使い魔のフリーレン ~ゼロからの旅路~   作:お団子

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第9話『花畑を目指して』

 

「〝花畑を出す魔法〟ですって?」

 ルイズは頓狂な声を上げた。

「いや?」

「そういうわけじゃないわ。ただ、随分とメルヘンチックな魔法っていうか……いや、嫌いじゃないけど」

 少なくとも、華やかさはあるし、ルイズだって少女である。そういうのは悪いとは思わない。

 それに、植物に干渉する能力は『土』の領域だ。周囲はルイズの系統を『土』と誤認するかもしれない。

 丁度、上二人の姉も土系統は得意だし、家族にも自慢できる材料としては悪くはない。

 騙すのは気が引けるけど……、少なくとも爆発ばかり起こる現状よりかはずっとマシなのも、確かである。

 そんな、悶々と悩むルイズをよそに、フリーレンは更にこう続ける。

 

 

 

「これは私の師匠(せんせい)が好きだった魔法だよ。私も、この魔法があったおかげでヒンメル達と巡り会えた」

 

 

 

「…………!」

 ルイズは少し呆気にとられた。この魔法を勧めてきたのは、単に実利だけじゃないという事に。

「あなた、人間の師匠がいたの?」

「うん。大魔法使いフランメ、私の命を救ってくれた恩人で、私の世界じゃ人類に魔法を広めた賢人として伝わっているけど、多くの人はもう彼女の人物像すら碌に分からないぐらいには遠い、昔の人だよ。この世界でいうブリミルに近いかな」

「……そんな大昔から生きてるって、本当にエルフって長生きなのね」

「そんなものだよ。私だってエルフ全体で見ればまだまだお姉さんなんだからね。もっと大昔から生きているエルフだって少なくないし」

 お姉さん(・・・・)を妙に強調しながら、フリーレンは言った。

 ルイズはただ、感心するばかりだった。人間の師匠がいたというのも驚きだけど、寿命という概念が無いのかと言わんばかりに長生きするというエルフの存在に。

 ここでルイズは、どうしてあの時フリーレンが、あっさりと『使い魔』になってくれたのか、その理由が何となく分かったような気がした。

 

 

『いいよ。だって、私にとってはその契約の期間すらあっという間(・・・・・・)のことだろうから』

 

 

 多分彼女は、本気で自分が、天寿を全うするまで面倒を見るつもりなのかもしれない。

 フリーレンからすれば、自分とこれから付き添うだろう年月ですら、瞬きの内に終わることだと思っているのだろう。

 

『使い魔契約の期限は主人か使い魔、どちらかが死ぬまで継続する』

 

 ルイズだって生物種の寿命差を覆してまで長生きできると思ってない。このまま平穏に時を刻むなら、間違いなくフリーレンより先に、自分が逝く。

 

 

 

 そうやって彼女は、ずっと親しかった人達を弔い、見送ってきたのだろう。これまでも、そしてこれからもずっと。

 

 

 

 そう思うと、少し寂しい気持ちをルイズは覚えた。一体フリーレンは、何人の親しき人の死を見てきたのだろうか。

 そして今、フリーレンは『太古』と形容するほどに昔の思い出となった魔法を、伝授しようとしてくれている。

 だったら、その思いに応えるのが彼女への礼儀だと、強く思った。

 

「分かったわフリーレン。その魔法、是非教えて頂戴。……いいえ、教えてください」

 

 スカートの端をつまみ、優雅な会釈と礼儀を以て、ルイズは言った。主人と使い魔である前に、魔法を教えてもらう側としての礼節を以て。

 フリーレンも、ルイズがこうまでして応えてきたことに少し驚きの表情を浮かべながらも、すぐに微笑みを浮かべて言った。

「大丈夫だよ。ルイズならきっと会得できる」

「うん、ありがとう」

 ルイズもここで、朗らかな表情を浮かべた。

 

 

「ねえ、一つ聞いてもいい?」

 学院長室を出て、本塔の廊下を歩く途中。

 おもむろに、ルイズは尋ねる。

「なに?」

「どうして、わたしのことをそんなにも気にかけてくれるの? わたしはあなたに、碌に主人らしいことをしてやれなかったのに……」

 思い返すと、本当に碌に何もしてやれてない。朝は騒いだまま放っておいてしまうし、キュルケの言う通り、エルフってだけで白い目で見られているのに、庇うこともしてないし。

 正直、見捨てられてもしょうがないと思っていた。でも、フリーレンは誰よりも親身になってくれている。

 どうしてそんなことをしてくれるのか、聞きたかった。

 それに対し、フリーレンは、

「理由は二つある」

 と答えた。

「二つ?」

「そう。一つ目はもったいないから」

「も、もったいない?」

 聞いていたルイズは目を丸くした。

「私の世界じゃ魔力は鍛えた年月に比例する。例外は勿論あるけど、基本そこから大きく崩れるようなことはない。でもあなたは、私よりも遥かに多い魔力量を現実として持っている」

「……あなたよりも、わたしの方が上なの?」

「そう。でもルイズは『魔法が嫌い』って言ってたよね。ずっと爆発するからって。そんな才能、滅多に見れるものじゃないのにもったいないよ」

 フリーレンがこう言うくらいなのだ。自覚は無いけど、本当に自分の魔力はすごいものがあるのかもしれない。実感は湧かないけど。

「だから、私が魔法を好きにさせてあげる。これが一つ目の理由」

「……もう一つの理由は?」

 ルイズは尋ねる。するとフリーレンは少し寂し気な、それでいてちょっと誇らしげな顔をして、こう言った。

 

 

 

 

 

「勇者ヒンメルならそうしたからだよ」

 

 

 

 

 

「…………」

 聞いていたルイズはまた、驚いたような表情を浮かべる。

 どうやら自分は、人知れずその勇者に救われたみたいだ。無意識に微笑みを浮かべて言った。

「本当に、『イーヴァルディの勇者』のような人が、あなたの世界にはいたのね。フリーレン」

「うん、本当にすごい人だった」

「ちなみにどんな人だったの?」

「性格で例えるなら、ギーシュって子に近かったかな。常に頭の中でイケメンポーズを考えている人だったから」

「えっ!?」

 それを聞いたルイズ。一気に理想の勇者像がガラガラと崩れるような、そんな気持ちを覚えるのだった。

「聞かなきゃよかったわ……、ギーシュと同じって……」

「なんで?」

 至極悩ましい表情を浮かべるルイズを、純粋な疑問符を浮かべてフリーレンは尋ねた。

 

 

『遠見の鏡』を一旦自室に置いてきたフリーレンと、ルイズの二人はその足で図書室へと赴いた。

 具体的にどんな花を咲かせるのか、色々見て調べて学ぶためだった。

「『魔法はイメージ』だからね。見たことのない花を咲かせることは私にだってできないよ」

 だからどんな花があるのかとか、見てくれや生態など、仔細な情報をまずは集める必要があるようだ。

 最終的にはその手に取って触って……、というのも必要になってくるらしく、現地に赴いてフィールドワークなどもしなきゃいけないのだとか。

 仕方が無いけど、学院長オスマンから授業についての融通はある程度利くようになったし、それで魔法が使えるのならと、ルイズは素直に受け入れた。

 

「どうやらこの時期は、薬草にも使える魔法花もたくさん咲いているみたいね」

「そうだね」

 

 薬草や花に関する書物を漁りながら、フリーレンは言った。

 既に二人の座る机には大量の、魔法薬草に関する本が平積みされていた。

「ここらへんの本は貸出可能だし、借りて後で自室で読みましょうか」

「それにしてもすごい蔵書の数だよね。ここにいるだけでも私は百年は悠に暮らせるよ」

「……ほんと、エルフって時間の使い方が贅沢なのね。羨ましいわ」

 山積みとなった本をぽんぽんと手で叩きながらそう言うフリーレンを見て、軽く嘆息するルイズ。

 さて、そんな時だ。

 

「あ! フリーレンにルイズ! ここにいたの!」

「キュルケ! それにタバサも」

 

 新たにやってきたのはキュルケとタバサだった。眠りから覚めたあと、ずっと二人を探していたらしい。

「なんだか急に眠気が襲って来て、気が付いたら広場で倒れてたんだけど……、あんた達が何かしたの?」

「違うよ、オスマンのせい」

 ここでフリーレンは、『虚無』の事だけを伏せたまま、事の顛末を三人に話して聞かせた。

「てかあんた、何気に学院長を当たり前のように呼び捨てているわね。確かに抜けててスケベ爺さんだけど、あれでも国からも認められているれっきとした『賢老』なのよ」

「でも百歳程度でしょ。人間の中では確かに長生きだけど、私から見たらまだまだ子供だよ」

 むふー、とフリーレンは自慢げに言った。百歳を子供呼ばわりできるのは間違いなく、千歳以上生きているこのエルフくらいのものであろう。

 

「でも確かに魔力は高かった。最初に会った時のハイターくらいはあるよあれは。この魔法学院の長を務めるだけのことはあるね」

「ハイター?」

「私の昔の友人。お酒大好きの生臭坊主だったけど、腕は確かだよ。彼も私やヒンメルと一緒に、魔王討伐のパーティとして戦ったんだから」

「あんた達って、何人でその魔王って奴に挑んだのよ」

「勇者ヒンメル、戦士アイゼン、僧侶ハイター、そして私。誰か一人でも欠けていたら魔王討伐は絶対できなかった。幹部の〝七崩賢(しちほうけん)〟でさえ私たちは二人しか倒せなかったしね。半数以上討ち取ってくれた〝南の勇者〟の活躍が無ければ、途中で死んでたかもしれないくらいにはギリギリの旅だったよ」

「本当に神話の類ね。あなたの話を纏めて本にしたら売れるんじゃないかしら。『新説イーヴァルディの勇者』みたいなタイトルで」

「わたしは買う」

 断言するかのように、タバサは言った。何気に彼女はこういった話が好きらしい。少し目をキラキラさせていた。

 ここで話が大いに脱線しそうだと思ったルイズが、ジト目でキュルケを睨む。

「ってかあんたら、一体何しに来たわけ?」

 決闘に関して文句でもあるのだろうか? とルイズは思った。確かにあれは完全に自分一人の力じゃないから、そこをつつかれると痛いのは確かだけど……。

「そうね、まずあなたに言いたいことがあるわルイズ」

 まずキュルケが身を乗り出した。何を言ってくるのだろう? ルイズは思わず身構えた。

 一方のキュルケは、貴族正しく裾を正して、

 

「今まで馬鹿にした非礼、ここでお詫びするわ。ごめんなさいねルイズ」

 優雅に、ルイズに非礼を詫びた。

 

「えっ?」

 本当にキュルケが謝ってきたのを見て、思わず唖然とする。

「広場でのあなたの魔力を見たわ。フリーレンの言ってた通りね。確かにあれは馬鹿にしていいものじゃないわ」

 本当に今まで馬鹿にしてきた仇敵の言葉か? 薬かなんかで操られているんじゃないか?

 思わずそんなことを考えるくらい、およそツェルプストーとは思えない言葉が、キュルケの口から吐き出されていく。

「それに加えて、キチンと決闘でもりんごを青く変えたんだもの。だから、ここはあたしが素直に負けを認めるわ」

 そうとりなしたキュルケを見て、ルイズは遂に心の中で凱歌を上げた。

 

 勝った!

 ご先祖様、見ていますか? 奥さんを取られたサフランおじい様! その他数々のお嫁さんを奪われた御先祖様たち! わたしついにツェルプストーに頭を下げさせてやったわ!

 

「そ、そうよそうよ! キュルケ! やっとあんたでも理解できたみたいね! これからもっとすごい魔法をじゃんじゃん披露してやるんだから! 覚悟しなさいよね!」

 これ以上なくルイズは高笑いをした。長年目の上のタンコブだった彼女を下せたのが、よほど嬉しかったのだろう。

 キュルケもまた、今回だけは仕方が無いとばかりに彼女の嫌味を受け流していたが……、

 

「勘違いしないで欲しい。あなたのことを誰よりも知ろうと動いてくれたのは他ならぬ彼女の方」

「はははは――――えっ!?」

「た、タバサ!?」

 

 まさかのタバサの援護射撃にルイズはおろか、キュルケまで怯んでしまった。

「いいのよタバサ! 別にヴァリエールの嫌味なんて一ミリも気にしてないんだから!」

「誤解を受けたまま友人が馬鹿にされるのを、見たくはない」

 一歩も引かない意志の強さを、この青髪の少女は見せつけてきた。

「確かにタバサの言う通りだね。ルイズを広場にどうやって誘い出すか話してたところにキュルケが胸を叩いてくれたから。あれは助かったよ」

 フリーレンもそう言ってくるので、なんだか急に居た堪れない気持ちがルイズを襲ってきた。

 まさか、あの決闘にはそんな意図が含まれていたなんて、当然ながら知らなかった。本気で学院から叩き出すくらいの気持ちがあったものだと、ずっと思っていたのだから。

 

「……キュルケ」

「ハッ! 勘違いしないでよルイズ! 今回はたまたまよたまたま! 叩いたら綺麗な声で鳴いてくれるおもちゃをそう簡単に手放すわけないじゃないの!」

 

 逆にキュルケの方が憎まれ口をたたいていた。

 キュルケ自身も内心(なんだかルイズみたいな言い方ね)と自虐しながらも、最後はぷいと首を横に振った。

「こうしてあんたを追ってきたのも、あたしの与り知らぬところで置いてきぼりを食らいたくないからよ。もっとフリーレンのことについても知りたいし」

「それに関してはわたしも同じ」

 タバサも、強く頷いて言った。

 ルイズはなんだかもどかしいようなむずがゆいような気持ちを覚えながらも、最終的には「あっそ」と、口を窄めた。

 

「分かったわよ、勝手にすればいいじゃない」

「ええ勝手にさせていただくわ。……それでフリーレン。あんたルイズに何させたわけ? どうして爆発を起こしながらもりんごの色を変えられたのかしら?」

「ルイズが使ったのは『系統魔法』じゃなくって〝民間魔法〟だからだよ。正確には、ルイズの魔力を借りて私が魔法を発現させたってだけだけど」

「……それってフリーレンの力がなければ、今まで通りルイズは魔法を使えないってことじゃないの?」

「それに関しては問題ないよ。あくまで私が与えたのは、ゼロを一に変える『きっかけ』に過ぎないから。〝そういう魔法もある〟という認識(イメージ)を強く持てば、私の世界の魔法も、ルイズは勿論、みんな会得は出来ると思う。個人差はあるだろうけど」

「逆にフリーレンは、あたしたちの魔法は会得できないの?」

 まるでこの世界の魔法は会得できないかのような言い回しに、キュルケは疑問符をつけた。

「見様見真似は出来ても完全再現は、現時点では不可能かな。実際、私がこの世界の口語(ルーン)を唱えても、同じような現象は起こせなかった。多分ルイズ達の魔法は六千年前から続く、『始祖ブリミルの血』という加護があってこそなんだと思う」

「でも、あなたはわたしの『ディテクトマジック』を解析して、好きなように弄ってみせた」

「まあね。魔法自体に〝解析〟を加えることで解除や操作、疑似的な模倣はある程度可能だよ。同じ人間同士、精神構造が違うわけでもないし。でも逆を言えば『今はそれが限界』って感じだね」

 勿論、更なる解析を加えれば、いずれは完全再現も可能なのかもしれない。でもそれは、数百年という膨大な時間をかけることになることだろうとも見ているのだ。

 

 それほどまでに、ブリミルの魔法というのは強力なものだとフリーレンは思っていた。そういう意味では、原理が今でも解明できていない魔族や女神の魔法に近いのかもしれない。

 

「まとめると、現段階でわたしたちの魔法はフリーレンでも会得できない。けど、フリーレンの魔法はわたしたちでも会得できるってことで良いのかしら?」

「その通りだよ。実際ルイズには私の魔法を教えるつもりだし」

「へえ、何の魔法を覚えるつもりよヴァリエール。隠さず教えなさいよ」

 キュルケはにやにや顔でルイズを軽く小突いた。ルイズは少し上ずった声で、

 

「……〝花畑を出す魔法〟よ」

「花畑ぇ!? 随分可愛らしい魔法じゃないの! そんな少女趣味があったなんて驚きだわ!」

「うっさいわね! フリーレンにとっては師匠から教わった思い入れのある魔法なのよ! 馬鹿にしないで!」

 

 ルイズの言に、キュルケは呆気にとられたような表情で、フリーレンを見た。

「そういうことなの、ごめんなさいねフリーレン。悪気はないのよ」

「いいよ。なんだったらキュルケにも教えてあげようか?」

「ありがたいけど、どっちかというとこの子がちゃんと会得できるかの方が、興味あるわね」

 キュルケのニヤリとした顔に、「なによ! もう!」とルイズは首を振った。

 するとここでタバサもまた、

「もし、なにか困りごとがあったらわたしも手伝う」

 身を乗り出して、フリーレンを見て言った。

「珍しいわねタバサ。あなたがそんなにもグイグイ行くなんて」

 キュルケは感心したように口を開く。普段無関心無表情を貫くこの子からしてみれば、珍しい様子なのは確かだ。

 勿論、本以外のことに興味を持つ、今の兆候を悪いとは思っていない。むしろ良い方に向いていると思っていたが。

「そうだね。タバサも色々と手助けしてくれたし、広場でも助かったよ。協力が得られるのならありがたいね」

 フリーレンもタバサのことはそれなりに信用を得ているらしく、嬉しそうな口調で言った。

 しかし、タバサはここが正念場とばかりに、少し語気を強める。

「ただ、その代わりわたしもあなたに魔法を教わりたい」

「花畑を出す魔法のこと?」

「違う、広場で見せてくれたあなたの攻撃魔法」

 タバサの言葉に、周囲は一瞬、静まり返った。

 

 

 

「広場で見せたって、どういうこと?」

 丁度その時期、広場にはいなかったキュルケとルイズの二人はそろって首をかしげる。

 タバサの言が正しければ、フリーレンは一回誰かに攻撃したという事になるのだが……。

「決闘の最中、事故でワルキューレの破片がモンモランシーに降り掛かる一幕があった。それを防いだのが彼女の魔法。閃光のような攻撃だった」

「へー、そんな魔法があるの。あたしも見たかったな」

 その場にいなかったことをちょっと嘆くキュルケ。ルイズも「そんな魔法もあるんだ……」と、フリーレンの方を見る。

 ここまでフリーレンは、何も言わずにタバサを見ていた。

 

 

「わたしの『風魔法』よりも速く展開して、破片全てを撃ち抜く精度と速度。なにより、魔法で強化されている学院の壁を容赦なく貫通していた破壊力。わたしの知る限りでは、あんな魔法は聞いたことが無い。〝攻撃〟という一点において、あれは完成されすぎているとさえ思っている」

 

 

「…………」

「あなたの魔法はわたしたちでも会得できると聞いた。だったらあの魔法も会得できるはず。あの魔法を教えて欲しい」

 タバサは語気を強めて言った。一歩も譲らないといったような表情で。

 それは(ひとえ)に、自分の目的のため、悲願の達成のためでもあった。だからこればっかりは譲れなかった。

 あの魔法さえ会得できれば、自分の悲願も達成できるのではないか――――と。

 それに対し、フリーレンは考えながら言っているかのような様子で、口を開く。

「タバサになら教えてあげても良いけど、少し時間を貰っても良い?」

「……どうして?」

「あまりにも危険だから。私の世界では〝一般攻撃魔法〟というくらいに広まっている技術だけど、多分この世界で運用するにはあまりにも『強すぎる』から」

 タバサは驚いた。

 あれほどの速度、操作性、破壊力を生む魔法が『一般攻撃』って、どういうことだと。そう思ってしまうぐらい、あの閃光の性能は常軌を逸している。

 フリーレンの世界では、あの攻撃すら基礎の基礎に過ぎないのだろうか? 得体の知れない、ぞわぞわとした感触が背筋から這いよってくる気持ちを覚えた。

 そんな彼女に構わず、フリーレンはきっぱりとした表情でこう続けた。

 

 

 

 

「この魔法のもう一つの名前は〝人を殺す魔法(ゾルトラーク)〟。どんな防御魔法も無に帰して貫通する、魔族の賢者が生み出した危険な大技だよ」

 

 

 

 

 それを聞いたルイズ達は、再び驚愕で口を思わず、押さえた。

「私のいた世界、中央諸国では冒険者の四割、魔法使いの七割がこの魔法で命を奪われた。解析に解析が進んで、〝一般攻撃魔法〟と呼ばれるくらいには普及と防御手段が多く確立されたけど、その積み重ねのないハルケギニアでむやみやたらに使用したら、大量の死人が出る」

「…………」

「タバサ。私は人殺しの魔法を人殺しのまま、皆に教えるつもりはないよ」

 フリーレンもまた、ここは譲らないといった気持ちでタバサに告げる。

 対抗手段が碌にないハルケギニアでこの魔法を広めるとどうなるのかが、よく分かっているからであった。

 

 最悪、南側諸国で起こった戦争の二の舞となりかねない。それほどまでの威力と危険性を持っている。

 聞いていたタバサも、まさかそこまで凶悪な魔法だとは知らず、困ったような表情を僅かに作る。

 それでも……、諦めきれなさそうな声色で尋ねる。

 

「時間を貰っても良いっていうのは、どういう事?」

「ハルケギニア用に調整し直すよ。人に当たっても絶対死なないようにするために。専門の魔法陣を構築するからその時間だけ欲しいかな。そしたら教えても良いよ。どの道私も、この魔法を弄らないでそのまま使うつもりは無いし」

「そんなことできるの?」

「私が一番〝一般攻撃魔法(ゾルトラーク)〟の研究解析に貢献してきたからね。ちょっと弄るくらいはわけないよ」

 その甲斐あって今や〝魔族を殺す魔法〟にまで仕上げ、それを主軸にしているフリーレンである。そのくらいは造作もないことであった。

「どれくらいかかりそう?」

「ちょっと分からない。ルイズの魔法の面倒を見なきゃいけないし、でも必要なら早めに作るよ」

「……ありがとう」

 キュルケだけ分かるくらいに一瞬だけ、タバサが微笑んだ。そして軽く会釈する。

 見ていないルイズやキュルケは「なんでそこまで」といった顔を浮かべているけど、たとえ不殺設定に組み替えたとしても『なお強い』と、思わせる魔法だったのだから。

 そんな魔法をちょっと待つだけで会得できるのなら、それくらいどうってことない。

 

 一方でフリーレンも、何故タバサがこんな魔法を会得しようとしているのか、疑問符を浮かべる。

 もし、なにか困りごとがあるのであれば………

「タバサ、困りごとがあるのなら手伝うよ。あなたには沢山助けてもらったし」

「……今はまだ、大丈夫。その時になったらお願いする」

 タバサは静かに首を横に振った。

 本音を言えば、彼女にもっと色々聞きたかった。エルフの薬のことについても。もし薬学に詳しいのであれば、壊れた精神の治し方などについて詳しいのであれば……

 

 しかし、彼女はルイズの使い魔。現時点ではまず主人の困りごとに力を貸すのは当たり前のことだろう。

 すぐいなくなるようなことにならないよう、気を配っておく程度で良いと思っていた。今はもっと、フリーレンのことを知らなければ……と。

 フリーレンはまだ、この世界にやってきたばかりなのだ。自分の悩みを打ち明けるのは、もう少し先かな……。でも、いつかは明かそうと思っている。母を、治してもらうためにも。

 最終的に、タバサはそう考えをまとめた。

 

「わかった。……じゃあルイズ、早速咲かせる花をこれから見ていこっか」

「ええ!」

 借りる本を決めながら、図書館を出るフリーレンの後を、ルイズは追った。

 

 

 その後、ルイズは学校の授業を休み、その時間を全て課外実習に充てていた。

 最初は道端に咲いている野花を片っ端から探り当て、どうやって生えているかとか、スケッチを取ったりとか、花弁を直に手で触ったり、色んな角度から眺めたり……、そんな時間を過ごした。

 フリーレンは何度も『魔法はイメージの世界』と繰り返し言っていた。

「もう耳にタコができるほど聞いたわよその言葉」とルイズが呟くも、それでもフリーレンは言い続けた。

「駄目だよルイズ。口では分かってるって言ってるけど、心ではまだ納得できてないでしょ。『想像(イメージ)だけで花畑なんかできるのか』って」

「……そりゃあ、まあ」

「その考えが駄目なんだ。いったん系統魔法というのは頭の中で抹消して。『ハルケギニアとは別世界がある』、『ハルケギニアとは別の魔法が存在する』。まずはこのわだかまりを解消しないと。〝民間魔法〟は使えないままだよ」

「……こういうことを続けていけば、本当に花畑を出せるの? フリーレン」

「駄目って考えたらもう、魔法は使えない。私の世界じゃ頭の中で思い描けないことは絶対に起こらないから」

 

 ここでルイズは、花を見つめた。

 フリーレンに言われるがまま、とりあえず始めて見たけど、本当にそれで魔法が使えるのか、まだ心の底で疑問に思っているところはある。

 勿論、フリーレンの実力を疑うわけではないのだが。やはり異世界の魔法と急に言われたって、ピンとこないのは仕方のないことかもしれないが。

「ルイズ」

 ここでフリーレンは、必死になって花をスケッチしているルイズの顔を、覗き込むようにして言った。

 

「タバサやキュルケの前では『みんな簡単に取得できる』ふうに言ったけど、実を言えばルイズが一番、私の世界の魔法を習得しやすいんだよ」

「なんでよ?」

「碌な成功体験が無いから」

 いきなりそう言われ、ルイズはぽかんと口を開けた。

「勘違いしないでね。確かにあの二人はかなり高い魔法技術を備えている。だけどそれ故に、〝強い先入観〟があるんだ。手癖で魔法を操れるほどに卓越しているからこそ、心の底では〝別世界の魔法〟を、最初は異物のように感じてしまう。修練には、相応の努力や時間を要するだろうね」

「……」

「でもルイズは、そういった成功例とは無縁に過ごしてきた。ある意味『まっさら』なんだよ。後はさっき言った固定観念と、『失敗するかも』という負の感情の払拭、そして努力と執念だ」

 ルイズは、立ち上がって風靡く草原を見る、フリーレンの背中を目で追った。ツインテールにした白髪が、微風によって横に軽く流れていく。

 

「そしてルイズはもう、民間魔法の入り口に立っている。さっき広場で魔法を使った時、言ってたよね? 『崩れたリズムの中で導く光のようなものが見えたって』」

「ええ、言ったわ」

「それがきっかけなんだ。ルイズは一度、私の力を通して民間魔法を使っている。そのイメージを増幅させていけば、間違いなく会得できるよ」

 

 やがて、フリーレンは振り向いて言った。

「ルイズは努力家だって、シュヴルーズは言ってたよ。違うの?」

「……何言ってるのよ! そうに決まってるじゃない!」

 ルイズは立ち上がった。そうだ、もう疑問に思うのは止めにしよう。

 一度やると決めたのだ。もう疑うようなことは止めて、全身全霊取り組んでみせよう。

 それでまともな魔法が会得できるのなら。

「さあ! まだ調査は始まったばかりよフリーレン! 早く別の花を見つけに行きましょう!」

 ルイズは立ち上がって、また別の花を探しに、フリーレンに呼びかけた。

 

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