一般通過異世界転生者:あなた   作:ID:Am88n712

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少年期編 中間イベント
一般的な異世界転生 少年期編 4


 

 ルワ・ザンガラには8つの時節がある。

 

 ただしそれは前世日本の春夏秋冬のように気温でわかりやすいようなものではない。ルワ・ザンガラの気候は年間通してほぼ均質だ。

 

 雲も雨も少なく、風は穏やか。陽射しの強さも変わらない。街の者の大半が日頃水着同然の姿で生活していても不都合が無い程度の暖かさがずっと続き、それだけを見ていれば時の移り変わりなど感じられないだろう。

 

 なので、この街の人間は空と風以外のものを見て季節を知る。

 

 例えば、繁殖のために岩礁帯を利用する海鳥の群れがやってくる、エトの季。

 

 例えば、岩礁帯の水底に生息するサンゴから放出された小さな卵が海中を漂う、マレの季。

 

 

 

 そして今、街はニンバルの季、その終わり際を迎えていた。

 

 かつて旅の聖者タンバシャの祈りに応じ、岩礁帯に続く崖を崩したという石と泥濘の神、ジナバル。彼(男神とされる)の娘の名がニンバルだ。ニンバルの季の語源は、もちろんこの神の娘である。

 

 ニンバルの詳細は今は置くとして、彼女が司るものは花と草だ。ただし全てではない。父神の象徴、石や泥の上に咲き誇るものに限られる。他の、土に咲く草花はトルウガラという別の神の管轄となる。

 

 つまりニンバルの季とは、石の上に花の咲く季節という事だ。

 

 

 

 あなたは岩礁の間を縫って渡る小舟から、ひょいと飛び降りた。

 

 飛ぶ先は海……ではなく、岩礁だ。すでに魔法の皮膜が張られた足裏は尖った岩をがっしり掴み、あなたの着地は難なく成し遂げられる。

 

 普段のように潜りはしない。本日のあなたの仕事は素潜り漁ではなかった。

 

 

 

 ニンバルの季、その名前が示す通り、この時期の岩礁帯には花が咲く。カエルの指先に似た円形の吸盤を岩場に張り付けて、這うように伸びるつる植物である。

 

 放射状に広がる小さいながらも華やかな8枚の白い花弁で海を彩るそれは、どうやら塩に強いどころか、塩のある場所でこそむしろ良く育つらしい。

 

 塩が平気ならば、いくらでも水があり、日光を遮るものがなく、多種多様な生物が暮らすために養分も豊富な岩礁帯は実に暮らしやすい土地なのだろう。特にエトの季が終わった後は海鳥の残した糞尿を糧として一気にツルを伸ばして成長し、そこら中に白い花を咲かせるのだ。

 

 

 

 そして、このツルはルワ・ザンガラにとって、なくてはならないものである。

 

 

 

 あなたは岩場に屈むと、すでにタネを放出し終えて花の枯れたツルを見繕い、数本をまとめて手に取った。そうして、グッと体重をかけて引く。

 

 残念ながらツル植物とは頑丈なもので、それだけで引き抜く事は到底出来ない。吸盤ひとつひとつは小さく弱いものの、一体いくつあるのかわからないほどズラリと並んでいる。加算された吸着力の合計は大の男でも勝てるかどうかといったところだ。

 

 だが、幸いあなたには文明の利器がある。

 

「そのままじっとしててねー」

 

 今日は同行していた従者、ヤレカはそう言うと、岩場に吸い付く吸盤にナイフを当てた。そうしてあなたが引っ張っているおかげで出来た隙間に沿って刃を滑らせる。

 

 ぷちぷちぷち。

 

 癖になりそうな小気味良い音と感触があなたに伝わり、同時に吸盤は切り離され、ツルはどんどんと採集されていく。剥がせないなら切れば良いというのは当然誰もが考えつく事で、ルワ・ザンガラでは昔からこうしているらしい。

 

 ヤレカの刃物の扱いは言うまでもなく優秀だ。採れた先から肩に担いでいたあなたはあっという間にツルに埋まり、身動きが取れなくなる前にと小舟に引き返す。

 

 

 

「……飛ばなくて良い。こっちに」

 

 それを、岩場に小舟を寄せたランバという男が太い腕を伸ばして受け取った。

 

 言葉少なく、抑揚もなく、ついでに言えば表情もムッツリとしているが、別に機嫌が悪いわけでも、あなたを疎んでいるわけでもない。ランバは大体いつもこのような様子で、単にそういう気質であるらしい。

 

 歳の頃はルワンジと同じ、つまりあなたよりも4〜5歳ほど年上で、屋敷に暮らす男衆のひとりだ。友人が少なくいつも陰気な男だが、仕事への真摯さでは若手随一だとイシャバが褒めていたのをあなたも知っている。

 

 今もまた、あなたから受け取ったツルを丁寧に小舟の上に並べている。一往復でできるだけ多く載せるためだろう。積載用のスペースに隙間なくみっちりと積み込む様子は、彼の几帳面さを窺わせた。

 

 寡黙だが仕事に関しては丹念に指導してくれる事もあり、あなたからの印象も良い。何より、ルワンジなどと違いおかしな視線を投げてこないのがかなり大きな加点であった。おかげで仕事中に余計な部分に気を使わなくて済む。

 

 

 

「……一度下ろす。戻るぞ」

 

「はーい」

 

 そんなランバが積載限界を見極め、一旦の帰港を宣言すると、ヤレカは身軽に小舟に戻った。続いてあなたも。

 

 船底を埋めるように積まれたツルの上にふたり並んで座る。ランバはそれをしっかりと確認してから。

 

「……立つなよ」

 

 毎度必ず伝える注意を今回もまた伝えて、櫂をこいで小舟を街に向かわせた。

 

 

 

 その道中、あなたはツルの束を手に取ってしげしげと眺めた。

 

 普段は食べ物ばかりを採っているあなただが、このツルは食用ではない。食べようと思えば食べられるらしいが、頑丈で強靭な上に塩気が強すぎるために調理にとにかく手間がかかり、その割に特段美味くもないそうだ。植物を食べたいなら海藻をかじった方が100倍楽で1000倍美味いと、あなたはどこかで聞いた事がある。

 

 これの真価は、素材としての価値にある。

 

 日に晒して乾燥させた後、水に浸けてほぐせば良質な繊維が取れるのだ。先述の通りとにかく強靭なため、ちょっと手荒に扱った程度ではそうそう切れない糸を紡ぐ事が出来る。

 

 ルワ・ザンガラで一般に使われる漁獲網の材料はこれだ。他には、履く者は少ないがサンダルや、窓に吊り下げるすだれにも使われる。もちろん、街の者が全員下げている首飾りの紐にも。

 

 陸の側は不毛なルワ・ザンガラでは貴重な植物資源であるため、繊維が必要な場面では大体便利に使われている。

 

 残念なのは、強靭なのは良いが強すぎるために衣服などには全く向かない点だろう。おかげであなたが日常的に使っているタオルは、よその街から流れてきた亜麻製のものだ。輸送費のせいで実にお高い。

 

 

 

 さて、そんなあなたへとランバが声をかけてきた。必要な事以外は喋らず、往復の間は無言な彼にしては珍しい事だった。

 

「……お嬢、ザザ(フナムシ)は苦手か?」

 

 その内容にあなたは、ウッと顔をしかめた。

 

 ザザというのは、前世でいうフナムシに似た生き物だ。黒光りする甲殻に、ウネウネ動く触角。やたらと多い脚も持つ。そして最悪な事に、ザザはにょろりと体が長く、そして非常に素早いとくる。生理的な嫌悪感をかき立てる要素のバーゲンセールだ。

 

「あれ好きな子っているの?」

 

「…………まぁ、いないな」

 

 ヤレカの疑問に、それもそうだとランバが頷いた通り、ザザは大変な嫌われ者である。地球のフナムシと違って平然と海中を泳ぐため、素潜り漁でもそこそこ出くわすのも悪い。

 

 中には平気な者も居るが、見過ぎて慣れたというだけだ。好んでいるような物好きは、少なくともあなたもランバも知らなかった。

 

 

 

 ザザは口に入るものならなんでも食べるようだが、植物もその範疇だ。

 

 逃げもせず、強靭だが噛みついて汁を啜る程度なら簡単で、しかも大量に生えているという条件が揃っていれば、それはもうご馳走なのだろう。ニンバルの季の岩礁には、とにかくザザが多い。

 

 ツルの採取にはザザとの格闘はつきもので、隙を見せれば腕や足を這い上ってくるのを必死に追い払わねばならない。初めてツルの採取に参加した子供が延々と悲鳴を上げるのは風物詩なのだとか。

 

 ……その見た目からムカデや頭文字Gを連想し、他の子供と同様逃げ惑う羽目になったあなたとしては、そんなものを風物詩にするなと怒りを表明したいところであろう。

 

 

 

「…………ん」

 

 そんなあなたの「ザザは苦手だ」との返事に、ランバは少し考え込んだ。

 

 口の中をモゴモゴとさせ、言うべきか言わぬべきかと悩んだ様子を見せた後に、内緒話のようにコッソリと口を開く。

 

「……ザザ避けにはシュカム(毒持ちナマコ)の絞り汁がてきめんに効く。次からは足と手に塗るといい。寄ってこなくなる」

 

 それはなんとも有用な情報だった。

 

 この地域でシュカムと呼ばれる特定のナマコは、強い毒を持っている。人間にはその毒は効かず、むしろ毒の独特な酸味目当てで食われるが、他の生物にとっては効果がある。ランバが言うには、ザザ相手にも有効なのだそうだ。

 

「へー。なんで知ってるの?」

 

「…………俺も、ザザは苦手だからな。前に自分で色々と試した中では、シュカムが一番だった」

 

「ふふ。切実なやつだ」

 

 

 

 そんな会話の最後に、ランバはそれまでよりも少しだけ強い声で付け加える。

 

「誰にも言うなよ。お嬢とヤレカだけで使え」

 

「他の子に教えちゃダメなの?」

 

「ダメだ。……中には口が軽いのも多いからな」

 

 ふぅー、とランバが息を吐く。

 

「……獲られすぎて、シュカムが食えなくなったらたまらん」

 

 それこそ本当に切実で、あんまりに迫真な声色だったもので、あなたとヤレカは揃って吹き出したのだった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

とっと(お父さん)〜♪ とっとっと〜♪」

 

「そうか、ニンバルもそろそろ終わりが近いな」

 

 さて、その日の夕方。西陽の差し込む屋敷の広間にて、あなたは父イシャバに本日の仕事の報告をしていた。

 

 といっても、ほとんど形だけのものだ。

 

 しっかりとした正式な報告はランバをはじめとした男衆からされている。この対話は単に、親子のコミュニケーションとしてのものだ。最近学校はどうだと親に聞かれるようなものである。

 

 その証拠に、イシャバは随分なリラックス体勢であった。

 

 海獣の毛皮を敷いた上にうつ伏せに寝転がり、背中にガウィルを乗せている。ガウィル、あなたの実弟は幼く小さな足でイシャバの広い背の上を歩き回り、その引き締まった背筋の感触を楽しんでいる。

 

 即興の歌も漏れ出る様子にはイシャバもデレデレな上に、ちょうどいいマッサージになっているようで、もっさりと蓄えたヒゲの奥は満面の笑みである。

 

ねぇね(お姉ちゃん)もー!」

 

 ガウィルがあなたの手を取り、半ば無理矢理にマッサージに参加させれば、父の喜びも極まったらしい。ガウィルよりもあなたは格段に重いはずだが、イシャバは全く苦しげな様子はなく、むしろついにワハハと声を上げる。

 

 ならばと、あなたは逆にガウィルを振り回すように踊る。ザンガラ飛び(遊びの方ではなく、実際に岩礁を飛び回る仕事の方)で鍛えたバランス感覚は、わずかにもあなたの足を踏み違えさせる事なく、父の厚い筋肉と太い骨を満遍なく踏みならした。

 

 キャッキャ、ワハハと笑みで満たされるひと時は、絵に描いたような家族団らんの時間であった。

 

 

 

 

 

「お前もだいぶ大きくなったなぁ……」

 

 あなたとガウィルの背踏み踊りは、ガウィルの退場で幕を閉じた。

 

 厨房から良い匂いが立ち始めたためである。茹でた魚をすり潰し、薄焼きパンを焼く香りだ。ルワ・ザンガラの朝夕二食、その代表的なメニューはガウィルも好んでいるようで、出来上がっていく様子をかじりついて眺めるのは良くある事だった。

 

 2人になった広間で、背から降りたあなたへと、イシャバは向き直った。体勢を変えて横向きになり、肘を折り曲げて自分の腕を枕にする。

 

 そうしてしみじみと言う。

 

「ついこの間生まれたばっかだと思ってたのに、月日は早いもんだ。もうこんなに背が伸びて、今じゃ魔法も使えるんだからなぁ」

 

 良く日に焼けた顔をくしゃりと崩して目を細める表情は、まさに父親といった雰囲気だった。

 

 前世を含めてまだ大人になった経験のないあなたにとってはその心境は想像するしかない。幸福に似た感慨があるのだろうか。それとも安堵に近いのだろうか。理解には遠いが、悪くないものなのだろうとは顔を見ればわかる。

 

 

 

 そんなイシャバは、よし、と掛け声と共に起き上がり、家長としてあなたに命じた。

 

「ニンバルが終われば、じきにブージェが来る。今年の儀礼にはお前とヤレカも参加しろ」

 

 

 

 ニンバル()の季にはザザ()が増える。

 

 自然というものは、ひとつの出来事が独立して起こるという事はない。全ての物事は関係し合い、連鎖して繋がっているものだ。

 

 つまり、ザザが増えてはい終わり、ではない。

 

 ザザは人にとってはただの邪魔者だが、他の生き物にとってはそうではない。肉食の大型魚をはじめ、エビやカニ、それにタコなどにとっては素晴らしい養分となる。

 

 海に咲く白い花はルワ・ザンガラにとって、やがて来る豊穣と……流血の象徴だ。

 

 鳥が去り、花が咲き、虫が増え、命が集まり。そして、数多の命を求めてさらに上位の捕食者がやってくる。

 

 エトとニンバルに続く次の季節は、ブージェ。

 

 古い言葉で、果ての獣を意味する言葉だ。普段は沖合の小島を根城にする海獣を指して、街の者はそう呼んでいる。

 

 

 

 ルワ・ザンガラに、もうすぐ戦いの季節がやってくる。

 

 生命豊かな岩礁帯は、ブージェにとっても、人間にとっても、日々を生きるために重要なもの。己の縄張りを守るため、ルワ・ザンガラは外敵に立ち向かわねばならない。

 

 漁師は戦士となり、槍を手に戦場に臨むのだ。

 

 

 

 そして、それに伴い行われる儀礼がひとつある。

 

 臨戦の儀と呼ばれる、子供達をブージェとの戦いに参加させる儀式である。

 

 

 

俺たち(漁師)が海に出るというのはどういう事か、お前たちは知らなきゃならん。ザンガラに生きる事は死と隣り合わせだとわからん奴は、俺たちが帰るルワを守っちゃくれん」

 

 行われる理由は、まさにイシャバが語る通りだ。

 

 ザンガラを行く恐ろしさを皆が知るからこそ、漁師たちは街の者たちから敬意を向けられ、様々な権利を享受できる。そうして優遇されるからこそ、漁師たちは誇りを胸に命を賭け、人々の糧を集められる。

 

 この円環を崩さず保つため、危険だとわかりつつも、古くから途切れる事なく臨戦の儀は続いている。

 

 

 

 

 

 とはいえ、と表情を緩めてイシャバは続けた。

 

「ま、そう心配すんな。お前たちにはランバとルワンジをつける。あいつらは腕も筋も良いし連携も抜群だ。しっかり言う事聞いてりゃケガひとつなく帰してくれる」

 

 明るいが軽薄なルワンジ。実直だが陰気なランバ。

 

 一見正反対なふたりだが、その実相性は良いらしく、揃って出かける様子は度々あなたも見ている。それは海の上でも同じようで、共に槍を持って並び立てば熟練の戦士にも劣らない戦力であるという。

 

 

 

「それに、お前は女だからな。流石に女にブージェに槍を突き立てろとは誰も言わん。予備の槍を何本か持ってあいつらの後ろをついて回って、戦いってのはどういうもんかを見て学べばそれで良い」

 

 最後にイシャバはそう締めた。

 

 本当の意味で戦うのは男だけ。守られるべき女は戦いを見守るだけで良く、無理に槍を振るう必要はないと。

 

 その言葉に対し、あなたは。

 

 

 

従うべきだと思った

デフォルト

イシャバに従い観戦にとどめる

 

自分も戦いたいと願った

戦闘意欲

イシャバを説得して戦闘に参加する

 

補助で役立つべきと考えた

面倒見

戦闘に参加しないが槍持ち以外にも出来る事を探す

 

それよりもブージェが気になる

知識欲/好奇心

ブージェについて調べ、当日も観察に努める

 





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