一般通過異世界転生者:あなた 作:ID:Am88n712
イシャバの話に、あなたは素直に頷いた。
海獣、ブージェとの戦いは、良く鍛えられた漁師でも時に命を落とす事もある危険な行いだ。己の槍で立ち向かってみたい気持ちもあるが、多少鍛えているとはいえまだ子供の身である事を考えればワガママを通す場面ではないだろう。
支援、あるいは補助として出来る事があれば……とも考えたが、そちらもかえって足を引っ張る事があるかも知れない。
儀礼当日にあなたを先導するのはランバとルワンジだが、彼らの真価は連携にあるという。間にあなたが無理に挟まりにいくと、それを乱す可能性もなくはなさそうだ。
結局結論として、積極的に戦闘に関わる事はせず、イシャバの指示通り後方で守られているのが良さそうだ。
| 選択肢分岐 |
それよりもブージェが気になる |
正直なところ、ありがたい面もある。
ランバとルワンジがあなたを保護してくれる上、ヤレカとも行動を共にできるようだ。もし何らかのアクシデントがあったとして、それがあなたにまで届く事はないに違いない。
とすると、当日はじっくりとブージェを観察できるという事だ。
不謹慎かも知れないが、ちょっと楽しみだというのがあなたの正直な気持ちである。あなたはまだブージェを近くで見た経験がない。岩礁の上に居る個体を遠目に発見した事はあるものの、それはほんの豆粒ほどの姿でしかなく、見た内には入らないだろう。
そして、街の近隣にブージェがやってきた時は子供は避難させられる。対処、つまりは狩猟が完了したならば解体も流れでそのまま行われるため、街の中では肉や毛皮としての姿しか確認できない。
あなたが知るブージェの情報といえば……。
鋭い角を持つ事。毛皮の色は濃茶色から淡灰色までばらつきがある事。骨や内臓まで余すことなく利用されている事。肉は大変に精がつくらしく、漁師の男が優先的に食べるために女子供にはほとんど回ってこない事。沖合の小島を根城とするらしい事。
このくらいだ。つまり実際、ほとんど何も知らないに等しい。
大きさや数、動きの俊敏さ、どのように鳴くのか、知能のほどは。
そういった知識の空白を埋める事に、あなたは喜びを見出す性質のようだ。前世でも史料館や博物館に訪れる機会があれば、展示の解説をしげしげと読みふけったものである。
順当に育てば女であるあなたが漁に出る機会は無いだろう事を鑑みれば、ブージェを観察できる最初で最後のタイミングであるかも知れない。ヤレカの協力のもとで隠れて沖合に観察に向かうなどすれば話は別だろうが。
この機を逃すなど考えられない。イシャバには神妙な顔を見せつつ、内心ワクワクと浮き足立つあなたであった。
……幼少期に似たようなテンションで行動した結果、散々な失敗をした記憶があなたにはあるが、あの時は自分ひとりだけで前のめりだったのが原因でもある。ランバ達に守られての後方からの観察ならば話も変わってくるはずだ。
さて、儀礼の日、ブージェの季が始まるまではもう少し時間がある。まだルワ・ザンガラはニンバルの季の中だ。
この余白を利用して、あなたはブージェについて下調べする事とした。
実際に本物を見なくともわかる事はいくらかはあるだろう。人伝に聞く、史料を探る、標本や剥製を見るなどだ。
このうち簡単そうなのは当然ひとつ目だ。何しろ実際に戦っている者が何人も屋敷にいるのである。彼らからちょいと聞き出せば良い。
というわけで、ある日の朝の漁の後、いつものように広間で休んでいたイシャバを捕まえて質問を投げてみる。
が。
「ははは、気持ちはわかるぞ。気になるよなぁ、俺もそうだった。だがな、良く知らずのままに初めて見るからこそ走る衝撃ってもんもある」
イシャバは太く毛だらけの腕を組んで、うんうんとあなたに理解を示しつつも、口を閉ざした。
「そしてその衝撃こそが正しい形の恐れを生み、俺たちの戦いへの正しい理解を作る。よって教えちゃやれん。伝統でもそうなっている」
これにはあなたもぐぬぬと唸る。
安牌と思っていた初手での躓きに、あなたは諦めきれずに追いすがった。床に敷かれた毛皮の上であぐらを組むイシャバの背中に周り、他の部位同様とにかく筋肉で分厚い肩に手を添える。
そして、グッグッと指先で力いっぱい押し込みながら、そこをなんとかと頼み込んでみた。
イシャバが伝統を語るなら、こちらも実に伝統的な、肩を揉みながらの愛娘のおねだりである。……愛娘、と自称する事が許される程度には、目をかけられている自覚があなたにもあった。
| ランダム分岐/イシャバへの聴取 |
| 諜報技能か社交技能で判定
あなたの社交技能 レベル2 情報セキュリティ レベル2 成功率50%
1〜5で失敗 6〜10で成功
1d10=8 |
「んー? いやいや、こんな事で俺は口を割らんぞ」
イシャバはそう言うものの、明らかに声色は柔らかいものに変わりつつあった。組まれた腕がほどかれ、手のひらが膝の上に移る。珍しい娘の肩揉みを楽しもうという体勢だ。
もしやこれは行けるのでは。そう手応えを感じたあなたは、イシャバの肩をほぐす指により力をこめ、聞いた。
ブージェはどのくらい大きいのか。
「いやぁ、言わん言わん」
群れを作るのか、作るならどんな規模か。
「わはは、無駄だぞぉ。おっ、そこもうちょい強く揉んでくれ」
どれほどの速さで動くのか。
「それはお前が儀礼の日にその目で確かめる事だ」
あなたは再度ぐぬぬと唸る。
ごく基礎的な事柄すらイシャバは話そうとせず、情報を漏らしてくれない。普段から食わせてもらっている恩があるため、肩の揉み損とまで言う気はないが、ガックリとくる気持ちは抑えきれない。
それでも最後にもうひとつくらいと、あなたは聞いた。
やはり脅威なのは鋭い角なのか。
「ふぅ……。いやぁ、あんなものはオマケの飾りのようなもんだ。ブージェの恐ろしさはまとった肉と、2本の腕にある」
すると、意外にもこれに答えが返った。
懐柔が上手くいった……というよりも、情けをかけてくれたという印象ではある。それでも情報は情報だ。あなたは心して耳を傾ける。
「ブージェの毛皮と脂肪は槍をまともに通さん。下手に突けば跳ね返されて、その隙を腕で叩き潰される。そうなりゃまず助からんな」
その守りさえなければ、ブージェとの戦いで死ぬ者は大きく減るだろうにとイシャバは言う。
あなたの脳裏で、ブージェの基本的な姿はトドとなった。分厚い脂肪をたくわえる海獣といえば、という連想である。
ただ、そこから腕が恐ろしいという情報が上手く繋がらない。海獣といえば前脚はヒレになっている印象があなたにはある。オットセイでもアシカでも、トドでもだ。
ラッコあたりは貝を掴んで叩き合わせるなど器用な手を持つが、そちらのイメージは可愛らしすぎて話とは合致しない。
よって、より詳しくと望んだものの。
「ははは、残念だがここまでだ。お前ばかりに甘くしちゃあ他の子らに示しがつかん」
イシャバの口は再び固くなった。あなたの手をやんわりと肩から外させ、横になって昼寝の姿勢になる。わかりやすく、話はここまでと断ち切る形だ。
こうなっては彼からこれ以上を聞くのは無理だろう。あなたはわずかばかりの情報の礼を言い、渋々とその場を立ち去った。
その後の情報収集も、結果はかんばしくなかった。
「んー……! 教えてやってもいいだろって気持ちもあんだけどなぁ。すまん、俺が言ったってバレたらぶっちゃけ怖い。こないだゲンコツ食らったばっかなんだよな。流石にしばらくはごめんだ」
最も口の軽そうなルワンジでこれであり。
「……親方が話して良いと言ったなら話す。そうでないならダメだ。すまんな」
他の男衆を経由して全滅した後、ダメ元で最も口の固そうなランバに尋ねれば案の定で終わる。
どうやら屋敷内でブージェの情報を集めるのは無理そうだ。
これはどうしたものか。そう悩むあなたの元へ、こっそりと耳打ちする者があった。
「ねーちゃん聞いたぜ。ブージェ、調べてるんだろ? ……俺もなんだよな」
あなたの義弟、マランだ。
あなた同様スクスク育ち、今や筋肉の量ではすっかりあなたを越した彼もまた、今年の儀礼に参加する子供のひとりである。そして、やはりそこで対峙する事になるブージェの詳細が気になるのは同じようだ。
中庭の井戸の影でこそこそと、割れた腹筋や盛り上がった腕や脚の筋肉のたくましさとは不釣り合いな、当たり前の子供っぽさを残した仕草であなたに言う。
「街の真ん中の市場、あるだろ。あそこにブージェの骨あるらしいぜ……!」
その言葉に、あなたは思わず目を見開いていた。
前世で訪れた博物館、そこで見た数々の骨格標本が思い浮かぶ。特に印象的だったのは、吊るされて宙を泳ぐように展示されていたシャチのもの。その骨の太さや形の凶悪さ、そして何より全体の大きさは当時のあなたを圧倒し、絶対に海の中でこんな化け物に出会いたくないと思ったほどだ。
あのリアルな体験を味わえるかも知れない。そう思えばあなたの心にエンジンがかかる。
有益な情報に感謝し、あなたはマランへと拳を突き出した。
「へへ、いいってことよ。代わりにマジであったかとか、市場のどこにあったかとか教えてくれよな」
マランもまたあなたの拳に拳を突き合わせ、コンと小さな音を響かせてから男衆の手伝いに向かった。
彼は次期期待の新人として、イシャバをはじめとした漁師達に特に目をかけられている。最近は忙しく網の修繕などの基礎教育を叩き込まれており、その合間を縫ってきてくれた事にあなたは改めて感謝するのだった。
そして、マランから話を聞いたその日のうちに、あなたは早速市場を訪ねていた。
善は急げ、という言葉にあやかったわけではない。単にじっとしていられなかっただけである。あなたの好奇心と知識欲は、坂と階段だらけの街を早足で登らせるには十分な強さをしていた。
「はいよ、これがブージェの骨さ。……イシャバには、あたしが教えたなんて言わないでおくれよ?」
のだが。こちらで、またもあなたの期待は裏切られた。
昔にメナの話を聞かせてくれた、海鮮のごった煮を売る店の中年女が、やや笑いを含ませた冗談めいた口調であなたの前に骨を並べる。それはほんのいくつかの、数本ばかりの骨だった。
冷静に考えれば、市場に骨格標本が飾られているわけもない。
単に、解体された後におすそ分けとして市場に持ち込まれ消費された肉についていた骨の一部、という程度だったらしい。
「たまーにいるのよねぇ、頭の骨が見れるとか、腕一本まるまる見れるとか勘違いしちゃう子がさ」
店の女は実におかしそうにカラカラ笑う。もしあなたが「実はそれどころか全身標本を期待していた」などと告げれば転げて笑い死にしかねない有り様だった。
まぁ、とはいえ骨は骨だ。間違いなくブージェの物と保証されている以上、観察にもいくらかの意味はあるだろう。
| ランダム分岐/骨の観察 |
| 鑑定技能で判定
あなたの鑑定技能 レベル4 情報セキュリティ レベル0 成功率90%
1で失敗 2〜10で成功
1d10=8 |
そうして見てみれば、まず真っ先に目につくのは太さだ。
恐ろしく太い。形状からしてどれも肋骨のようだが、中にはあなたの手首に近い太さの物もある。骨のうち最も太い部分、かつあなたが少女である事を考慮しても驚きだ。
また、あなたは骨密度の異様な高さも見逃さなかった。
持てばずしりと重く、骨同士を軽く叩き合わせてみると低く詰まった音が響く。硬度はかなり高そうだ。こうして骨だけになった今ですら、あなたの手だけで壊すのは難しく感じる。少なくとも何か工具のような物は必要だろう。
そういえば、とあなたは自身の愛用しているクシを思い出す。あれもまた海獣の骨から作られていたはずだ。幼少期から使っているにもかかわらずまだほとんど欠けもなく妙に頑丈だったが、大元の骨を見てみればなるほどと納得しかない。
そして、サイズからするとかなりの大型の獣であると予想がつく。それこそ本当にシャチやトドのレベルのサイズ感だ。人間よりも遥かに大きいとはハッキリわかる。
これが並ぶ胴体を、骨の守りを抜いて内臓まで傷付けるのは容易ではないとあなたは確信した。毛皮と脂肪を加算すればなおさらだ。それこそ、銃と遜色ないとあなたに思わせた投擲の魔法でも練度次第では足りない可能性も高そうに思える。
女に礼を言って骨を返却し、あなたは感嘆のため息を漏らす。
すでに話ぶりから分かっていた事だが、ブージェはやはり恐ろしい海獣のようだ。肉体と魔法の両面で高い戦闘能力を持つはずの漁師達をして時に命を落とさせるだけの、怪物と呼ぶに足る生き物に違いない。
さて、こうして骨の観察を終えたところで、あなたは行き詰まった。
残念ながら今のところ、次の情報の手がかりはない。どうしたものだろうか。
確実な情報を求めるなら、ヤレカに頼んでみる手はある。彼女の能力を考えれば、監視の目をかいくぐってブージェの元まであなたを運び、そして無傷で連れ帰る事は叶うはずだ。
……ただ、そこまでするならもう当日見るので良くはないか、というのもある。初見こそが衝撃が最大化されるというイシャバの言葉は至極もっともであるのだ。
他に希望があるとすれば、領主の館だろうか。
以前あなたは街の歴史を知るには領主を訊ねれば良いと聞いた事がある。そして街の歴史とはつまり、戦いの歴史でもある。そこに、ブージェとの縄張り争いについても記録されている可能性はありそうだ。
また、今回見れなかった骨格標本や、あるいは剥製。そういった物がもしどこかに保管されているとすれば、それもやはり領主の館が一番怪しい。
あとは、骨を廃棄している場所を探す手もある。
加工しやすい腕や肋骨などと異なり、頭骨は形状からして捨てられる場合もあるのではないだろうか。そういったものを集積する場所を探し出し、漁れば、頭の形や牙の鋭さを知る事が出来るかも知れない。
さてブージェ関連では何度目になるか。あなたはまたもむむむと唸り、腕を組んで考えた。
コマンド?
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ヤレカに沖合まで連れ出してもらう
-
ヤレカに観察してきてもらい話を聞く
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領主の館を訪ねる
-
骨の廃棄場所を探す
-
儀礼当日に見る事にして下調べを終える