一般通過異世界転生者:あなた   作:ID:Am88n712

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一般的な異世界転生 少年期編 7

 

 マイアの提案に、あなたは少し考えた後……。

 

 

選択肢分岐

マイアと友達になる

 

 

 首を縦に振り、肯定を返した。

 

「まあ……!」

 

 するとマイアは跳ねるように身を起こし、顔をパァッと輝かせ、思わずといった風に胸を抑える。おそらくは作られたものとわかっていても、自分の返事にこうも喜びをあらわにされてはプラスの感情を抑えるのは難しい。

 

「ふふ、私は?」

 

「もちろん、望んでくださるのならヤレカさんも! なんて日でしょう、まさかお友達が、一度にふたりも出来る日が来るなんて!」

 

 あなたの背からニュッと顔を覗かせたヤレカもまた、あなたと同様の選択をした。マイアの目的が実子のあなただったとして、この場面であなたの義妹にして明らかに非常に仲の良いヤレカだけを断るわけもない。

 

 あなた達3人は、公的な立場はともかく、私的な関係としては対等な友人同士という事になった。少なくとも名目上は。

 

 あなたはそっとヤレカに振り返り、視線で感謝を伝えた。

 

 これで、もし万一マイアが友人の立場からあなたを利用したり、難しい頼み事をするなどの事があったとして、その場には決してあなたを裏切らないヤレカが同席しても不自然はないという事になる。割とどころではなく無法な能力を持つヤレカがついていてくれれば、この付き合いによる多少のデメリットを踏み倒すのは難しくないはずだ。

 

 

 

 いや、そもそも、とあなたは少しだけ自嘲した。

 

 あなたは単に漁師の頭領にして街の有力者であるイシャバの、長女だというだけだ。あなた個人が何かしらの飛び抜けた能力や権限を持っているわけでもなく、利用価値が高いかと言われると疑問の残るところでもある。

 

 案外、マイアは本当にただ友達を欲していただけ、などという事もあるかも知れない。それならばあなたは自意識過剰な人間という事になってしまう。

 

 

 

 貴族という相手の身分にとらわれて考えすぎている可能性は十分ある。

 

 あなたは偏見かも知れない自身の思考を頭の隅に追いやって、マイアと友好の握手を交わした。手を握る行為は、ここルワ・ザンガラでも前世と変わらず好意を示すものである。

 

「ふふ。はい、私もー」

 

「はいっ! ……えっ、あら?」

 

 そこにヤレカが割り込み、マイアは右手であなたと、左手でヤレカと同時に握手をすることとなる。

 

「こうなればこっちもだよね?」

 

 さらに、ヤレカはあなたへ空いている右手を差し出した。たまにある悪ふざけだなと当然わかるあなたは、その手を左手で握る。

 

「え、え……? あの、これは一体?」

 

「お友達の握手、かな?」

 

「何故ヤレカさんまで疑問形なのです……?」

 

 昼の陽光が照らす四阿(あずまや)にて、あなた達の6本の腕は見事にこんがらがった。相変わらず何を考えているのかよくわからないヤレカの、よくわからない行いは、あなた達の間によくわからない微妙な空気を生む。

 

 かなり真剣に首を傾げるマイアの困惑は、こればかりはどうやら作られたものではなさそうだった。

 

 

 


 

 

 

 それからしばしの歓談の後。

 

「……ヤレカさんに真面目に付き合うとこちらが損をするばかりというのはよーくわかりましたっ」

 

 あなたとヤレカは、マイア(とそのお付き。彼女は出来る使用人らしく完全な空気に徹している)に案内され、砦の中を歩いていた。

 

 先導するマイアはプリプリと見た目わかりやすく怒り、ヤレカに抗議している。あの握手の後も、談話の中で散々にからかわれ、もてあそばれたためだ。

 

 もちろん悪意でおとしめるようなものではなく、友人同士ならじゃれ合いとして当たり前に許される可愛らしいもの。とはいえ今日が初対面の、それも貴族相手にやる事としてはかなり踏み入った事だろう。

 

 実際、あなたもそれなりにハラハラとして、時にフォローに回りもしたのだが。

 

 

 

「ふふ、ごめんね。屋敷の子達と反応が全然違うから面白くって」

 

「もうっ、なんですかそれ……ですが、まぁ」

 

 マイアは口元にたおやかに曲げた指を当てて、くすっと笑った。

 

「……お友達って、本当にこういうものなんですね。本で読んで憧れていた、そのままでした。ありがとうございます。私、今日だけでもうおふたりが大好きになってしまったかも知れません」

 

 マイアがこう言う以上、彼女にとって悪い事ではなかったのだろう。その言葉に本心が含まれていたのならもちろんであるし、例え演技だったとしても、無礼を感じてやめさせようとする気配はない。

 

 

 

 さて、あなた達の目的地はもちろん、ブージェの剥製が置かれた部屋だ。

 

 マイアが言うには、それは正式な応接室の隣にあるらしい。

 

「時折やって来られるお父様(領主)の新しいご友人や、寄親の……ええと、当家のさらに上の立場、ジェウェス城爵家を監督する家から来られる遣いの方に、ルワ・ザンガラの独特な文化をご紹介する際に使用する部屋なのです」

 

 彼女が言うにはそういう事らしかった。

 

 ルワ・ザンガラの領主を、さらに監督する立場の貴族がいる事も初耳であった。てっきり国王などから直接統治を任されているのかと、とまで考えてあなたは今自覚したのだが、そもそもあなたは自身が暮らす国の名前すら知らない。

 

 ルワ・ザンガラで暮らす中では、ルワ・ザンガラ以外の情報が必要となる場面はほとんどない。せいぜいが商人が荷を運んでくる寂れた街道の先にある隣街の名前程度のものだし、それも世間話の中でちょっと顔を出すぐらいだ。

 

 

 

 そんなあなたの自身に対する無知の気付きを目にしてか、マイアはジェウェス城爵家に関する自己紹介を改めてする気になったようだ。

 

「ディア」

 

 マイアがそう声を発すると、先頭を歩いていたお付きの使用人が立ち止まり、無言でマイアの隣に移動した。どうやら使用人の女性の名前らしい。

 

 それから、服の収納部分(スカートの前に垂れたエプロンの裏に大きなポケットがあるようだ)から薄茶色のハンカチを取り出し、広げる。

 

Lth(軌跡) Auf(変異) Rel()

 

 そして、そのハンカチに指先を滑らせる。指先が触れた部分は微弱な白い光を放ち、図形を形作った。

 

 どうやら光で文字や絵を描ける魔法らしい。魔法はずっと残るものではないため書類などには使えないだろうが、ちょっとした間に合わせには十分だ。なかなか便利そうだなと、あなたは使用人が唱えた呪文の発音を頭の中で何度か反復した。

 

 

 

 描かれた図形は、どことなく猫に似ていた。

 

 より詳細に言うなら、左に鼻先を向けて地面に横になり、片足を左下へぽーんと投げ出した猫の上半身だ。胴はハンカチの端で途切れており、足の先がハンカチ中央に鎮座している。

 

「簡易的なものですが、これはこの辺りの地図だと思ってください。線の内側は陸地で、外が海です」

 

 マイアはそう言って、猫の手、その先端を指で示した。

 

「私達の居るルワ・ザンガラはここ、全長124ジール(約50キロメートル)の細長いタンバシャ半島の先端に位置します」

 

 次に、そこから指を動かし、猫の上半身全体を丸で囲って言う。

 

「そして、半島を含む近隣一帯を束ねるのはアンデル伯爵家。領の中心となる都市、最も大きな街は……」

 

 滑った指は猫の首元、首輪がついていれば鈴がありそうなあたりに着地する。

 

「ここ。ロス・アンデルとなります。伯爵家の方々は、ここから地域全体を統括しておられます」

 

 

 

 マイアはそこで小さく一息をついた。

 

 あなたの理解度を気にしてか、チラリと目を覗き込んでくる。あなたはそれに、理解が及んでいると頷いて示した。

 

 教育を受けていない者にはこれでも難しいかも知れないが、あなたには前世で小中高と通った経験がある。地図を見て土地の名を覚えるのは当時に散々やった事だ。ついていけないなどあるわけもない。

 

 むしろ、あなたは「この世界って伯爵とかあったんだなぁ」などと考えていた。

 

 文明感が非常に乏しい自身や周囲の格好から、もっと全体的に蛮族的な地方という認識すらしていたのだ。国名を知らなかったのはそのためでもある。国という枠組みにはないかも知れない、とさえ無意識に考えていたのだろう。

 

 

 

「全体を統治していると言っても、直接的に伯爵家の方々が領地全体を巡って歩くような事はしません。それでは非効率的すぎますから。土地をいくつかに分けて、代わりに管理を行う役人や、寄子と呼ばれる部下の貴族に一部を任せて間接的な統治を行っているのです」

 

 頭領であるイシャバ様を伯爵家とすると、副頭領が代官や寄子になりますね、とマイアは例えを用いて補足した。

 

「私共、ルウェイン・ジェウェス(ジェウェス城爵家)も、この寄子のひとつです」

 

 そうして、話はそこに戻ってきた。

 

ルウェイン(城爵)とは古くから、ひとつの城や砦を領地として任じられた貴族に与えられる号ですね。ルワ・ザンガラはまさしく砦ですから」

 

 なるほどなぁとあなたは理解した。そういう構造であるらしい。伯爵の部下という事は、おそらく前世で言う子爵か男爵に相当するのだろう。

 

「そしてここ、ルワ・ザンガラは他の地域とは文化形態が大きく異なるのです。ぽつりと浮いている、大きな島からちょっと飛び出した離れ小島と言いますか。ですので、外から来られる方にはまずこの土地の簡易的な紹介が必要になるのです。そうしなければ街を歩くだけでも大変に困惑してしまわれる方がほとんどですから……」

 

 マイアの視線があなたの服装に向く。

 

 ……あなたはここに来て、この胸帯と腰巻のみといういでたちはこの世界でも異端なのだなと静かに理解した。ルワ・ザンガラでは普通の事だったために一般的と自分に言い聞かせてきたが、どうもそうではない雰囲気が濃厚だ。

 

 考えてみればそれはそうである。よその街から来た冒険者組合のガドや、目の前のマイアやその使用人は普通に肌を隠す服を着ているのだから。そういった服装はよそでは当たり前に出回り、むしろメジャーであるのだろう。

 

 もっとも、今後もこの街だけで暮らすのなら関係ない情報ではあろうが。

 

 

 

 

 

 余談はそこまでで終わり、あなた達は応接室横、史料展示室に到着した。

 

 他の貴族関係者に見せるための物であるという言葉の意味を、あなたはそこで再度理解する。展示室は、まさに「展示」を重視した部屋だった。

 

 ただ史料を保管するのではなく、実物のサンプルを見せて解説を行う、という部分に特化している。求められる機能は前世の博物館と全く同じで、効率を求めれば似た形に行き着くのか、構造も近い。

 

「雰囲気あるねー」

 

「あっ、ヤレカさんもそう思われますか? 実は私もこの部屋が好きで、暇が出来るとついここで過ごしてしまうんです」

 

 物品の劣化防止のためだろう、窓がなく真っ暗な部屋の中を、各所に設置された魔法の灯りを使用人が灯して先導する。

 

 ひとつ灯すごとに、街の歴史や文化がひとつ提示される。それは各展示品に意識を集中させてくれる上に、ライトアップの効果で部屋全体をどこか神秘的なものに見せていた。

 

 計算されているなら大したものだとあなたは感嘆し、進むごとに高なる胸を自覚する。

 

 展示品に付属している説明書きを解読できないのが残念である。もし文字を習っていたのなら、あなたはこの部屋でひとり、朝から晩までを楽しく過ごせたに違いない。

 

 正直な話、こんな展示室がある砦に暮らしているマイアが今ばかりは羨ましかった。つい入り浸ってしまうという言葉にも納得しかない。

 

 

 

 あなた達は歩みを進め、展示室の一番奥、突き当たりまでを進んだ。

 

 道中の解説は、今回はない。ブージェを見せてくれるというだけで頼み事をひとつ聞いてもらっているのだ。それも横紙破りの形で。この上、やっぱり気になるから全て解説してくれとまで頼み込めるほど、あなたは自分勝手ではない。

 

 

 

「こちらに、ご希望のブージェの剥製が展示してあります。ディア、よろしく」

 

 マイアの指示に、使用人はやはり黙って従うと、展示台を囲う4つの灯りを灯した。

 

 

 

 そうして現れた威容に、あなたは思わず息を呑んだ。

 

 まずはその大きさに。そして次に、姿に。

 

「私の倍くらい、かな?」

 

 ヤレカはそう言い、自身の頭に手を当てながら海獣の剥製を見上げた。なるほど、確かに倍である。

 

 ()()()()()()()()()

 

 四肢をついた状態で、地面から頭までがおよそ3メートル近く。そしてブージェが大きいのは縦にだけでなく、横にもだ。むしろそちらの方が大きく、優に4メートルはあるだろう。重量で言うならば、明らかにキログラムではなく、トンで語るべき生物だ。

 

 端的に言うと……小さめのゾウといったサイズ感である。

 

 

 

 ただし、外見はゾウのように愛らしさのあるものではない。

 

 顔面は海獣らしくトドに似ていたが、大きく開かれた口腔にズラリと並ぶ鋭い牙は大型のネコ科を思わせる。口を閉じたとしても口唇からはみ出るだろう巨大な犬歯にいたっては、歯並びからサーベルタイガーか、それとも顔の作りからセイウチか……どちらを連想するにせよ、噛みつかれればひとたまりもない事だけは理解できる。

 

 そんな顔から目線を下ろすと、そこにあるのはたっぷりと脂肪をたくわえた胴体と、そして異質な前脚だ。

 

 それはどう見てもヒレではなかった。

 

「……首から下はカバだね。腕がやたら長いけど」

 

 ヤレカの耳打ちは正しい。ブージェの前脚は、脚ではなくもはや腕だった。ずんぐりとした胴体から、同じくむっくりとして伸びる腕は、カバのそれを人の腕のように延長したものと言えば近そうだ。

 

 違いは指が長く、水かきが張っている事と、かぎ爪がある事だろう。

 

 剥製となったブージェは、その太い腕で上半身を持ち上げ支える形で展示されている。

 

 前世の海獣を見慣れているあなたにとって、これは全く異形だった。眺めているとどこか収まりの悪さ、気味悪さが勝り、落ち着かない気持ちになる。

 

 後ろに回って見た後肢は、幸いにもあなたの許容範囲だった。こちらもヒレではなくカバの脚に近いが、カバ同様に短いおかげで違和感が少ない。

 

 また、手足がヒレでない分は尻尾で補っているようだ。尻の先から長く伸びた尾は平たく広がっており、十分に泳ぎの補助になるだろう機能性を感じさせる。

 

 

 

 あなたは、前世でシャチの骨格標本を眺めた際の感慨を再び思い出していた。

 

 つまり、こんな化け物と海の中で出くわすのはごめんだ、というものである。

 

 もしどうしてもこれと戦う必要があるのなら、まかり間違っても絶対に接近戦だけは挑まないでおこうとあなたは決意した。どう考えても力負けして圧倒され、瞬く間に叩き潰される未来しか見えない。多少の技術があったところで、このサイズ差を覆せる気はしなかった。

 

 陸上で、自由に逃げ回れる状態で、かつ彼我の距離が十分以上に離れている。

 

 勝とうと思うならそれが最低限の必須条件だ。その上で投擲の魔法を全力で繰り返し行使し、ダメージを蓄積させての粘り勝ちだけが勝ち筋だろう。もちろん、途中で相手が海中に逃げたなら勝利も何もない。

 

 

 

 こんなものとの戦いに子供を参加させる気なのか。

 

 あなたは自身の父の正気を疑い、思わずそんな呟きをこぼす。

 

 すると。

 

「くす、ふふっ、やっぱり、そちらに目を取られますよね」

 

 ブージェの観察をするあなたを眺めていたマイアが、くすくすと笑いを漏らしていた。おかしそうに目を細め、実に令嬢らしい仕草で口元を片手で隠している。

 

「すみません、ここに初めて来る方は皆さんそうですし……実は私もでしたから、なんだかおかしくって。ご安心ください。イシャバ様はそのような無体は流石にされません。臨戦の儀で子供が戦う事になるのは、そちらの……」

 

 そうして、指ではなく手のひらで指し示す。

 

「巨大なオスではなく、小さなメスのブージェです」

 

 

 

 言われてあなたが目を落とせば、先ほど見た巨体の足元に何かの影がある。照明がオスをメインに照らしているために気付きにくかったが、3体の海獣だ。

 

 マイアの言葉によれば、巨体がオス、そして足元の3体がメスなのだろう。ブージェはどうやら、雌雄で姿が大きく異なる動物であるらしい。

 

 観察してみれば、なるほどそういえば、とあなたは思い出す。

 

 ブージェには鋭い角があるはずだが、オスには牙と爪はあっても角はない。角はメスのみの特徴のようで、足元の個体には確かにあなたも幼少の頃に振り回したものと同じ角が額の中央から生えていた。

 

 

 

 差異は胴と四肢にもある。

 

 メスの手足はあなたも見慣れた形で、海獣らしい大きなヒレとなっている。全体的なシルエットもだ。カバ感のあるオスと全く異なり、アシカやオットセイに突然変異で角が生えたと言われれば納得しそうだ。

 

 

 

 そして何より、最大の違いは大きさだろう。

 

 メスのブージェは小さく、少女であるあなたと同等のサイズしかない。流線型の体は海中での素早さこそありそうだが、オスと対峙するような絶望感は全く感じられなかった。

 

 海の中でならともかく、陸の上ならば特に問題なく勝利できるだろう。なんなら槍がなくとも、硬めの棒程度の道具でも事足りそうだ。

 

 もちろん、過去に話に聞いたような水中から飛び出しての刺突攻撃という奇襲さえかいくぐれたらの話だが。

 

 

 

「ふーん……陸で強いオスと、海で強いメスっていう分担なのかな?」

 

「ええ、まさしく。過去に調査に当たった記録によれば、普段の狩りはメスに任せ、オスは陸で休むメスを守る、そんな生態であるようです」

 

 最後におおまかな総括をヤレカとマイアが語る。

 

 新たに得た知識に、あなたは大きく満足して何度も頷いた。現状でこれ以上の情報は望むべくもなく、また望む意味もなさそうだ。事前調査はこれで切り上げるのが良いだろう。

 

 

 

 あなたはマイアに向き合い、心からの感謝を込めて礼を伝えた。

 

「はい、どういたしまして。ですがどうかお気になさらず。お友達のためですもの。このくらいはなんて事ありません」

 

 マイアは口ではそう言いつつも、心なしか胸を張ってみせた。

 

 その誇らしげな様子は、数多の展示品を財として所蔵する貴族としてではなく、歴史を伝える者としての矜持のように感じられた。他に演技があったとしても、この部分にだけは嘘はないのではないか、とも。

 

 

 


 

 

 

「どうか、幾重にもお気をつけて。折角出来たお友達に怪我などあれば、私はどうにかなってしまいそうです」

 

 その後、剥製閲覧のお礼にとマイアの望みに応え、再度少しの歓談を経てから、あなた達は砦を出た。

 

 行きと同じく魔法でかけられた石橋の上で、マイアはあなたを見送る。両手であなたの手を握り、上目遣いに心配をたっぷりトッピングして。

 

「ヤレカさんもですよ。ザンガラ(岩礁)の上では決して今日のような悪ふざけはされませんように」

 

「はーい」

 

「ちゃんと聞いているんですか? もう……」

 

 もちろんヤレカ相手にも。ただししっかりと心配を受け止めたあなたと違い、ヤレカの返事はボンヤリしていた。

 

 それでも、苦笑するマイアの目には悪感情は見えない。案外と、相性は悪くないふたりなのかも知れなかった。

 

 

 

 そんな風にしてあなたはマイアと別れ、家路につく。

 

 入り組んだ坂と階段を下り、グネグネとした路地を曲がる。まっすぐな道というものに縁のないルワ・ザンガラでの道行きは、直線距離での計算などまるで意味を持たない。

 

「ちょっと長居しすぎたね。少し走ろっか」

 

 言われて、あなたも同意する。

 

 少しばかりゆっくりと時間を使いすぎたようだ。すでに太陽は傾きかけ、空と海が赤く染まり始めるまでそう長くはかからないだろう。

 

 屋敷ではもう夕食の準備に取り掛かっている頃かも知れない。もしイシャバよりも後に広間に到着してしまうような事があれば、メナからのお説教はまず避けられない。

 

 

 

 足音はペースを早めて、夕暮れ迫る街を通り過ぎていく。

 

 それがあんまりに軽いものだから、あなたははて、と自分に問いかけて、そして気付く。

 

 

 

 ヤレカは従者であり、屋敷の大人はあなたの保護者であり、弟妹は庇護すべき家族である。これまであなたの周囲に居た者は明確にあなたの上か下かに別れていたのだ。

 

 相手が何を考えているのか。本当に仲良く出来るのか。そんな風に頭を回して付き合う……気を使う必要がある対等な相手というのは、今世において初めてである。

 

 つまり、なんのことはない。

 

 あなたにとっても、マイアは最初の友人となったわけだ。

 

 

 

 自覚はあなたの足をさらに早めさせた。

 

「ふふ、競走でもしてみる?」

 

 楽しそうなあなたの様子に同期して楽しそうにするヤレカ。どう考えても勝ち目のない戦いに、あなたはあえて乗る事とした。

 

 何故といえばもちろん、盛り上がったテンションの命じるままにだ。

 

 

 

 マイアに悪意がない事はヤレカが保証してくれている。ならば先を期待しても目がないわけではないだろう。

 

 打算から始まって輝かしい友情に至る話など、世間のそこら中にきっと溢れている。

 

 そうなるだろうか、と考えてもわかりはしない。

 

 けれど、そうなれば良いなと思える程度には、これはあなたにとって良い出会いだったに違いなかった。

 





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