使い魔のフリーレン ~ゼロからの旅路~   作:お団子

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第68話『大魔法使いフランメの試練②』

 

「――――ぐっ!」

 ガキン! という音を鳴らして、アニエスは後ずさる。

 次いで、七メイルはある巨人兵は、右腕を掲げる。手首に当たる部分が上部へと開き、内部から幾つもの単筒を覗かせた、奇形な銃が飛び出した。

 

(……ガトリング砲。複数の銃身を束ねて速射性能を激増させた武器か)

 

 フリーレンが冷静に分析する間、己の師匠が遺したゴーレムは、そこから魔力を内包した弾丸を斉射する。侵入者を排除するために。

 アニエスは慌てて、端にある柱の陰へと隠れ、魔弾をやり過ごす。

 魔法弾による斉射は、約一分続いた。

 

『ちなみに魔力を込めるとめっちゃ光る。覚えておいて損はないぞ』

 

 ふと、フリーレンは師匠が言っていたことを思い出す。

『封魔鉱』は「魔法の使用を封じる」のであって、「魔力そのものを封じる」わけではない。少なくとも石自体に魔力を送り込むこと自体は可能なのである。

 そしてこの石は、魔力を送り込むと発光する特性を備えている。

 

 どうやってかは分からないが……どうやら先の銃は、物理的な弾丸の代わりに『魔力を定期的に送り出し内部に仕込んだ封魔鉱を刺激することで、持続的に光を生み出している』。

 

(このゴーレム自体も、魔法ではなく『魔力によって発生する光』の指向性を大幅に絞ることで、永続的な活動を可能としているみたいだ。動力源は光だから、術者がいなくてもずっと活動し続けられるのだろう)

 

『左手』の効力を発揮しながら、考察するフリーレン。

 その合間、どうやら魔力弾が一時的に切れたのだろう。門番ゴーレムはガトリング砲を内部にしまい込み、再び元の右手首に戻る。

 

「おおおっ!」

 これを好機と見たアニエスは果敢に攻めるが、やはり剣だけで七メイルある巨人に挑むのは、無理がある状況だった。

 

 そのまま、ゴーレムによる巨大な平手打ちが、アニエスを吹っ飛ばした。

「ぐっ!! があっ!」

 剣を間に挟むことでかろうじて防御したが、威力が強く、そのまま壁際まで吹き飛ばされていった。

 

 

 

「ねえ、見てシエスタ! あれ!」

「ああっ! フリーレンさん!」

 

 やがて、そんな悲鳴を上げながらこちらにやってくる、三人の影が見える。

 フリーレンはそちらの方に目をやった。ルイズ、シエスタ、そして……良く分からない変な少女の三人組が、追加で参加してきたみたいだ。

 

「やっと来たか、遅いよルイズ」

「あ、あんた! 大丈夫なのフリーレン!?」

 

 のんきな声を出すフリーレンとは裏腹に、ルイズは思わず絶叫する。

 なぜなら、フリーレンは今……自分の師匠が作ったゴーレムの左手で握られていたからだ。

 

「大丈夫じゃないよ、ごめんルイズ。このゴーレムから脱出できそうもない」

「ねえ! なんなのよこの空間! 魔法が全然使えないんだけど!!」

「『封魔鉱』で覆われた大部屋みたいだ。この部屋にいる限り、魔法は使えないよ」

 

 衝撃的な内容をさも朝餉時の会話のような軽さで伝えられ、大きく動揺するルイズとシエスタ。

 

「え、なによそれ……、じゃ、じゃあどうすんのよこのゴーレム!!」

 

 ルイズは狼狽しながら叫ぶ。

 魔法が使えないんじゃ、自分は只の役立たず。フリーレンでさえ、あの状態に甘んじていることを考えると、例外じゃないのだろう。

 

「どうにかして倒さないとね。というわけでシエスタ、頼んだよ」

「え!?」

「この空間じゃ私とルイズは只のか弱い女の子だ。直接的な戦闘ができるシエスタにしか、このゴーレムは突破できない」

「ええっ!?」

 

 当然、シエスタは絶叫した。

 いきなりそんなことを言われたって……! と、狼狽する彼女に向かって、更にフリーレンはこう告げる。

 

「そのために私はシエスタを旅に連れて来たからね。『前衛』がいないとこういう場面で私やルイズは詰んじゃうんだ。互いにできないことをやる。それがパーティとしての肝なんだよ」

 

 シエスタは息を飲む。

 確かにこの状況、自分しか動ける人間がいないのは分かるけど……!

 

「だ、そうだぜ嬢ちゃん。そろそろ覚悟を決める時じゃねえか?」

 

 肩に担いでいるデルフでさえ、そう言ってくる。

 でも、自分があんな、フリーレンさんでさえどうにもならない巨人と戦う……?

 大きさならマチルダさんの作るゴーレムより小さいみたいだけど、機動力に関してはこちらの方が圧倒的に上。それに右手には不可思議な銃身を備えているみたいだし……。

 

 それに、今のシエスタは『予知』が使えない。

 

『未来予知』も魔法であるがゆえに、この空間に入った時点で先を見る力は失われているのだ。

 純粋に先が見えない戦いを強いられることになるシエスタ。恐怖からか、震える右腕を自分の左手で押さえる。

 

(そんな、わたしが戦い? また……)

「シエスタ! 危ない!」

 

 思考する合間に、ゴーレムが先に動いてきたようだ。

 それに気づくのが遅れるシエスタ。

『予知』に頼ってきたツケでもある。危機察知が働かず、先手を許してしまった。

 

「――――え?」

 呆気に取られるシエスタの真上に、ゴーレムの巨腕が迫る。左手はフリーレンを掴んでいるため、自由な右手で彼女を捕えようとしたのだろう。

 

 それを咄嗟に突き飛ばして庇ったのが、ルイズだった。

 

「きゃっ―――!」

「み、ミス・ヴァリエール!」

 

 突き飛ばされたシエスタは、咄嗟に受け身を取って起き上がるも、その時にはもう、ルイズも捕まってしまっていた。

 

 

「ボケっとしないでよ! あんたまで捕まっちゃったら。誰があのゴーレムを倒すの!?」

 

 

 ルイズは捕まりながらも声を張り上げる。

 シエスタは戸惑った。貴族である彼女が、平民の自分を庇ってくれた。

 自分の力を信じて……くれている。ルイズも、フリーレンも。

 

「怖ぇか? 嬢ちゃん」

「…………!」

「気持ちは分かるぜ。人の身であんな化け物ゴーレムとやり合おうって話がおかしい、そうさ、間違っている」

 でもな……、と、デルフは続ける。

 

「ヒンメルだってそうだったんだぜ?」

「…………え?」

「あいつはよく言ってたんだ。『怖がることは悪いことじゃねえ』って。むしろ恐怖を忘れずに立ち向かうことこそが一番大事だってよ」

 

 その合間にも、ゴーレムは駆動音を肘や膝、首元から発生させる。

 白い、無機質なフォルムから走る黒い筋。そこが青白く光り始める。魔力を行き渡らせて活性化させているようだ。

 

「な、なんなのよこのゴーレム……? どういう理論で動いているの? 操り手がいないのにどうして稼働するの……?」

「『封魔鉱』は魔力を与えると光る特性を持つんだ。その拡散範囲を絞って光線のように変えて、各部に刺激を作り出している。どういう素材でそれができているかは不明だけど、そうやって半永久的にエネルギーを賄っているみたいだ」

 

 それぐらいのレベルにまで、細部を『封魔鉱』で加工している。その結果、操り手がいないにもかかわらず、この部屋を長年に渡り守り続ける『最後の番人』としての役割を果たし続けている。

 まさに、新時代の兵器ゴーレムと言ってもいいくらいの性能だ。

 

「ど、どうすれば止まるの?」

「『封魔鉱』に刺激を与えて光を発生させている『魔力源』がどこかにある。それをデルフで打ち据えればあるいは」

 

 デルフリンガーは『魔力を吸収する能力』を持っている。それを使って魔力を発生させる動力源を吸収してやれば、ゴーレムは動きを止めることだろう。

 

「っつうことは、『鍵』は俺ってこったな」

 デルフもえへんと、鍔を鳴らす。

「恐れることは悪いことじゃねえ。その恐怖を抱いたまま、やれるとこまでやってみようぜ。嬢ちゃん」

「…………」

 

 シエスタは未だ、腕を震わせたまま、俯いていた。

 怖い。それは未だに抱えている感情。

 あんな巨兵と、これから一人でやり合わなければならないなんて、正気の沙汰じゃない。

 でも、自分がいい加減動かないと、ルイズやフリーレンがどうなるのか分からない。

 

(思えばわたしは、()()()()()ことでしか、自分を表現できなかった)

 

 それは人を助けるため……というよりは、『戦いをしたくなかったから』、その押し付けの裏返しでもあった。

 でも……、

 

(そっか、勇者様も怖かったんですよね。そうですよね)

 

 いろんな偉業を成したというかの勇者も、戦いを恐れる人間味を備えていた。

 それを知って、少し気を楽にしたシエスタ。

 

 腕はまだ震えている。まだ戦いは怖い。

 でも、ルイズやフリーレンを助けたい。それもまた、揺るがない想い。

 

「ねえ! このゴーレムの背後! うなじ部分が薄っすらと光っているわ!」

 

 壁の出っ張りに足をかけながら、そう告げるのはジャネットだ。

 今までどこに消えたかと思っていたが、どうやら彼女なりにゴーレムの弱点を探していたらしい。

 

「多分ここが『魔力源』なんじゃないかしら? ここを狙ってみれば――――!」

 

 次の瞬間、ゴーレムの顔……横線の黒で覆われた『右目』にあたる部分から、『迫撃砲』が覗く。

 そこから魔力の塊が飛び出し、ジャネットへと直撃。巨大な煙と共に、ジャネットは魔力弾に押し上げられるように上階へと飛ばされていく。

 

「ジャネットさん!?」

「ストークス・モーター……サイトの世界で使われたという迫撃砲だね。実弾の代わりに魔力弾で殺傷能力を大幅に抑えているけど」

「ちょ、ちょっと大丈夫なの? ジャネット!」

 

 流石のルイズも、ジャネットを心配して声を張り上げる。

 直撃を貰ってしまったのか、そのまま気絶してしまったらしい。

 いくら呼び掛けても返事が来ない。無事だと思いたいけど……! シエスタは自然と握り拳を作る。

 

「ごめんなさい、ジャネットさん……わたしの所為で、怪我をさせてしまって……」

 シエスタは改めて、ゴーレムと対峙する。

 ジャネットさんが見出してくれた活路を、無駄にするわけにはいかない!

 

 その合間にも、遂にゴーレムは上腕を振り上げて、手首から『ガトリング砲』を露出させる。

 無機質な装甲、その先端たる銃口を静かに向けられる。

 そんな危機的状況にもかかわらず、シエスタは一つ、深呼吸をした。

 

 

 

 ――――気づけば腕の震えは、止まっていた。

 

 

 

「……行きます、デルフさん」

「おう、やってみせろよ、相棒(シエスタ)

 

 

 刹那、銃口から強烈なマズルフラッシュの嵐が炸裂する。

 一分間に数百発は発射される弾丸の乱撃が、シエスタのいた辺りを覆う。

 

 

「―――――はっ!!」

 

 

 その銃撃の嵐を前っ正面から回避しながら、シエスタは跳躍。

 そして……、幼少の頃より習ってきた『剣術』で、思いきりガトリング砲の砲身を縦一閃に、切りさいた。

 

 

 ガズン!! という迫力と衝撃音が部屋中に響き渡る。

 魔導ゴーレムの手首は、砲身と共に地面に落ちていく。捕まれたままだったルイズと共に。

 

「……きゃっ!?」

「大丈夫ですか? ミス・ヴァリエール」

 

 気づけばお姫様抱っこされていることに気付いたルイズ。

 シエスタはニコリと微笑むと、ルイズをやさしく降ろす。

 

「し、シエスタ、あんた……」

 ルイズは思わず、ゴーレムの方とシエスタを交互に見る。

 本当に、あの巨兵の手首を、デルフ一本で斬り裂いてしまった。

 カトレアの時、彼女が途中でワルドと共闘して、現実世界で戦ってくれたという話は聞いていたけど、こうして間近で見ると、『ここまでだと思ってなかった』という感想が、真っ先に去来した。

 

「もう、大丈夫です。わたし、迷いません」

「シエスタ……」

「どこまでやれるか分かりませんけど、やれる限りのことはやってみます」

 

 デルフを縦に構え、切っ先を天に伸ばす形で構えるシエスタ。

 そのまま、すぅ……と、静かな目でゴーレムを待つ。そこにはもう、オドオドとした様子の一切が消えている。

 

「あー懐かしい、そうそうそれだ、ヒンメルの奴もササキの爺さんから剣を習ってたからなあ……やっぱりまだ、継承されてんだな……」

 デルフの声に、「手前味噌ですけど……」と謙遜するシエスタ。

 ゴーレムは、フリーレンを捕まえたままの手首を上にスライドさせて、大砲を露出させる。

 

「あれは!?」

四斤山砲(よんきんさんぽう)……ニホンで作られたという山砲だ。『幕末』という時代に使われたという野戦砲らしいね」

「ニホンって……サイトの世界の武器なの!? あれは……!」

 

 ルイズが驚く合間にも、ゴーレムの大砲に備えられた砲口から、魔力光が眩く発される。

 その『撃ってくるだろう』という瞬間を狙い、シエスタは跳躍した。

 遅れて、着弾先に衝撃と爆音が響き渡る。

 

「きゃっ―――!」

 

 ルイズは思わず目を覆う。巨大な爆風で髪を靡かせながら。

 ようやく落ち着き、目を開けた瞬間、ルイズは見る。

 

 七メイルもあるゴーレムの上部へと、一気に跳躍するシエスタの姿を。

 彼女はデルフを上段に振り上げ、そのまま迫っていく。

 

「まだだ! まだ来るよシエスタ! 『迫撃砲(ストークス・モーター)』だ!」

 

 そう、まだゴーレムには内蔵した『ストークス・モーター』がある。目に当たる部分から、砲身が伸び、シエスタに狙いを定めた時だ。

 

 ガァン! と銃声が鳴り響き、『ストークス・モーター』の砲身を曲げた。

 

「今だ!」

 重心を曲げたのは、アニエスの銃だった。『Mauser C96』の魔力銃をその手に持っている。こちらは魔法ではなく魔力をただ撃つ仕組みなのか、『封魔鉱』内でも使用できるようだった。

 

「――――はっ!」

 更にアニエスは、ここで機敏に動くことでゴーレムの視界にノイズを起こさせる。

 鬱陶しいと思ったのか、ゴーレムはシエスタが切り飛ばした腕の傷口から、多数のアームを出して、アニエスを捕えにかかる。

 しかし、アニエスもまたさるもの。卓越した剣腕で全てのアームを切り裂き、ゴーレムへのヘイト役を見事に演じきった。

 つまりそれは、シエスタの攻撃を阻むものはなくなったということ。

 

 

「ええぇぇえええええええええええええええええええええええええええい!」

 

 

 腹の底からあらん限りの声を吐き出しながら、シエスタは上段から一閃、デルフを振り下ろす。

 今までこの広場で起こった中でも最大級の衝撃音と振動が、部屋中を満たした。

 

「きゃあああああああああっ!」

「……ッ!!」

 

 多量の土煙が、ルイズとアニエスを襲う。

 それを思わず吸い込み、目を瞑って咳き込む二人。

 ややあって、再びルイズは目を上げる。煙が晴れた、その先にあったのは……。

 

 

「えい!」

 倒れたゴーレムのうなじ部分に、改めてデルフを突き刺すシエスタの姿だった。

 

「やりましたよ! ミス・ヴァリエール! フリーレンさん! うなじ部分にデルフさんを突き刺しました! これで止まるんですよね!!」

 やったやったやったった。とばかりに倒れたゴーレムの上で大はしゃぎするシエスタ。

 

「おう、もう大丈夫だぜ。『物理的に』止まっちまってるからな」

 

 デルフの答えに、「え?」となって止まるシエスタ。

 ルイズもまた、お口をあんぐりしてこの光景を見ていた。

 

 なぜなら、先のシエスタの一撃で、ゴーレムは見事にバラバラになっていたのだから。

 

(え、なにこれ……??)

 あの子、こんな力を秘めてたの……?

 そりゃあ、母さまだって興味を示す。うん。

 

 勇者の子孫であることを差し引いたってなんかおかしい。人間の膂力じゃない。

 ルイズはここで初めて、シエスタの底力、その一端を知るとともに、計り知れなさに心底ドン引きしていた。

 

「……って、そうだ! フリーレン! フリーレンは……」

 

 ここでルイズが、はっとなってフリーレンを探す。

「ここだよぉ……」

「あ、いた!」

 フリーレンはゴーレムの左手首に捕まれたまま、部屋の隅まで吹き飛んでいた。

 そして今はしおしお顔で「助けてぇ……」と、ぼやいている始末。

 

 

 数分後。

 

「ふう、何とか助かった」

 ようやく自由になれたフリーレンは、思い切り背伸びして体をほぐす。

「み、みなさん、大丈夫ですか?」

 ここでシエスタが、とたとたという効果音が似合いそうな音と共にこちらへとやってくる。

「え、ええ。助かったわ」と、先にルイズがコメントした。

 

「あ、あんた……いったい何よその技……」

「ああ、さっきのですか? これはですね……」

「タルブ発足の剣術『ササキ流』。だろう?」

 

 そう言ってやってくるのは、アニエスだ。

 彼女の顔を見た瞬間、シエスタは大層驚きの様子を見せる。

 

「あら、アニエスさん! お久しぶりです!」

「ああ、元気で何よりだ、シエスタ殿」

 

 アニエスの姿を見た瞬間。シエスタは喜んで彼女と握手した。

 ルイズは怪訝な表情をする。切羽詰まった状況故に言い出せなかったけど、誰だ?

 

「……知り合い?」

「ええ、わたしの道場に昔、通っていた方なんです」

「トリステインの剣術道場の中でも、『ササキ流道場』があるタルブはそこそこ有名だからな。そこで武芸を習っていた。その時に世話になった者だ」

「アニエスさんこそ、どうしてこちらに?」

「まあ、その修行の一環と言ったところか。そこで彼女と知り合ってな」

 

 アニエスはそう言って、フリーレンを指さす。フリーレンもまた、ここまでの経緯をルイズ達に語って聞かせた。

 

「そう、うちの使い魔が世話になったみたいね」

 ルイズは「大変だったでしょ?」といった目線をアニエスに向ける。彼女もちょっと苦笑して、

「まあ愉快な冒険だったよ。そのおかげで、前人未到と言われる洞窟の最深部へ到達できたと思えば、差し引きプラスでもあったな」

 

 それにしても、エルフの使い魔か。アニエスは呟く。

 

「下世話なことを聞いてすまないが、相当な悶着があったんじゃないか?」

「まあ……ね。でもまあ、こうしてこの二人と旅しているのは、別にこのことで家を追い出された、とかじゃないから、そこだけは誤解しないで頂戴」

 

 ルイズは胸を張って答える。

 

「まあ、中々に愉快な奴ではあるな。私もそう思う」

 からからと笑うアニエス。フリーレンはしおしお顔でルイズとアニエスの会話を聞いていた。

 

「――――ってあれ? ジャネットさんが消えました?」

 やがて、遠くからシエスタの声が聞こえる。ずっと、彼女を探していたのかもしれない。

 先の魔法弾で上階に打ち上げられ、『封魔鉱』の効果範囲から微妙に外れた場所にいたようだ。

 そこで転移の魔法陣が発動したのかもしれない。

 

「ああ、多分魔法陣が完成して『入口へと強制送還』されたっぽいね」

「そうなんですか……、なんか、可哀そう」

「まあね、変な奴だったけど……悪い奴って感じじゃなさそうだったわね」

 

 ルイズもまた、ここで知り合ったジャネットという少女について、軽く説明する。

 

「そうだったんだ。ルイズも面白い奴と出会ってたんだね」

「色々胡散臭そうだったけどね。まあ、ここまで案内してくれたのも確かだし、入り口に戻されたって言うのなら、後で様子でも見に行きましょう」

 

 ルイズはそう言って、ようやくその目を、起動を停止した巨大ゴーレムに向けた。

 

「で? これ結局なんなの?」

師匠(せんせい)が作った兵器ゴーレムの一種だ。この部屋を守る番人の役割を果たしていたみたいだね」

「え、ふ、フリーレンさん、お師匠様がいたんですか?」

「いたよ、千年前にね」

 

 ここでフリーレンは、シエスタやアニエスに、師匠フランメの事を話す。

 ルイズは、ちょくちょく名前を聞いていたため初見というわけではないのだが、こうして巨大かつ精密なゴーレムを製作できるとなると、やはりその魔法の腕はフリーレンの師匠なだけあるなと、改めて思わされる。

「あんたの師匠もやっぱり、とんでもなく凄いメイジだったのね。こんなゴーレムまで作っちゃうなんて……」

「確かにこれだけのゴーレムを見たのは私も初めてだけど、多分それだけじゃない」

「どういう意味?」ルイズは尋ねる。

「多分、これは別世界……私の世界でもなければ、ハルケギニアでもない技術を用いて作られている。特にこの武装……『ガトリング銃』や『四斤三砲』などはね」

「ああそれ、なんか言ってたわよね。この兵器についても」

 

 何か知っているの? ルイズは問い掛ける。

『銃』自体はハルケギニアにとって別に珍しいものではない。といっても、普及しているのはフリントロック式、もっと古いとなると火縄銃なのであるが。

 戦争を知らないため、ルイズ自身は実物を見たことはないが、いちいち弾を込めるのに時間がかかること、連射性能が低いことから、メイジからは『平民が使う武器』として、剣と同じように侮りの目で見ている。

 ルイズも同じような気持ちでいたが、あんな連発式の銃……、しかも、魔力弾を撃つことに特化させた武装などが出てくるとまた、話が違ってくるだろう。

 

「私の世界だと、『銃』自体をあまり見ないけどね。良くも悪くも魔法文化が発展しているから」

 

 フリーレンは倒れたゴーレムの右腕……そこから露出している『四斤三砲』に左手(ルーン)を当てる。

 そこから、薄っすらと『ガンダールヴ』の刻印が光り始めた。

 

「でも、その割にはかなり詳しかったじゃない。このゴーレムに内蔵された武器についてさ」

「それはこのルーンのおかげだ。どうやらルイズがくれた契約能力の一つに、『触れた武器をなんでも分析する能力』が備わっているみたいなんだ」

「え? なんでそんなものが?」

 ルイズは疑問符を浮かべて尋ねる。

「さあね」

 フリーレンはそう言って、今度はシエスタが切り飛ばしたガトリングの銃身に手を触れる。

 

「『1868年型ガトリング砲』。この六本の銃身を束ねているハンドルを回すことで一分間に二百発近くの弾丸を撃てるようだ。それを魔法式に改造したってところか。これもサイトの世界で使われた武器なんだろうね」

「……サイトの世界って、相当ヤバイところ?」

 ルイズは思わず、尋ねる。

 ボケッとした平民……でも、カトレアを決死の覚悟で救ってくれた男の子について、考える。

 彼の住む世界は貴族や平民という垣根が存在せず(昔はそれらしいものはあったらしいけど)、『スマホ』とかいう不可思議な魔導書を持っており、そこにはフェルンですら理解が及ばない知識や言語、画像などが刻まれていると言っていたが……。

 

 

「この技術を見る限り、そうだろうね。私でもこれは、『ガンダールヴ』なしじゃ理解できない領域だ」

 

 

 フリーレンもきっぱりと肯定する。

 魔法が発展するがゆえに『技術』が根付いていない自分の世界と比べて、魔法が無いがゆえに『技術』が急速に発展した世界。それが才人の世界なのだろう。

 ルイズは思わず、背筋が凍る思いでいた。こんな超技術が普及した才人の世界って、なんなのだろう……?

 

(コルベールが知ったら、かなり興味を示すだろうね)

 そんなことを思いながら、フリーレンはこの部屋の奥にある、扉の方に向かって歩いた。

 

 さて、その扉もまた、両開き式の扉だった。

 この部屋に入る前の大扉ほどの大きさはない。だが、その扉には同じくダイヤル式の錠前が設置されている。

 

「おう、そこだそこ。そこの手前でヒンメル達は引き返したんだ」

 

 ここで、シエスタの手に握られていたデルフがカタカタと言葉を発する。

「インテリジェンスソードだったのか」と、初見のアニエスは反応した。

 

「え? じゃあこのゴーレムも勇者様は撃退してみせたんですか?」

「おう、そこの傷。見てみろよ」

 

 デルフに言われるがままに、シエスタはゴーレムの背部へと回る。

 確かにそこには、自分がつけた傷の前に、巨大な斜めの傷があった。

 つまり今の巨大ゴーレムの背面に当たる部分は、シエスタとヒンメル、二人による斬撃跡で「×」の字が出来上がっていた。

 勿論、シエスタがつけたものよりもヒンメルがつけた傷の方が巨大だったが。

 

「そうだね、この洞窟内で稼働しているゴーレムは、時間経過で修復できる機構が備えられている。きっと長い時間をかけて修復したんだろう」

「時間があれば回復できるゴーレムがすごいのか、そんな長い時間をかけてもなお傷跡を残すヒンメルがすごいのか……どっちかしら?」

「どっちもじゃないですか? ミス・ヴァリエール」

 冷や汗を流すルイズに、同じような感想で答えるシエスタ。

 このゴーレムを作ったフランメも、それに長年に渡り傷を残し続けるヒンメルも。どちらも相応の超越者ではなかろうか?

 

(いや、それに追随するあんたも大分おかしいわよ)

 内心、シエスタを見て突っ込むルイズだったが、声には出さず、しまっておいた。

 

 

「……って、そういえばヒンメルたちって、この扉の前で引き返したのよね? ここまできたのに帰っちゃったの?」

 

 

 次いでルイズは、扉の前で調べ始めるフリーレンを見ながら、そのことに対してコメントする。

「……多分、これが原因か」

「なにそれ、文字?」

「ルイズなら読めるでしょ?」

 フリーレンは近づいて覗き込んできたルイズに向かって言った。

 確かに、学院での修行時代、座学で古エルフ語と共にフリーレンの世界の言語を学んではいた。

 まだまだ流暢とは程遠いけど、幸い難しい言葉で書かれていなかったので、ルイズにも読める。

 どうやら錠前の横に、何か書かれていたらしい。ルイズは目を細める。

 

 

「『この扉の先にあるものを、私の弟子、フリーレンに託す』……?」

「ああそうそう、それ読んだ瞬間、相棒(ヒンメル)は『やめておこう』って、急に言い始めたのさ。昔は誰だ? って思ってたんだが、お前さんの事だったんだな。相棒(フリーレン)

 

 

 デルフも、今腑に落ちたと言ったような声で鍔を鳴らす。

 じゃあフランメは、フリーレンがいずれこの世界に来ることもまた、予期していたことになるが……。

 

「で、開けられそうなのか?」

 デルフは続けて尋ねる。

 文字もそうなのだが、この錠前もまた、簡単には開かない特別なダイヤル式だった。

 

「これはどうやら、『魔法を使わないと開かない仕組み』でできているみたいだ。魔法を使えれば開くけど……」

「え? でもここって、魔法を使えない空間よね?」

「魔法が使えない空間で、魔法を使わないと開かない扉……?」

 

 矛盾した問答に、そろって首をひねるルイズ、シエスタ、アニエスの三人。

 普通に考えれば、絶対に開かないように思えるが……。

 

「アニエス、ちょっとその銃を貸してくれる?」

 フリーレンが、アニエスに向けて手を差し出す。

「え、あ、ああ。構わないが……」

 戸惑いながらも、アニエスは先ほどのガーゴイル戦で手にした『Mauser C96』を、彼女に渡す。

 

「この空間では確かに魔法は使えない。でも『魔力を込める』こと自体は問題ない。後ろのゴーレムもこの銃も、込めた魔力を撃つことにのみ特化させているから、この空間内でも問題なく使えたんだ」

 

 フリーレンはそう言うと、銃口をダイヤル式の錠前に差し込む。

 元々そのように風に作られていたのか、まるで鍵のようにすっぽりと銃身は穴へと差し込まれる。

 

「後は、魔力を微細にコントロールしながら引き金を引いて、適切な個所で光らせていけば……」

 

 かちかち、と、銃の引き金を引きながら説明するフリーレン。

 すると、鍵の周囲のダイヤルが、勝手にグルグルと周り始める。

 銃から発射される魔力弾が、鍵穴の中の細工と反応しているのだろう。

 しばらくして、「がちゃり」という音と共に、扉はゆっくりと開き始めた。

 

 

「おぉ……。開けちまいやがった。ヒンメルとオスマンですら諦めて引き返した、文字通り前人未到の扉を……。こいつはおでれーたぜ」

 

 

 心底感嘆した声で、デルフは唸った。

 フリーレンは特に、何の感傷も見せずに、悠々と先へと進む。

 ルイズ達も遅れて部屋の中へと入った。

 

 部屋の中には光る鉱石が天井につけられているため、比較的明るさは担保されている。

 どうやら、作業場であるらしい。

 大小様々な机の上に、加工前の『封魔鉱』などが置いてある。

 周辺には、様々な削岩器具が散らばっている。どの形状も、ここに入った人々には分からないものだ。

 

「これも……」

「そうだね、サイトの世界の掘削技術、もしくは兵器か」

 

 フリーレンはここで、赤い筒が束ねられたものに手を触れる。

『ガンダールヴ』により、この物体の正体は何なのか、すぐに判明する。

 

 

「『ダイナマイト』……こんなものまであるのか」

「なによそれ?」

「下手に触んない方が良いよ。これ、爆薬だから」

 

 

 爆薬!? と聞いたルイズ達は慌てて後ずさる。

 互いを抱きしめながらぶるぶる震えるルイズやシエスタをよそに、フリーレンは他にも色んな加工できる工具や機器などを、軽く見渡す。

 確かに、魔法を使わずともこれだけの器具があれば、『封魔鉱』を加工することくらい、わけないことであろう。

 

(問題は、どうしてサイトの世界の技術(こんなもの)がこの部屋の中に集まっているのか)

 

 フリーレンはさらに先へと進む。

 やがて、光が微妙に届かない暗がりの中に、『それ』はあった。

 白い布に覆われた、自分ほどの大きさもある物体。なんだろうと、フリーレンは無意識に布をひっぺがす。

 そして……驚きで一瞬、目を見開いた。

 

 

「なんですか? それ……」

「『鏡』? なんでこんなところに……」

 

 

 遅れてやってきたルイズとシエスタが、フリーレンの目の前にあるものを見て、思わずそう呟いた。

 

 そこにあったのは、人ほどもある大きさの、鏡だった。

 

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