一般通過異世界転生者:あなた   作:ID:Am88n712

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一般的な異世界転生 幼少期編 10

 

 あなたは咄嗟に動いた。

 

 駆け足でマラン達を追い越して、彼らの前へ出る。そして、この先は自分が先導すると宣言した。

 

 

 

選択肢分岐
あなたが前に出て先行する

 

 

 

「え? ねーちゃん、どうかしたのか?」

 

 あなたのそんな行動に、マランはただキョトンとした様子だったが、妹達2人はもう少し敏感だったようだ。夜の冒険に高揚していた顔を少しだけだが強張らせ、弾んでいた声に不安が混ざる。

 

「……も、もしかして、何かいるの?」

 

「! 本物の幽霊か!? よっしゃ俺が捕まえてやる!」

 

「このバカマラン! お姉ちゃんが先に行くって言ってるでしょ!」

 

 唐突にあなたを襲った予感、そこから生まれる緊張は、どうやら隠しきれなかったらしい。あなたがマラン達を本当に守ろうとしているのだとわかったのか、3人は冒険の急展開を予想して、妹達は恐れを、マランは興奮を抑えられずにいる。

 

 あなたもまた、見通せない路地の先に何が待つのかをつい思い描いて、心臓を強く揺らしている。知識欲が鎌首をもたげ、生物的な本能を振り払ってあなたの足を進ませようとするのを感じていた。

 

 

 

 それでも、最後尾を一度だけ振り返る冷静さはまだあった。

 

「…………」

 

 再び小さな一塊になるマラン達のすぐ後ろ。彼らに何が起ころうが完璧に対応できる位置に待機したヤレカは、マランの持つランタンに照らされながらにっこりと笑みを返してくる。胸元で小さく手を振ってくれもした。

 

 問題はないと、それで信じられた。ヤレカがまさか、あなたの危地を見逃すわけもない。

 

 また、ヤレカが守るのはあなた本人の命だけではない。あなたが弟妹の危険を忌避する以上、ヤレカはこの場の全員をその理外の実力で守ってくれるはずだ。昼間と違い、視界の悪い夜の中ならば本気を出しても誤魔化しが効きそうな分、普段よりも安全でさえあるかも知れない。

 

 セーフティは万全に機能している。

 

 ならば、ここは撤退よりも前進を選ぶべきだ。あなたはランタンをできるだけ前方へ掲げ、裸足の足を石造りの路地へと踏み出した。ゆっくりついてきてと声をかけると、後ろから誰かがツバを飲み込む音が聞こえる。

 

 

 

 道は狭かった。左右からは高い壁が迫り、しかも計画性なく適当に次々建てたような乱雑さで家が並んでいるため、ジグザグとして先が全く見通せない。上方を見上げれば2階部分が橋のように繋がっている所が多くあり、星明かりさえ遮られている箇所も少なくない。

 

 知らずのうちに、あなたの呼吸は潜むような細いものに変わっていた。

 

 ……幽霊のような曖昧なものは、曖昧な場所に棲む。

 

 この夜行の始まりにヤレカが悪ふざけで言ったそんな言葉が、どうにもあなたの脳裏から離れなかった。

 

 ただでさえ狭い路地は、その暗さのためにさらに圧迫感を強めている。どれだけランタンをかざそうが至る所に照らしきれない闇が残り、ふとした瞬間にそこから何者かの気配を感じ取れるような気がしてならない。

 

 

ランダム分岐/???
諜報技能か探索技能で判定

 

あなたの諜報技能 レベル0

情報セキュリティ レベルマイナス2

成功率70%

 

1〜3で失敗

4〜10で成功

 

1d10=3

 

 

 ちり、とあなたは頭の片隅に焼けつくような痛みを感じた。

 

 おそらくはこの路地の、あんまりにも怪談に向いた雰囲気のせいだ。空気に当てられてか緊張が高まりすぎたのだろう。

 

 自身を落ち着かせるように頭を振って、あなたは周囲を良く観察した。

 

 わたしはだれ?

 

 改めて見ればなんという事はない。ありふれた路地だ。街に出ればいくらでも見つけられる、ただの道にすぎない。

 

 白い石の壁。白い石の道。潮の香りが染み付いた大気。まだ見慣れる事のない異世界の星空。

 

 どこかから聞こえる赤子の泣き声は少しずつ弱り、ふつりと途切れた。道の端に転がった岩は大きな腹を抱えた妊婦の形をしている。そのかたわらにはシワや汚れのひとつもない、一見して未使用とわかる産着が落ちていた。

 

 わたしはだれ?

 

 ほうっ、とあなたは息を吐いた。やはりなんの不自然もない、当たり前の光景だ。昼間との違いはただ真っ暗闇だというだけで、恐れるべき事は何も起きていない。

 

 あなたは進む。

 

 曲がりくねった道は徐々に広くなりつつあった。終点の広場が近いのだろう。

 

 あなたの記憶が正しければ、この道の最後は12畳ほどの何もないスペースになっていたはずだ。ヤレカと共に市場を目指した時に発見した行き止まりのひとつで、また不正解の道かと頭を抱えたために良く覚えている。

 

 わたしはだれ?

 

 もし何かが待つとすれば、その終点に違いない。疲れからか自然と下がっていたランタンを掲げ直して、あなたは()()()()()()を踏みしめながら一歩一歩を静かに進める。

 

 見慣れた赤い自動販売機がぽつりと置かれているためか。足元に時折転がっている空き缶が少々邪魔ではあったが、通行自体に支障はない。

 

 

ランダム分岐/???
諜報技能か探索技能で判定

 

あなたの諜報技能 レベル0

情報セキュリティ レベルマイナス1

成功率60%

 

1〜4で失敗

5〜10で成功

 

1d10=3

 

 

 むしろ問題があるとすれば、遠くから聞こえる叫びの方だ。

 

 若い男が誰かを呼び止めようと、あるいは呼び戻そうとだろうか、必死さを感じさせる大声を発している。涙と絶望の入り混じる耳に痛いほどのもので、あなたの頭をガンガンと軋ませた。

 

 だが、それも別に致命的というほどでもない。

 

 少しばかり壁に寄りかかって数度の呼吸を繰り返し、前方からやってきた空のベビーカーを押す女性とすれ違う頃には回復する。そうすれば、再び歩き始めるのは簡単だった。

 

 わたしはだれ?

 

 他にあなたの足を引き止めるものは、香りぐらいのものだった。

 

 ひどく懐かしいスパイスの香りだ。カレーの物に違いない。路地に居並ぶ家のどこかで鍋いっぱいのそれが煮込まれているのだろう。

 

 当たりをつけてガラス窓からチラリと伺えば、身重の女性らしき人影がコンロに向かい合っていた。あなたからは後ろ姿しか見えなかったが、幸せそうな柔らかい空気をまとって見える。今にも鼻歌のひとつも聞こえそうな風景に、あなたの気分まで良くなりそうだった。

 

 残念なのは、通り過ぎた後に苦しげな女性の声と共に鍋が転がる音が響き、やがて救急車の甲高いサイレンまでもが聞こえてきたために、全てが台無しになってしまった事だが。

 

 

ランダム分岐/???
諜報技能か探索技能で判定

 

あなたの諜報技能 レベル0

情報セキュリティ レベル0

成功率50%

 

1〜5で失敗

6〜10で成功

 

1d10=1

 

 

 そんな道も、いつしか終わりにたどり着いた。

 

 わたしはだれ?

 

 終点の広場にはそんな問いかけが佇んでいた。どこまでも曖昧な形のないものが、存在しない眼球であなたを見つめ、未形成の声帯で空気を震わせ、知りもしないはずの言葉を届けてくる。

 

 わたしはだれ?

 

 残念ながら、あなたは落胆を隠せなかった。求めた幽霊らしきものはどこにもいない。居るのはこの、ただただ曖昧な何かだけ。

 

 どうか、おしえて。

 

 だがそれも仕方ない。元々、確証はなかったのだ。魂が実在するからといって、幽霊が居るとも、居るとして必ず出会えるとも限らないのは当たり前の事である。こういう事もあると、あなたは自分を納得させた。

 

 

 わたしはだれ?

 

 

 さて、今はそんな事よりも。

 

 先ほどから繰り返されているこの問いかけに答えるべきだろう。

 

 ずるりと曖昧な形をさらに崩して無数の足の先からあなたへと腕を伸ばす何かへと近付き、口を開く。

 

「……──」

 

 

 

 

 

「はーい、おしまい」

 

 それを、柔らかな感触と共に止める者があった。

 

 小さな子供の褐色の手が、背後からあなたの口を塞ぐ。発しようとした言葉はそれだけで簡単に止まってくれた。

 

 下手人は当然、触れ慣れた体温と聞き慣れた声色ですぐにわかる。

 

「幽霊遭遇体験、楽しめた? ……流石にこれ以上はね。任せておいてはあげられないかなって。肝心な場面に弱いとこあるけど、こんなにだったかー」

 

 ヤレカだ。

 

 

 

 その瞬間、あなたは正気を取り戻した。

 

 同時に眼球を四方に巡らせ、それを見る。ルワ・ザンガラの石造りの風景を侵食するように溶け込む、前世の世界の名残達を。

 

 周囲を囲む家々はいつの間にか現代日本のそれに取って変わられ、ブロック塀が一面を囲み、その向こうの遠景には高層建築が頭を覗かせている。天には見覚えのある星座ばかりが並び、その中心ではウサギともカニとも取れる模様のある満月が冗談のように輝いていた。

 

 そんな中に、あなたと、そしてヤレカだけが人間として存在している。

 

 あなたの体からぶわりと脂汗が噴き出る。

 

 これだけの異常に今の今まで気付けていなかったなど、それこそが異常だった。自身の意識すらももはや信頼できない。今立っている場所が現実かそうでないかさえ、あなたには判別のしようがなかった。

 

 いや、そんな事よりもまず、マラン達はどこに行ったのか。このような空間で果たして無事なのかと焦燥が止めどなく湧き上がる。

 

 

 

「大丈夫。ほら、私はここに居るでしょ?」

 

 それを止めたのは、ヤレカの存在だった。

 

 ヤレカはあなたの頭を抱えて自身の胸元へと押し付ける。トクン、トクンと耳に伝わる生命の証は、少しずつあなたを落ち着けてくれた。早鐘のようだったあなたの心臓の鼓動は、やがてヤレカのそれと同期するように鎮まっていく。

 

 

 

 そうしていくらか冷静になったあなたへ、ヤレカは必要な情報を与えた。

 

「安心してね。飲み込まれたのは私達だけだよ。正確には私は飛び込んできたんだけど。マラン達は無事。半分くらい私を残してもきてるしね」

 

 最も気になっていた部分が解消されたなら、次だ。

 

 あなたはヤレカの腕の中で体勢を変え、前方を見る。曖昧な何かは、未だ曖昧なままでそこに居た。

 

 わたしはだれ?

 

 そう問い続けるばかりで、あなた達に襲いかかる様子などはない。これは何なのだろうか。

 

「何って、お望みの幽霊さん」

 

 何故何もしてこないのか。

 

「曖昧な子だからね。自我とかそういうのもないはずだから、何かしようなんて思ってないんじゃないかな」

 

 では何故ここへ引きずり込まれたのか。

 

 その問いには、ヤレカはクスリと笑った。仕方ない子だというかのようにあなたの頭をヨシヨシと撫で、答える。

 

「引きずりこまれてないよ。落とし穴にハマるみたいに滑って落ちただけ。曖昧なものは曖昧なところに居るって言ったでしょ? そういう曖昧な場所には、時々こうやってコロコロ落ちちゃうの」

 

 それから、周りを指差して続ける。

 

「風景が変わってるのは、こんな曖昧な場所より、あなたの確かな記憶の方がずっと濃度が高いせい。無意識ぐらいの記憶でも上書きには十分なんだよ。形をもったものって、それだけ強いから」

 

 ルワ・ザンガラじゃなく日本の風景なのは、まだあなたの心が日本人寄りだからだろうねと、ヤレカは伝えた。

 

 

 

「さ、それじゃそろそろ帰ろっか。あんまり時間かけるとみんなが心配しちゃうしね。幽霊さんに答えてあげて」

 

 それから言われた言葉に、あなたは怪訝に振り返った。それをしようとした瞬間に止めたのはヤレカである。ならば、答えれば良くない事が起こりそうなものだ。

 

 噂……怪談でも、行き止まりの路地で問いかけに答えてしまえばもう帰っては来られなくなると、そういう話だったはずだ。

 

「うん、あの子が誰か教えてあげちゃったら、曖昧さが消えちゃうからね。意識も芽生えて、とにかく何かしようって気になって動き出しちゃう」

 

 ただ、とヤレカは続ける。

 

「それでもやっぱり、まだ生き物の方が強いから殺したりは出来ないよ。ちょっと怖がらせたり、軽いケガさせたりがせいぜい。それも朝が来て周りから曖昧さが消えたらまたなくなっちゃうし。だから、帰れなくなるって話はただの噂の尾ヒレだね。…… で、止めたのは助ける前に説明してあげるため。そっちの方がスッキリするかなって」

 

 

 

 そこまで語り終えて、ヤレカはナイフを取り出した。あなたも戦闘訓練で見慣れた、骨製のものだ。

 

「このままでも助けてはあげられるけど、ちょっと時間がかかるから、今回はパパッとやっちゃお。曖昧さが消えたら簡単に殺せるようになるの。だから、はい、答えてあげて」

 

 そうして、ヤレカはあなたを曖昧な何か、この世界の幽霊だという存在へ向き直らせた。

 

 わたしはだれ?

 

 幽霊は未だ、延々と同じ文言を繰り返している。

 

 ヤレカを信じるなら大きな害はなく、それならば観察と調査をしたい気持ちもなくはない。が、残念ながら、あなたは滑り落ちたとかいうこの謎の空間から脱出しなければならなかった。何しろ、マラン達を長々と放っておくわけにもいかない。

 

 

 

 ヤレカに支えられるあなたの眼前で、幽霊は絶えず形を変え続けていた。

 

 それは魚のようにもカエルのようにも、あるいはトカゲのようにもヒトのようにも見える。さながらロールシャッハテストだ。あなたの心持ち次第でいかようにも捉えられる。

 

 ほんの短時間の観察の後、あなたは自身の感性に任せて返答を決めた。

 





※ 30% x 40% x 50% = 6% O(:3 )~ ('、3_ヽ)_

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