一般通過異世界転生者:あなた   作:ID:Am88n712

37 / 38
一般的な異世界転生 青年期編 6

 

 

 将来的に嫁入りする気がないので、魔法を使わない家事を学ぶ意味がない。

 

 そんな言葉を、あなたは……。

 

「? さっきからどうしたのアンタ? 何か言いたいことでもあるのかい?」

 

 母に対して発する事はできなかった。

 

 怪訝そうに自分を見るメナに、なんでもないと首を振る。そう簡単に口に出来る言葉ではない。

 

 どこかの家に嫁に入ることは、ルワ・ザンガラの女にとっては当然の事であり、また幸福と成功の象徴だ。そんな環境で生きてきたメナに、前世の記憶と地平線への憧れから生まれた価値観を納得させる事はおそらく難しい。

 

 最終的に理解が得られたとしても、そこにいたるまでにきっと何度もぶつかり合わねばならないだろう。互いに少なくない傷を負わせるような事にもなりかねない。

 

 ……そうしてこそ親子というものなのかも知れないが、あなたは親に甘えるのが苦手な性質である。ここで踏み込もうという意思は持てなかった。

 

 

 

 再びメナの指導に耳を傾けながら、あなたは床を藁製のタワシでこする。煮詰めた海水と灰から作った洗浄剤によって油を浮かせ、タワシでこそぎ落とすのが伝統的な清掃方法だ。

 

 これが中々にキツい。それなりに力をこめなければならない指先や手首はもちろん、掃除中はずっと四つん這いでの作業となるために腰にもくる。せめてこれくらいはと交渉してかけさせてもらった皮膜の魔法がなければ、膝にも少なくないダメージを負っていただろう。

 

 可能なら今すぐにタワシを放り捨てて休憩するか、もしくは魔法を次々に詠唱して楽をしたいところである。

 

 が、あなたを一人前の女にするためと、あなたとガウィルを産み魔法を節制する必要がもうないメナが手作業を続けているのだ。まさかその横でもういやだと投げ出せるほど、あなたは身勝手ではない。

 

 

 

 結局、厨房の大掃除は料理祭3日目の朝にようやく終わった。

 

 連日の作業と指導であなたは身も心もヘトヘトだったが、その甲斐もあり厨房はかつてない清潔さを獲得している。

 

 ただ、それでもあなたの手際はそれほど上達しなかった。このくらいで良いだろうと掃除を終えた一角を後から改めて見てみるとまだまだ汚いまま、などという事は頻発し、メナの指摘を待つまでもなくあなた自身ですらダメ出しがいくつも可能なほど。やっている最中は大真面目なのにどうしてと頭を抱えたものである。

 

 

 

 やはり徒労だという意識のみが育つ大掃除であった。

 

 あなたは決意する。出来るだけ早く、あなたが嫁入りせずに済む未来をメナに納得させねばならない。

 

 そのためにどうすれば良いかは、残念ながらあなたの独力では思いつきそうにない。ならば頼るべきは他人だ。それも、あなたともメナとも違う視点を持っているだろう相手が良い。

 

 

 

 となれば、候補はひとり。

 

 疲れた体を自室の寝台に横たえて、窓から街の上層方面を見る。建物の壁に遮られて直接は見えないが、その方向にあるものはルワ・ザンガラの蓋、領主が住まう砦だ。

 

 一般家庭の娘ではなく、伝統に変化を生もうとしている、領主の娘にしてあなたの友人でもあるマイア。彼女こそがこの相談事の相手としてはおそらく最も適任に違いない。

 

 ちょうど料理祭が終われば、次の祭りは教会主導のものだ。これは準備期間も開催期間も長く、領主にはいくらかの余裕もあると思われる。面会して相談に乗ってもらうぐらいは出来るはずだ。

 

 

 

 ……ただし、1日か2日くらいは休んでから。

 

 ジンジンとした筋肉痛に苛まれながら、今日のところはとりあえず目をつむって昼寝に勤しむあなたなのだった。

 

 

 


 

 

 

 そうして翌々日の朝。

 

 屋敷での朝食と片付けを終えてすぐ、あなたは街を歩いていた。

 

 目的地は当然ルワ・ザンガラの最上部、領主の砦だ。お供としてヤレカを伴っているのもいつも通り。マイアと友人になってから数年間、定期的に繰り返してきた道程だ。

 

 

 

 ただ、街の空気は常と違う。

 

 ニニルの季らしい浮かれた空気。それが今日は甘ったるさも加わってさらに一段と姦しい。

 

 それもそのはず、街は今、ちょうど恋の季節でもあるのだ。

 

 伝統に割り込んだ新しいイベントである料理祭。その次の祭りは、トゥーレの儀と呼ばれている。

 

 トゥーレとは、馴染む、融け合う、同調する、などといった意味を持つ言葉だ。その言葉を冠するこの祭事は、婚姻前の恋人達を正式な婚約者として結ぶイベントである。互いはもちろん、その両親とも意を交わし、将来ひとつの家族となる準備をするための催しと言える。

 

 当然だが、この儀礼で結ばれた男女はその関係を一気に深める事となる。家族から祝福された、いわゆる正しい結婚にはこれを通らねば話にならない。真剣に結婚を考えている男女はほぼ例外なく、円満にこの儀式を迎えたいと願うものである。

 

 そのために街のそこかしこに恋人達が溢れていた。少しあたりを見れば周囲に冷やかされつつもふたりの世界を作っている者たちはあちこちに発見できた。

 

 

 

 ついでに、この土壇場ギリギリで手頃な相手を見つけようと奔走する独り身の者も。

 

「そういう人は本当の余りものみたいだけどね。大体は料理祭で見つけちゃったみたいだし」

 

 ただしヤレカが言うには、今駆けずり回っている者は周回遅れも良いところのようだ。

 

 女としての価値をアピールするに適した料理祭は、トゥーレの儀の一部(というより前座?)としての位置を確立しつつあるようだ。おそらくそれが新設の祭りながらも反発の少ない主要因なのだろう。

 

 ともかく、人並み程度にしっかりしている者は料理祭が終わった段階でもう相手を見繕い終えている。未だに売れ残っているのなら、もう絶望的と言って良い。

 

 

 

 それは、砦を目指す最中にあなたが何度か男に声をかけられた事からもわかる。

 

 顔と体が良くとも、女としての価値は低い。そう親同士のネットワークで広く知られているだろうあなたにまで手を伸ばそうというあたり、彼らの必死さもわかろうというものだ。

 

 そして、その手管の拙さも。

 

 何しろあなたと同時にヤレカにも粉をかけようとしていたのである。正確には、人並みに家事が出来るまともな女とみなされているヤレカのついでにあなたにも、という形。

 

 愛しい恋人によくも、という感情を抜きにしてもこれはない。女を誘おうというのなら最低限、形だけでも一途さを見せたらどうかとあなたを苛立たせたものだ。

 

 歩くだけで延々と目に入り続ける恋人達の中に、あなたとヤレカが混ざる事が許されないという、どうしようもない現状も合わせて。

 

 

 

 そんなあなたの気を紛らわせるためか、道すがらヤレカはあなたが満足に参加できなかった料理祭の様子を伝えてくれる。

 

「やっぱり新しいのはあんまりなかったよ。大体普通の料理ばっかり」

 

 それによると、マイアが提唱した新規レシピの開拓は微妙な結果だったようだ。どれもこれも今あるレシピのちょっとしたバリエーション、というより各家庭ごとの違いでしかなく、誤差とハッキリ言っても良い。

 

 人気投票で優勝を勝ち取ったのも古式ゆかしい魚のペーストを最も丁寧に作った露店で、工夫による特別賞を手にしたのも同じく魚のペーストに調味料でひと味加えてみた程度のもの。

 

「去年のアレみたいなのもチラホラあったから芽がないわけじゃなさそうだけどね。成果が出るには十年ぐらい見た方が良いかも」

 

 そんなところであり、祭りの主目的の達成には長い時間がかかりそうだ。

 

 

 

 今のところはそれよりも、やはり色恋に絡んだ部分の方が反響が大きい。

 

「そうそう、ツァナがね、良い相手見つけたみたい」

 

 ヤレカが言うには、ツァナ、あなたの義妹のひとりが今回の祭りで特に関係を進展させたらしい。まだ小学生高学年ぐらいの彼女だが恋仲の少年がいるらしく、なんと大胆にも相手の家族と共に露店を出して参加していたとの事だ。

 

 相手の母親から直接に母の味を教わり、実習として露店で働き、客の少ない時間には恋人に手料理を振る舞って腕をアピールし、好みを調べる。これはもうツァナの嫁入り先はほとんど決まったようなものだ。いっそ新しいプロポーズの形と呼んでも良いかも知れない。

 

「相手の家族にも可愛がられてたし、男の子もずっとツァナにくっついて他の子が寄ってこないように見張ってたよ。ふふ、あなたにも見せてあげたかったなー」

 

 ツァナは臆病なところがあるが、素直で愛らしく、適度に人に甘える事のできる女の子だ。そんな妹が良い相手を見つけられたのなら、義姉としてあなたも喜ばしいところである。

 

 近いうちに何かお祝いを用意するべきかと、あなたは心の中にメモしておいた。

 

 

 

 

 

 さて、そんな風にして歩いていたあなた達は、やがて目的地に到着した。

 

 堀の前から守衛に声をかけ、砦と街を繋ぐ橋を下ろしてもらう。マイアの友人としてすっかり知られているあなたは、とうの昔に顔パスだ。守衛の男達も和やかに挨拶を返してくれる。

 

「最近忙しくされてたからな。ちょうどいいところに来てくれた。一緒に茶でも飲んで休ませてさしあげてくれ」

 

 という声を背中に送られるぐらいには、彼らとも良好な関係である。

 

 マイアはどうやら使用人や衛士から十分に敬意を払われており、あなたの砦での振る舞いはそんな主人の友人として適切なものだったらしい。少なくとも、あなたの訪問に眉をしかめる者が表立って居ない程度には。

 

 

 

 そうして通された先、使用人に案内されてついていって辿り着いたのは、初めてマイアと席を共にしたのと同じ、中庭の四阿(あずまや)だった。

 

 昔と同じく季節を外れても咲いているニンバルの白い花に囲まれ、あなたはハーブティーに口をつける。これもまた慣れ親しんだ味と香りで、そっと添えられた砂糖菓子も変わりない。

 

 当時と変わったのは。

 

 

ランダム分岐/情報の隠蔽

諜報技能か社交技能で判定

 

あなたの社交技能 レベル8

マイアの社交技能 レベル12

成功率10%

 

1〜9でマイア勝利

10であなた勝利

 

1d10=9 (マイア勝利)

 

 

「ふぅ……。全く、本当に疲れました。御老人方の頭の硬さは一体何なんでしょうね? 若い層には好評なのだから静かに見守っていれば良いものをまぁグチグチネチネチと」

 

 マイアの、あなたに対する態度だろう。

 

「──よっぽど暇を持て余しているんでしょうね。フン、羨ましい限りだわ」

 

「お嬢様」

 

「あら、いいじゃない、私達しか居ないんだから」

 

「誰に聞かれないとも限りませんので」

 

 はいはい、と専属の使用人ディアの諫言に適当な返事をしたマイアは、どこかやさぐれた雰囲気を纏っていた。そして、それを隠そうという気配がまるでない。

 

 

 

 これは何故かと言えば……「マイアがキャラを作っている事にあなたが気付いている事」に、気付かれてしまったためである。

 

 ねえ、あなた、もしかしなくても私の演技に気付いてるでしょう?

 

 と、2年ほど前に面と向かって言われた時は中々にビクリとしたものである。ど田舎のとはいえ貴族の娘。幼い頃には領都の学院で多くの学友に囲まれて学んだという社交術は伊達ではなく、あなたよりも一、二枚上手な彼女に隠し事は難しかったようだ。

 

 以来、どうせバレているのならとマイアは自分の素を隠すのをやめ、あけっぴろげにあなたに接している。

 

 実のところ装いも合わせたいぐらいだと、ワンピースを脱ぎ捨ててあなたと同じく腰巻と胸帯だけになりたいと言い出した事もあったほどだ。それは流石にまずいのか、今回の比ではない勢いでディア女史に止められていたが。

 

 いつだったか父親である領主が蛮族めいた格好をしている事に苦言を垂れていたはずだが、結局は似たもの親子であったらしい。

 

 

 

 そんなこんなで、あなたとマイアは気安い言葉を交わす関係になっている。

 

 素のマイアは全く貴族らしさがない。深窓の令嬢と呼んでも良さそうな雰囲気はサッパリと消え、どこにでも居そうな勝気な女性に様変わりする。

 

 友人として付き合うなら、敬語と固い振る舞いで遮られていた以前よりもよほどやりやすくはあるだろう。

 

「それにしても、今日は良い時に来てくれたわ。実は私も用があったのよ。お願いしたい事がひとつばかりね」

 

 そんなマイアは、垂れ流していた愚痴を止め、そう切り出してきた。

 

「でも先にそっちの用事を聞きたいわ。くす、何か、いかにも相談事がありますって顔だもの」

 

 これでもあなたには感謝しているから、と彼女は言う。

 

 貴族としての振る舞いを脱ぎ捨てて、肩肘を張らずに付き合えるあなたという存在は、マイアにとってそれなり以上に益のあるものなのだろう。

 

 

 

 何しろ、とあなたはマイアの首飾りに目をやる。

 

 ルワ・ザンガラにおける身分証でもあるそれには、今や婚約者が存在する事を示す装飾が追加されていた。

 

 相手はあなたも知っている。マイアが運営する学校の教師である、カスタルドという男だ。

 

 20代後半になる人物で、大学生ほどのマイアとは少し歳の差があるがこの程度は別に珍しくもない。授業は丁寧で物腰も柔らかく、この街の基準では細身すぎてナヨナヨと見える以外は優良物件だろう。

 

 カスタルドは今は平民ではあるが、実家は元貴族だという話なので身分的にも問題はない。マイアが伯爵家などの高位貴族であるならともかく、城爵という家格ならばこのくらいで咎める者はいないという。

 

 そんな婚約者の前でも、マイアは仮面を外してはいない。いかにも令嬢然とした口調と仕草のままカスタルドを口説き落としたようだ。

 

 恋慕の情ではなく、利益を求めて。

 

 かつては領都にて教鞭を振るったという彼をこの辺境に留めおくための材料は少ないが、しかし有用性を考えれば到底手放したくはない。そう判断したマイアは自分の女としての価値を利用すると決めたらしい。

 

 

 

 将来の夫に対してすらそれなのだから、マイアの私生活の息苦しさは相当なものであるはずだ。

 

 あなたにとっては敬意を向けざるを得ない覚悟だ。自分を殺して街に尽くす事など、真似しようと考える事さえ難しいのだから。

 

 マイアがいくらかでも息継ぎできる時間を提供できているなら、あなたも嬉しいところである。純粋に友人としても。過去に受けた恩を多少なりとも返せた事にしても。

 

 そして、この貢献と引き換えに相談を持ちかけられる事にしてもだ。

 

 

 

 あなたは一度カップを傾け、喉を軽く湿らせてから口を開いた。

 

 

 

花嫁修業を諦めさせたい

メナにあなたの嫁入りを諦めさせる説得方法について

 

街を出るにはどうすれば良いか

故郷を離れたい願望を打ち明け、

家族から許可を得る方法について相談する

 

ヤレカとの関係を認めさせたい

ヤレカとの関係を打ち明け、

家族から理解を得られる方法について相談する

 

先にマイアの頼み事を聞く

マイアの用件を片付けてから考える

 






現在のあなた
性格/混沌・中庸
良くも悪くもルールに縛られる事を嫌う
所持金/6
面倒見+1
知識欲+3
戦闘意欲+1
好奇心+4
勤勉さ+2
運動技能レベル10
教養技能レベル5
社交技能レベル8
諜報技能レベル5
戦闘技能レベル4
魔法技能レベル13
鑑定技能レベル5
家事技能レベル1
加工技能レベル1



やる気ボタン → 評価


次話にちょっと苦戦してます
土日にはなんとか

コマンド?

  • 花嫁修業を諦めさせたい
  • 街を出るにはどうすれば良いか
  • ヤレカとの関係を認めさせたい
  • 先にマイアの頼み事を聞く
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。