一般通過異世界転生者:あなた   作:ID:Am88n712

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一般的な異世界転生 少年期編 18

 

 ガドの詰問に、あなたは自身の内心を見つめて考えた。

 

 自分は果たして、冒険者というものになりたいのかどうか。

 

 

 

 全くなりたくない……などと答えればそれは嘘になってしまうだろう。己が手で万難を切り拓き未踏を既知に変えていく生き様は、あなたから見れば憧憬の対象であり、そうなれたならと見上げるもののひとつではある。

 

 が、かと言って、絶対になろうと決意を抱けるほどの存在とも言い難い。

 

 それは、今まさにこうして落ち着いた思考が叶う時点で証明されていた。

 

 冒険者にだけはなるなとガドは言う。よりによって、命がけの大冒険に挑み成果を手にしてみせ、その果てに冒険者組合から認められて(ルワ・ザンガラのような僻地といえど)ひとつの支部の長として高給を得るに至った、成功者と呼んで差し支えないガドがだ。

 

 本気で冒険者を志しているような人間ならば心の底から失望と反発が湧いてしかるべきである。決して、膝を抱いて座ったまま自分を見つめ直していられるような事はないはずだ。

 

 

選択肢分岐

街を出たいだけで冒険者にこだわりはない

 

 

 だから、あなたはストンと自分の心に納得し、ガドに答えた。

 

 道の先にあるものを見たいだけであり、その手段は別に冒険者でなくとも構わない、と。

 

 

 

 そうして、あなたは少しばかり夢想する。

 

 例えばそれは交易品を満載した馬車の御者台に座り遠方の街を目指す姿であったり、護衛に守られた帆船上で初対面の誰かから地元の自慢話を聞く姿であったり。

 

 はたまた見知らぬ国の見知らぬ歴史を記した史料を書庫で読み漁る姿であったり、果てはどこかの丘の頂上でイーゼルを前に見慣れぬ風景を描く姿であったりした。

 

 もしもそうなれたならと、あなたはただの憧れではない期待を抱き……それで、とうとう自覚した。自分の夢はこういう形をしているのだなと。

 

 思わずあなたは苦笑する。

 

 自覚はあったが、あなたはやはり凡人であるらしい。一度の死を経て、その先には記憶を失うものの続きが確かにあると知ってなお、命を掛け金にしてでも未踏の地を目指そうとは思えなかった。

 

 

 

 必要ならば武器を取ろうと思える事と、己の武に全てを賭して走り出せる事の間には果てしない断絶がある。少なくとも今のあなたには、前者にはなれたとしても、後者には届かない。

 

 それを悔しいとさえ感じない事がきっと、最も決定的な不足なのだろう。

 

 

 

 

 

 返答を聞いたガドは、火の向こうからしばしあなたの目を見つめた。

 

 答えに嘘はないか。嘘でなくとも小さな誤魔化しや隠し事はないかと。その視線は普段のヘラヘラとした様子とはまるで違い、良く研がれた刃物のように鋭い。

 

 対し、あなたはそれを黙って受け入れた。

 

 あなたには何もやましい事はない。強いて言えば故郷たるルワ・ザンガラを離れたがっている事自体が後ろめたいが、返答の言葉は正直なあなたの考えそのものだった。

 

 

 

「……ふぅ。そうか。それなら、まぁ、俺としては許容範囲かね」

 

 それをガドは正確に読み取ってくれたらしい。

 

 あからさまに安堵の息を吐き、視線を火に落とした後、傍らの酒瓶を持ち上げてひと口飲み下す。その動作は、あなたには酒ではなく別の物を嚥下したように見えた。

 

 

ランダム分岐/情報の獲得

社交技能か諜報技能で判定

 

あなたの社交技能 レベル8

情報セキュリティ レベル5、10、15(3段階)

 

1〜2で情報なし

3〜8で情報x1

9〜10で情報x2

 

1d10=10

 

 

 それが、あなたには少しばかり気にかかった。

 

 ガドは何故、こうもあなたが冒険者を志す事を忌避するのだろうか。

 

 冒険者という存在は労苦と幸福の釣り合いが取れていない、というのは確かにそうなのだろう。だが、ガドはそれでも自身が生きてきた道を誇らしい宝と思っている節がある。単純な話、そうでなければ過去の冒険譚をああも語れはしないはずだ。

 

 

 

 その疑問を、あなたは素直に口にする。

 

 対し、ガドは火を見たまま、しばし沈黙した。椅子代わりの岩に深く腰掛けて前傾に、うつむくように膝に腕を置いて、酒瓶を揺らしてチャプチャプと音を立てる。

 

「……まぁ、そうだな。やめろと言っときながら詳しく教えんのも筋が通らんわな」

 

 そんな時間が1分ほど続いた頃に、ガドは口を開いた。

 

 

 

「イシャバのやつに、兄貴がいたって話は聞いた事はあるか?」

 

 そうして話し始める。最初はそんな問いかけからだった。

 

 あなたはそれに首を横に振って返答する。

 

 父、イシャバに兄弟が居たとはあなたは初耳だ。イシャバの両親に関してはすでに死別しているとは聞いていたが、それだけ。

 

 もしあなたが普通の子供のように父に甘えて同じ寝台で寝るような日々を過ごしていたならば寝物語に聞かされる事もあったのかも知れないが、残念ながらそのような機会は無かった。

 

 念のためにと隣のヤレカに視線で問いかけても、あなたと同じく否定が返ってくる。

 

 

 

「そうか……。ま、日頃口にした事はなくても、忘れちゃいねぇんだろうな。なにせ、生まれた息子にガウィルなんて名付けるぐらいだ。……あいつの兄貴の名前はな、シャディルってんだ」

 

 持ち上げた酒瓶の残量を音で確かめて、あおるようにひと口。

 

 それから、空中に指を滑らせ、文字を描く。

 

流れ雲(シャド)見つめる(ウィル)で、シャディル。酔う度に言ってたっけな。そんな名前を付けるもんだから、長男の癖に故郷を飛び出すようなバカに育っちまったんだってよ。……今思えば、シャディルなりにああやって罪悪感を誤魔化してたのかも知れん」

 

 昔はそんな事も気付かずに聞き飽きた口上を右から左に流すばかりだったと自嘲するように頬を吊り上げて、続ける。

 

「そんで、(ウィル)継ぐ者(ガウ)でガウィルときたもんだ。……まさか聞くわけにもいかんから俺の予想でしかねぇがよ。シャディルの生きた証を、ガキの名前の中に残したかったんだろうな」

 

 

 

 細く、音を立てないように息を吐く。話の流れから予想はしていたがやはりかと、あなたは神妙に姿勢を正した。

 

 イシャバの兄、シャディルという男は既に故人であるようだ。

 

 ルワ・ザンガラを飛び出し、今は亡く、あなたを冒険者にさせたくない理由に関わる。となれば、その男とガドの関係も見えてくる。

 

「ガドの冒険者仲間だったの?」

 

「…………」

 

 あなたと同じ思考に至ったのだろうヤレカが淡々と聞き、ガドはまた酒をひと口含んだ。

 

「……ああ。最高の戦士だった。あの山に挑んだ仲間の中で一番強く、一番勇敢で、他の誰より頼りになった。俺たちは全員同格の仲間って事で組んじゃいたが、誰に聞いたって実質的な頭はシャディルだったって答えるだろうよ」

 

 

 

 それから、また少しの沈黙を挟んだ。

 

 話の続きを急かすような事はしない。冒険者という生業の過酷さをあなたは想像でしか知らないが、それでも何年もを肩を並べ見上げるほどの絶望へと共に挑んだ者たちの間に生まれるものを推し量るぐらいは出来る。

 

「さっきの話で、最後に死んだひとりが、シャディルだった。……最期まで、あいつは俺たちの背中を押してくれたよ。遺体からくり抜いた目ん玉だけ連れてな。世界の果ての先に何があるか、こいつにも見せてやろうって、そう奮起してようやく頂上に辿り着けた」

 

 そして、深く深く、ため息を吐いて。

 

「……最期の、言葉は」

 

 

 

「……ザンガラが見たい、だった」

 

 嘘だと、あなたは何故か理解できた。

 

 何かを隠すように引き結ばれたガドの口元のためか。それとも顔も声も、今聞くまでは名前どころか存在さえ知らなかった男との、それでも繋がっている血が囁いたのか。

 

 きっと、最期の言葉はそんなに穏やかなものではなかったのだろう。

 

 苦痛と悲哀、それとおそらく、故郷を捨てた悔恨に満たされた、見た者の心に大きく傷を残すような。

 

 

 

「……山から下りた後、俺は仲間と別れてここに、ルワ・ザンガラに来た。腐らんように処理してもらったシャディルの目玉だけ持ってな。体の方は、とてもじゃねぇが連れて下りてやるだけの余力がなかった。身勝手に故郷を捨てた兄貴を、諌めもせずに一緒になってバカやった男が連れ帰ってきたわけだ。それも情けねぇ事に、目玉ひとつだけ」

 

 ガドが酒をあおるペースの早さがそれを物語っているようだった。

 

「……放って置かれた側はたまったもんじゃなかったろうよ。シャディルは漁師の次期頭領だったらしいからな。親もだが、代わりにお前が頭を目指せなんて突然言われたイシャバだってメチャクチャだ。自分の人生が兄貴のせいでいきなり捻じ曲げられてんだ」

 

 酒瓶の中身はぐんぐんと減り、残念がるようにガドの眉が下がる。

 

「だからよ、俺は覚悟してたんだわ。俺もシャディルもまとめて罵倒されて、ぶん殴られて街を追い出されるのがオチだろうってな。だってのにまぁ、イシャバときたらだ。あのぶっとい腕で俺の肩を抱いたと思ったら、良く連れ帰ってくれたなんて言って……あー、まぁ、この辺の詳しいとこはいいか」

 

 そうして最後のひと口を飲み切って、酒瓶は放り捨てられた。ガドの後方に飛んだそれは地に当たると、陶器らしい脆さで割れる。

 

「……余計なとこまで話しすぎたな。ま、要はなんだ。シャディルっていう男が昔居たって事と、イシャバが飛び切り良い男だって事さえ知ってくれりゃそれで良い」

 

 

 

 まとめると、とガドは、そこでようやく火からあなたへと視線を戻し、言葉を閉じる。

 

「俺はイシャバを裏切りたかねぇ。……シャディルをあの山に誘ったのは、俺だ。兄貴に続いて娘まで冒険者の死に方させたなんて事になったら、俺はもう死んでも死にきれん」

 

 

 

 いつの間にか止めていた息を、あなたはゆるゆると吐いた。

 

 思いのほか重たく湿った話であった。胃の真ん中に鉄の玉でも放り込まれたような気分をあなたは覚える。なんなら、血の代わりに鉛が流れ始めたようですらあった。

 

 だが、聞いた事自体に後悔はない。

 

 理解と納得。そのふたつが沈む気分とは裏腹に頭をすっきりとさせていた。そういう事情ならばガドが自分を止める事にも頷ける、と。

 

 そして、そんな自分にあなたは苦笑する。

 

 またひとつ自覚が重なった。知り、腑の中に落とす。これがどうやらあなたの根幹だ。これまで名も知らなかった男とはいえ、伯父の末期に対する感情よりも、納得を得られて満足する心の方がよほどに大きい。

 

 

 

 そんな心が命じるままに、ひと呼吸を置いた後に問いかける。

 

 冒険者にさせたくない理由はわかった。だが、なのに街を出る事自体は許容できるのか。

 

「ハッ、お前な、そんなもん決まってんだろ」

 

 それに、ガドは半分以上の自嘲が含まれた笑みを返して答える。

 

「道の先を見たがる気持ちがどんだけジリジリ焦げてるか、冒険者(俺たち)にわからんわけがなかろうが」

 

 それは全く道理のど真ん中を通る論であり、やはり生まれた納得は、あなたを大きく満足させるものだった。

 

 

 

 

 

 その後、ガドはあなた達にそろそろ寝ておけと命じた。

 

 日帰りの予定だったために野営道具を持たないあなた達に、簡易的な寝具としてガドの外套(マント)が貸し与えられる。それは何かの動物の毛皮製のもので程よく厚みがあり、柔らかく、断熱性も十分なようだ。

 

 とはいえ地面の上にこれ1枚で寝られるのかとあなたは不安だったが、横になってみれば案外と不快感はない。よくよく考えてみれば普段から石の寝台に毛皮で寝ているのだ。後は屋内か屋外か程度の違いしかない。

 

 なお、こういった野営では良くありそうな交代での夜番に関しては。

 

「なんぼ引退したってもな、寝ずの番もできんほど耄碌した覚えはねぇぞ。ガキは大人しく寝とけ」

 

「ふふ、ほんと? お酒も入ってるのに」

 

「1瓶で飲まれるようなヤツに冒険者が務まるかよ。その小生意気な口、大人になるまでには直しとけよマジで。嫁の貰い手が減るぞ?」

 

 というやり取りを経て却下された。

 

 

 

 あなたはヤレカとふたり、眠りにつくまでの間を星を眺めて過ごす。

 

 暗い空を覆う星々の並びに、あなたが前世で学んだ星座はひとつもない。

 

 ここが地球とは違う世界だと意識する機会は日々の中にも多々あるが、その実感が最も強まるのはこうして夜の星を見上げる時だった。月に良く似た衛星に描かれる模様の違いをぼんやりと考えている時などが特に。

 

 

 

 この世界の月には、ふたりの巨人が住むという。

 

 神話ではなく、月に刻まれた模様からの連想を端としたおとぎ話として。

 

 金色に光るこの世界の月には、膝を抱えて座る者と、それに手を差し伸べる者のように読み取れる暗い模様があった。

 

 星々の輝きに惹かれて飛び跳ねるうちに夜空に飛び出してしまって帰れなくなった間抜けなひとりと、そんな無邪気さに惹かれて後を追ったもうひとり。

 

 ふたりは月の上で友となり、仲良く暮らしているのだそうだ。

 

 

 

「なぁ、これは俺からの助言……じゃねぇな。個人的な頼みなんだが、街を出るにしてもイシャバとはしっかり話をしてから出ていってくれ。そうじゃなきゃ、きっとお前はいつか後悔する」

 

 やがて訪れた眠気の中、あなたはガドのそんな言葉を聞いた。

 

 それに、そのつもりだとあなたは返した。家族を捨てて街を飛び出せるような強さをあなたは持たない。その先にある罪悪感を抱えて生きられる自分を、あなたは想像できないのだから。

 

「……はは。そうか。そんなら良い。なんだ、俺やシャディルなんかより、お前はずっと大人なのかも知れんな」

 

 

 

 

 

「ま、外の世界を見たいなんてのはガキの頃にありがちなこった。案外風邪みたいにコロッと治る事もあるかも知れん」

 

 そうはならないだろうと、殆ど確信していそうな軽い声色でガドは言う。

 

 あなたはそれを、落ちようとするまぶたと格闘しながら聞いた。

 

「だがもしそうならなかった時は、俺もイシャバの説得を手伝ってやっても良い。冒険者にはならないって条件付きならな」

 

「あ、言質とーった」

 

「おー、とっとけとっとけ。冒険者には二言はねぇんだわ。それともうひとつ。こいつは俺の心情やらなんやらとは全然関係ない、お前の道を開くためのありがたい助言だが」

 

 最後に、ガドはたっぷりともったいぶってから、とっておきの情報だぞとあなたへ言葉を送る。

 

 

 

「友人は大事にしとけ。特に、お前とは違う立場の友人はな」

 

 

 

 そして、それきり言葉は途絶える。

 

 夜は再び沈黙に沈み、あなたの耳にはすぐそばのヤレカの吐息と、残り火が微かに弾ける音のみが届く。

 

 

 

 

 

 そんな中、あなたは声を漏らさず、口の端だけを上げて笑った。

 

 ひとつは、ガドがイシャバに抱く友情の形と温度に。

 

 そしてもうひとつは、外界に焦がれる心を風邪に例えたガドの言葉があんまりにも適切だったおかげで得られた、3度目の自覚のために。

 

 

 

 あなたの人生はこれまで、閉塞感と共にあった。

 

 かつての前世ではどこか行き詰まった諦観が蔓延する、自身の限界と末期の姿までがぼんやり見えてしまう現代社会の中で。生まれ直した今世では、白い石の街の中に作られた枠に自身を押し込めようとする力によって。

 

 だからつまり、あなたは前世と今世を通した30年ほどの生で、今日初めて形ある自由というものを目にした事になる。

 

 

 

 そうしてあなたはひとつの感情を抱くに至った。

 

 逃避ではなく、憧憬に似るがより鮮烈で、熾火のように育ち、自覚と共に燃え上がるもの。

 

 その感情を、古来よりヒトは風邪や熱病に例えてきた。

 

 

 

 行き止まりのない、果てなき地平線。

 

 あなたが一目惚れをした初恋の相手は、きっとそんなものだった。

 

 

 

 

 

少年期編 育成結果

所持金/2

面倒見+1

知識欲+3

戦闘意欲+1

好奇心+2

勤勉さ+2

運動技能レベル3

教養技能レベル5

社交技能レベル8

戦闘技能レベル4

魔法技能レベル5

鑑定技能レベル5

家事技能レベル1

加工技能レベル1

 

 

あなたの性格変動

混沌(中立寄り) → 混沌

中庸 → 中庸(やや善寄り)

 

ルールよりも感情を優先

他人の都合と自分の利益の優先度はその時次第

良くも悪くもルールに縛られる事を嫌う

 





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  • ヤレカ(あなたの従者)
  • イシャバ(父)
  • メナ(母)
  • 弟妹
  • 屋敷の男衆
  • 屋敷の女衆
  • マイア(領主の娘)
  • ディア(マイアの従者)
  • ガド(冒険者組合の長)
  • 学校の級友
  • あなた
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