使い魔のフリーレン ~ゼロからの旅路~   作:お団子

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第69話『師匠からの依頼』

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 轟音が、『封魔鉱』内の部屋を満たす。

 銃を連発したかのような、連なる発砲音。

 この日、大魔法使いフランメが用意した最後の番兵、異世界の銃器持ちゴーレムは、この部屋に来て初めてになる侵入者を追い返すべく、駆動音を鳴らしていた。

 

 左腕に備わった『ガトリング砲』で、先ほどから連続した魔力弾を斉射している。着弾時の衝撃で土煙はもうもうと立ち込め、一時、視界が不良となる。

 だが、ゴーレムの目には未だ健在なる侵入者。その一人を追っていた。

 

「来るぜ相棒(ヒンメル)! どでけえやつがよぉ!」

 

 侵入者……青髪の剣士、ヒンメルが担いだ、錆びた大剣(デルフリンガー)が叫んだ。

 次の瞬間、ゴーレムは右目から『迫撃砲(ストークス・モーター)』を展開、発射。

 煌々と光る青の閃光弾は、右へ左へと、残像を残す勢いで走るヒンメルを捉えた……はずだった。

 

(――――ここだ!!)

 

 逆にヒンメルは、それを『好機』ととらえたのだ。

 デルフリンガーで無理やり、飛んできた魔力弾をかち上げたヒンメルは、次弾装填の隙をつく。

 そのまま跳躍した彼は……、かつてワイバーンを一撃のもとに仕留めた一閃を、このゴーレムの背後へと繰り出す。

 

 ズドン!! という、壁に仕込まれた『封魔鉱』すら振動するほどの衝撃音と共に、魔導ゴーレムは粉々となった。

 

「よし、勝った!」

 

 倒れたゴーレムの背に立ちながら、剣を高々と掲げるヒンメル。

 彼はしばし、勝利の余韻に浸るとともに、イケメンポーズをデルフと共に決めていた。

 

「ワイバーンの次はおっかねえゴーレムを一撃かぁ……、こりゃあマジモンのマジだな」

 デルフはもう、呆れたような感心したかのようなコメントを剣の持ち手に向かって零す。

 今まで見たことのない性能と武装を誇るゴーレムを一撃とか、腐っても「魔王討伐」云々言うだけの事はあるなあと、思い始めていた。

 

「なに、君自身が強い『魔法耐性』を持っていたおかげで押し切れた結果さ」

 

 ヒンメルはそう言ってデルフも褒める。

 外見は未だにサビサビの様相だが、こと魔法に対してはすごく高い耐性を誇っている。相手の攻撃法が『魔力弾』一択なのもあって、ここはデルフが大いに活躍したのだ。

「うーん、俺もなんだってこんなに魔法に耐性があるんだろうなぁ……」

 当のデルフはそんなことをぼやいていたのだが。どうやら思い出そうにも思い出せないらしい。

 

「おーい! 見ろよヒンメル! ここにも扉があるぜ!」

 

 手招きしてそう言うのは、先に扉の方へ向かったオスマンだった。

 当然ながら『封魔鉱』内にいる自分は、この戦闘では役立たずだったので、ずっと隠れてヒンメルを応援していたのだ。

 そして特に危なげもなくあの危険なゴーレムを撃破していたので、オスマン自身はさっさと進んでいたのだった。

 

「またさっきのような回転式の施錠か」

「開けられそうか?」

「いやあ……ちょっと待て、なんだこの術式……『魔法を使わないと開けられない』ようにしているぞ!」

 

 オスマンは発狂した。

 ここへ来る前の巨大扉の開錠も、三日三晩かけた。それぐらい難解で複雑な構造だったのに、今回は『魔法が使えない部屋で魔法を使う鍵』という、ある種矛盾した問い掛けの扉が迫っていたのだ。

 

「どんだけ見られたくねえんだよこの部屋の作り主はよぉ! くっそ、ぜってえ意地が悪いメイジだぞ! どんな陰気な野郎か面を拝んでみてぇよ!」

「で、突破できんのか?」デルフが茶化す。

「ちょっと待ってろ! この俺の灰色の脳細胞にかかればこんな施錠……!」

 

 そう言って鍵穴の前で座り込むオスマンだっだが……、そこから先、固まってしまった。

 

『魔法が使えない部屋で、魔法を使わないと開かない扉』

 

 その問答を解くには、当時の彼はまだいろいろと青すぎたのだ。

 この扉を開く『鍵』は、門兵ガーゴイルが握っていた銃。

『魔法が使えないはずなのに魔力弾を撃ってくる巨兵』。これらの欠片(ヒント)に気づくことができれば、決して開かない扉ではなかったが……。

 

「あぁ……。くそ、ダメだ……。さっぱり分かんねえ……」

 

 こればっかりはもう、お手上げとばかりに顔を青くするオスマン。

 うんうんと悩み始める彼の肩に、手をかけたのがヒンメルだった。

 

「いいよオスマン。無理して開けなくても」

「はあ!? 急にどうしたんだよヒンメル!」

 

 オスマンは唖然としてヒンメルに向き直る。

 解けない自分に気を使ったのだろうか? と思ったのだが、どうやら違うらしい。

 

「どうやらこれは、フリーレンに向けた部屋らしいんだ。僕等が軽々に開けていい扉じゃないらしい」

「……フリーレン?」

「僕のかつての仲間さ。エルフで、僕が知る限り最高の魔法使いだ。どうやらこの部屋は、彼女のために作られたもののようだ」

 

 ヒンメルはどことなく愁いを零した目で、オスマンに告げる。

 一方、オスマンは「ふぅ~ん」と、何気ない顔で問い掛ける。

 

 

「彼女?」

「え?」

「いや、俺にゃあピンと来たね。こう……そういう感じってのがよ」

 

 

 オスマンはそう言うと、ヒンメルの肩に腕を回して「で、どうよ」と詰め寄った。

 

「まあ、そうだね。彼女……と、一言では言い表せない特別な仲間ではあるね」

「ほー、誤魔化すじゃねえかこの野郎。いいぜ、その子についてもうちょっと聞かせてくれ。それで今回の探索は手打ちにしてやらあ」

 

 振り返ってみれば、特に目新しい魔道具が手に入ったわけではない。探索の苦労と比べると、あまりに成果が見合ってない。

 なのでオスマンは、ヒンメルに『酒をおごること』を条件に、この扉を諦めることを提案してきたのだ。

 

「しっかし、まるでこの洞窟の作り主は、まるでそいつ……フリーレンだっけ? が、いつか来るような感じだな」

 何気なくデルフが言うと、ヒンメルも、

「まあ、魔法に関しては僕も何とも言えないからね。フリーレンと師匠フランメとの間に、どのような思いがあるかまで想像は難しいからね」

「フランメ?」

「フリーレンの師匠で、大昔に存在したとされる大魔法使いだ。この洞窟はおそらく、彼女(・・)が作ったようだね」

「え? 『彼女』? この部屋作った奴、女なの?」

「少なくとも僕は、フリーレンからそう聞いているよ」

 

 そう言うと、ヒンメルはオスマンを置いて先に進む。

 オスマンはただただ、この性悪な部屋を作ったのが女性だという事実に、ぽかんと口を開けて佇んでいた。

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 そして現在、時はフリーレンがこの部屋の扉を開けた時間まで戻る。

 

「なんなのよ、その鏡は」

 

 ルイズは身を乗り出して、フリーレンが引っぺがした布の中に隠れていた、人ほどの大きさもある鏡を覗き込む。

 装飾は綺麗だが、鏡自身は己を写さないくらいに曇り切って汚れている。

 なんでこんなものが……。

 

「多分、同じものだ。私がこの世界に来る前に見つけた、祭壇前にあった『あの鏡』と」

「え?」

 

 フリーレンの言葉に、ルイズは首をかしげる。

 そういえば、フリーレンがハルケギニアに来る直前、巨大な鏡を調べようとして宝箱に食われたって、言ってたっけ。

 オスマンの持っていた『遠見の鏡』と、同じ性質の鏡がここにある。

 それはつまり……。

 

「じゃあこの鏡って、もしかして……」

「師匠が関わっていた可能性が高い。いや……」

 

 フリーレンは鏡を静かに撫でていく。

 そうして『解析』するうちに、断言するように言った。

 

 

 

師匠(せんせい)の魔力がまだ残っている。多分、この鏡を作ったのは師匠(フランメ)だ」

 

 

 

「――――っ!」

 ルイズとシエスタは騒然とした。

 まさか、異世界を繋ぐ鏡を、フリーレンの師匠が作った!?

 

「じゃ、じゃあこの鏡を使えば、フリーレンは自分の世界に帰れるってこと?」

 ルイズは思わず、そう尋ねる。

 遅れて、フリーレンは首を横に振った。

 

「それは無理だろうね。この鏡に残留する魔力だけじゃ、別の世界を繋ぐほどの力はもう残されていない」

「そ、そうなの……」

 

 ルイズは若干、ほっとしたような声でそう言ってしまった。

 ……遅れて、そんな自分を恥じた。

(いけない、フリーレンを元の世界に帰す手がかりを見つけるのも、主人であるわたしの務めじゃない)と……。

 

「ただ、この部屋を使っていた当時のフランメは、この鏡を使って色々実験していたみたいだね」

「実験?」

 遠くで色々な機器類を見ていた、アニエスも会話に入ってくる。

 

「うん、多分だけど、この鏡を通じてサイトの世界の武器を呼び寄せていた可能性はあるね」

「な、なんでそんなことを?」

 

 シエスタは震える声で尋ねた。

 

「さあね、そこまではまだ、私も分からない」

 けど……、と、フリーレンは部屋を見てこう続ける。

 

「これだけじゃまだ、情報が足りなすぎる。もっと色々調べてみようか」

 

 

 

 一方その頃。

 

「う、う~ん……」

 洞窟前の入り口付近で、倒れていたジャネットは目を覚ます。

 

「あ、あれ……わたし……?」

 気絶からようやく覚醒し、上半身を起き上がらせて目の前の洞窟の入り口を見た。

 

(ああ、そっか……。確かこの洞窟、気絶すると入り口前に戻されるんだっけ……)

 

 確か、あの巨大兵器ゴーレムの弱点を教えてあげたところで、敵の砲撃を貰ったんだった。

 魔法が使えないことを失念したこと、銃の性能が思った以上に強力かつ速かったことが、この失態につながったようだ。

 

(どうしようかしら? ここで待っていれば、ルイズたちに会えるかしらね?)

 そんな事を考える彼女の背後から、声がかかる。

 

 

「やあジャネット。そんなところで何をしていたんだい?」

 

 

 その声に、ジャネットは思わず振り返る。そこにいたのは、まだ十歳くらいになるであろう、金髪の少年だった。

 だが、その目つきは少年とはとても思えない風格を漂わせている。

 

「あら、ダミアン兄さま。どうしてこちらに?」

「きみの帰りが遅いから、何かあったんじゃないかと心配になって、様子を見に来たんじゃないか」

 

 ダミアンはやれやれと首を振る。ジャネットは『元素の兄弟』長兄である、見た目だけならあどけない少年を見て、言った。

 

「それはそれはどうも、心配かけたようですわね」

「既にドゥドゥーやジャックは『次なる任務』に向けて準備を始めている。今回はかなりの大仕事らしいからね。準備は入念にしないといけないのは分かるけど、そろそろ時間だよ」

「確か……王様の大切な側近が、アルビオンに行ったっきり帰ってこない……、でしたっけ?」

「そうだね。ガリア国王が送り込んだという斥候の生存確認、及び救出。それが僕等に課せられた任務だ」

 

 改めてジャネットは任務内容を再確認する。

 

 どうしてそんなことになっているのかは分からないが、今、アルビオンには不穏な気配が漂っているらしい。

 根も葉もない噂ではあるが、一説には『首なし死体』が当たり前のように徘徊しているとか、トリステイン簒奪を企んでいるとかいないとか……。

 逆に言うと、それぐらいの噂しか手に入らないのが今のアルビオンなのである。なまじ空に浮かぶ孤立した大陸ということもあって、情報の更新がどうしても他国より遅くなるのだが……、それにしたって、手に入る情報があまりにも最近、限定的になり始めている。

 それを気にしたのかは知らないが、ガリア国王は秘密裏に斥候を送り、様子を見ていたらしいのだが、それすら帰ってこなくなったらしい。

 一応、国王曰く「まだ生きているのは確かだから、様子を見てきてほしい」とのことだが……。

 

 

「奪還対象の名前は?」

「確か……シェフィールドだったかな? 『東方』から来た女性の神官らしい」

「ふぅ~ん? 東方からわざわざガリアへ? 珍しいこともあるものね」

 

 

 ジャネットは「う~ん」と背伸びして立ち上がる。

 

「傷はもう、大丈夫なのかい?」ダミアンは尋ねる。

「まあ、腕の傷はそれなり……と言ったところかしら? 戦闘する分には支障はなくってよ?」

「ふぅん、ところで、なんでさっき、そんなところで寝ていたんだい?」

「昼寝ですわ。特に意味もありませんもの」

 

 洞窟内で起こったことを話そうかとも思ったが、今は止めておこうと、適当に嘘をつくジャネット。

 そんな事を言ったら、恐らく任務も放って是が非でもと、この長兄は洞窟について調べ尽くすだろうし。

 ルイズ達の事も気に入っているのは本当だ。変にこじれて戦闘に突入し、無用な怪我を負うのも負わせるのも御免だった。

 

「……まあいいや、じゃあ早速、ジャック達と合流しよう。場所はラ・ロシェールだ」

「了解。はてさて、どんな任務になりますことやら」

 

 ジャネットは一瞬だけ、名残惜しそうな目で洞窟の入り口を見つめる。

 ここでルイズ達と遭遇することが無かったのは、果たして幸運だったか不幸だったのか……。

 

(また会うことがあったら、色々お話ししましょうね。ルイズ、シエスタ)

 

 心の中でそう呟きながら、ジャネットはそのまま、ダミアンと一緒にこの場を去る。

 行き先はアルビオン。そこで未曽有となるであろう死闘が待っていることも知らずに。

 

 

 

 視点は再び、フリーレンの方へ戻る。

 

「う~ん、しっかし色々あるわね……」

 

 作業場のような、それとも採掘場のような石切り場のような……。

 色んな鉱石や工具などがあれば、向こうの机には、正確に分解した銃の部品が並べ立ててある。

 本当に、色んなものについて研究をしていたようだ。

 

「それにしても、ルイズの世界にも『封魔鉱』があったんだね」

 

 同じく何かないかと調べ回っていたフリーレンは、おもむろにルイズに向けて尋ねた。

 

「いや、わたしはまったくこんなの知らなかったわよ。『風石』なら知っているけど」

 ルイズはそう言って、丁度隣の机の上にあった『風石』を手に持つ。

 

『風石』、『火石』、『水石』、『土石』。

 

『風石』はフネを浮かせる原動力として。『火石』は暖房や明かりなどをつける補助力として。『水石』は治癒や秘薬製造などの素材として。『土石』は『作業要員(ゴーレム)』を作り出す核として。

 

 それぞれの属性が内蔵された魔法の石は、扱い方さえ覚えれば平民でも使用が可能。自然の力を凝縮した力の源。それゆえに『精霊石』とも呼ばれる。

 対して、『封魔鉱』なる魔石は聞いたことが無い。ルイズは純粋に首をかしげていた。

 

「そっか」

 フリーレンは『封魔鉱』の欠片を手にして、しばし考える。

 この鉱石自体は自分の世界からやってきた……、というよりは、このハルケギニアで最近、作られたように見える。

 

(おそらくだけど、ハルケギニアの地中深くにある『風石』が、何らかの作用により『封魔鉱』へと変貌した……か?)

 

 断定はできないが、この『封魔鉱』自体は『風石』からの形態変化のような気がしてならない。

 どうしてそうなっているのかはまだ不明だが……。これも師匠が関わっているのだろうか?

 

「フリーレンさん! これ見てください!」

 

 ここでシエスタが、一通の手紙を片手にこちらへと向かってくる。

 フリーレンは顔を上げ、シエスタが持っている手紙を見た。

「なんて書いてあるかは分かりませんけど……これって、もしかしてフリーレンさんに向けたメッセージなんじゃ……?」

 そう言われ、手紙を目に落とすフリーレン。

 手紙を受け取り、封を切って中身を確認する。

 

 

「フリーレンへ。この手紙を読んでいるということは、私が作ったあのゴーレムを見事突破してみせたということだな?」

 

 

 そんな出だしから始まった文章。

 ルイズ達のために、声に出す形でフリーレンは、フランメが遺したであろう手紙を読み上げていく。

 

「『封魔鉱』を、別世界からやってきた加工技術で作った兵器ゴーレム。味方に任せたか何か対策を練ってきたか。どちらにしても突破は容易じゃなかったことだろう。どうやらあれは、『魔法が無い世界線を歩んだ人類の、一つの到達点なのではないか』と私は思っている。周囲に散らばっている工具類などを見れば、それは一目瞭然の事だろう」

 

 そこまで聞くと、ルイズ達は思わず、周囲の兵器へ一瞬視線を移した。

 最高硬度を誇る『封魔鉱』を加工する技術。確かにそれは、魔法による文化が土台にあるハルケギニアやフリーレンの世界では、到底想像がつかない技術の極致だ。

 

「私はわけあって、このハルケギニアに一時、師匠(ゼーリエ)と共に来たことがある。そこで少々苦い経験をしてしまってな。そのリベンジ……というわけではないが、再びこの世界へ渡って研究をしていく内に、この兵器類へと辿り着いた。どうやらハルケギニアでは定期的に、異世界の兵器が流れ着くらしい」

 

 フリーレンは眉をひそめる。

 ということは、サイトの世界……地球といったか。そこへとつながる門みたいなものが、定期的に開通する『門』がハルケギニアにあるということなのだろうか?

 あの『Mauser C96』といい、『ロケットランチャー』といい、『ガトリング砲』といい。これらの兵器が比較的容易に手に入っているのも、関係があるのだろうか。

 

「この『鏡』も、私が師匠から貰った〝異世界(ハルケギニア)へと渡る魔法〟を独自解析して作った鏡だ。色んな試作品を作り、準備をしていたんだ。『来るべき時』へ向けて」

 

「じゃあやっぱり、あの鏡はあなたの師匠が作ったのね。フリーレン」

 ルイズの言葉に、「そうだね」と返すフリーレン。

 ここで「そう言えば」と、シエスタも思うような声で言った。

 

「わたしの御先祖様も、元を辿ると『別の世界』から来たと言ってました。なんでも御婆様の方は、『不思議な鏡でこちら』に来たとか」

 

 まあ眉唾物だとわたし達は思ってましたけど。シエスタはそこまで続ける。

 でも、この様子を見る限り、その話の信ぴょう性もかなり深まると言ったところだろう。

 フリーレンは続けて、手紙を読み上げていく。

 

 

 

「さて、本題に入ろう。フリーレン、『聖地』を目指してはくれないか?」

 

 

 

「ええっ!?」

 ルイズ達は仰天した。

 ここにきて、まさかの『聖地』である。ブリミル教徒が目指すべきとされる『帰るべき場所』。そこへ向かえと来たものだ。

 

「ハルケギニアの人類が拠り所とする地、『聖地』には大きな秘密がある。ある程度は私が何とかしたが、最後の処置に入る前に、色々アクシデントが起こってしまってな。その総仕上げをお前に頼みたいんだ。――――この地に住むエルフも他の人々も、助けるために」

 

「ど、どういうこと?」

 戸惑いを隠せないルイズを尻目に、「さあね」と、フリーレンは先を読み続ける。

 

「もちろんこれは強制じゃない。お前が面倒だというのであれば、この手紙は見なかったことにしてくれても構わない。だが……もし受けてくれるのであれば、同封した地図に記した場所に、同じような洞窟を作った。そこに向かってほしい」

 

 フリーレンはここで、同封してある手紙を見る。

 

「面倒に思うだろうが、『女神の石碑の欠片』を、誰かに悪用されたくはなかったからな。各所の洞窟内に隠した『石碑の欠片』。それを集めて聖地に向かってくれ。そこまですれば、私が何をしたいのかが、自ずと分かるはずだ」

 

 フリーレンは考え込む。

 フランメが施したという処置もそうだが、『女神の石碑』?

 

「もしかしてこれの事じゃないか?」

 

 今度はアニエスが、ある方向を指さす。

 そこには、手のひらに収まるほどの大きさの石片が二つほど、置いてある。

 

「これは……、女神の石碑か?」

「なによそれ?」

「聖典に出てくる天地創造の女神様が残したとされる十の石碑。有史以来未解読とされるほどの難解な魔法が込められたものだ」

 どうやらこれは、そのうちの一つ……いや、別世界に存在しているのだから『未発見の十一個目』といったところか。

 

「ルイズには前に話したよね? 女神様の魔法について」

「えぇ……確か〝数か月無酸素無補給で生きられる魔法〟とか〝過去の世界へ向かえる魔法〟とか、よね?」

「え、なんですかそれ……??」

「ま、魔法って、そんなことまでできるんだな……」

 

 あまりの性能の高さに、思わずドン引きするシエスタとアニエス。

 確かに、そんな魔法を意のままに操れるのだとしたら、貴族が幅を利かせるのも分かる気がする。

 

「この石碑の欠片にはまだ、魔力が僅かながらに残っている。おそらくこの石に込められた魔力を解析して、『ハルケギニアに流れ着く筈だった兵器を、この部屋に呼び寄せていた』のかもしれないね。師匠(フランメ)は」

「なんだか、しれっととんでもないことをしているわね、あんたの師匠も……」

「師匠には私でさえ、終ぞ一回も勝てなかった。それにずぅっと先を見通すことにも長けていたんだ。だからこそ私の世界でも伝説の大魔法使いとして、今もなお名を馳せている」

 

 ドン引きするルイズに向かって、そう補足するフリーレン。

 やはり、この大魔法使いエルフの師匠なだけあって、その魔法技術は遥か高みに位置する人だったのだろう。

 この世界の始祖(ブリミル)が比較対象なのも、納得の魔法使いだと、改めて思うルイズだった。

 さて、フリーレンは再び手にした手紙を読み上げ始める。

 

 

「フリーレン、私は今でも、お前のことは大事な弟子だと思っている。エルフとか、人間とか、そんなことは関係なしにな」

 

 

 ん? とフリーレンは思った。

 なんでわかり切ったことを筆にしたのだろう? そう思いながらも、読み上げを続ける。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そんな悲劇を私はまた繰り返したくないんだ。もしかしたらお前にも辛い思いをさせてしまうだろうが……もし受けてくれるのであれば、こんなにうれしいことも無い。どうか、よろしく頼むよ。フランメ」

 

 手紙はそこで結んでいた。

 フリーレンはしばし、フランメが執筆したであろう手紙を見つめる。

 

(師匠らしくないな……。なんか、私に対して遠慮しているような気がする)

 

『強制じゃない』とか、『嫌なら見なかったことにして構わない』とか。

 他にも『自分はフランメの弟子である』とか、分かり切ったことをさも重要な事のように書き連ねていることに、どことない慮りがあるように思えてならない。

 

 そこまで、師匠が見てきたものはトラウマになるようなことだったのだろうか? フリーレンは首をかしげる。

 

(ゼーリエなら、何か知っているのかな?)

 

 あれこれ色々と考えるが、ここで悩んでいても答えが浮かんでくるはずも無し。

 

「ねえフリーレン、どうするの?」

 ルイズは身を乗り出して尋ねる。

 一応、こうやって旅を始めたけど、ここにきて『聖地』となると……。

『聖地』は砂漠に住むエルフによって六千年、侵攻を阻まれている。人間が軽々にいける土地じゃないのは確かだ。

 まあ、フリーレンほどの実力のある同族(エルフ)なら、しれっと行くことも可能なのだろうけど……。

 

「まあ、気にはなるけど、今はルイズの目的優先でいいよ」

 

 フリーレンは同封されている地図を見る。ハルケギニアの大陸が描かれた絵に、赤丸で印がつけられている。

 どの道、これらの場所を巡ってからじゃないと『聖地』へ向かう意味も無い。そうするうちに師匠の真意も見えてくるだろうし、その時に受けるか否かを改めて検討するつもりだった。

 

(まあ、よほどのことが無い限り引き受けるつもりだけどね)

 

 内心、そう思っていたが。

 フランメがこうまで頼む意味もそうだけど、『エルフと人々を助けるため』という、中々に重い一文も気になっている。

 ヒンメルなら、こう言われたら何が何でも調べようとすることだろうし。放っておくこともしないことだろう。

 とりあえず、この地図にある場所に訪れたら、向かってみるとしよう。フリーレンは地図を改めて見る。

 

 

 地図に記した印の一つは、アルビオン大陸を指していた。

 

 

「じゃあ、外に出よっか」

 フリーレンの言葉に、周囲は頷いた。

 

 

 

 外を出てみれば、辺りはすっかり夕暮れに染まっていた。

 

「結構長い時間、この洞窟内に籠っていたのね……」

 ルイズがぐったりした様子で、赤い夕陽を浴びていた。

 朝早くにこの洞窟に潜り込んだのだから、半日以上、このダンジョンの中をさ迷っていたことになる。

 

「あれ? ジャネットさん、いませんね?」

 シエスタはきょろきょろと周りを見渡す。「そう言えば」と、ルイズも〝魔力探知〟で探ってみるが、それらしい気配は感じなかった。

 

「強制送還されるとなると、大体あの辺りで寝ていることが多いんだがな」

 近場にある木の根元を指さして、アニエスは言った。

 

「じゃあ、起き上がってそのままどこかへ行った、ってことになるのかしら?」

「いないから何とも言えませんね……」

 

 しばらく周囲を探ったが、やはりジャネットらしき影は見当たらなかった。

 なにかと争ったかのような形跡もないので、「勝手に帰っていった」と、とりあえず考えることにしたルイズだった。

 

 

 

「……で、これからどうするの?」

 洞窟からそこそこ離れた後、ルイズは改めて尋ねる。

 

「『聖地』の事についてはそんなに気にしなくていいよ。すぐ向かうってわけじゃないし」

「じゃあこのまま、タルブへ向かうってことでいいのですよね?」

「そうだね……、でももう日が暮れているし、とりあえずはここで野宿かな」

「え~~……」

 

 至極嫌そうにルイズはぼやいた。

 戦闘やら歩きやら探索やらで疲れているのに、また野宿なのかと。

 

「ならば、私の家に来ないか? ここからなら日が落ちる頃までには、村にたどり着ける」

 

 そう提案してくれたのはアニエスだ。

 

「いいんですか?」と、シエスタは改めて確認を取る。

「面白い世界を見せてくれた礼をしたかったところだ。何もない寒村だが、もてなしくらいならできる」

「へー、どこよ?」

 正直、野宿よりかは何でもマシだと思ったルイズは、寒村でもいい、身を休める場所が欲しかったとばかりに食いついた。

 

「ダングルテールだ。私が生まれ育った土地でな。もしよければ案内させてくれ」

 

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