一般通過異世界転生者:あなた 作:ID:Am88n712
「わかってるって! ちゃーんと大人しくしてる!」
「多分わかってないから私が見とくね」
「私も……」
5人一緒に出歩いていると大人達に企み事を気付かれるかも知れない。あなたはマラン達にそう告げた。方便である。単に昼間から体力を使わせる事は避けたいという意図での。
ただ、マラン達はそれを見抜けなかったようで、あなたの言葉に揃って神妙な顔で、確かに、と頷くと留守番を了承してくれた。あなたを玄関から見送った後は、夜に備えて適度に昼寝をしながら待機しておく、という事になっている。
いるが、さて、本当にその約束が果たされるかは微妙なところだ。
マランは屋敷の子供達の中で最も活発な子だ。元気が有り余っている昼日中から大人しく寝ていられるかというと……。
「どうかな? ちゃんと寝てくれると思う?」
少なくとも一緒に残った妹2人からの信頼はなかったようであるし、共に屋敷を出たヤレカも懐疑的な様子だった。そして実のところ、あなた自身も難しいだろうなと考えている。
真正面から素直にマランを昼寝させるには、あなたかヤレカのどちらか……出来る事なら両方が必要だろう。対話で説得するあなたと、実力で抑え込むヤレカの役割分担だ。
「だよね。せめて暴れないでいられたら御の字かなー」
期待値上限いっぱいでそれ、というあたりにマランの素行が現れていた。
まぁそれはそれで仕方ない。そもそもいつも騒がしいマランが急に黙って寝続けていたら、それこそ本当に大人達に疑われかねなかった。普段よりは多少は大人しくしているであろうし、その程度で妥協しておくのが無難だろう。
| 選択肢分岐 |
| 昼の間に噂を探る |
さて、あなたとヤレカが昼の間に屋敷を出たのは、探索候補地を絞るためだ。
ルワ・ザンガラの夜は短い。
まず、科学の火がない世界ならば眠りは早いかと思いきや、案外とそうでもない。確かに真夜中まで起きている者はそうそういないが、日が暮れたら眠るような生活でもない。
電球や電灯の代替となる魔法があるのだ。そこらで拾った小石を握って力ある言葉を唱えると、小石が豆電球ほどの明かりを発するようになるのである。
流石に弱々しい光量のために本などを読んで過ごす者こそいないが(ルワ・ザンガラの識字率はかなり低く、書物の類もごく一部にしか出回っていないという事情もある)それ以外の活動にはさほど不自由しない。魔法の明かりの下で大人達が集まって遅くまで談笑している事も時折ある。
そのくせ、朝が早い。この辺りの海で最も魚が良く取れるのは夜明けの直前であるらしい。そのため男衆はまだ外が真っ暗なうちから出発の準備を始めるし、彼らを見送る女衆も同様だ。
そしてその際、出発前に眠る子供達の姿を確認していく習慣がイシャバ達にはある。
単純に子煩悩一家だという事もあるが……繰り返しになるが、ルワ・ザンガラの漁師は死亡率が高い。屋敷の子供達はみなそうした孤児であるし、女衆も大半が未亡人だ。今生の別れがある朝突然訪れても不思議ではないのだから、愛する者の顔を見てから海に出たいというのは自然な事なのだろう。
「遠目に寝てるように見える身代わりなら作れなくもないんだけどね。流石に覗き込まれてバレないのはムリ〜」
ヤレカが申し訳なさそうに眉と肩を下げてそう言うが、イシャバなどは日によっては眠るあなたの頭を撫でたり頬をつついたりしていくのだ。それに対応できる身代わりを用立てろなど無茶振りが過ぎる。
そんなわけで、ルワ・ザンガラの夜は本当に短いのだ。
屋敷に時計はないため正確にはわからないが、あなたの感覚を頼りに言うなら、屋敷から離れていても問題ないと考えて良さそうなのは、夜の10時から深夜2時あたりまでといったところ。
夜の街を歩き回れるのはわずか4時間という事になる。マラン達から聞き出した幽霊の噂、その全てを回るのは到底不可能だ。
そして、連日抜け出し続けるのも現実的とは言えない。
あなたは確信している。そんな事をしていれば間違いなくどこかでボロが出る。夜眠らずにいるために、自然と昼間に寝る事になるが、そうすれば大人達に怪しまれるのはきっとすぐだ。この子は夜に何をしているのかと監視が始まるまで、いくらもかからないだろう。
よって、あなたは事前に期待度の低そうな噂を消していく事とした。
幽霊の噂は数多くあったが、その信憑性はピンキリだ。
明らかに話が盛られているものであったり、現象に遭遇して帰ってきた者がいないはずなのにやたら内容が詳しいもの。あとは自然現象で説明がつきそうなもの。
そういったものを時間のない夜に回るのはもったいない。自由に動ける昼のうちに先んじて調べ、幽霊とは関係ないと確証を得ておけば、本物の幽霊が(実在するとすれば)居そうな場所を重点的に探していける。
そうして訪れた最初の場所は、街外れの階段だった。
「んー、ここは簡単だね」
ヤレカの言う通り、到着早々に候補から外れる事が決定する。
この階段の噂はこういうものだ。確かに自分1人だけなのに、後ろからついてくる足音が聞こえる。そしてもしその足音に追いつかれてしまったら、体を乗っ取られて入れ替わられてしまい、今度は自分が足音だけの存在になってしまうのだという。
この噂の正体は、実に簡単だ。
パァン、とヤレカがその場で手を叩く。すると、家々の壁に囲まれた階段中を音が反響して何度も響き渡った。
単純に、ここは音が反響しやすい構造なのだ。こうして手を叩いた音はもちろん、少し早歩きに通る程度でもこだまが生まれ、自分の足音が後方から聞こえてくるという現象が起こる。
噂の後半は、そうした性質を元ネタにした創作だろう。
次。
今度訪れたのは、先程の階段からほど近い墓地だ。墓地とは言っても街の人間は埋まっていない。
ルワ・ザンガラでの葬送は、前世では存在しなかった「岩葬」という形式だ。
一般に魔法よりも強力な効果を発揮するのが祈祷だが、その中に死者の体を石に変えるものがある。それを用いて石に変わった死者は、建材として街の一部になるという風習なのだ。あなたの住む屋敷にも、孤児の父母や女衆の夫が壁となって眠る一角がある。
なのでこちらの墓はそれ以外の者の墓だ。例えばよそから旅などで一時的にやってきて滞在中に命を落とした者のうち、身元がわからない者など。
そのまま捨て置くには忍びなく、しかし街の一部とするにも抵抗がある。そんな特殊な立場の者たちの墓である。彼らはみな石に変えられた後、荒く砕いて積まれている。
それだけならばいかにも無念を残していそうで、しかも縁のある者がなく年中人気がないために、幽霊度はかなり高いのだが……。
残念ながら、噂の内容が内容だった。
夜毎に無人の墓地から聞こえる、赤子の泣き声。これには、多分あれだろうなぁという心当たりがあったのだ。
「あ、いたいた。うん、やっぱりエトだね。まだ小さいし噂の始まった時期とも合いそう」
これもまた、踏み入ってすぐにわかる。エト、と呼ばれる大型の海鳥が巣を作っていたのだ。
ヤレカが指差した方向をあなたも覗き込むと、積まれた石を崩して作り替えた巣に座り込んで、2羽のエトがあなた達を見つめ返してきていた。
そして、あぎゃあ、と鳴く。
親の声につられたらしい雛も鳴き出し、んあぁ、もしくは、んみゃぁ、と聞こえる音を発する。これが中々に甲高く、また声量も相当にあり、そして人の赤子の声に良く似ていた。
あなたとヤレカは視線を交わして苦笑した後、刺激しないようそっとその場を後にした。
エトは大変な大型の鳥で、長く生きた個体は人間よりも大きくなる事もあり、特徴的な長く巨大なクチバシには鋭い牙も生えている。さらに目もギョロギョロとして一見恐ろしげな化け物に見えるのだが、食性は完全な魚食性だ。
エトの側から人間を襲う事はほとんど無い。この墓地の家族も、人間の側から近付かない限りは無害だろう。
自分の墓(というか死体)の上に巣を作られた旅人は哀れだが、成長の早いエトの巣立ちまで、ほんの少しばかり我慢してもらうのが良さそうだ。
さらに次。
崖の上から街を見下ろす、人間に似た白い影の噂。これは移動中、完全な偶然によって解決した。
「あ、ツイてるね。出たよ、白い人影」
ヤレカが街の上方を指差してあなたへ言う。
| ランダム分岐/崖の上の人影 |
| 諜報技能か探索技能で判定
あなたの諜報技能 レベル0 情報セキュリティ レベル0 成功率50%
1〜5で失敗 6〜10で成功
1d10=6 |
岩礁広がる海辺から、崖の上まで続く街。その最上部からやや外れた位置、崖の中でも少し飛び出した箇所に、確かに白い何かが居た。
だがそれは……人間に似た、ではなく、明らかにただの人間のように見える。
距離が随分とあるために断言は難しいが、白いワンピース、もしくはドレスを着た女性のようだ。立ち姿に違和感はなく、しばらく崖上に佇んだ後に帰っていく際も不自然なく歩いて立ち去ったようにしか見えない。
普通に考えれば、景色を眺めていただけの誰かだ。到底幽霊には見えない。
「それは日本の記憶があるからだよ。この街だと、ほら、あんな服は誰も着ないから」
そんなあなたの疑問はヤレカの指摘で解消された。
「みーんなこうだもんね」
と、胸元の皮帯に指を引っ掛けて引っ張りつつ、ヤレカが言う。
ルワ・ザンガラの住人は皆薄着だ。男は腰巻きだけで上半身は裸が当たり前であるし、女もそれに加えて胸を隠しているのみ。年がら年中水着同然の姿で過ごしている。
そして誰もが例外なく良く日に焼けた褐色の肌だ。
布に覆われてヒラヒラとした、白い人影。それはこの街の住民にとっては異質で、下手をすれば不気味にさえ映るのだろう。怪しい何者かとして噂になり、広まる途中で幽霊に変わったとして不思議は無さそうだった。
おそらく、そういう経緯があるだけのただの人間だ。崖の上に何度も現れるという事はその近辺に住んでいるのかも知れない。
最も近いのは領主の館である。衣服の事を考えても、領主の夫人か息女あたりの可能性が高いのではなかろうか。
そして最後。
街の中にいくつもある行き止まりの路地。そのうちのひとつに、決して入ってはならないものがあるという。
もし入ってしまったのなら、必ず守らなければならない決まりがある。
私の名前を教えてくれ。
どこからともなく聞こえてくるそんな問いかけに、返事をしてはならないのだ。
もし返答してしまえば助かる術はない。迷い込んだ者がどのような答えを返そうが、違う違うと激昂した叫びと共にどこかへ引きずりこまれ、そして帰ってこられなくなる……。
そんな噂は。
「おいお前! ここを通りたいならオレの名前を言ってみろ!」
この上なく下らない形で元ネタが判明した。
噂と噂の間の移動中、あなた達の頭上から声が降ってきた。
何事かと見上げてみれば、路地を形作る家々の屋根に腰掛けている子供達の集団があなたを見下ろしている。年頃はあなたと同じか、やや上程度。ニヤニヤとした顔つきはいかにも悪ガキ……いや、言葉を選ばず言えばクソガキといった風情だ。
「言えないなら通るんじゃねーよ! オレの顔も知らないやつが入ってきていいと思ってんのか?」
「俺らのナワバリだぞ!」
「帰れ帰れ! ここは行き止まりだ!」
子供達は屋根から身軽に飛び降り、あなた達の倍、4人という数を頼りにか威嚇を始めている。
あ、これはいけない、と。あなたは隣を歩くヤレカのスイッチが切り替わる気配を感じて咄嗟に、殺害の禁止と後遺症を残さぬ事を指示した。
「しないよー……私、別に殺したがりじゃないんだからね?」
それに、ヤレカが心外だという顔をして。
「あぁん? 何だお前ら、オレを殺すとかチョーシこいてんじゃねへぶっ!?」
態度が生意気だと思ったのか、あなたを乱暴に突き飛ばそうとリーダー格が手を伸ばした瞬間。目にも止まらぬ(本当に視覚的に捕捉がほぼ不可能な)速度でアゴを打たれ、彼は白目を剥いてその場に崩れ落ちた。
完全に気絶している。当たり前だ。よりによってヤレカの目の前であなたに手を出そうとした者がただで済む道理はない。例外は屋敷の家族のみである。
「は……? お、お前何しやがった!?」
「俺らとやろうってのか!?」
当然、相手方も沸騰する。
こういった手合いはメンツで生きている。リーダーがいきなり気を失ったからと言って逃げ帰れば、それは大きな恥だ。まだ小さい子供であっても、その基本的なルールは変わりないらしい。
だが、この展開はあなたにとっても好都合だった。
悪ガキというものは往々にして夜中も活発だ。マラン達を連れて夜の街を探る際にも遭遇する可能性はなくもない。ならばここで一度のしておいた方が、探索の安全確保には良い。
そしてそもそも、悪い事をしていると痛い目を見ると知る機会は誰にでも与えられるべきだ。体の年齢的にはともかく、魂の年長者として、ゲンコツのひとつもくれてやっても良いだろう。そう考えられる程度には、あなたの血の気も多かった。
こっちは受け持つ。
そう告げ、突進してくる相手に逆に突っ込んだあなたをヤレカは見逃した。命のやり取りには到底繋がらない以上、優先されるのはあなたの意思である。あなたが明確に負けるまで、彼女は手出しを控えるはずだ。
走るあなたを出迎えたのは、大柄な男の子の腕だった。
よほど体格に自信があるのか、どこかが当たればそれだけで吹き飛ばせると確信しているらしい力任せのラリアットが迫る。
| ランダム分岐/子供のケンカ |
| あなたの戦闘技能 レベル4 悪ガキの戦闘技能 レベル0 勝率90%
1で敗北 2〜10で勝利
1d10=9 |
そんなものは、ヤレカにしっかり鍛えられたあなたにとって格好の餌食だった。
かがんだ頭の上を腕が通り過ぎた直後、あなたは身を縮めた反動を用いて地を蹴った。訓練で修得した基本通りの踏み込み。地面を掴んだ足指から腰を通し、肩までを連動させ、ロスを最小限に抑えた力の塊を拳に到達させる。
そしてそれを、相手の脇腹に深々と突き立てた。
たかが子供の拳だが、相手もまた子供の体。しかも拳が刺さった位置は肝臓であった。この異世界においても急所である事は、鍛錬の中でヤレカにすでに教わっている。
「ごぇっ! ご、かひゅっ!?」
肝臓周辺の迷走神経に強烈な衝撃を受けた相手は、激痛に全身を引き攣らせて一時的な呼吸困難に陥った。これではもう戦闘……いや、ケンカどころではない。
やると決めたら容赦なく、一発で終わらせるところを狙え。
それがヤレカの教えであり、またザンガラっ子の基礎教養でもある。
結局、路地の小さな戦いはそれで終わった。
あなたが1人を迎え撃っている間に、残っていた2人はヤレカによって秒殺されている。手段は……股ぐらを押さえて真っ青な顔でうずくまり涙を流す彼らと、その足元に転がり、そしてヤレカが残弾としてジャグリングしている石が物語っていた。元男として、思わず内股になってしまう光景であった。
「よくできましたー。花丸あげるね。教科書に載せたいくらいのレバーブローだったよ」
あなたに倒された彼は、むしろ感謝すべきかも知れない。あなたがやると言っていなければ、彼もまた今頃は男にしか分からない痛みにのたうち回っていた事だろう。
やがて目を覚ました悪ガキ集団のリーダーは、倍の数が居る自分達がまとめて負けた(しかも年下の女の子に)事を理解すると、捨て台詞を吐きつつも仲間達に肩を貸しながら去っていった。
その際の表情は年相応のもの。涙目ではあったが大きく逆恨みした様子はなく、あなたが見る限り根から歪んではいなさそうだ。これに懲りて悪さをやめる可能性もあるかも知れない。
その後も噂のいくつかを巡り、同様に原因を突き止める。どれもなんて事はないものばかりで、噂というものがいかにいい加減なものかをあなたに教えてくれた。
だがとりあえず、あなたの昼の目的は達成された。やるべき事を完璧に終え、あなたは屋敷への帰路につく。
残っている噂は、どれも比較的信憑性の高そうなものばかりだ。もしこの世界に幽霊が居るのなら、1体くらいは遭遇できるかも知れない。
期待に心をウキウキと沸き立たせるあなたと、そんなあなたの横顔を眺めてニコニコとするヤレカの足取りは、共に軽いものであった。
そうして、夜。
「みんな寝たよ。出発しても大丈夫」
大人達の睡眠を確認するため偵察に出ていたヤレカは、あなたの部屋に戻ってくると小さな声でそう報告した。
寝たみたい、ではなく、寝たよ、と断言しているあたりにヤレカの異常性が若干滲み出ている。おそらく部屋の覗き見による視覚情報だけでなく、呼吸音や、もしかしたら心拍音などを感知して判断しているのだろうなとあなたは察した。
……あるいは、全くの無音無気配で部屋の中まで踏み込み、表情や体温、まぶたの動きすら確認している可能性もある。
実際、朝目が覚めると超至近距離でヤレカが添い寝していたにもかかわらず、目を開くまで何の違和感もなかった、という経験があなたには数度ある。そのぐらいの事は難なくこなすはずだ。
「よーし、静かにいくぞ……静かにだぞ……」
「あんたが一番心配なんだけど」
コソコソと屋敷を抜け出し、事前に外に運び出し隠しておいた荷物を取り、あなた達は夜の街に踏み入っていく。
「えへ、ちょ、ちょっとワクワクするかも」
「ねー」
同感だと、子供らしい小冒険に心を躍らせる妹にあなたも笑いかけ、幽霊探しの本番はいよいよ始まった。