「その追放、本当に正しいですか?」   作:埴輪庭

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第1話「サポーターを追放したい!」

 ◆

 

 冒険者は強ければよい──とされていた時代も今は昔。

 

 もちろん現在でも力は重要ではあるが、十年前に魔王が討伐されて以来、凶暴化していた魔物も半ば野生動物と化し、往時と比べて大分おとなしくなった。

 

 だからといって冒険者の力が不要とされるわけではないが、単に強ければよいという時代は終わった。

 

 そこで問題になっているのが冒険者連中の頭の悪さだとか倫理観の低さ、常識のなさである。

 

 脳筋ばかりの冒険者は色んな問題を引き起こす。

 

 そのたびに冒険者ギルドは事態収拾をし、講座なりを開いて冒険者としての振舞い方を啓蒙し、時には力ずくで黙らせてきた。

 

 そんなギルドの努力はある程度実を結び、いまではそこまで深刻なトラブルが起きる事は稀だった。

 

 しかし昨今、冒険者ギルドを悩ませている事がある。

 

 それは追放問題だ。

 

 頭の悪い理由で好き勝手メンバーを追放し、加入させ、そして壊滅する。

 

 追放されたメンバーが逆恨みして復讐まがいのことをして刃傷沙汰になったりもする。

 

 こういったトラブルはギルドの評判を地に落とす。

 

 ゆえにギルドはギルド所属の冒険者に対して一つの窓口を設けることにした。

 

 それが「編成相談窓口」である。

 

 全ての冒険者はここで届出を出さないとメンバーを追放したり加入させる事ができない。

 

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 ・

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 午後の陽光が窓から差し込む編成相談窓口で、エリーナは書類に目を通していた。

 

 ──今日も始まる

 

 カウンターの向こうからやってくる男を見て、エリーナは内心で溜息を吐く。

 

 男が如何にも脳筋風の出で立ちであったからだ。

 

 きっと相談内容も脳筋なのだろうと内心で断じる。

 

「おい、ここで追放の手続きができるんだろう?」

 

 筋骨隆々とした戦士風の男だった。

 

 ──彼は確か銀等級パーティ「マーシャル・アックス」のリーダーでしたね

 

「はい、編成相談窓口へようこそ」

 

 エリーナは職業的な笑顔を浮かべる。

 

「パーティメンバーの変更をご希望でしょうか?」

 

「そうだ! うちのパーティにいる荷物持ちの女を追放したいんだ」

 

「理由をお聞かせください」

 

「あいつは戦闘で何の役にも立たない」

 

 男は拳を振り上げる。

 

「荷物持ちと雑用しかできないんだ。そんな奴、パーティにいる意味がないだろう?」

 

 エリーナは冷静に記録水晶を取り出した。

 

 青い光が宙に浮かび、男の冒険者証と感応する。

 

「それでは確認させていただきますね」

 

 水晶に映し出される映像──それは彼らパーティの冒険記録だった。

 

 森の中を進む四人組。

 

 先頭を行く戦士、後方で杖を握る魔法使い、弓を構える射手、そして最後尾で大きな荷物を背負う小柄な女性。

 

「こちらがあなた方のパーティですね」

 

 エリーナの指先が水晶を操作する。

 

 場面が切り替わる──洞窟での戦闘シーン。

 

「興味深いですね」

 

 エリーナの声に皮肉が込められていた。

 

「戦闘中、この女性メンバーが何をしているか見てみましょう」

 

 映像の中で、小柄な女性が素早く動いている。

 

 傷ついた戦士にポーションを投げ渡し、魔法使いのマナが切れそうになると魔力回復薬を手渡す。

 

 矢筒が空になった射手には新しい矢束を素早く供給していた。

 

「これが『何の役にも立たない』行動でしょうか?」

 

 エリーナの問いかけに、男の顔が赤らむ。

 

「そ、それは雑用だろう! 戦闘じゃない!」

 

「では次の場面をご覧ください」

 

 水晶の映像が進む。

 

 今度は別の洞窟──罠が仕掛けられた危険な通路だった。

 

 小柄な女性が先頭に立ち、床石の微細な違いを見抜いて罠を回避している。

 

「彼女の技能を確認してみましょうか」

 

 エリーナが水晶に魔力を注ぐと、データが表示された。

 

『罠探知:上級』『罠解除:上級』『応急手当:中級』『薬草学:中級』

 

「なるほど」

 

 エリーナは冷やかに微笑む。

 

「確かに直接戦闘は得意ではありませんね」

 

 男の表情が勝ち誇ったものに変わる。

 

「だろう? だから追放したいんだ」

 

「しかし」

 

 エリーナの声が一段低くなった。

 

「あなた方の生存率を計算してみましょうか」

 

 新たな映像が現れる──彼女がいない仮想シミュレーション。

 

 戦士が毒の罠にかかって倒れ、魔法使いがマナ切れで無力化し、射手が矢不足で後退を余儀なくされる場面が次々と映し出された。

 

「彼女なしでは、あなた方の生存率は32%まで低下します」

 

 数字が冷酷に宙に浮かんだ。

 

「一方、現在の編成では87%を維持しています」

 

 男の顔が青ざめていく。

 

「さらに」

 

 エリーナは容赦なく続ける。

 

「収入面での分析もいたしましょう」

 

 グラフが表示される──彼女が加入してからの獲得報酬の推移だった。

 

「罠回避による装備品の損耗軽減、効率的な薬品管理による経費削減、安全なルート選択による時間短縮」

 

 数字が積み重なっていく。

 

「月平均で約40%の収益向上を実現していますね」

 

「そ、そんな馬鹿な」

 

 男の声が震えている。

 

「馬鹿なのはどちらでしょうか?」

 

 エリーナの眼差しが鋭くなった。

 

「戦闘だけが冒険の全てだと思い込んでいる方ではありませんか?」

 

 最後の映像が現れる。

 

 それは先週の依頼──古い遺跡での宝探しだった。

 

 複雑な仕掛けを解き明かし、貴重な魔道具を発見したのは、まぎれもなく彼女の技術だった。

 

「この発見による報酬は50万ゴールドでしたね」

 

 エリーナは書類をめくる。

 

「あなた一人の年収を上回る金額です」

 

 沈黙が窓口を支配する。

 

 男は言葉を失い、ただ立ち尽くしていた。

 

「冒険者ギルドとしての見解です」

 

 エリーナは書類を閉じる。

 

「この追放申請は却下いたします」

 

「む、無茶苦茶だ」

 

 男が最後の抵抗を試みる。

 

「俺がリーダーなんだぞ!」

 

「リーダーなら尚更です」

 

 エリーナの声に氷のような冷たさが宿る。

 

「メンバーの価値を正しく評価できない指導者など、リーダーの資格はありません」

 

「ぐ……」

 

 男は歯噛みしたが、反論の言葉が見つからない。

 

 データという冷酷な現実が、彼の偏見を完膚なきまでに打ち砕いていた。

 

「それとも」

 

 エリーナは最後の一撃を放つ。

 

「彼女を失って収益が激減し、生存率も下がったパーティで満足されますか?」

 

「ぐっ……う、い、いや……。そうか、分かった。一度、あいつと話してみる……。俺も少し短絡的だったみたいだ」

 

「それがよろしいでしょう」

 

 そういって男は去っていく。

 

 それを見送りながら、エリーナは小さくため息をついた。

 

 しかし最初のものとは違い、それは達成感と安堵により彩られたものだ。

 

 ──また一つ、愚かな追放を阻止した

 

 エリーナは口の端にわずかに笑みを浮かべた。

 

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