ゲヘナに舞い降りた堕天使 作:シファー
美甘ネルにとって聖園ルカとは一言で表すのは難しい複雑な相手である。得難い
「宿敵」と呼ぶほどには怨恨や因縁は無いし、師でもあり、気に喰わない部分もあるが、やはり「超えるべき壁」というのが一番しっくりくるだろうか。
奴の正真正銘の「全力」は「生徒相手じゃ殺さない自信が無いから使わない」と宣言しているが…まあそれが奴の
結局不甲斐ないのは手を抜いた奴にも勝てない自身含めた奴以外の全てなのだから。変身1回目の本来の姿で戦うくらいはしていいと思うのだが、それすら生徒相手では空崎ヒナと小鳥遊ホシノのコンビを相手にしか使ったことはないらしい。
キヴォトスの
別に
しかもその「ナンバー2」の方が群雄割拠状態で有象無象の議論が盛り上がるらしい。ふざけるな。自分達は対等な
ネルがルカと出会った時の衝撃は今でも忘れない。当時余り関わりの無かったセミナーの1年のリオが息を切らしながら自分を呼びに来たのだ。
「ハァハァ…美甘ネル、来てちょうだい、貴女の力が必要よ」
「アン、お前調月リオだったか?急になんだよ、説明くらいしろっつーの」
「『敵襲』よ…!」
ついていった先の校門付近では妙なおもちゃの仮面を被った、白翼のチビ女*1が、倒れ伏した先輩達の1人に腰掛けながら話しかけてきた。
「お!来た来た、ネルちゃん、やっぱり居るじゃん、私は『この学校で1番強い人連れてきて』って言ったのに勘違いしたお馬鹿さんたちがわらわらと『それは自分だ』とか言って襲いかかってくるんだもん、
そのうち兵器のテストにまで使われちゃうし…やんなっちゃうよねえ、最強は君でしょ?美甘ネルちゃん…」
多数の銃口を向けられているのにあっけらかんと言うそいつに戦慄した。
「待て、テメエなんでアタシを知っている?」
当時の自分の知名度なんてまだまだ低かったのに未だに謎だ。それにアレは「敵襲」というより「道場破り」の類だっただろう。当時の奴は自身の知名度や最強の座なんて興味無いから顔を隠していやがったが。
そうして場所を演習場に変えていざ戦ってみれば奴は銃なんて一切使う素振りも見せずに殴りかかってくるし。
だが「近接では最強」という自信は木っ端微塵に砕けた。奴の間合いが拳なのだから当然だろう。今より荒削りで力任せだったが、当時から頭のおかしい破壊力は健在だった。速度も今ほどじゃないがあったし。
結局慣れない素手ということもあって、当時の自分は5分くらい防戦気味に粘った挙げ句いいのを貰って敗れてしまったが。結果は敗戦だったとはいえ、あの時間は極上だった。
一手間違えただけで即死するような
「『壊すのが得意』って言うけど、それって『暴れるしか能が無い』ってことでしょ、それってめっちゃダサくない?大体制御出来ない暴力なんて為政者側からすれば恐すぎて重用しにくいわよ、アンタがそんなんで、セミナーから疎まれるのも嫌よ、私は」
当時の自分は単純なものでその言葉にあっさり乗せられ、無秩序に暴れるような戦い方は控えるようになった。つまらない相手や任務に思いっきりエネルギー消費するのは無駄の極みだし。
物損が減ってセミナー連中からも素直に感謝されるようになった。今考えればそのあたりの指導をセミナーが奴に頼んでいたのかもしれないが。セミナー連中が自分より頭が良いことは認めている。
しかしどこかで「頭でっかちのモヤシ集団」と見下す気持ちも0ではなかったのだ。だが連中並みに頭が良くて自分より強い奴の言うことはすんなりと聞ける。お陰でセミナーとの関係も大分改善したし。
今、奴は
───
ゲーム開発部は先生とヴェリタスにエンジニア部まで巻き込んで夜のミレニアムでC&Cとドンパチしていた。
「ダブルオーが居ないなら動く気は無かったんじゃないのですか?」
「うんそうね、もうすぐ到着しそうみたいだから私も出るよ、ネル以外で特に厄介なのは狙撃手のカリンと、訳わからん勘を働かせるアスナ…ネル来るまで動かないのもアレだし、ユウカの傍に居るアカネを狩りに行きましょうか。」
「その前に早く私を向こうのビルに運びなさい、なんかエンジニア部の部長と
「へいへい、じゃあぶん投げルカ」
「冗談でもお止めなさい、腕力的に出来そうなのが恐いッ…」
「じゃあ普通に飛んで行きましょか、名物ルカちゃんタクシーでごぜえますよ」
ワカモをお姫様抱っこして空輸する。カリンの頭上30mくらいからワカモを落っことす。
自由落下しながらライフルも撃ち込み奇襲するがカリンは咄嗟に躱す。
「【災厄の狐】…ルカさんも…本当に居た…」
「へえ!今のを躱すとかやりますね、ゼロツーさん、そんな無粋な機械人形ではなく今宵は
───
「カリンがあのワカモと交戦状態に入った…」
「ルカの戦力評価的にネル以外じゃ無理ね…」
「そうね、それでアカネ、貴女もここで倒れる」
影からぞぶぞぶ出てくるルカ。
「「はあ!?」」
「何よ、アンタ、それ…」
「ぶっちゃけ
「ぐ…脳筋の極みな戦法のクセに無駄に器用なんだからぁ…!」
「はっはールカちゃんは武力200知力100のチートキャラだからねえ」
フッと姿が消えたと思うとアカネの腹に拳がめり込んで即倒れ伏す。
「アンタはもう寝てなさい、アカネ」
「で、アスナ、アンタが私の相手する?」
「あははーむりむりー降参こうさーん、リーダー抜きじゃ時間稼ぎすら出来ないよって」
「じゃあ行こっかモモミドに先生、アリスも来たようだし」
「ちょっと、何で私は無視するわけぇ!?倒すまでもないってことぉ!?」
「だって、もうここまできたら誰が指揮しようがどうにもならないし、戦うことが好きでもない友達を私が殴るわけないじゃない」
心底不思議そうに言うルカ。
「やっぱあんたタラシだわ…」
なんでよ。
「アスナ…理解っていると思うけど…」
「リーダーと
「理解ってるのならいいわ、ここからは余計な横槍は居て欲しくないし…」
───
「ここが差押保管所?」
「ボロボロだね…カリン先輩の跳弾でかな…」
「私は外で見張ってるから、もし私がおっ始めてたら無視してとっとと撤退しなさい、先生も、ね」
「オイオイオイ!妙な騒ぎになっていると思ったらオマエか!?お前が『敵』なのかぁ!?」
「やー直接会うのは数カ月ぶりだねネル…」
本当に珍しく、ルカが構える。ルカが速度のゴリ押しで縦横無尽に駆けて蹂躙するのは格下が相手の時だけだ。自身の速度に追従出来る者が相手だと、その速度は諸刃の剣に成り得てしまう。
不用意に飛び込めばカウンターでかなりのダメージを貰ってしまう。無論豊富な神秘量で滅茶苦茶堅いので一発くらいで倒されることはないが、わざわざ貰ってやるのも面白くない。
鍛えることに余念のないルカは当然のように技術も収めている。圧倒的銃社会のキヴォトスでは格闘技はマイナーだが、山海経の鹿山レイジョのように皆無というわけではない。百鬼夜行で空手っぽいものと山海経でカンフーっぽいものを収めている。
ちなみに今日はボクシングの気分だ。5m程度の距離を秒もかけず踏み込んで0にし、左のジャブを放つ。ネルは顔を掠める戦車砲に匹敵するソレをギリギリで躱してSMGの弾をばら撒く。流石に近距離ではルカでも躱しきれるものではなく、何発かは被弾する。
ネルの神秘量だとルカも、ある程度はダメージを受ける。だが、ジャブの方も躱しきれるものではなく、更に何発か受けてしまえば、本命の右に捕まる。
───
「あった!【鏡】だぁ!」
「早く撤退しよう!
「素人の私達でも感じられるほどの重厚な神秘の激突…!」
「ははははははははははははははあああああああああああ!」
「らああああああああああああああああああああああああああ!!」
「うわ…やっぱりぜんっぜん見えないや…というかドローンが沢山飛び交ってる…」
「皆観戦したいんでしょっとっとと逃げようお姉ちゃん、皆っ!」
ところどころ、火花や飛び交う弾丸と閃光と銃声、急に出来る弾痕、チラ見えするピンクとオレンジの髪だけでしか2人の戦場であることが判らない。ゲーム開発部と先生は、次元違いの戦いを尻目に撤退していった。