一般通過異世界転生者:あなた   作:ID:Am88n712

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幼少期編 最終イベント
一般的な異世界転生 幼少期編 6


 

 前世と同じく、あなたは人間として生まれたが、完全な同種かといえばおそらく少し違う。

 

 それは例えば、足の構造の違いがわかりやすい。今世のあなたと、そしてルワ・ザンガラの民は皆、前世の人間よりも足の指が少し長い。

 

 その指はなかなか器用だ。手の指ほどではないが動作は細かく制御が可能で可動域も広く、物をしっかり掴む程度は簡単にでき、少し練習すれば(今世では見かけてはいないが)中身を潰さずにみかんの皮を剥くぐらいの事はおそらく難しくもない。

 

 あとは、かかとを地面につく機会が少ない。ヒール低めのハイヒールを履いているような角度で、土踏まずよりも前だけが接地しているのが自然な形だ。これは骨格の段階でそうなっていて、かかとをつけようとすると意識してちょっと無理めに関節を曲げなければならない。

 

 さて、ではこの違いが何を生むかというと。

 

 

 

 あなたの右足が後方の地面を強く蹴り、同時に左足が前方の地面を強く()()、あなたの体を大きく移動させる。

 

 そうして生じた速度を、腰と肩の回転によって増幅しながら、背筋と腹筋による単純な力と合成し、腕が最後の指向性を定め、体全体の重量と凶器の鋭さが貫通力へと変換し、技術としての刺突を完成させる。

 

 海獣の角、その鋭い先端がヤレカへと迫り……。

 

「わ。今のはいいね。上手くなってきた」

 

 しかし、平然とナイフで防がれる。重い手応えがあなたに返るが、掌に収まるほどの小さな骨製のそれを弾き飛ばす事さえ叶わず、後方への軽い跳躍だけで威力の全てを吸収されて終わる。

 

 だがまぁ、それは当然だ。何しろ相手はヤレカである。

 

 あなたを転生させた神によってこの世界でも最上位の戦闘能力が保証された存在だ。ヤレカ本人いわく、作られた際に性能がだいぶ上振れたそうで、個人としては世界最強かも知れないとの事。

 

 少しばかり鍛錬を積んだ程度の子供が傷を負わせられる道理はなく、そもそも当たっていた方がよほど困る。

 

「威力は十分。狙いもしっかり急所だったね。私以外の子供だったら今のでちゃんと殺せてるよ。大人でもそこそこの痛手にはなるかな」

 

 なので、今のあなたが達成し得る成果としてはここで上々だ。

 

 手加減状態のヤレカが防御を選ぶだけの一撃を放てたなら有効打としてカウントし、敵を殺せたという判定にする。ヤレカとの鍛錬ではそういう取り決めになっていた。

 

 細く長く息を吐いて、震える筋肉をほぐす。これでヤレカを殺せた判定は通算で30回目。直近10回の模擬戦では勝率7割というところまで成績を伸ばしていた。突きの反動、ナイフとの接触で生まれた手の痺れは、そのままあなたの脳まで駆け上がって達成感へと変わっていく。

 

 

 

 あなたは立ったまま片足を持ち上げて、その裏を見る。何度も繰り返した踏み込みのために皮がボロボロになり、ところどころ血が滲んだそれは、あなたの努力の証だった。

 

 ルワ・ザンガラでは、街中で靴を履く者は少ない。せいぜいが年老いて足が弱くなった者、あるいは足裏に怪我を負った者が保護のために枯れ草編みのサンダルを履く程度だ。

 

 あなたも例に漏れず普段から素足で、飛び跳ねたり走ったりする中でそれなり以上に頑丈な足裏の皮膚を獲得していた。多少鋭い石を踏んだところでほとんど痛みさえ感じない。それがボロボロになるほどというのは、あなたがどれほど真面目に打ち込んでいたかを示す指標である。

 

 じんじんとする足裏を眺めながら、あなたは少しばかり頬を笑みの形に持ち上げた。

 

 苦労の甲斐があり、あなたは戦闘技術を確かに身につけた。前世と違う足の骨格、その有用性を理解するまでには前世の感覚が邪魔をして時間がかかったが、ついに体に刻み込ませる事に成功し、基本的な踏み込みを技として体得したのだ。鍛錬はこれで一区切りと、そう考えて良いだろう。

 

 それは笑みもこぼれるというものである。

 

 

 

 

 

 あるが。

 

「まーたこんなにして。あんたは本当、毎回どこで何をしてきてんだか」

 

 だからといって、家であなたを迎える者がその達成感や感動を共有してくれるわけではない。

 

 あなたのおでこがペチンと音を立てる。それは見事なデコピンであった。奥に響く事はなく、表皮にだけビリリと鋭い痛みが走るそれに、あなたの表情が自然と歪んでおかしな声が出る。

 

「ヤレカ、あんたも。この子が言う事だからって何も考えずに乗ったね?」

 

「うん」

 

「うんじゃないよ、おバカ」

 

「あいた」

 

 あなたの隣でもうひとつペチン。ヤレカもあなたと同じ処罰が下された。流石に若干の申し訳なさをあなたは感じる。あなたの求めに逆らえるようには、ヤレカは作られていないのだ。

 

 

 

 廃屋での鍛錬から戻ったあなた達を出迎えたのは、あなたの母であるメナであった。

 

 初めは和やかにただいまおかえりと言葉を交わし合ったものの、目敏いメナはあなたがわずかに足裏を庇う様子だったのを見逃さなかったらしい。肩を掴まれて動きを止められ、ニッコリ笑顔からの低い声で足を見せてみなと言われた際の迫力は相当なものであった。

 

 持ち前の大声で雷を落とす時のイシャバとどっこいであるとは、屋敷の者全員の共通見解だ。怒った美人の顔の恐ろしさは、前世も今世も変わりないのである。

 

 

 

「カウラァ! ちょっと来てくれるー!?」

 

 お叱りをひと段落させて、あなたを地べたに座らせた後、メナは屋敷の奥へ振り返って声を上げた。対し、はいはい、と返事があり、それからペタペタと足音を立てて呼ばれた者が顔を出した。

 

 屋敷の女のうちの最年長、地位としてはメナに次ぐ立場のカウラである。漁で夫を亡くした未亡人で、あなたが生まれるだいぶ前からこの屋敷に勤めているという。最近の悩みは加速度的に増え始めた顔の小皺らしい。

 

「どうかしたかい?」

 

「まーたこの子が無茶したみたいでさ。診てやってよ」

 

 そんなカウラはメナの要請に従ってあなたの前にしゃがみ込み、足裏を眺めて苦笑した。

 

「こりゃまたやったねぇ。ザンガラ(岩礁)でも飛び回ったのかい?」

 

「本人は街中だって言ってる」

 

「ま、そりゃそうか。ザンガラなら誰かが止めてるもんねぇ。そんなら、どんだけ走り回ったんだか」

 

 呆れ半分微笑ましさ半分。そんな様子のカウラは骨ばって肉の薄い手を伸ばした。そしてあなたの足の裏、もう止まって乾いてはいるが血の跡が残るそこを撫であげていく。

 

 傷に触れられチクチクとするが、あなたは黙って耐えた。これから治療が始まる事は、数度の同様の経験によって知っている。

 

 

 

 カウラは細くゆっくりと息を吸うと、さらに倍するだけの時間をかけながらゆっくりと、ささやき声で呟いた。

 

Gar() Sug() Yee(斥力)

 

 途端、発生した()()にあなたは身を震わせた。比喩でも、精神的な意味でもない。ごく物理的な話だ。

 

 カウラの囁き……それは魔法の詠唱であった。

 

 力ある言葉。少なくともルワ・ザンガラではそう呼ばれる短い音節の言葉の組み合わせを、魔力と呼ばれる何がしかを含ませて口から発する事で、魔法と呼ばれる現象が発生する。

 

 あなたは現時点でそう聞き及んでおり、日々の生活の中で何度も目にしていた。

 

 今回の魔法の効果もまた、あなたの眼前でわかりやすく発揮される。

 

 あなたの足裏、そこにめり込んでいたほんの小さな石粒や砂粒が、弾かれるようにしてパラパラとこぼれ落ちる。その際に傷に刺激が走り、小さな痛みとこそばゆさであなたは思わず震えたのだ。

 

「はいはい、動かないでおくれよ。Wul() Mus(起点)

 

 次いで、掌に現れたほんのひとすくいほどの量の水で足裏が洗い流され。

 

Iya(皮膜) Clu(閉塞) Suu(引力)

 

 不可視の何かがペッタリと足裏全体を覆う。あなたが以前触れてみた感想としては、固まった瞬間接着剤が近かった。

 

 多少強く押してみても足裏にはほとんど感触が伝わらず、下手な絆創膏や包帯よりも痛みからの保護という点では優れている。治癒の速度や、感染症への対策としてどちらが良いかなどは残念ながら調べようがないためにわからないが。何しろこの場には前世の医療品など存在しないので比較のしようがない。

 

 

 

「ほれ、ヤレカも足出しなさいな」

 

「私はケガしてないよ」

 

「あら? ならお嬢だけかい」

 

 ともかく、これで傷の処置は終わりだ。立ち上がって足踏みし、痛みが減っている事、違和感がない事を確認すると、あなたはカウラに礼を言って頭を下げた。

 

「よし、いい子だ。……あんたはこういうお行儀は良いのにねぇ。そのお転婆はどうしたもんだか」

 

「いいじゃないさ、両親そっくりだよ」

 

「……あたしとイシャバの子だもんなぁ。ま、仕方ないか」

 

 自分と同じ色をしたあなたの赤髪頭をくしゃくしゃと撫でて、ちょっと困ったようにメナは笑った。

 

 母に触れられている事に、頭や魂はともかく、体が勝手に嬉しくなってしまうのをあなたは自覚した。自分と似ていると言われた事についても、同様に。視界の片隅でこちらを見ているヤレカが、からかうようにニマーッとした顔をしているおかげで、同じだけ恥ずかしさも湧いてしまったが。

 

 

 

 さて。そんなタイミングであなたは大人2人へと口を開き、伝えた。

 

 折角異世界に生まれ、そして実際に目にしたために生じた当たり前の欲求、つまりは自分も魔法を使いたいという願いをだ。

 

 前世ではフィクションの中にしか存在しなかった、魅力的かつ不可思議な現象。それを自分の手でもというのはごく自然な思考の巡りだ。今のところゲームやアニメで見たような派手さはないものの、その程度は小さい事である。

 

 

 

「あー……前にも言ったよね? 魔法は大きくならないと使えないんだ。もう何年か我慢しないといけないよ」

 

 が、メナから返ってくる言葉はあなたも想像がついていた。

 

 何しろこれが初めての要求ではない。すでに何度か同様のやり取りを繰り返し、全て同じ文言で断られている。

 

 恐らく嘘や誤魔化しではないというのはあなたもわかっている。屋敷の内外問わず他の子供達に聞いてみても同じで、魔法を使える同年代の子供が居るなんて話は噂でも聞いた事がない。

 

 どんなに早くとも10歳ほど、平均すると12歳ほどが魔法が使えるようになる年齢のようだった。

 

 

 

 だが、わかっていてなお、今回のあなたは食い下がった。

 

 タイミングの問題である。戦闘訓練がある程度の成果を見せ、あなたは大きめの達成感を得ていた。そして、得てそれで満足とは、人はなかなかならない。一度味わった甘露はもう一度。次なる達成感をあなたは求めていたのだ。前世よりも娯楽に乏しいルワ・ザンガラでは、なおさら。

 

 肉体の満足の次は精神的な充足を。それには魔法は実に良い対象としてあなたには映っている。

 

 今はまだ使えないのは理解した。が、せめて理論を知りたい。あなたの知識欲はそう囁いている。

 

 魔法とは具体的になんなのか。魔力の正体とは。何故子供には使えないのか。あなたには気になって仕方がなかった。

 

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 そんなあなたの様子に、メナとカウラは顔を見合わせた。

 

 実に困ったような表情だ。これが漫画であれば冷や汗のひとつも描かれていただろう。

 

 どうする。教えるべきだろうか。まだ早いのでは。

 

 そんな意思が無言でやり取りされているのを、あなたはなんとなく察する。あとついでに、教えるならそっちが教えて、という押し付け合いが発生しているような感覚も。

 

「……大丈夫、大きくなったら自然にわかるからさ。もう何年かしたら! ね!」

 

「そうそうそうそう! みーんなそういうもんなのよぉ。あっそうだ、今晩は珍しく鳥の肉があるのよ! ルワンジが組合で分けてもらってきたんだって、今さっき持ってきてね。好きだったでしょ? 折角だからシュカムも絞って一緒に煮付けてあげるから楽しみにしておいでねぇ」

 

 そして結局、今回は誤魔化しに走る事にしたようだ。

 

 シュカム(内臓に独特の強い酸味を持つ、人体には無害な毒を溜め込むナマコの一種。ワタを絞った後ぶつ切りにして煮るか焼くかして食べられる)を使うなら獲ってこなきゃねとメナがそそくさ玄関に向かい、私は鳥の羽をむしっておくからとカウラが厨房へ引っ込んでいく。

 

 

 

 残されたあなたはおもむろに胸の高さに手を掲げ、唱えた。

 

 Wul() Mus(起点)

 

 当然のように何も起こらず、あなたの体のどこかに魔力らしき物を感じる事もない。フィクションの記憶を頼りに、丹田、心臓、額の裏側、果ては全身を巡る血流などにも集中してみるが、手応えはゼロのまま。

 

「ふふ。……ネタバレ、いる?」

 

 むすっとした顔のあなたへ、おかしそうにヤレカが問う。

 

 あなたは首を横に振った。ヤレカは生まれた時点でこの世界の常識を理解している。知識の中には魔法と魔力に関するものもあるようだが、それをただ聞いてしまうのはテストの回答をまるっと盗み見るようなものだ。調べ物とは呼べず、あなたの知識欲を満たすものとは言い難い。

 

 それでも知れれば幾分かの満足は得られようが、あからさまな大人の態度に、あなたは少しばかり意固地になっていた。

 

 

 

 

 

 さて、それから数日後。

 

 未だ持て余した知識欲をくすぶらせるあなたに、実に耳寄りな情報を持ち込む者があった。

 

「ねーちゃん、聞いた? 隣組の空き家の話!」

 

 まず、血の繋がらないあなたの弟、マラン。

 

「出たんだって……!」

 

「おばけが……っ!」

 

 それと、血の繋がらないあなたの妹、2人。

 

 3人とも親を亡くした孤児で、イシャバとメナに養子として引き取られ屋敷で養育されている。結構な死亡率であるルワ・ザンガラの漁師の間では、余裕のある裕福な者が友人知人の遺児を引き取り育てるのは良くある事だ。

 

 3人はこの日の夜、こっそりとあなたの部屋を訪れ、寝台に潜り込んできてヒソヒソ話を始めたのだ。大人が3人は並んで寝られる大きさのため、幸いあなた達に不自由はない。

 

 本来ならまだ親と寝ている年齢のあなただが、前世の記憶の影響から添い寝に恥じらいと抵抗を覚えたために無理を言って1人部屋を確保している。そのためにこういった事は、毎日ではないもののしょっちゅうあった。

 

「へー、どんなおばけ?」

 

 なお、もちろん最多はヤレカだ。今も当然の権利のごとくあなたを背中から抱きかかえて横になりながら、マラン達の話に耳を傾けている。

 

 

 

「もうずっと前に誰もいなくなった家なのに……毎日、新しい子供の足跡がびっしりなんだって!」

 

「誰も出入りしてないのは間違いないんだって。その家の周りの子達がみんな言ってた」

 

「あのねあのね、家の中の足跡にはね……ち、血もついてたって……!」

 

 ……話の内容は、実にあなたに覚えがあるものであった。

 

 もう誰も住んでいない空き家に残された、血のついた足跡。あなたはこそっと、右足の指先で左足の裏を撫でる。子供特有の治癒の早さですでに治ったが確かに血が滲む傷がそこにあり、そのまま空き家の中を鍛錬で駆け回っていた。

 

 明らかに下手人はあなたであった。出入りが確認されていないのは、誰にも見られぬようにとヤレカに警戒と先導を頼んだからだろう。

 

 暗闇の中、冷や汗があなたの額を伝う。目の泳ぎぶりと良い、数日前にあなたに魔法について問われたメナと良く似た表情であった。流石は親子と言える。

 

 

 

「ふふ、大丈夫。そのおばけは悪い子じゃないよ。空き家で遊んでるうちに夢中になって足の裏を擦りむいちゃっただけ。ね?」

 

 クスクス笑って言うヤレカに、あなたはソウダネと賛同する他ない。

 

「……幽霊ってケガするのか?」

 

「ヤレカちゃんが言うならするのかも……」

 

「ほ、ほんと? 噂を聞いた子の家まで足跡がついてきたり、しない?」

 

 マラン達はいぶかしんだものの、やがてヤレカの言葉を信じて鎮静化した。フワフワしているが言ってる事は大体正しい。そんな評価を受けているヤレカと、優しく頼れる長姉のあなたが同調しているのだから、きっとそうなのだろう。そんな理解が子供達にはあるようだった。

 

 

 

 そうして誤魔化しに成功したあなただったが、危地を乗り切ってふと気付く事があった。

 

 ()()()()()()()()()()()

 

 前世で生きる中で、あなたは幽霊というものを実際に見た事がない。霊的な現象と呼ばれるもののうち、ごく小規模なラップ音やポルターガイストじみたものには遭遇した事がかろうじてあるものの、科学的な説明をつけようとすればいくらでも可能な範囲でしかなかった。

 

 だからあなたは、幽霊とは、魔法などと同様にフィクションの中にのみあるものだと、そう思っていたのだが……。

 

 この世界には、魔法がある。ならば、同じフィクションたる幽霊が存在する可能性もあるのではないか?

 

 気付きに、あなたの背中の肌がざわざわと逆立つような感覚に襲われた。恐怖ではない。意外なところに転がっていた未知に対して、知識欲が背筋を駆け上がったのだ。

 

 

 

 そもそもとして、あなたは地球からこのルワ・ザンガラに転生した。魂の実在はあなたの経験によってすでに証明されている。

 

 神の言葉によれば魂は通常、記憶を漂白しての転生を繰り返すようだが、そのどこかでバグが発生して魂のまま現世を漂うなんて事もないとは言い切れない。

 

 また、考えてみればアンデッドなどという存在はファンタジーにつきものでもあった。剣と魔法のファンタジーと、神がこの世界をさして言った以上、通常の自然現象として幽霊の存在が組み込まれている可能性だってある。

 

 

 

「……ネタバレ、いる?」

 

 実に楽しそうな声色の、あなたにだけ聞こえる声量の囁きに、あなたは即座に首を横に振った。そんな事をされてはとてもたまらない。

 

 一区切りがついた戦闘訓練の次の課題は決まったようなものだ。幽霊が実在するかどうか。その調査は、おあずけを食らっている魔法に関する情報の代替として、あなたの新しい娯楽となってくれる予感があった。

 

 

 

 そして、最初の情報源は目の前に居た。

 

 マランと2人の妹達に、他に幽霊の話は知らないかとあなたは尋ねる。すると3人は口々に話し始めた。

 

 崖の上から時々こちらを見下ろしている白い人影。誰も居ないのに後ろから足音の聞こえてくる街外れの階段。問いかけに返事をしてしまうとどこかに連れて行かれてしまう行き止まりの路地。誰もいない墓地から聞こえてくるか細い赤子の泣き声。

 

 こういった類の話は世界を跨いでも似通うのか、どこかで聞いたような内容ばかりではあるが、数は限りなく小さな口からコロコロ出てくる。

 

 それらをあなたは心のメモにしっかりと書き留めていく。

 

 大概のものは作り話や誇張、想像の飛躍などだろうが、異世界たるここではひとつやふたつ真実が紛れ込んでいても不思議ではない。調べる価値はあるはずだ、と。

 

 

 

 怪談話はどれほど続いたか。時計がないために正確にはわからないが30分や1時間程度の短さではなかった。思ったより多くの話が聞けた事に満足したあなたはホクホク顔だ。

 

 話の種がようやく尽きたのか、3人は静かになった。

 

 流石に良い時間である。それぞれの部屋に戻るにしろ、このままあなたの部屋に残るにしろ、そろそろ眠るべきだろう。そう判断したところで、あなたは3人がマランを中心に何やら目配せをしている事に気付いた。

 

 無言での相談とわかるそれはほんの短時間で終わり、代表なのかマランが口を開いた。

 

 

 

「……実はさ、近いうちにウワサを確かめに行こうって決めててさ。ねーちゃんとレカ姉も来ない?」

 

 話はこうだ。

 

 子供達の最年少、おばけが怖くて夜に便所に行けず未だにおねしょが治らない女の子、ツァナのために、おばけを探して正体を探る。そしてあわよくば退治して、おばけなんか怖くないと教えてやる。

 

 マラン達はそう意気込んで、着々と準備を進めているようだ。

 

けっこー(決行)は明後日の夜な」

 

「わ、私は夜はやめよって言ったのにぃ」

 

「でもおばけは夜に出る方が多いじゃない。捕まえるならやっぱ夜よ」

 

 古びて打ち捨てられた漁獲用の網に、魔除けになるとされている花に、武器になりそうな海獣の角。オマケに保存食をバレない程度にくすねて、行動食として確保もしているという。

 

 

 

 すっかりやる気満々のマラン達を前に、あなたは考えた。

 

 街の中は安全とはいえ、子供だけで夜中に出歩くのは流石に問題がある。事が露見すればイシャバのドデカいゲンコツ、メナの冷たいお説教が待っているのはまず間違いない。

 

 ……ないが、しかしあなたの欲求を考えれば好機でもあった。

 

 幽霊の噂に詳しいマラン達と共に夜の街を探るのは、この世界の幽霊事情に興味の湧いたあなたにとって美味しい機会なのではなかろうか。

 

 ただ同時に、あなたの中の冷静な部分が囁く。本当に子供達に幽霊を見つけられるだろうか。

 

 あなたの経験から落ち着いて考えれば、これは子供の時分にありがちなちょっとした冒険に過ぎないだろう。特に何も見つからず、わずかな物音や夜行性の小動物の影を幽霊と誤認し、そこから想像を膨らませて彼らの中でだけは真実として通用する、ほんの小さな武勇伝を手にする……そんな結末が今から目に浮かぶようだ。

 

 それに付き合うよりは、どうせ夜の街を探るならヤレカと2人だけの方が効率的であるかも知れない。

 

 

 

 いや、と冷静な指摘は続く。

 

 そもそも論として噂など当てになるのだろうか。人々の口を渡り歩いて伝わってきた話というのは、どうしたってどこかで誇張が加わり歪むものだ。信憑性には欠けると言わざるを得ない。

 

 肝試し的に楽しむならばそれでも問題はなかろうが、あなたの今回の目的にはそぐわない。それならもっと確かな……書物や絵画として古くから伝わる情報を調べる方が良いかも知れない。

 

 

 

 むむむ、と悩むあなたの前で、マラン達は返答を待っている。

 

 どうするべきかは、今決める必要がありそうだ。

 

 

 

マラン達に同行する
あなたとヤレカ、マラン達、

合計5人で夜の街で幽霊の噂を探る

 

ヤレカと2人で噂を追う
あなたとヤレカ、

2人だけで夜の街で幽霊の噂を探る

 

昼にするようマラン達を説得する
あなたとヤレカ、マラン達、

合計5人で昼の街で幽霊の噂を探る

 

ヤレカと2人で昼の街を探る
あなたとヤレカ、

2人だけで昼の街で幽霊の噂を探る

 

夜の探索はやめさせ記録を探す
あなたとヤレカ、マラン達、

合計5人で噂ではなく古い記録を探す

 

ヤレカと2人で記録を探す
あなたとヤレカ、

2人だけで古い記録を探す

 





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