ゲヘナに舞い降りた堕天使 作:シファー
「アユム…私の居ない1週間どうでした?」
公欠扱いで半ば無理矢理休まされていたリンが休み明けでアユムに聞く。主語が無くても何を聞いているのかくらいは分かる。
「どうって…凄まじかったですよ…ヴァルキューレでもどうにも出来ない規模の騒ぎが起きた時は、自ら出撃して10分もかからずに鎮圧して帰ってきましたし…
通常の業務も会長に何ら劣らない仕事ぶりでしたね…あと人を使うのが凄く上手かったです…殆ど関わったことが無さそうな人でも的確に能力に応じた仕事を割り振っていましたし…
『見ただけである程度能力測れる』って噂、本当みたいですね…残された任期が、そう長くないのが残念なのですが…あの会長がずっと自慢していただけはありますね…」
「武力、だけではない…とは知っていましたが…やはり…」
「副会長就任」については連邦生徒会では全く異議が上がらなかった。カヤは怪しげな眼をしていたが…まあ去年までは会長が私を勧誘する光景が日常になっていたからな…
「ようやくか」みたいな反応多かったし…あくまで「副」なのが良かったのかもしれない。「今代の会長は彼女以外有り得ない」というのが特に連邦生徒会内では根付いているだろうし。
健気に「会長が帰ってくる場所を守るんだ」みたいな感じで頑張っている子達も居るのだが、そんな子達に先延ばしにはせずに現実を突きつけるのか、黙ったままでいるのかどちらが正解かは分からない。
まあ「今の会長」を観測出来るのが私と先生しか居ない以上黙っているしかないのだが。「幼女AIに転生して先生のサポートしています」なんて言ったら私でも即病院に放り込まれるわ。
就任発表直後は当然だが、騒ぎになった。ティーパーティーと風紀委員会には事前に伝達済みだったのだが、その日はスマホの通知が止まなかったし、
D.U.にまでヘルメット団が巨大な連合を組んで侵攻してきて、「就任祝いだ!」とか阿呆なことを抜かしてきたから、ヴァルキューレでもどうにもならなそうな規模だったので私自ら出撃して3分で全滅させて、全員「影」の中に仕舞って
ヴァルキューレに突き出したら、また武勇伝が増えてしまった。これまである程度能力は隠していたのだが、絶許のカイザーとベアトリーチェは片付いたので私もあんまり隠さなくなった。
まあクロコじゃ私には勝てないだろうし、色彩云々はどうでもいいのだ。会長失踪以来下がり続けていた連邦生徒会の支持率も鰻登り…だそうだ。
政務関連はまあ、各地で次々と起こる問題は大体がヴァルキューレで対応出来るものなので、強すぎた会長の権限をある程度行政委員会に分割して委譲して、欠陥だらけの体制をある程度改善していった。
会長の権限が巨大過ぎる分義務も多すぎたし、なんであんなに対策室有るのに会長はあんな激務なのかと思っていたら、単純に会長以外でも出来るような業務まで回ってきていたからである。
性質上、防衛室が一番激務なのだが、そちらを特に増員してなんとか回るようにしていった。私はこの手の改革、体制の改善が一番得意なのだ。
そして空いた時間を使って、室長全員と面談していった。皆じっくりと話したことはなかったので実に有意義な時間だった。1人くらい反抗的なのが居ることに期待していたんだが全員従順だった。ちょっとつまらない。
そして意図的に最後に回したのが───
「それで、アンタが最後なんだけど…なんか言いたいことないの?」
「ぐぅううこの頃防衛室が忙しいのは貴女のせいでしょうっ聖園ルカァ!」
「会長職に集権し過ぎてたせいで本来
「それにその分防衛室の権力増えたんだからアンタとしては願ったり叶ったりでしょう?アンタが成ろうとしていた会長職なんて、その最たるモノよ…巨大な権利を持つ者はその反面多くの義務が発生するの。はっきり言って連邦生徒会長なんて名誉職の貧乏くじよ。
アンタ程度の凡人の域を出ないのが引き継いでも権力碌に使う暇も無くすぐ潰れるわよ」
「王様や貴族が働かずに食っちゃ寝して権力だけ巨大に持っているのなんて創作の中だけ、現実は王様も貴族もきちんと働かなきゃいけないの。それが出来ないようなのばかりだったら内側から腐って国ごと滅ぶだけだわ」
「アンタは会長に成ることがゴールだと思っていたみたいだけど、重要なのは『その後』でしょう。後クーデターなんて外法選ぼうとしていた時点でアンタが言う『超人』からは程遠いから。」
「私達はそんなことしなくても正攻法で、能力と実績と人格で認められているの。アンタが見下していたリンちゃんはアンタの100倍優秀よ?まあお堅いせいで人望は微妙なとこあるけど…それでも近しい者達は彼女が会長代行することもきちんと認めていたの。
彼女の能力、努力、心労、高潔さを慮ってね…で、謀略しか取り柄のないアンタは私をここからどうやって堕とすの?支持率ほぼ100パーの私に対して悪質なデマでも流す?それとも絶対に勝てないFOX小隊けしかける?やってごらんなさいよ、さあ!さあ!さあ!」
「ひぃいいいいいいいいいいい…う…うわぁあああああああああああああああああん」
カヤは「何故クーデター計画のことがバレているのか」とか思う暇も無く、言葉だけで折られて泣いていた。というか圧力だけで普通に恐い。
「そこまでにしてあげてくださいルカさん…」
「発言を許可した覚えはないわよニコ」
FOX小隊には一応同席してもらっていた。これまでの上司だったカヤに引導を渡して袂を分かつために、だ。
「はーっ張り合いないわねえ、最近私に本気で歯向かってくるようなの皆無で退屈なのよ、もう」
「それは個人の武力で、対抗出来る見込みのある者達が、残らず貴女に懐柔されているからじゃないですか?」
「人格者」と評される一方でこういった「挑戦者ウェルカム」な面もあるのだからやはりゲヘナの長らしくもある。
「あ、それもそっか、皆もう友達だからね、模擬戦も楽しいんだけどね、やっぱ『本気でぶっ潰す』って気概が欲しいよね、ネルもアレで結構優しいから情が見え隠れするしなあ」
「能力と実績と人望で味方を増やすのも貴女の器の大きさを示しているのでしょうが…」
「カヤ…アンタの何代も前から防衛室がカイザーと癒着して、何も知らなかったアンタが入った頃にはどうしようもないくらいズブズブに腐敗した状態だったのには同情するわ…
でも、アンタは『自分は超人になるんだから自分だけで解決できる』と下らない意地を張って誰にも相談しなかったでしょう。その時点でアンタは決定的に間違えた。
『超人』だろうがなんだろうが身体は1つだけなんだから、1人じゃ出来ることなんて限られてんのよ。私は頼りになる友達が居るからねえ…私より強い子…は流石に居ないけどそれに準ずる子達も、私より頭の良い子も、ね」
「まあ身体は誰でも1つ」という常識に真っ向から反しているのが最近の私なのだが。