、アニエスの言葉を気にすることなく、フリーレンは集めた道具を愛で始める。時折、頬擦りまでしていた。

 

「まったく、変な奴だな」

 

 思わず、微笑みを零しながら彼女の背中を見続けるアニエス。

 あんなガラクタ、誰も見向きもしないだろうに。それでも嬉しそうだから、なんか付き合ってよかったとまで、ちょっと思い始めている。

 

「ここいらの階層は全部回ったね。そろそろ下に行ってみよっか」

「ほう、見回りはもういいのか」

 

 思わず茶化してみるアニエス。しかしそれを気にすることなく、フリーレンの足はさっきガーゴイルを討伐した、下へ向かう階段前までやってくる。

 

「あのガーゴイル……」

「やっぱり、時限式で復活する仕組みみたいだね」

 

 さっきまで扉を守っていた、そしてフリーレン達が先ほど屠った番兵の欠片が、台座付近に集まりかけている。

 散らばった破片が台座へと集まり、今は足先まで復元しかけている。こうやって、壊されてもすぐに復活する仕組みを作り上げているのだろう。

 流石に奪い取った魔法銃までは、復活してなかったが。

 

「あの様子だと、完全復活は一週間くらいだろうね。どのみち今の私達には関係ないことだけど」

 

 フリーレンはそう言うと、気にすることなく階段を下りていく。アニエスもそれに倣った。

 

 下の階層についたら、また周囲を巡るのかと思ったが……、どうやら一本道らしい。

 魔法式の昇降機に乗り、一気に最下層へと降りていく。

 そうして降りた未知の先、巨大な大扉の前にフリーレン達はやってきた。

 

 両開き式の扉が、十メイル以上にもわたって聳えている。巨大な石製だ。

 フリーレンの前には、金庫の錠前のような、丸型の鍵がある。幾層にも重なったダイヤル式で、決まった個所を解析しないと開かない構造らしい。

 

「これほどまでに巨大な空間が、地下にまだ広がっていたとはな……」

 

 アニエスは思わず、扉を見上げて感嘆する。

 こうまで巨大な空間の先、何があるのだろうか。確かに気になる。

 

「解除できそうなのか? フリーレン」

 

 アニエスは扉の前で手を置くフリーレンを見つめる。

 彼女は先ほどから、錠前ではなく、その上に書かれた「文字」を見ていた。

 

 

 

 

『いつか』は来たぞ。対策はできているんだろうな? フリーレン。

 

 

 

 

「………………」

「どうした? フリーレン」

 

 アニエスは文字を眺めて固まっているフリーレンを、再び呼びかけた。

 文字はハルケギニア語ではないから、良く分からない。エルフの言葉で書かれているのだろうか?

 ややあって、フリーレンは目を細めた。そして心底嫌そうな声で言葉を吐きだす。

 

「相変わらず嫌味な奴だ……」

「へ、なんだ?」

「いや、アニエスに言ったわけじゃないよ」

 

 いきなり罵倒されたと思い目を丸くしたアニエスに、フォローするフリーレン。

 彼女はそのまま、魔法で錠前のダイヤルを激しく動かし始める。十層もあるダイヤルが全て一斉にぐるぐる回り始めた。

 

「先に言っておくよアニエス。これは私の師匠が作った洞窟だ。この先はおそらく、私を試す空間が広がっている。突破は至難だろう」

 

 勝手にガタガタ動くダイヤルを背に、フリーレンはアニエスに身体を向ける。

 

「それでも行く? 今なら引き返せるよ」

「…………」

 

 このエルフがそこまで言うとは、アニエスは一瞬、言葉に詰まった。

 だが、せっかくここまで来たのだ。行けるものなら行ってみたい。

 自分の『目的』を達成するためにも、力を備えておきたかったから。

 

「ここまで来たんだ。行けるところまで、行ってみせようじゃないか。魔法の前で話にならんだろうが、剣にはそれなりに自信がある」

「そう、じゃあ任せたよ」

 

 フリーレンはそう言うと、くすりと微笑んだ。

 アニエスは意外に思った。自分は平民、魔法も使えぬ剣士だというのに、ここまで信頼してくれているとは。

 そんな事を考えているアニエスをよそに、フリーレンは回り続ける錠前を見つめる。

 これまでの仕掛けが児戯に思えるような高難易度。これは自分にしか解けない魔法の扉だ。

 

 そのくせ、この先にある空間はおそらく…………その『魔法使い』が役に立たない空間。

 

 

(もしこの扉の先が、私の想定するものだとするなら、恐らく私は勝てない。ルイズもだ)

 

 

 最高レベルの魔法使いと前衛。どちらも欠けていたらクリア不可能。なるほど突破者がいないわけだ。

 私の世界の魔法使いでも、『これ』は持てあます。間違いない。

 

 

(この空間の突破の鍵は、文字通りシエスタと、後は彼女になるだろうね)

 

 

 やがて、錠前は「かちり」と音を鳴らす。

 次いで、巨大な振動と共に、両開きの扉が動き出す。

 上から幾つもの破片が転がり落ちてくる。フリーレンは『防御魔法』でやり過ごしながら、扉の先にある暗闇を見つめる。

 

「じゃあ、行くよ。アニエス」

「ああ」

 

 フリーレンはアニエスを連れ、暗闇の先に進む。

 彼女たちが暗がりに完全に入った瞬間、扉は再び締まり始める。

 

「なにもないが……」

 アニエスはそう言って、更に一歩を進む。

「フリーレン、魔法で『灯』を作ってくれないか?」

「……」

 アニエスの提案に、フリーレンは無言になる。

 聞こえなかったのだろうか? アニエスはもう一回言う。

 

「フリーレン、光を……――――!」

 

 やがて、地面がぐらりと崩れる。

 地響きと共に大穴が空き、アニエスとフリーレンは重力に逆らうことなく落下していった。

 

「なっ!」

「……」

 

 そのまま、二人は何事も無く落ちていく。

 落下先は水溜まりだったらしく、そこに水しぶきを上げて落ちていく二人。

 

「ぶはっ!」

 アニエスは素早く水溜まりから脱する。遅れてフリーレンも立ち上がる。

 

 

「……やっぱりそっか」

 フリーレンは心底だるそうな表情で、視界の先にあるものを見つめる。

 

 

 視界の先にあるのは、無機質な色合いに加工されたゴーレム。

 統一王朝時代、大魔法使いフランメが作成した兵器の一つ。

 

 

 フリーレンは左手の『ルーン』を光らせる。

 魔法が使えない以上(・・・・・・・・・)、使えるものがこれしかない。

 とりあえず、まずは『解析』を始めないと。

 

 

 そうする内、ゴーレムは起動した。

 身体中を走る黒い筋が、魔力による駆動で青色に光り始める。

 それに伴い、顔に当たる部分に、両目らしき二つの光が灯った。

 

 全長七メイル級の巨大ゴーレム。その身体の中に、幾つもの『兵器』が仕込まれている。

 それはおそらく、先ほどの『Mauser C96』と同じ。おそらくは才人の世界の武器。

 

 

 

 そう、ここから先は、才人の世界の技術を取り込んだ、師匠(フランメ)作のゴーレムという、未曽有の戦いになる。

 しかも―――――

 

 

 

「おいフリーレン! あのゴーレム、殴りかかってくるぞ!」

「……」

「フリーレン? フリーレン! 魔法は、魔法はどうした!?」

「使えないんだ。この空間の周囲、『封魔鉱』で覆われている」

 

 そう、この空間の中でのみ、『封魔鉱』が使われている。

 ドーム状になっているこの空間の壁や天井は、魔法を封じるクリスタルで覆われているのだった。

 自然に作られたものじゃない。人の手による加工がなされている。

 魔法が使えないのにどうやってかは分からないが……、いや。

 

 

「サイトの世界なら、可能だってことなんだろうね」

 

 

 魔法が無いゆえに、魔法によらぬ技術を進めたかの世界なら、それもあり得るのだろう。

 もしくは、ハルケギニアの『封魔鉱』は自分の世界と比べて加工がまだしやすいのか……。そもそも、どうしてこの世界に『封魔鉱』があるのか。

 

 疑問は尽きない中で、ただ一つ分かること。

 それはこの空間に入った時点で、自分はもう無力。

 

 フリーレンは冷静な目で、殴りかかってくるゴーレムを棒立ちで見つめるしかできなかった。

 

 

 

 

 ぴちょん、ぴちょん。

 鍾乳管から垂れる水滴が、暗がりの洞窟内に反響する。

 

 上では翼を休める蝙蝠たちが逆さに立っている。あまりに不気味なので、見上げないように注意しながら、ルイズは尋ねる。

 

「ねえ、いったいどこまで行くつもりよ」

「せっかちねえ、歩いてまだ五分と経ってないじゃないの」

 

 くすくすと笑うのは、先導するジャネットとかいう少女。

 ルイズは彼女の背中をまじまじと見つめる。メイジ……なんだろうけど、内包する魔力は今まで感じたことのないものを持っている。

 怪しげな雰囲気といい、立ち振る舞いといい、こう……なんとも言い表せない不気味さを纏わせているのだ。

 

「そんな警戒しないでよ。暇だというのなら、おしゃべりでもしましょう? ルイズさん」

 

 こちらに顔を向けてないのに、まるで自分の心境がわかっているかのように、ジャネットは言ってきた。

 ルイズは思わず身を固くする。一瞬シエスタの方をちらりと見たが……、特に反応を示さないあたり、『少し先の未来』でジャネットがどうこうする気がないのは確かなようだ。

 ……が、かといって仲良しこよしをする気にはまだ、到底なれない。硬い声で返事をしてしまう。

 

「悪いけど、怪しいあんたと話したいことなんて微塵もないわ」

「あらそう、でもわたしはあなた達に興味津々なのよ。さっきの『魔法壁』、随分面白い魔法よね」

 

 あなたが作ったの? ジャネットは横顔だけ向けて尋ねてくる。

 勿論、ルイズは『フリーレンから教わった』なんて馬鹿正直に伝えるつもりはない。ツン、と済ませた態度をとる。

 

「ふんだ、教えるつもりなんてさらさらないわよ」

「……ふ~ん、誰かに教わったと」

「え? なんでわかったの?」

 ルイズは思わず慌てふためく。それを見たジャネットはきゃはっ、と笑った。

 

「あなたって、嘘をつくのがすごくヘタッピなのねえ。ちょっとカマかけたらもうばらしちゃうだなんて」

「あっ」

 しまった。どうやらさっきの言葉はわざと被せて反応を見ていたようだ。

 

「あなたみたいな子は賭け事をやっちゃだめよ。顔に出るからすぐにバレバレ。あっという間にカモにされてしまうでしょうね」

 老婆心ながら忠告までしてくれたジャネットに、思わず「ぐぬぬ」してしまうルイズ。

 

「で、その教えてくれた人って誰なの?」

「い、言わないわよ! 言うもんですか!」

「じゃあ適当に候補を並べるわね。両親、兄弟、姉妹、教師、友人、使い魔……」

 使い魔、と聞いて無意識に反応してしまうルイズ。それを見逃すジャネットではない。

 

「使い魔……か。さっき言ってた『フリーレン』って子のことね。その様子だとただの動物類じゃなさそうね。『契約』前から相当な知能を持っているでしょう?」

 確信を得たとばかりに、ジャネットは続ける。

「じゃあその使い魔候補。ええとそうね……、人間か亜人か、多分後者ね。今の威張り腐ったメイジたちにあんな高度な魔法技術、作れるはずないもの」

「うぅ……」

「じゃあその亜人とは誰か? わたしの勘はそうね、エルフとか?」

「あああああああああっ! 何も聞いてない何も聞いてないこれ以上は絶対何も答えないんだから!」

 エルフの単語が出てくる前に、ルイズは両耳を塞いで絶叫した。思わず蝙蝠たちがキイキイと喚きながら飛び去っていく。

 

 さすがのジャネットも、これ以上は無粋か、と追及をやめる。大体『そう』だろうという確信は持てたし。

「ごめんなさいごめんなさい。あなたって本当にからかい甲斐があるわね。益々気に入ったわ」

 そう言ってジャネットは宥める。ルイズはジト目で睨んでいた。

 

(にしてもエルフか……あの魔法の源は『精霊の力』ってわけじゃなさそうだし、あれはかなり緻密かつ高度に編み込まれた技術の粋。それを人間に教えているってのも変な話よね)

 

 今のメイジと同じくらい傲岸不遜な連中も多い砂漠のエルフが、魔法技術の結晶体のようなあの『魔法壁』を、タダで教えているとは到底思えない。

 

 いったいどんな変わり者なのだろうか? 気になるし聞きたいけど、さすがにこれ以上ルイズを追い詰めたら敵対してくるだろうし、こういうのはほどほどの塩梅が肝要だ。

 

 

(ダミアン兄さまでしたら、是が非でも聞き出すでしょうけど、わたしはそこまで興味がないし)

 

 

 ルイズと情報、どちらを天秤にかけるといったら迷いなく前者をとる。ある種享楽的な思考の持ち主、実利よりも趣味をとる。それがジャネットという少女だった。

 

(まあどちらにせよ、この子の使い魔に正面切ってケンカを売るのは利口ではないでしょうね)

 

 さっき使ってきたルイズの魔法でさえ、まだまだ未知な部分は多い。

 話しぶりを見るに、その大本たる使い魔エルフはそれ以上の魔法を持っているということになるわけだし。

 

「じゃあそんなルイズにお詫びも込めて、この洞窟について知っていることを話してあげるわ」

 からかいの償いとばかりに、そう言って先に歩くジャネット。

 

「どうやらこの洞窟はね、かなり昔に掘られたものなのよ。魔法的なもので作られたのだろうと思ってたのだけど、どうやらゴーレムを使った作業的なものらしいのよ」

「ゴーレム?」

 

 ルイズは聞き返す。話を聞く限りでは、別におかしいとは感じない。建築作業で土人形を用いることは変な話ではないわけだし。

「それがどうかしたのよ? ゴーレムやアルヴィーを使って建物を作るなんて、おかしいことじゃないでしょ?」

「そう思うわよね、論点はそこじゃないわ」

「どういう意味よ?」

 なんかひっかかる物言いに、ルイズは怪訝な顔をした。

 

 ジャネットはそこで、ちょうど横切った、石が積んである場所を指さす。

 ルイズはそこに、杖先の光を当てる。石自体は天井から自然と崩れたものだ。だが……、その中に薄っすらと、何かが埋まっている。

 

「これ、ゴーレム?」

「みたいよ。『一番上のお兄様』が言うにはね」

 

 ルイズは思わず首をかしげる。

 石の中に埋もれているのは、確かにゴーレムのようなもの……なのだが。強い違和感を覚えるものだった。

 

 ハルケギニアのメイジが使う『ゴーレム』は、石や土などをこねて凝縮し、人型に整えた魔導傀儡。操り手の魔力が切れた時点で、ゴーレムはただの土くれへと戻っていく。

 だが、石の中に埋まっていた『ゴーレム擬き』は、無機質な白い皮に覆われて、言うなれば洗練されたフォルムをしていた。

 しかも、見たところ魔力が切れて動かないにもかかわらず、その形状を維持している。こんなゴーレムは初めて見た。

 

「ここいらにはこのような『ゴーレム擬き』がそこここに散らばっておりますわ。お兄様が言うには、この洞窟を作ったのは、今は動かなくなったこいつらの可能性が高いと」

「誰が、なんのためにこんなことを……」

「さあね、わたしも分からないわ。でも二番目の兄さま曰く『とてつもない魔法技術で作られたゴーレム兵』とのことでしたわ。何せ『土系統』に詳しいその兄さまでも『完全再現』はできなかったって。とても悔しがってましたもの」

「あんた、何人兄弟なのよ?」

 ようやくルイズも、ジャネットのコメントに突っ込みを入れた。

 

「四人兄弟ですわ。上三人に兄、わたしは末っ子ですの。火、土、風、水……メイジが分類する四系統に特化したエキスパート。それがわたし達ですの」

 

 ちなみにわたしは『水』ですわ。

 聞いてもいないのに、補足するジャネット。

 

「……なんであんたはあんな所にいたのよ」

 やはり気になったのか、最初に会った時と同じ質問を、ルイズはジャネットに突きつけた。

 

「さっきも言ったように、ちょっとドジって怪我を負っちゃってね。『水の力』が一番強い場所で『治癒魔法(ヒーリング)』を唱えていましたの」

 ここでいう『水の力』とは、言ってしまえば『精霊の力』によるものだが、面倒だからそこの説明は省くジャネット。

 それを聞いたルイズはまた疑惑を深めた。『水系統』は人体の組成を司るものが多い。古くから伝わる文献だと『無意識下で人を操る』とか、眉唾物だと『死体を動かすことも可能』というものすら出てくるのだから。

 

「ほんっっっとうにあんたはあの『動く死体』とは関係がないのよね?」

「やろうと思えば『似たようなこと』はできますけど、あれは本当に違いますわ。わたしから言わせれば『美学がない』もの。物言わぬ、しかも損傷の激しい遺体を理由もなく操るだなんて」

 ジャネットは首をすくめる。ルイズは疑わしそうな顔をしたが……、一応はこの言葉を信じることにした。

 

「さて、そんなことを話しているうちに、ほらついた」

 

 ジャネットは壁の隙間から覗く亀裂を指さす。

 ルイズは恐る恐る覗いた。どうやら最深部へと通じる抜け穴のようだ。隙間から吹き抜ける微風が、ブロンドがかった桃髪をゆったりと撫でつけていく。

 

「わたしたちなら、これぐらいの隙間は問題ないでしょ」

「……そうね」

 

 ルイズは自分の胸を無意識に見つめる。小柄な自分とジャネットなら、まあ屈めば余裕で潜れる大きさだ。

 事実、ジャネットはするすると隙間へ入って先へ進んでいく。ルイズも後に続いた。

 

「ぐっ、くるしい……」

 

 逆に苦慮したのがシエスタだった。デルフを担いだまま潜れないので、先にデルフを入れた状態で潜る必要があった。

 それだけではなく、進む途中、何度か苦しそうに、胸が壁につっかえたり、隙間に挟まれてぐにぐにと潰れかかるときもあった。

 

「…………」

 ルイズは何も言わず、努めて何も言わずに、シエスタが潜り抜けるのを黙って待っていた。

 

「…………で、ここが『最深部』なのかしら?」

 

 ルイズは周囲を見渡す。そこは、先にアニエスとフリーレンがやってきた『大扉』がある部屋だった。

 

「ええそうよ。ここに大扉があるでしょ…………?」

 ジャネットが指さして案内しようとして、彼女も気づいた。

 ずっと固く閉じられていたはずの扉が、開いているではないか。

 

 

 

「え、誰が開けたの? ダミアン兄さまですら開けられなかったあの扉を……??」

 

 

 

 ジャネットは純粋な疑問符を浮かべる。

 長兄ですら最終的には匙を投げた仕掛けを、解除した奴がいる。

 

「フリーレンさんですよね、これ」

「まったく、いつの間に先に進んでいたのよ」

 

 一方、ルイズとシエスタは「当然だろう」と言わんばかりに頷いた。

 聞いたジャネットは素早く振り向く。

 

「フリーレンって、あなたの使い魔の……?」

「ええ、そうよ。だから言ったでしょ。『無茶苦茶強い』って」

「フリーレンさん、もう先に進んじゃっている感じでしょうか? わたし達を待たずに」

「あいつが『人を待つ』なんてできるとは思えないし、多分そうでしょうね。行くわよシエスタ」

 

 ルイズはそう言って、先に進もうとする。

「あ、道案内はありがとね。それに関しては礼を言うわ。ジャネット」という言葉とともに。

 シエスタもジャネットに一礼したのち、ルイズの後を追う。

 

「ちょ、ちょっと待って! わたしも行くわ! 置いてかないで頂戴!」

 

 ジャネットも慌ててルイズ達の後を追う。

 この先にあるもの。それは自分たち裏稼業請負人『元素の兄弟』、その長兄ダミアンがずっと知りたかったものだ。

 彼はずっと「この遺跡の奥底には、メイジの六千年の歴史を過去にする遺物がある」と、ずっと言っていたのだから。それ自体に興味はないジャネットだが、知れるのなら知っておきたい。

 

 もしかしたら、自分たちが抱える『大望』と、何か関連性があるものを見つけられるかもしれないから。

 

 

 さて、早々に足を踏み入れたルイズだったが、ここで『自分の真下に地面がない』ことに気づく。

 暗闇だったせいで、何も見えなかったのだ。

 

「きゃっ、きゃあああああああああああああああ!!」

「ミ、ミス・ヴァリエール!」

 

 すっかり油断したせいで『予知』が遅れたシエスタが、ルイズに向かって手を伸ばそうとするも、その時にはルイズは闇の中。

 シエスタも覚悟を決め、一緒に飛び降りる。闇の底に何があるのか、改めて『予知』で把握したから。

 

 ジャネットも、涼しい顔で飛び降り、ルイズ達を追った。

 自分なら何があっても『大丈夫』という、自信があったのだろうが……。

 

 

(…………??)

「あ、あれ? と、飛べない!?」

 

 

 そう、ルイズもジャネットも、魔法で宙に浮けるはずなのにそのまま落ちていく。

 そのまま落下した三人は、下にある水溜まりへと落下。三つの水しぶきが派手に舞い散る。

 

「ぶはっ!?」

「はっ、はあっ……!」

「だ、大丈夫ですか、お二人とも!」

 

 

 体力のあるシエスタが素早く復帰して、いち早く水から脱する。

 そのまま、ルイズとジャネットの二人を引っ張り上げて助けた。

 

「もう、びっくりしましたよ。……でもミス・ヴァリエール、どうしたんですか?」

「わ、わかんない……。飛行魔法を使おうと思ったのに、うまく飛べなくて……」

 

 ルイズは激しく混乱した。

 もしかして、また魔法が使えなくなってしまったのか? 『ゼロ』へと逆戻りなのか?

 焦ってネガティブな考えばかり浮かんでくるルイズ。そんな考えに待ったをかけたのが、ジャネットだった。

 

「いいえ、わたしも魔法が使えなくなっているわ。どうやらこの場所は魔法が使えない空間。……所謂『メイジ殺しの部屋』といったところでしょうね」

 

 ジャネットは比較的冷静に物事を見据えていた。

 ご丁寧にこの周辺は、『精霊』すら寄り付かない空間に仕上がっている。『精霊の力』による契約……人間たちの言う『先住魔法』すら使えない。

 得意の水魔法は、言わずもがなだった。

 

(これほどまでに魔法の力を抑え込む空間は初めてですわ。いったいどういう経緯で作られているのかしら……?)

 

 ジャネットですら、こんなことは初めての経験とばかりに、真剣な表情で悩む。

 やがて、そんな彼女たちの耳に、破砕音が鳴り響く。

 どうやらこの奥で、何かが戦っているらしい。

 ルイズ達は、互いの顔を見合わせた後、その震源地に向かって威勢よく走りだした。

 




アニメ封魔鉱回と同時期でこちらも封魔鉱回を出せるとは、何という偶然……。
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