一般通過異世界転生者:あなた 作:ID:Am88n712
初めて踏み出した街の外。出来そうな事は色々とあった。
例えば、とあなたは歩む自身の足元を見る。
そこにはごく小さな黒い生き物が列をなしていた。前世でも見慣れた虫、アリである。街中でも時折見かける事はあったが、この異世界においても彼らは変わらず暮らしている。
彼らを追うのも悪くないだろう。
長い列を作るアリは、良く見れば何かを運んでいる。それは他の生き物の一部であったり、枯れた植物のカケラであったりする。どこから採取してどこへ運ぶのかを眺めるだけでも、面白い時間になりそうだ。
彼らの見た目は前世のアリに良く似るが、実際の生態も同じなのかはあなたも興味をそそられるところであるし、彼らを主食とする他の生物に出会える可能性もある。
生物といえば、と、あなたは今度は遠くまでをグルリと見渡す。
街で流通する肉と言えば、最多はもちろん魚肉だ。あなたが日々女衆と共に捌いている魚はルワ・ザンガラに暮らす人々の命を支える、最も大きな柱である。
それに次ぐのは、ブージェをはじめとした何種類かの海獣の肉だ。こちらは魚と比べると量はかなり減り、そうそう口に出来る機会はない珍味とされている。
そして、その珍味からすら大きく差をつけられて流通量最下位に位置しているのが、とあるトカゲの肉だ。
半島全体に広く分布しているという大型の(トカゲとしては比較的大きな、という意味。人間よりはかなり小さい)種類で、鋭い牙を持つ獰猛な肉食なのだという。
その肉は、あなたは味わった経験がないがサッパリとしていて、飛び抜けた美味ではないが食べやすく、様々な調理法に適合するらしい。
ただ、食肉というよりも薬としての面が強いそうだ。一種の精力剤になるのだとか。大きな危険が予想される漁に向かう時や、あとはまぁ子作りが上手くいかない場合に頼られる。あなたの屋敷でも、ガウィルが生まれる前は時折トカゲの燻製肉が厨房の隅に吊られているのを見かける事があった。
そんな大トカゲはそもそも数が少ないと聞くので発見は容易ではなさそうだが、狩猟を狙ってみるのも良いかも知れない。きっと良い経験になるだろう。
他には、とあなたは今度は進む道から横に視線をやる。
半島は、当然だがずっと同じ幅というわけでもない。広いところもあれば狭いところもあり、中には道から少し行った程度のところまで崖が迫る箇所もある。
そういったところの中には、海に降りられる部分も中にはありそうだ。
岩礁帯は半島の先端、ルワ・ザンガラ周辺から広がっている。それよりも内陸寄りのこの辺りには存在しない。
水底の地形が違うなら、必然的に海の様相も違ってくる。波の起こり方も、水の中に暮らす者たちも、あなたが普段接しているものとは異なっているだろう。
それらを眺め、あるいは思い切って潜り泳いでみるのも楽しいひと時になりそうだ。
はたまた、洞窟探しなどもロマンがあるかも知れない。波を打ち消す岩礁のない崖際には、もしかしたら海水の侵食で削られた大穴があったりするのではなかろうか。海辺の洞窟というのはフィクションではなんともありがちな存在で、あなたとしても心がウズウズと揺れるのを自覚する。
別の選択肢としては少し戻るのもありだろう。農業に飛び入りの手伝いという手だ。
ルワ・ザンガラの主要農産物(というかそれしかない)である穀物、イオはあなたが見た限り実りの時を迎えているようだ。ならば収穫に人手は欲しいだろう。素人であろうと歓迎される目算は高い。
楽しい経験になるかと言われると微妙だが、普段とは違う過ごし方である事だけは確かだ。
また、もしかすれば歳の近い者と交友を深められるかも知れないし、農民しか知らない噂話を耳に出来るかも知れない。休日にまで働くというのはなんだが、きっと想像よりも悪くない時間になる。
「ふふ。いいの?」
だが、あなたはそれらのどれも選ばなかった。
行かなくて良いのかというヤレカの問いに、あなたは明確に頷いて答える。そして、傍らの従者の手を握り、変わらず歩を進めた。
| 選択肢分岐 |
時間の許す限り道を進む |
遥か地平線の先まで、道は延々と続いている。
木々どころか草もろくにない不毛の大地が今はありがたい。波打つような起伏以外に視界を遮る要素のない半島の環境は、向かう先をあなたから隠さずにいてくれる。
そこを、ただ歩く。
あなたに必要なのはそれだけだった。余暇として与えられた時間が許す限り、ひたすら前へ。
多少冷静になったとて、あなたの心は未だ先ほどの体験が後を引いていた。自身と従者の力のみで空を駆け、果てのない地平を高みから見下ろした高揚はそうそう消えるものではない。
いや、下手をすればこの後何年が経とうとも明確に思い出せる瞬間として、あなたの中に刻まれたのかも知れなかった。
道の続く先は遠い。
雨上がりの薄曇り。常よりも陽射しが弱く、風にも涼しさが含まれている。おかげで歩くには随分と快適であなたの足を進ませるが、その程度では何も覆らないほどには半島は長い。
だがそれで良い。どこにも辿り着く必要はない。
空の上から見た、1日では到底踏破しきれない道のりが存在してくれている事実を、あなたは確かめたかっただけなのだ。人伝に聞き地図で見た知識としてではなく、己自身の目と足で得た経験として。
「〜♪」
そんな道行きにて、最も喜ばしいのは、あなたの中の深く大きな喜びに同調してくれる者が居る事だろう。
歩き続けたいというあなたの意思のその詳細を語るまでもなく無言のうちに読み取ってくれたヤレカは、ふんわり握り返したあなたの手を軽く振り回しつつ、鼻歌を歌ってご機嫌に歩いている。
曲は、この世界ではあなたとヤレカのふたりしか知らないものだ。前世では定番の、古い国民的なアニメ映画に使われた歌。散歩を楽しむ今のあなた達にはまさしくピッタリの選曲で、思わずつられたあなたはヤレカと一緒に歌い歩く事とした。
「ふふー♪」
あなたが乗ってきた事が嬉しいのだろう。
ヤレカは笑みを深くすると、手を握るだけでは飽き足らなくなったのか、あなたの腕に抱き着いてくる。
あなたとヤレカの体格にそう差はない。強いて言えばあなたの方が筋肉量が多めな分だけやや大きいが、それでも明確なほどではなかった。そんな相手に片腕を捕まえられ、あまつさえ肩に頬を擦り付けられては歩きにくさは当然に生まれる。
ただ、それよりもヤレカの低めの体温や、長い黒髪が肌を撫でる感触、ヒトの子供特有のスベスベとした柔らかさ、そして何より隠すつもりなど微塵もない明け透けな好意が生む心地良さの方が遥かに大きい。
元より、急ぐ旅でもない。
多少の歩きにくさはどうでも良い事だ。あなたはむしろ自分からもヤレカに体重のいくらかを預け、ふざけて押し合うようにして進んでいく。
朝と呼べる時間が終わる。
日は随分と登った。空からあなた達に注ぐ陽光の角度は確実に垂直に近付いていく。普段ならばそろそろ、昼の暑さに備えて屋内などの日陰に入り休息の準備をする頃だろう。
それでもあなたは歩く。
幸いにして、空はまだ薄曇りが続いていた。来る日も来る日も晴ればかり、たまの雨や曇りもすぐに終わるルワ・ザンガラでは珍しい事である。
おかげでさして汗もかかず疲労の度合いも弱い。あなたは天候と、自身の幸運に感謝した。
「あっ」
と、その途中ヤレカが小さく声を上げた。そして、指をとある方向に向けて示す。
あなた達の進行方向に対して右斜め前方に逸れた先、街道から少し外れる小さめの岩の上に、ずんぐりとした姿の生き物がいる。
目を凝らすと、それはどうやら亀だった。
一般にイメージされる平たい姿ではなく、箱型のゴツゴツした甲羅を背負っており、足もヒレ状ではなくしっかりとした四肢だ。リクガメである。
大きさは遠目のために分かりにくいが、少なくとも大きな種ではない。もしかすればあなたの手のひらに収まるほどではないだろうか。
そんな亀は、小さな頭をゆるりと動かしてあなた達を見やると、やれやれといった風情で岩を降りた。
そしてそのまま、背を向けてのそのそ進んでいく。進行方向はあなた達と同じだ。速度は意外と早く、あなたの歩みよりもやや遅い程度。あなた達を引き離す事は出来ず、かつ互いの距離はわずかずつしか縮まらない。
あなたとヤレカは思わず顔を見合わせ、牧歌的なひと時に笑みを交わした。どうやら少しの間、あなたの道行きには同行者が増えるようだ。
彼(?)からすれば外敵から距離を取ろうとしているだけなのだろうが、あなたから見れば微笑ましいばかりである。時折立ち止まっては振り返り、まだあなた達が居る事にうんざりとした様子で歩みを再開する様などは、ともすれば吹き出してしまいそうなコミカルさを伴っていた。
警戒させている事に罪悪感はありつつも、どうにも後についていくのをやめられない。そんなフワフワした心持ちで、あなたはヤレカと共に亀を追う。
昼に至り、陽射しは頭の真上から注ぐようになった。
その頃には、残念ながらもう亀はいない。どれだけ歩こうともあなたを引き離せない事に気付いたのか、亀は途中で立ち止まり、甲羅の中に頭も手足も引っ込めて座り込んでしまったのだ。
そうなればもう仕方ない。あなたは散歩に彩りを添えてくれた小動物に感謝して、四角い甲羅の横を通り過ぎた。
もちろん、甲羅を撫でて刺激するような事はしない。下手に手を出せばいらぬ反撃を食らう可能性もなくはない。小型のために危険は少ないだろうが、良く知らない生き物に噛まれるのは単純に恐ろしいものだ。何か毒でもあるかも知れないし、そうでなくとも細菌感染だけでも十分怖い。
代わりに、亀と入れ違いに現れたのは鳥の鳴き声だ。
チチチ、ピピ、とか細い声ながら、確かに辺りから聞こえてくる。姿こそ見えないが様々な場所から届くあたり、数はそれなりにいるらしい。
先ほどの亀と良い、この鳥と良い、不毛の地にも意外と生き物はいるものらしい。陸の上では食料はきっとわずかだろうにたくましいことだと、あなたは彼らの力強さに感心した。
この頃になると、陽光を遮っていた雲はもう流れつつあった。
過ごしやすいボーナスタイムはどうやら終わるらしい。雲の切れ間からいつも通りの暖かさが差し込む時間が増え、涼しさは少しずつ去っていく。
あなたは心から残念に思いながらも、立ち止まって道の先を見た。
その景色は歩き始めた時とほとんど変わりない。赤茶色の地面の上に引かれたまっすぐな道が、延々と地平の先まで伸びているだけ。
だが、それで良かった。
遥かどこかに道は繋がり、閉じた行き止まりはここには無い。
何が得られたわけでもないが、そうと実感できた事はきっと、あなたにとっては大きな意味と価値があっただろう。
| ランダム分岐/気配探知 |
探索技能か諜報技能で判定
あなたの探索技能 レベル0 情報の取得難易度 レベル3 成功率20%
1〜8で失敗 9〜10で成功
1d10=5 |
満足に息を吐いて、あなたは隣のヤレカに声をかける。
帰路につくには良い頃合いだ。行きと同じペースで進めるならまだもう少し時間はあるが、どうも気温が上がってきそうな気配がある。また、ゆっくりとした散歩ではあったが歩いた時間はそれなりに長く、疲労の事も考えなければならない。
この辺りが限度だろう。名残惜しくはあるが、そろそろ引き返さねばならない。
「んー……ふふ」
と、あなたはそのように考えたのだが。
とっておきのサプライズプレゼントを披露するように、ニンマリ頬を吊り上げての上目遣いであなたを見て、ヤレカは言った。
「もしかしたらもう少し、延長戦が出来るかも?」
| ランダム分岐/気配探知 |
探索技能か諜報技能で判定
ヤレカの諜報技能 レベル30 情報の取得難易度 レベル3 成功率100% |
雲が去り青一色になった空を、1羽の鳥が飛んでいく。
白い羽を持つ鳥だった。体の大きさはあなたの手のひらから少しはみ出るほどで、小型とは言えないが大型と呼ぶにも抵抗がある。
人懐っこさはかなりのものだったなと、街の方向へ消えていく後ろ姿を見ながら、手に乗せてみたところ甘えるように散々つつかれた手首をさすりながらあなたは微笑んだ。クチバシは鋭くなかったため、幸い痛みはない。
その鳥は、話によると強い帰巣本能を持つらしい。どれほど離れたところに連れ出そうが迷いなく迅速に故郷まで飛び帰る事が出来るのだとか。
そして、人間はその習性を通信手段に用いているという。
要は、この世界における伝書鳩だ。
と、先ほどあなたは教えられた。
ホクホクとした顔で服の襟元を緩めているこの男、冒険者組合ルワ・ザンガラ支部の長、ガディンガによってである。
通称をガドという彼は何度かあなた達に街での仕事を斡旋した事があり、また、あなたの父イシャバの友人でもある。あなたにとっては時々顔を合わせるご近所のおじさん、ぐらいの関係だ。
あなたは気付かなかったが、ヤレカいわく彼が立てる音がわずかに聞こえていたらしい。
そんなガドは、どうやらこの辺りで依頼の仕事にあたっていたようだ。
漁師が忙しさに追われる
そのため、ルワ・ザンガラでは雑用組合とあだ名される冒険者組合にもひっきりなしに依頼が入る。漁師の家はどこもかしこも人手を寄越すようガドに依頼し、組合に登録する冒険者(というより、この街ではほとんど日雇い労働者)は払いの良さに惹かれてこぞってそれらの依頼に殺到する。
そして、そのせいで漁師仕事以外の依頼は滞りがちになるのがこの時期の常なのだそうだ。
そんなわけで、見向きされずに期限を迎えそうな依頼が出てしまい、渋々とすでに引退したはずのガドが片付けに来るのも毎度の事だという。
「いやぁ、お前らほんといいとこに来てくれたわ」
とはいえ、実際それには面倒が多いらしい。
主に手続き上の問題で、ギルドマスターにあたるガドが冒険者として活動すると書類仕事が余分に発生してしまうそうだ。なので可能な限り現役の者に仕事を任せたいという思惑が彼にはあり、そしてここには都合良くあなたとヤレカが居合わせたというわけだ。
仕事を誰かに頼みたいガドと、出来ればもう少し街の外に居たかったあなた。両者の利益が合致している以上、あなたには断る理由もない。
夕食の支度の手伝いに帰らねばならないという事情も、今ガドが飛ばした伝書鳥のおかげでクリアされている。鳥はジェウェス城爵家のものであるらしく、鳥の足に結び付けられた書状を読んだ伝書係の者があなたの屋敷まで連絡を届けてくれるはずだ。
ガドとイシャバは大変に親しい仲であり、また信頼もそれなり以上にあるため、あなたの外出が長引いても見逃してくれるだろう。それどころか、友人の困り事を良く解決してくれたと褒められる可能性まであった。
そんなわけで、あなたは憂いなく仕事に打ち込める。
あなたは自身の体から伸びるロープの具合を確かめた。素潜り漁でも使われる命綱と同じもので、決してほどける事のないようにハーネスのように全身に結びつけられている。
ロープのもう片方の先は、大岩に繋がれていた。同じく固く結び、かつ引力の魔法で固定もされている。あなたの見る限りそうそう外れる事はなさそうだ。岩の方も明らかにあなたとヤレカを足したよりも遥かに重く、命を預けるに十分と思われる。
「ほつれもなかったよ。点検オッケー」
ロープ自体のチェックを行っていたヤレカからも問題なしの確認をもらい、あなたは飛び込みの依頼にあたる事となる。
「気をつけて降りてけよ。嫁入り前の体でケガでもされたら俺がイシャバにぶん殴られちまう。いってぇんだわ、あのゲンコツ……」
ガドの声を頭上から受けつつ、あなたは崖を降りていく。
街道からだいぶ外れた場所にあった、クレバスめいて地面に走る亀裂の中である。幅はそれなりにある上に、狭小ながらも階段状に整備された道があり、降りる事自体はそう難しくない。
ただ、足元はひどく深い。陽の光がまともに入らないために暗くわかりにくいが、時折水音が聞こえるため、どうやら海にまで繋がっていそうだ。
見つめていると呑み込まれていきそうな感覚があり、意識して目を逸らしておかないと背筋をぞわぞわと怖気が上っていく。
| ランダム分岐/崖下り |
運動技能で判定
あなたの運動技能 レベル3 運動の実行難易度 レベル1 成功率70%
1〜3で失敗 4〜10で成功
1d10=7 |
深く暗い底に気を取られればあっさりと落ちかねない道。だが、恐怖さえ克服できるなら、岩礁を飛ぶのと難易度はそう変わりない。視線と意識を否応なく引きつけようとする崖下の誘いを振り払い、あなたは進んでいく。
「あー、あー。ね、反響すごいよ」
それには、あなたの真後ろで呑気に声を上げ、クレバスの間をわんわんと跳ね返る自分の声を楽しんでいるヤレカの存在も大きかったかも知れない。彼女がついている以上、空気はどうしたって緊張で張り詰めるような事は起こらなさそうだ。
あなたもまた、同じように声を発してみる。亀裂の中を走る声は何重にも聞こえ、独特の楽しさを与えてくれた。
とはいえ。
「遊んでないで真面目にやれよー?」
という声も頭の上から聞こえてきたため、おふざけは適度なところで抑えてあなた達は道を急ぐ事とする。
そうして到着したのは、とある鉱脈だった。
ガドから持たされたランタンで照らすと、崖を構成する岩壁からわずかに緑色を帯びた鉱石が生えているのを見つけられる。
あなたはそれに見覚えがあった。ルワ・ザンガラにおける身分証、誰もが身につける首飾りのうち、職人のものに使われている緑色の鉱石だ。
思わずあなたは、ほー、と息を漏らす。
漁師のものである橙色の鉱石は海辺に流れ着き、商人を示す青色はよその街からもたらされる。そこまでは知っていたが、どうやら緑色のこれはこのクレバスから掘り出されたものだったらしい。
鉱石は崖の中層あたりの岩壁一面を覆っていた。掘られた跡はそこかしこにあるが尽きるような気配がまるでない。
そして、採取も容易だ。
片手持ちの小さなピッケルを軽く振るえば、鉱石は簡単に剥がれてボロボロ落ちた。それどころか先端を引っ掛けて力を込めるだけでバコンと塊が外れるほど。どうやら硬度は全くなさそうだ。
この脆さは採取には楽だが、加工するとなると逆に大変なのではないだろうかと、あなたは職人に感心した。力加減を誤れば簡単に素材がダメになってしまいそうである。
「それが逆に良いとかあるかも?」
そこまで考えて、ヤレカの言葉になるほどと頷く。
確かに、繊細な手つきを鍛えるのには良い素材だろう。もしかしたら、この扱いにくそうな鉱石で自身の首飾りを作る事が、職人の若手の通過儀礼になっている……なんて事もあるのかも知れなかった。
さして時間もかからず、あなた達は腰にくくりつけたカゴを鉱石で満たし、無事に地上に帰り着いた。
ガドはカゴの中身を見て、品質に問題ない事を確かめると、あなた達の貢献を讃えてくれた。それは依頼をこなした事自体よりも、面倒な書類仕事が消えた事への喜びが主成分であったが、まぁ些細なことであろう。
さて、そんな一仕事の後、あなたとヤレカ、そしてガドは小さな火を囲んでいた。
採取自体は簡単に終わったが、崖の登り降りにかかった時間もあり、日はもう随分と傾いていた。このまま帰路についたのでは夜の中を歩く事となり、それはやめておけとガドが言ったためだ。
元々野宿で一泊して帰る予定だったそうで、ガドの荷物には野営道具も含まれていた。
例えば、今燃えている
パチ、パチ、と弾けるような音を立てる焚き火を、あなたはなんとなしにぼうっと眺める。
暮れ始めて辺りが赤く染まる中、同じく赤い火は融けている。ユラユラと揺れるそれは目から逃げていくようで、火の粉の行く先をつい追ってしまいたくなる不確かさがあった。
ただ膝を抱えて座り、音を立てずに見つめていたくなるような、そんな静けさだ。
「ほれ、そろそろいいぞ。少なくて悪りぃが、お前らだけであんま食うなよ?」
その静けさを、ガドの言葉が破る。
顔を上げると、エビが程よく焼けている。ロブスターそっくりのエビだ。ルワ・ザンガラでも中々取れない大物で、捕獲できればそこそこ良い額になる上に、しっかり身が詰まって美味い。
とはいえ、これは元々ガドひとりが楽しむためのもので、1匹しかない。いくら大物といえど3人前には到底ならず、ちょっとした取り合いが発生する。
「おいヤレカ、バカお前……それは取りすぎだろうが!」
「でも働いたのは私達だよね?」
「そりゃそうだが限度ってもんがあるわ! それ幾らしたと思って──」
「はい、あーん♪」
「聞いちゃいねぇなこいつ……!」
が、今日売ったばかりの恩がある上に、ヤレカは絶対的なあなたの味方だ。最も有利なのはあなたで、胴からごっそり抜き出された身の大半はあなたに渡る事となった。
体の大きさに見合った大味な食感と、体の大きさに見合わぬ繊細な旨味。味付けは塩のみというシンプルさは逆に素材の良さを引き立て、あなたの舌を楽しませてくれる。
「私はハサミもらうねー」
あなたが味わっている間に、ヤレカはエビからハサミをもぎ取り、甲殻の隙間にナイフを差し込んで解体していた。ギュッと締まったそこは最も食感の強い通好みの部位である。
ほじり出してはポイポイと口に放り込んでいくヤレカを、ガドはじっとりとした目で睨んでいたが、そういったものがこのマイペースふわふわ従者に効果を発揮した試しはこれまで一度もない。
結局、ガドにあたったのはあなたが譲った胴の一部と、酒の当てとして人気のミソの部分だけだった。
「テメェら、マジで覚えとけよ……」
半ば本気の怨念が感じられるガドの言葉にはやや肝が冷えたものの、漁師の娘であるあなたも中々味わえない美味である。致し方ないと言えた。
幸いな事に、ガドの荷物には酒も含まれていた。
残ったエビと、保存食として大量に作られて出回っている魚の燻製をつまみながらチビチビやるうちに、ガドの機嫌も治ったようだ。
あなたにとってはありがたい事に、ガドの酒癖は悪くない。騒がしいのは酔い始めだけで、後はむしろ普段の軽さが薄れ落ち着いていく性質だ。飲めば飲むだけテンションが上がり騒がしくなっていくイシャバとは対照的で、大声で絡むイシャバと静かに笑って受け流すガドという組み合わせはあなたにも馴染み深い。
「はぁー……良い夜だねぇ、全く」
今も、小さな陶器製の酒瓶をチビチビ傾けては、日が落ちて暗くなった夜に浮かび上がる火を見つめて、ただ深く座り込んでいる。
そんな沈黙の夜は、意外にも居心地は悪くない。
だが、もしあなたの中に発したい言葉があるのなら、口を開くのも自由だ。
| 現在のあなた |
| 性格/混沌・中庸 良くも悪くもルールに縛られる事を嫌う |
| 所持金/2 |
| 面倒見+1 知識欲+3 戦闘意欲+1 好奇心+2 勤勉さ+2 |
| 運動技能レベル3 教養技能レベル5 社交技能レベル8 戦闘技能レベル4 魔法技能レベル5 鑑定技能レベル5 家事技能レベル1 加工技能レベル1 |
やる気ボタン → 評価
コマンド?
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沈黙を守る
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ガドとイシャバの仲について聞く
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ガドに冒険者の心得について尋ねる
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ガドが冒険者になった理由を聞く
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ガドの過去の冒険譚をねだる
-
ヤレカと雑談をかわす