一般通過異世界転生者:あなた   作:ID:Am88n712

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一般的な異世界転生 少年期編 17

 

 夜闇に融けるような沈黙。

 

 酒が進み、沈むように座ったままのガドは何も言わず、ただ揺れる火を眺めている。

 

 あなたもまた、そうしていた。この場で音を立てているのは調理を終えて小さくなった焚き火と、その明かりを頼りにナイフの手入れをしているヤレカのみ。

 

 そんな時間を守り、やがて眠気が来るまでを黙して過ごすのも良い。

 

 

 

 が、あなたはそれを選ばず、口を開いた。

 

「ん? あー、そういやお前さんがちっこい頃は良く聞かせてやったっけな」

 

 ガドの昔の、冒険者として現役だった頃の話を聞かせてくれないかとだ。

 

 

 

 あなたがまだ少女ではなく幼女と呼ぶ方が正しい年齢だった頃、ガドは良く語り聞かせてくれたものである。

 

 ルワ・ザンガラから遠く離れた土地を渡り、剣と魔法、知恵と経験、そして幾人かの仲間を頼りに送った旅の話。誇張はされていても、きっと大きな嘘は混じっていないとあなたに思わせるだけの冒険譚の数々は心に刻まれて今も残っている。

 

 最近では女としての自分をからかってくる面倒さから同席を避ける機会が増えていたが、折角こうして機会を得たのなら新しい話を聞きたいというのは、あなたにとって自然な事だった。

 

「はっはぁ。そうかそうか、お前もそろそろ強い男に惹かれる頃か。参ったねぇ、俺もまだ捨てたもんじゃねえってことか?」

 

 何を勘違いしたのか、それとも冗談のつもりなのか、ニヤニヤとして短い髭の生えたアゴを撫でてからキリッとキメ顔を作るガド。こういう部分さえなければとあなたは内心思いはしたが、必要経費として割り切っていく。

 

 

 

「よし、いいぜ。じゃあ何がいいかね……。ふむ、砂漠の遺跡を暴いた話はしてやったっけか?」

 

 内心の呆れを隠しつつ、あなたはガドをおだてて語りのやる気を引き出した。すっかりその気になったガドは椅子代わりにしていた小さな岩に深く腰掛け直し、過去の記憶の掘り出しにかかったようだ。

 

 

 

 ただ、ひとつ目のそれはハズレである。

 

 あなたは指摘した。砂漠の遺跡に関する話は、すでに聞いた記憶がある。

 

 内容としては、とある激しく長い砂嵐の去った後、半ば砂に埋もれるように佇む古代の建造物が見つかったところから始まる。

 

 それは、しばしの間捨て置かれた。立地はともかく海産資源に恵まれたルワ・ザンガラとは違い、その日を食べていくにも時に困難が伴う砂漠の街には調査に回すだけの余力がなかったのである。

 

 倒壊などの危険性もあるかも知れない古い建物をわざわざ暴き、古代の生活様式を知ったところで何になるのか。それよりも日々の暮らしを楽にするための施策に労力をかけるべきだというのは全く真っ当な意見で、反対する者は誰もおらず、遺跡はいつかまた砂に埋もれて消えていくものと思われていた。

 

 そこに待ったをかけたのが、ガドだったのだという。

 

 

 

 冒険者組合の入り口に掲げられる看板は、剣とブーツ、それと遠眼鏡をモチーフとしている。武力をもって道なき道を行き、その果ての未知を目指す。それこそが遠い昔に組合を立ち上げた者たちの想いであった。

 

 今では形骸化が進み、淡々と依頼をこなす者が大半であるそうだが、ガドはそうではなかった。まさに発足当時の熱を未だ宿す、数少ない古いタイプの冒険者だったらしい。

 

 そんなガドにとって新発見かつ未踏破の遺跡など、それそのものが宝だったに違いない。

 

 そうして、彼は街の代表に直談判した。金も人手もいらない。探索で見つけた物の大半を譲っても良い。ただ、遺跡を暴く許可をくれればそれで良いと。

 

 街の代表は、それに呆れながらも許可を出した。元よりどうでも良いと捨て置いた遺跡と、守ってやるべき義務もない流れ者だ。例え探索を原因として遺跡が崩壊しようが、ガドが内部で命を落とそうが、街には何の損も無い。

 

 

 

 そうして始まった探索行は、過去のあなたを随分と楽しませてくれたものだ。

 

 周辺の街々の歴史から考えて少なくとも500年以上眠っていたはずの遺跡はしかし、さほどの綻びもなく侵入者避けの罠や仕掛けが生きていたという。しかも、地上に見えていたのはほんの一部。遺跡の本体はむしろ地下で、当初の予想よりも遥かに巨大であり、迷宮のように入り組んでいたそうだ。

 

 それを時に強引に、時に仲間の知恵を借りて進む話は、ガドがイシャバと酒盛りをする毎に少しずつ、5度に分けて語ってもいくらかの省略を必要とする長い冒険譚だった。

 

 その結末、遺跡の最奥に安置されていた古代の王が眠る棺の発見と、それに伴う黄金の副葬品の発掘という分かりやすい冒険者としての成功も、あなたの心を躍らせてくれたものだ。

 

 ……遺跡の位置が街と街の縄張りの境界付近という微妙さから黄金の所有権を巡った争いが起こり、権力同士の揉め事に巻き込まれるのはごめんだと取り分を背嚢に収めて逃げ出したというオチに関しては思うところもあったが、それもまた、教訓の含まれた話と言えなくもない。

 

 

 

「おっと、そうだったそうだった。じゃあアレだ、水の都の話はどうだ?」

 

「それも聞いたよ。水の神様に求婚されたやつでしょ?」

 

「ありゃ? これもダメか。……この年になるとどうも覚えが悪くなっていかんなあ」

 

 続くふたつ目の候補もハズレ。今度はヤレカが指摘する。

 

 これもまたあなたも良く覚えている話だ。

 

 ルワ・ザンガラの存在するこの地域から遥か東、大陸の中央にはとある都市がある。大陸にヒトが根付く以前より在ったともされるその都市は、絶対の不可侵を約束されている。一切の侵略を行わず、またあらゆる侵攻を跳ね除けるそこは……なんと、神により直接統治されているのだという。

 

 かつて聖者タンバシャの命懸けの祈祷により降臨した石と泥濘の神ジナバルのように、この世界における神々は条件さえ整えば地上に現れる事もある。この都市を支配する神はその極端な例で、太古の大地に顕れてから天上に還る事なく存在しているそうだ。

 

 神の名はカファーヴィンダ。司るものは水源。この世のあらゆる水は女神の一柱たる彼女の羽衣から滴り生まれたとされ、そして実際に大陸に流れる3つの大河はカファーヴィンダが治める都市を源とする。

 

 

 

 神の力により揺るがぬ安寧がもたらされ、命育む豊かな水に包まれたその都市は、当然のように見事な発展を遂げている。

 

 特に盛んなのは酒造りだ。

 

 汲めども尽きぬ清らかな水が都市を満たし、絶対の安寧により外敵に備える必要もなく、肥沃そのものの大地は連年の豊穣が続く。とくれば人々が美食や遊戯を求めるのは至極当然で、酒はそのうちのひとつであった。

 

 これに女神自身が人間から奉納される酒をいたく愛しているという事情が加われば、都市が大陸最大の名酒の産地とならない方がおかしい。

 

 

 

 ガドがその都市を訪れたのも、それが理由だ。現役当時から大の酒好きだったという彼は、この世で最も美味い酒が飲めるという都市に惹かれたわけである。

 

 そうしてそれまでの冒険で得た稼ぎの12割(全財産を浪費した挙句に仲間から借金までした、の意)を酒に変えたガドは、酒浸りの日々の中でとある寂れた酒蔵を発見する。

 

 都市の美酒をあらかた飲み尽くした彼は、かえってこういうオンボロ酒蔵にこそ面白い酒があるのではと門を叩き……この都市での彼の活躍はそこから始まる。

 

 

 

 かつて名門と呼ばれた酒蔵。厳しすぎる指導のために弟子たちが逃げ絶えた業。唯一残された老職人の死と、まだ未熟だが誰にも負けぬ熱意を宿した職人の孫。そして半年後に迫る10年に1度の神への奉納の儀と、そんな折に現れた辣腕の冒険者ガド。

 

 あつらえたような物語の幕開けにふさわしい出会いは、まさしくひとつの冒険譚として花開いた。

 

 己の未熟に涙する若者を叱咤し支え、冒険者として働き稼いだ資金で援助を行い、酒蔵に残されていた手がかりから秘匿されていた希少な素材の正体を暴き、入手のために危険な土地に踏み入り……。

 

 その果てに完成した酒は、しかし、かつて都市の誰もが讃えた味には似ても似つかなかった。

 

 当然である。職人の孫は、見習いでしかなかった。ただの素人同然の見様見真似が、同じ素材を揃えたからといって老練な職人のそれに届くわけもない。

 

 

 

 だが、それでも職人の孫は女神に己の酒を奉納した。

 

 今はまだ未熟なれども、いつか再び美酒を捧げる。女神にはそれを待つ時間はあるはずだ。いや、むしろ時を経るごとに私の酒が味を増す様を肴として楽しむと良いと、そう、ガドに背を支えられながらも啖呵を切って。

 

 女神はそれを好しとして、職人の孫と、助力者たるガドを己の神殿に招いた。永を生きる己の退屈を、一時ながら紛らわせた事の褒美を与えるとして。

 

 

 

 ……その後の話は18禁だ。

 

 水の源たる女神は、いわば命の源でもある。奔放な性愛の女神でもあるカファーヴィンダは気に入った人間は男女問わずホイホイ神殿に誘い込み、酒を酌み交わしては熱烈に交わるのだそうだ。

 

 女であった職人の孫と、生粋の女神。ふたりに挟まれて酒池肉林のひと月を過ごしたというガドの語りは、むしろそこからを武勇伝の本編として誇っているようであった。

 

 なお、その詳細についてはあなたは聞かされていない。

 

 放っておけば微に入り細を穿ち語り続けたであろうガドを、子供に何を聞かせる気だとぶん殴って止めるイシャバが居たためである。その時はあなたも、理性ある父の存在に深く感謝したものだった。

 

 

 

 

 

 そのふたつの他は、とガドは焚き火に視線を落としながらガドが考え込む。

 

 そんな彼に、あなたはひとつリクエストをした。

 

 旅の中、ガドが一番美しいと思ったものを知りたいと。

 

 それはきっと、今日あなたが美しいものを見たためだろう。視覚的には何の面白みもない、ただ果てしないだけの赤茶けて痩せた荒れ地の道。だが、尊く美しいと思えたその光景と似たものを、あなたは無意識に求めていた。

 

 

 

「…………ああ、それなら」

 

 あなたの言葉を聞いたガドは、懐かしそうに目を細めて、アゴをさすっていた手を降ろし、言った。

 

「ひとつっきゃねぇな」

 

 焚き火に新たな木切れが放られる。すでに積まれていた薪をカランと崩しながら新たな火種は燃え、小さくなっていた炎をほんの少しだけ大きくした。

 

 

 

「ちょうどサン・サクリエラ(水の都)の話の後だな。女神と私のどっちが好きなんだと包丁持ち出されて問い詰められた俺は、ほとんど着の身着のまま剣と野営道具だけ持って街を出たわけだが……」

 

 かつて聞いた話のどうしようもない続きを数年越しに聞かされて脱力しながらも、あなたは耳を傾ける。

 

 水の都での金遣いの荒さと、とことん調子に乗った女神との一ヶ月の蜜月。それに加えて女に刺されかけて逃げ出すという情けなさから仲間を失ったガドは、単身北を目指す事にしたのだという。

 

「大陸の北の果てに何があるか、お前らは知ってるか?」

 

 それにあなたは首を横に振る。

 

 世界全体ではどうかは知らないが、少なくともルワ・ザンガラには世界地図のようなものは無い。学校での授業でも、領主が所有する史料展示室の地図でも、記されていたのは半島周辺だけだ。

 

 あなたの返答に、ガドはそりゃそうだなと頷いて続ける。

 

「そこにあるのはな、壁だ。そりゃもうバカみたいにドデカい、世界の果てだって言われりゃ納得するしかない大地の終わりだよ。正確に言やぁ、壁としか思えない霊峰だ」

 

 

 

 その威容からの連想か、それとも歴史に刻まれた真実か。かつて世界を創造した最も偉大なる神が世界の果てとして最後に据えたとされるそれは、畏れ多さから特有の名を付けられず、大絶壁と呼ばれているのだという。

 

「登る道なんざどこにもねぇ。海路で回り込もうにも氷……あー、なんだ、蓋するみてぇに海を塞いでる冷たい塊に阻まれて船も通れん。だから大絶壁は本当に世界の果てなのか、その先に何があるのか、それとも何も無いのかを確かめたいなら、自分の手と足で道を切り開くしかない」

 

「見た人はいないの?」

 

「いねぇ。……と、思ってたから俺が一番になってやろうと思って麓の街に行ったんだがなぁ」

 

 世界に果てがあってもヒトの好奇心には際限はないのか、踏破を試みた者は幾人も居たらしい。

 

 そして、中には本当に大絶壁の頂に辿り着いた者も。

 

 

 

「麓の街にもひとり居た。果ての先を見たはいいが、帰り道で片脚を無くしたっていう爺さんでな。たくましいもんで、自分の経験を俺みたいな流れの冒険者に語り聞かせたり、登頂に必要になる物資の調達に一枚噛んだりで金を稼いで暮らしてた。……めちゃくちゃケチだったなぁ、あの爺さん。ちょっとずつ話を小出しにしやがるんだわ。全部聞くのにどんだけ財布絞られたか……」

 

 だが、そんな老爺もひとつだけ売らなかった話がある。

 

 大絶壁の頂で何を見たのか、それだけは決して。

 

「だから俺は余計に燃えたよ。そんなにもったいぶるなら自分の目で見てやろうってな。元からそのつもりだったが、爺さんのおかげで熱はひとつ大きくなったな」

 

 

 

 そうして、ガドの挑戦は始まった。

 

 それは過酷な道のりであり、失敗と挫折がしばしの間ガドの友人となる。

 

 まず天候が彼の敵となる。北の果ての岩山は極寒の風と吹き荒ぶ雪の猛威に晒されていた。まともに挑む事の叶う時期は、一年のうち風の緩むほんの2ヶ月ほどで、それも絶対ではなく急激に変化した空模様が襲い掛かる事もある。

 

 その上、果ての山に道などない。例え作ったとしてもわずか数十分の後には雪に埋もれて消え去るような有様では歩を進める事にすら絶大な労苦を伴う。

 

 そこにさらに、環境に適応した野生の怪物たちが虎視眈々と血肉を狙う。

 

 

 

「ありゃ確か3度目の挑戦だったか。麓で募った同じ命知らずのバカどもと組んで登り始めたはいいんだが、4日目にとんでもなく空が荒れてな。マズイと思った次の瞬間には一歩前の自分の足跡も見えないような状況になった」

 

 このままでは全員で凍え死ぬしかない。一刻も早く適切な対処を選ばなければと焦る中、ガドに仲間の声が届いた。

 

「ついさっき小さな洞窟を見かけた。そこまで何とか引き返そう、ってな。俺は素晴らしい考えだと思って岩壁に張り付きながら戻ったよ。……爺さんに、山の洞窟には近寄るなって聞かされてたのに、吹雪の辛さでころっと忘れてな」

 

 そうして洞窟に辿り着いたガド達を出迎えたのは、蠢く肉塊の化け物だったという。

 

 洞窟の壁面を覆うように満ち満ちた赤黒い肉の群れは無数の触手を伸ばし、先を争うように踏み入ったガドの仲間ふたりを捕えると、恐ろしい剛力でたちまちに全身を砕いて殺し、肉の中へ飲み込むように取り込んでしまったそうだ。

 

 そこからは酷いパニックだ。

 

 急造のパーティーでしかなかったガド達には確かな信頼も連携もなく、無策で吹雪の中に逃げ戻る者、悲鳴のような怒声を上げて剣を振り上げ洞窟奥に駆ける者、てんでバラバラな行動にそれぞれが走った。

 

「慌てて動いた奴らは全員死んだ。何とか生き残れたのは、幾らかでも冷静に頭を動かせた奴と、何も考えられずに縮こまった連中だけだ」

 

「ガドはどっちだったの?」

 

「さてね」

 

 幸いだったのは、吹雪を嫌ってか、それとも数人の犠牲者で満足してか、肉塊の怪物が洞窟の入り口付近までは触手を伸ばそうとしなかった事だとガドは語った。

 

 おかげで、時折探るように伸びてくる2、3本の触手を斬りつけて追い払いさえすれば、吹雪をやり過ごす事が出来たのだと。もちろん、怪物の直接的な恐怖と、徐々に目減りしていく水と保存食の残量、そして低体温と不眠からくる絶望的な疲労と戦いながらだが。

 

「最後には切り落とした触手も食ったぜ。頼むから毒だけはありませんようにって神様に祈りながらな。あんなマズイ肉は、多分この世に他にねぇわ」

 

 

 

 その壮絶な経験談に、あなたはゴクリと唾を飲んだ。

 

 思わず周囲の闇から今語られた触手が伸びてくる様を想像し、尾てい骨の辺りから這い上がる怖気を感じる。当時すでに熟練のはずのガドが選んだ仲間がたやすく惨殺されるような怪物に、あなたが抗う術はないだろう。

 

 恐怖を紛らわせるため、ほんの少しだけ座る位置をずらし、ヤレカに近寄る。

 

 恥ずかしさから誰にもバレないようにと自然な動きを心掛けたはずだが、それはどうやら通じない。何しろ、ヤレカにしてもガドにしても、気配の察知と観察力には大変に優れている。

 

 

 

「おっと、ちょいとばかし嫌な話だったな。安心しろ。ここからは俺達冒険者の逆転劇だからな」

 

 おどけてガドが言い、そして話の続きが語られる。

 

 その後、吹雪が止み下山に成功したガド達のうち何人は、まだ諦めようとはしなかった。生き残り、洞窟での恐ろしい数日間を共にした者たちの間には新たな結束が生まれ、本当の意味で背中を預けられる仲となっていく。

 

 大絶壁への挑戦が叶う時期以外は他の土地で金を稼ぎ、装備と技術を磨いてはまた挑む。そんな日々を彼らは数年間過ごす事となる。

 

「挑む度に問題が見つかった。例えばテントだ。麓近くじゃ十分風を防げたんだがな、途中からまるで役に立たなくなるんだ。空が荒れ出すと風で骨組みがぶち折られちまうんだよ」

 

 頻出する課題に、彼らは力を合わせて立ち向かった。

 

 テントの新調のため凶暴な魔物に挑み、狩って得た柔軟かつ堅固な素材を加工できる職人を探して駆け回る。

 

 そうして暴風に耐えうるテントを手に入れたは良いものの、重量がかさんでしまい他の物資を減らさざるをえず、様々な道具の軽量化のために頭を抱え知恵をこらす。

 

 

 

「まぁひっどいもんだったよ。そんだけ苦労してるってのに、あの御山はお構いなしにこっちをぶち殺しに来る。5年も経つ頃には仲間は半分に減ってた。諦めて去ったわけじゃもちろんねぇ。みんなあの山に食われちまった」

 

 だが、とガドは言う。

 

「その代わりに、俺たちの手は山の頂に近付いてた。もうあとほんの少しってとこまでな」

 

 そうして、もう2年が過ぎ、さらにひとりの仲間を失って。

 

 ようやく彼らは成し遂げた。

 

 

 

 

 

「それで、そこに何があったの?」

 

「ああ、それはな……」

 

 ヤレカの問いに、ガドは一度目を閉じた。

 

 かつて目に焼き付けたのだろう光景をまぶたの裏に思い描いているのか、しばしそうした後に。

 

 

 

「教えてやらね。ありゃあ、自分の目で見た奴だけの特権だ」

 

 大事な宝を自慢する少年のような顔で歯を見せて呵々と笑い、答えた。

 

 

 

 

 

「えー」

 

「わりぃな。山頂で仲間と約束したんだわ。あの先に何があったのかは、俺とあいつらだけの秘密だ」

 

「ガド、さっきお爺さんの事ケチくさいって言ってたくせに」

 

「ハッ、ケチで結構。エビの恨みだ、思い知っとけ」

 

 どうやら、ガドの口を割らせるのは不可能なようだ。ヤレカに続いてあなたも先をねだったがけんもほろろ。少なくとも今この場で教えてもらう事はできそうにない。

 

 

 

 話はそれで終わりとなる。

 

 それでもあなたは満足していた。最大の関心事、ガドの見た最も美しいものという肝心な部分は隠されてしまったが、未知と不可能に挑む冒険譚はあなたが欲していた刺激そのものだった。

 

 ガドの語りを反芻しながら、あなたは膝を抱えて長く息を吐く。そこには、ふつふつと湧き出る山への畏れと、それに立ち向かった勇敢な冒険者達への憧れが等しく含まれていた。

 

 

 

「……ふぅ」

 

 それをきっと察知したのだろう。

 

「こりゃ、お前さんが小さい頃に聞かせすぎた俺にも原因があるのかねぇ。なぁ、もしかしてだが……冒険者になって街を出たいとか、そういうつもりがあったりするか?」

 

 気付けば、ガドはじっとあなたを見下ろしていた。

 

「なぁ、今日、お前はどうしてここまで来た? 別に何の用事があったわけでもないんだろう? ……当ててやろうか。お前は道の先が見たかったんだ。街ん中の行き止まりの道じゃない、どこかに続いてる道がな。隠しても無駄だぜ。なんせ、俺もガキの頃に同じ事した覚えがある」

 

 眉根にシワを寄せ、額を手で覆い、あからさまに困り果てたような顔をしている。

 

「やめとけやめとけ。冒険者なんてロクなもんじゃない。そりゃまぁ楽しくはあったがな、その何倍も苦しくて嫌な目にもあってきた。割に合う生き方だなんて冗談でも言えやしねぇ」

 

 

 

 それはきっと正しい。

 

 あなたのように恵まれた立ち位置に生まれた者にとっては特にそうだ。両親の勧めに従いルワ・ザンガラで暮らしていれば人並みの幸福を当たり前のように手にできる者が、わざわざ飛び込むような道ではない。

 

「お前をこっちに呼び込んじまったなんて知られたら、ハハ、今度はゲンコツじゃ済まんな。イシャバに殺されちまいかねん。……な、やめとけ。冒険者なんて、いつどこで死ぬかもわからん上に、亡骸を故郷に届けてくれるような奇特な奴もそうそう居ない」

 

 だからやめておけ。自分を愛してくれる家族と共にあるのが最も賢い道だと、ガドは言う。

 

 

 

 そこに、あなたは懇願の気配を読み取った。

 

 どうか俺と同じ生き方は選ばないでくれと、ガドは静かに語りかけてくる。

 

 その根にあるのがイシャバとの間にある友情なのか、それともガド本人の後悔なのかまでは、あなたにはわからなかったが。

 

 

 

 深く静かな夜の中、ガドはあなたの返答を待っている。

 






現在のあなた
性格/混沌・中庸
良くも悪くもルールに縛られる事を嫌う
所持金/2
面倒見+1
知識欲+3
戦闘意欲+1
好奇心+2
勤勉さ+2
運動技能レベル3
教養技能レベル5
社交技能レベル8
戦闘技能レベル4
魔法技能レベル5
鑑定技能レベル5
家事技能レベル1
加工技能レベル1



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コマンド?

  • 冒険者になりたい
  • 街を出る気はないと誤魔化す
  • 街を出たいだけで冒険者にこだわりはない
  • 自由が得られるなら街を出なくとも良い
  • 返答を保留する
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