使い魔のフリーレン ~ゼロからの旅路~   作:お団子

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第8話『歴史の彼方に消えた魔法』

 

 あの後。

 フリーレンはそのまま、トリステイン魔法学院の学院長室へと案内されることとなった。

 彼女は今、ふかふかのソファに体を埋めている。その隣ではルイズが、くぅくぅと可愛らしい寝息を立てていた。

 彼女だけ、浮遊魔法をかけてここへ運び込んだのである。

 

「ミス・フリーレン。何か飲まれますか? 一応マルトー親父から様々な茶葉を貰ってますから、何でも用意できますが」

 

 コルベールはそう言って、様々な茶葉が入った筒を見せてくる。フリーレンはしばし彼を見て考えた後、「カップだけでいいよ」とだけ答える。

 

「へ? 空のカップだけを?」

 一瞬、コルベールは戸惑いの視線をオスマンに向ける。

 オスマンはうむと、軽く頷く。コルベールは言われた通り、皿に乗せた空のカップだけを、彼女の机の前に置いた。

 フリーレンは杖を呼び出す。無手で杖を自在に引き出す魔法を見たコルベールは、唖然とした表情を作った。

 

「で、私を呼び出した理由って何?」

 そんなコルベールに構わず、フリーレンはオスマンに尋ねながら杖先をコップの方へと向ける。するとちょろちょろとお茶が飛び出してきた。

「やや! なんですかなその魔法は!? 水系統とはまた違うようですが……もしや、噂に聞く『先住魔法』とか?」

「違うよ、これは〝民間魔法〟。そして今使ったのは〝温かいお茶が出てくる魔法〟だよ」

 フリーレンは湯気が立つカップに口をつける。興味ある目を向けてくるコルベールの視線が気になったのか、

「いる?」と、杖先を向けて尋ねた。

 

「あ。で、では是非とも」

 折角だからと、空のカップを差し出すコルベール。その上にフリーレンは杖を向ける。

 やがて、コルベールのカップにもなみなみと茶が注がれ始めた。

 コルベールは早速一口つける。

 

「うむ! 渋くて深みのある味ですな。『東方』で作られるという『茶』なるものも確かこんな感じでしたかな」

 

 純粋に興味があるような様子で、コルベールは尋ねる。

「先ほど〝民間魔法〟と仰られてましたな。私は全く聞いたことのない魔法なのですが、あなた達エルフの間で使われている魔法なのですかな?」

「いや、文字通り村や街の人たちが開発した魔法だよ。〝紙飛行機を遠くに飛ばしたり〟、〝銅像をきれいに磨いたり〟、〝パンケーキを上手にひっくり返したり〟、まあ色々あるよ」

「ほう、では先のりんごの色変えも、同じような原理なのかね?」

 ここで窓から外を眺めていたオールド・オスマンが、興味深いとばかりにその目をフリーレンへと向ける。

「そう。〝赤リンゴを青リンゴに変える魔法〟。ルイズの魔力と同調して、私が魔法の指向性を定めた。それがさっきの結果」

「……その魔法、普段は役立つものなのですかな?」

「さっき役に立ったよ」

 コルベールの質問に、あっけらかんと答えるフリーレン。

 

「ルイズに呼ばれてこの世界に来る前までは、こういった魔法を集めて旅をしていたんだ」

「あの……、ミス・フリーレンの言葉をそのまま受け取るとなると、あなたは我々の知るところとは別の世界から来たと。そこでは平民でも普通に魔法が使えて、エルフであるあなたは人々から何のしがらみも受けずに悠々自適に旅をしていると、解釈ができるのですが……」

「優秀だね。それで合ってるよ」

 

 言いたかったことをすぐ咀嚼して言葉に変えてくれる。コルベールの頭の回転の速さを、フリーレンは素直に賞賛した。

 褒められたコルベールは嬉しそうに頭をかくも、すぐ『異世界』という単語そのものに大きく目を見開かせる。

「いやはや! あなたが当学院に来てからというもの、驚きの連続ばかりですぞ! まさかのエルフ! まさかの異世界! そこでは魔法の技術が広く普及していて、エルフと人間が普通に共存しているなどと!」

「私は逆に、エルフの嫌われぶりにびっくりしたよ。この世界のエルフは、人間と長く戦争できるくらいには繫栄しているみたいだね」

「ええ、歴史書を紐解けば、とにかく我々人間は、六千年もの時間をかけてエルフと『聖地』を巡って争い合ってたと、当たり前のように書かれておりますからな。ミスには大変、居心地が悪いかとは思いますが……」

「まあ、私から見てもエルフには変な奴が多いから、気持ちは分からなくはないけど」

 お茶を軽くすすって、フリーレンは言う。特にゼーリエとか。ミリアルデとか。

 

 

「……で、話はルイズの系統のことでしょ? オスマンだっけ」

 

 

 ここでフリーレンは、その目をオスマンに向ける。

 この様子から見るに、本当に二人は知り合い同士ではないらしい。コルベールは思った。

 しかし、同時に冷や汗を少し流す。さっき図書室で会った時、彼女は千年を生きているようなことを言っていた。それが本当なら、彼女は百年以上生きるオスマンよりも年上という事になる。外見は全くそんな風には見えないのだが……。

 だが彼女は、トリステイン魔法学院でも分からなかったルイズの系統を一目で断定し、不思議な魔法を携え、更にはルイズに魔法を使わせるようなことまでやってのけている。

 

 その実力はもう、疑いようがない。彼女の魔法の知識は自分より、オスマンよりも遥かに上なのだと。

 

 そんなフリーレンの質問に対し、オスマンもまた、その目に一切気後れすることなく答える。

「その通りじゃ。正直助かったよ。わしにも分からなんだ彼女の系統を、すぐさま見抜き断定するとはの」

「〝魔力探知〟は学院で教えた方がいいよ。相手の実力を視覚で鮮明に測れるし、遠くの魔力の気配も拾えるようになるからね」

「そういう技術がお主の世界にはあるのじゃな。その口ぶりを見るに、『ディテクトマジック』とはまた勝手が違うようじゃのう」

 ふむふむ。と、愉快そうに髭をしごくオールド・オスマン。

「後学のためにぜひやり方を教えてくれんかのう。純粋に興味があるんじゃよ」

「別にいいけど、報奨は? 何か魔導書とかない?」

「報奨か、そうじゃな……逆にお主は、何か欲しいものはあるかね?」

 そう言われると、フリーレンは壁にかかっている鏡を一瞬、見つめた。

 

「あの鏡……」

「『遠見の鏡』が、気になるかね?」

「さっきオスマン達が覗いていた鏡でしょ、あれは」

「うむ、その通りじゃ」

 今更嘘をついても仕方が無いと思ったのだろう。開き直った口調で、オスマンは言った。

 フリーレンは立ち上がり、鏡の前で何やら思うような顔つきになる。

 

 

(この魔力……、薄っすらとだけど似てる。あの祭壇に鎮座してあった鏡と……)

 

 

「それが欲しいのかね?」

 オスマンは聞いてきた。

「もらってもいいの? ちょっと興味があるんだよね」

 フリーレンの問いかけに、オスマンはほっほっと髭をしごきながら、

「まあ、お主には色々と借りができたわけじゃし、よかろう。その鏡は昔、旅の途中でとある国から賜ったものじゃ。大事に扱ってほしい」

「分かった、ありがとうねオスマン」

 フリーレンは最後に、指で軽く鏡に何か、なぞっていた。

 

(伝わるかな、フェルンに)

 魔力で送ったメッセージが届くことを祈りながら、フリーレンは鏡を取り外して、魔法で宙に浮かせて持ってきた。

 そしてどこからか出てきた鞄の中に、鏡をしまい込む。

 

「じゃあ私も、後で〝魔力探知〟のやり方を書物にして纏めるね。良い物くれたし、他に教えてほしい魔法があったら一緒に纏めてあげるよ。それよりも――――」

「ミス・ヴァリエールの系統、『虚無』についてじゃな」

 オスマンもここで、静謐な目をしながら、フリーレンを見た。

「すでにお主も知っておろうが、『虚無』はかつてこの地に降臨した始祖ブリミルが扱いし伝説の魔法。一説によれば『真実、根源、万物』を操るとまで言わしめる系統じゃ。その仔細は太古の中で途絶えて久しい」

「でもルイズの魔力は間違いなく、その始祖の力を受けているものだと私は思っているよ。普通でいるにしては、彼女の魔力は他とあまりに隔絶している」

「ふむ」

 オスマンも、『ルイズは虚無である』という事実をすんなりと受け入れたうえで、今度はフリーレンのルーンについても触れる。

 

「そしてお主のルーン。『ガンダールヴ』はあらゆる武器を使いこなし、ブリミルの盾になったということじゃ」

「さっき剣を拾ってみたけど、確かにそんな感じはあったよ。魔法職の私がこれに頼るかは分からないけど」

「魔法使いであれば、そう思うじゃろうな。だが文献によると、一度力を解放した『ガンダールヴ』は、千の軍隊を壊滅させ、並みのメイジじゃ歯が立たなかったという噂じゃ。それがエルフであるきみに渡った。どういうことか、分かるかの?」

 

 オスマンはかつてない真剣な表情(少なくともコルベールの目には初めて)を浮かべて、窓から外の景色を眺めて言った。

「わしが危惧しておるのはじゃ、ミス・フリーレン。そんな強大な力が王室のボンクラに知られては、余計な戦の種になりかねないということじゃ。片や豊富な知識知見を得た大魔法使いエルフの『ガンダールヴ』、片や六千年ぶりに蘇った『虚無』。これ以上ない戦の材料じゃ。宮廷で暇を持て余して居る連中は全く、戦争が好きじゃからな」

 コルベールは唾を飲んだ。フリーレンもまた、特に何事か言うでもなく、オスマンの言葉に耳を傾ける。

 

「じゃから、きみはなるべく『虚無』のことを言い触らさんでもらえるとありがたい。わしもきみがこの学院で快適に暮らせるよう、サポートするから。きみだってこれ以上余計な面倒事に絡まれるのは、嫌であろう?」

「……まあね」

 

『眠りの鐘』を使ってまで介入してきたのは、これが理由か。フリーレンもようやく腑に落ちたというような顔をした。

「ルイズにはまだ伝えなくていいの?」

「流石に当人にはいつか伝えねばならんじゃろう。じゃが、今伝えると更なる混乱を彼女に与える。機を見て伝えてはもらえんか? タイミングはお主に任せるわい」

 フリーレンはここで、未だすやすやと寝息を立てるルイズの方を見た。こうして見ると昔のフェルンを思い出すあどけない容姿なのだが……。

 

 

「魔族がいないから、人同士やエルフと争う……か。いや、それでも魔族がいないのは良いことなんだろうけどね」

 

 

「何か言ったかね?」

 ぼそっとした小声だったので、聞こえなかったオスマンは尋ねた。フリーレンはそれに「別に」と、返す。

「まあ言いたいことは分かった。ルイズが虚無だってことは、しばらくは誤魔化すよ。でもルイズに魔法を教えるのは良いよね?」

「うむ、四系統の技術のみを教えるわしらの授業より、型に嵌らぬきみの魔法の方が、彼女も進歩があるかもしれん。事実ミス・ヴァリエールはきみのおかげで魔法を使えたわけじゃからな。重ね重ねですまんが、よろしく頼むよ」

 するとオスマンはセコイアの机の引き出しから、一冊の本を取り出す。そして再び、フリーレンへ手渡した。

 

「これは魔導書? タダでくれるってこと?」

「『眠りの鐘』の詫びと、ミス・ヴァリエールを導いてくれたお礼じゃ。是非使ってほしい。今のきみに必要な魔法が書かれておるよ。きみが召喚されたと聞いて、秘かに準備しておったのじゃ」

「ふーん、ありがとう」

 なんにせよ、魔導書をくれるのは嬉しい。フリーレンは素直に本を受け取った。後で読んでみよう。

 

「ただ、詫びと言うなら、ルイズに直接言った方がいいよ」

「ふむ、というと?」

「『眠りの鐘』の〝解析〟は終わった。もうみんな起こせるよ」

 

 フリーレンの言に、コルベールは一瞬「どういうことだ」という視線を送ってしまう。

 やがて、フリーレンは自分の両手を前につき出す。彼女の掌の中には、小さな光ができつつあった。

 徐々に大きくなっていく光球を、おもむろにパンと叩いてつぶす。破裂した光球は微粒子となって部屋のみならず学院中に散らばっていき――――、

 

 からん、からんと大きな鐘の音が一瞬、学校中に響き渡った。

 

「ひゃっ!? なに、なんなの!?」

 その騒音によって、ルイズは跳ねるように飛び起きた。

 何が起こったのか分からず、首を何度も振って、ここはどこかを確かめようとする。

「ここはどこ? わたしは誰?」

「お、お落ち着きなさいミス・ヴァリエール。ちょっと色々あってね、ここは学院長室だ」

 わたわたしているルイズをなだめるコルベール。一方のオスマンは驚いたような表情を、フリーレンの方へと向けていた。

 

「こりゃ驚いたわい。『眠りの鐘』の効果を打ち消す魔法を、この短時間で構築したというのかね?」

「構造自体は単純だったからね。〝呪い〟の類でもないし」

 

 魔族の扱う魔法だったら不可能、もしくは構造解明にかなりの時間をかけたであろうが、人の手で作られた魔道具なればこの程度は造作もないのである。

 ふむふむと髭をしごいて感心するオスマンをよそに、ルイズはハッとしたような顔を浮かべる。

「色々……あ! もしかして、わたしの魔法について?」

「それとは別であるから安心なさい。ちょっときみの使い魔と、話をしたかっただけじゃ」

「え、フリーレンと……?」

 ルイズはギギギ……とフリーレンの方を見る。そう言えば召喚の儀の時、コルベールが学院長に報告するとか言ってたっけ。

 もしかして、自分の知らない間に何かとんでもないことが起こったのであろうか。そう思うと急に不安になってきた。

 

「その……、フリーレンとはどんな話を?」

「なに、こうして話してみてな。やはり彼女はわし等など及びもつかぬほどの優秀な魔法使いだということが、改めて分かったという事じゃ」

「学院長でさえ……ですか?」

「うむ。わしより長く生きているだけのことはある。会って一日足らずであるにも拘らず、この学院の誰よりもお主のことを良く分かっておるのに感服したのじゃ」

 ルイズは驚いた。齢百以上とも言われている、トリステイン……、否ハルケギニア屈指の老賢者たるオールド・オスマンがここまで言うだなんて。

 彼がこうまで言うのだから、本当にフリーレンは凄い魔法使いなのだろう。

 

 

 なお、視線の先のフリーレンは「むふー」と、腰に手を当てて自慢げに胸を反らしている。こうして見ると、とてもオスマン以上を生きた大魔法使いには到底見えないのだが。

 

 

「そしてすまんな。ミス・ヴァリエール」

「はい?」

「一年以上もこの学院で暮らしておるのに、きみの魔法がどうして爆発するのか、その原因を突き止められなんだことへの謝罪じゃ。おかげできみには大変な苦労を強いることとなってしまったね」

「私も同罪です。ミス・フリーレンが来てくれなければ、ずっと分からなかったことでしょう。本当に、不甲斐ない教師で申し訳ない。ミス・ヴァリエール」

「あ、いいえ! 全然別にわたしは! じゃ、じゃあやっぱりさっきのは夢じゃなくて……」

「ああ、リンゴは爆発しながらも、見事に色を変えた。きみを馬鹿にする者はいなくなることじゃろう。ミス・ヴァリエール、きみの使い魔に感謝することじゃ」

 それを聞いたルイズは目尻に涙を溜めた。もしかしたらさっきの展開は夢かもしれないと、薄っすら思っていた。それだけにちゃんと魔法を使えたのは現実だったという事に、感涙したのである。

 

「暫くはミス・フリーレンに師事する事じゃ。きみの魔法はかなり特殊なようじゃからな。必要であれば時間割もこちらで調整する。なに単位のことなら気にせんでもよい。きみの座学がこの学院でも一番優秀なのは知っておるからの」

「はい……はい!」

 ルイズは涙をこぼしながら、何度も頭を下げた。学院でも屈指のプライドの高さを誇る彼女が何度も頭を下げることなど、そうそうないことであろう。

 それだけ嬉しいという事の証左であろうが。

「では、これからもミス・ヴァリエールを頼むよ。ミス・フリーレン」

「まあ、魔法のイロハをどう教えるかについては、大体フェルンでこなしてはいるから、多分大丈夫だよ」

 遠くに置いてきた弟子のことを思いながら、フリーレンは呟いた。

 

 ……そういえば向こうは今、どうなっているんだろう。

 やばい、フェルン怒ってないだろうか?

 

 この状況が長引けば最悪もう、一生口を利いてくれなくなるかもしれない。ただでさえ分かり切ったミミックという罠に手を突っ込んでこうなったわけだし……。

 

(メッセージはさっき送ったとはいえ、ちゃんと交信する手段は考えないとな……)

 

 静かに冷や汗を流しながらも、フリーレンはルイズを連れて静かに退室する。

 ルイズより先に廊下を進みながら、どうしようかと思案するフリーレン。

 やがて、その後ろをついてきていたルイズが言った。

 

「ね、ねえフリーレン……」

「なに、ルイズ」

「本当にわたし、魔法を使えたの? わたし一人の力で……」

 どうしても自信が持てなさそうな表情で、ルイズは言った。

「あなたのことを疑うわけじゃないわ。でも、今までこんなこと、一回もなかった。魔法を使った時、いつも通り崩れたリズムの中で、自分を導く光のようなものが見えたの。今思えば、あなたが何かしたんじゃないかって……」

「何かしたのは事実だよ。ルイズがさっき使った魔法は〝系統魔法〟じゃなくって〝民間魔法〟。私の世界で普及している技術だよ」

 それを聞いたルイズは、目を見開いた。なんとも複雑そうな表情を浮かべる。

 それはきっぱりと言ってしまえば、今はまだ、フリーレンの補助あって魔法が使えたという事だ。根本的な解決にはなっていない。それに民間魔法って……。

 でも、だからと言って、今この瞬間フリーレンにケチをつけるのもお門違いだという事も、勿論わかっている。

 何はともあれ、魔法は使えた。それは確かな事実なのだから、

 

「さっきの〝解析〟ではっきりと分かったけどルイズ。あなたの魔力は千年生きた私のより膨大な力を溜め込んでいる。けどその一方で、〝呪い〟とも言えるくらいに魔力操作がおかしなものとなっている。それが先の『爆発』の原因となっているみたいだね」

「なんで? なんでそんなことになってるの? わたしの何に原因があるの?」

「あなたに原因は無いよ。正確にはルイズの――――」

 

 ここまで言いかけて、フリーレンは一度言葉をつぐんだ。危うく『虚無』のことを言いそうになった。混乱しきっている彼女にはまだ早いだろうと、フリーレンは思っていた。

「ルイズの中にある膨大な魔力量に原因があるんじゃないかと思う。〝解析〟して解消してあげたいと思うけど」

「解消できるの!?」思わずルイズは乗り出してきた。

 フリーレンだったら、家族や教師にすら分からなかったこの『失敗魔法』の原因を、突き止めてくれるのかもしれない。希望が胸に灯り始めたのだ。

「できるとは思うけど、かなり膨大な時間がかかるよ」

「……どれくらい、かかるの?」

 一縷の希望を乗せた声で、ルイズは尋ねた。原因不明の病状を聞くかのような緊張感が彼女に襲い掛かる。

 そんなルイズの心情をよそに、フリーレンはその治療にかかる期間をはっきりと伝える。

 

 

「数字にして……、そうだね、百年か二百年はかかるかな。私は別にそれぐらいかけたって全然いいんだけど」

「むり、まてない……」

 

 

 ルイズは白目を剥いてしまった。自分が生きているのかすら分からない時間を平然と告げられ、身体全体がマヒする感覚が身を包む。

 

「だろうね。だったら手段はあと一つ。私の世界で普及している魔法を覚えるしかない」

 

 技術はフリーレンの世界とハルケギニア、まったく別の体系であるが、魔力の質自体は特に変わりはないみたいだ。

 技術さえ学べれば、「そういう魔法がある」というイメージを強く確立できれば、問題ないのは先のヴェストリの広場でも確認済み。

 例えるなら、ハルケギニア語から別の言語を学ぶようなものだろう。

 

 

 太古の大魔法使いフランメの働きかけにより、誰にでも、それこそ民間レベルで魔法が普及しているからこそ、努力さえすれば今のルイズでも会得できるはず。

 

 

「あなたの世界の魔法……」

 ルイズは悩んだ。本音を言えば、きちんとした魔法を使いたい。きちんと自分の系統が判明して、きちんとみんなから自分の力で魔法を使えたって、家族に自慢したい。

 

 でも……、ずっとこのまま爆発するだけの魔法なんて、使いたくない。

 

 どうして始祖ブリミルはこんな試練ばかりわたしに課すのだろう……、そう思いながらも、でもこうやって打開策を提示してくれるフリーレンを召喚できたのは、きっと思し召しなのかもしれない。そう思いたかった。

「あなたのその民間魔法というのは、他にどんなのがあるの?」

「ええと……、〝お酒からアルコールだけを抜く魔法〟、〝魚の気持ちがわかる魔法〟、〝体から良いにおいが出る魔法〟、〝語尾が変なふうになる魔法〟」

「……なんか、ろくでもないものばっかりね」

 言いたくなかったけど思わず出た本音。高望みはしないにしても、もうちょっと何かないのか……。

「分かってるよ。だからそれなりに学び甲斐があるものにするよ。ルイズはそれを学ぶ気、ある?」

「なんの魔法よ……」

「それなりに見栄えがあって、周囲からも馬鹿にされず、なおかつ私でも教えやすい魔法――――」

 フリーレンはここで、真剣な表情を向けて、ルイズに言った。

 

 

 

 

 

「――――〝花畑を出す魔法〟」

 

 

 

 

 

 それは、かつて自分の師が好んだ魔法。

 そして、自分にとっても思い出深い魔法であった。

 

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