ゲヘナに舞い降りた堕天使   作:シファー

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第9話 次なる脅威()

 ルカはホシノの家に泊まることになり話し合っていた。既に慣れたものだ。ユメはアビドスに自分の家があるし、ルカによく懐いているシロコやセリカに誘われても大体ホシノの家に行くのがお決まりだ。

 

ちなみにセリカの誘拐は起きなかった。キヴォトストップレベルの戦闘力を見せたホシノと私の存在にビビったらしい。

 

「それで───今更大人の人なんて連れてきてどういうことなのさ」

 

「貴女も本当は理解っているんでしょ?先生は今までのクズ共とは違う───能力はもう疑うべくもないし、ユメちゃんがアレだけ早く懐くのも珍しいでしょ?」

 

「キミが居ながらっ…なんでっ…」

 

「なぁに、先生に嫉妬?ユメちゃんの態度にも確かに(いろ)があったもんねえ、まだまだ本気ではないと思うけどこの先どうなるかは判んないからねえ」

 

「私はね、先生みたいな人をずっと待っていたの、暴力だけでなんとかなる範囲なら私に不可能はないけど先生とS.C.H.A.L.E(シャーレ)なら届かなかった痒い所にも手が届くようになったから…」

 

「きちんと自分の眼で見るまで安心出来なかったんだけどね、先生は期待通りの人だった。ユメちゃんのことは心配しないで、先生とユメちゃんは私が絶対守るから。貴女達が今でも共に笑っていられる今の時間は、私にとっても(ユメ)みたいなものなの…」

 

「なぁにそれセイアって子の予言みたいなもの?」

 

「…私セイアのこと貴女に話したことあったっけ?」

 

「別に口止めされていないから言うけど…ミカちゃんが『あの時の件』の後に1人で謝りに来たんだよ…」

 

「え!?あの子無神経なところあるから何か失礼なこと言わなかった?」

 

「いや普通に礼儀正しく良い子だったよその時に『セイアちゃん』の愚痴をね…」

 

「はあ…あの子は…少し仲良くなるとすぐチョロ甘になるんだから…」

 

1年ほど前だが、既にゲヘナに籍を移した私は、今後の身の振り方を考えながらアビドスに入り浸っていた。ノノミやシロコら2年生を呼び捨てにしているのも1年生2人よりは結構付き合いが長いからだ。

自治区間の距離は結構あるのだが、私の能力が有れば移動時間など考慮に値しない。トリニティを抜けたのも「羽根が変わった」というのは表向きの理由で、実は他にも理由は有る。

その1つに「ミカと距離を置きたかった」というのがある。ミカはずっと私にべったりだった。依存度が高すぎてちょっとヤンデレも入っていたように思える。

セイアに対する反抗心も「(わたし)と仲が良かった」というのも一因だったと思う。ミカは控えめに言っても天才だった。ハナコに比べたら腕力寄りだろうし、政治的なことを殆ど学ぶ気が無いからアホに見える時もあるが地頭はかなり良い。

要領が良く、平均学力の高いトリニティ内で最低限の学習で常に学年トップクラスを維持出来る頭の出来、生来の豊富な神秘と高い運動能力から鍛えずして才能だけでキヴォトス最上位に食い込む戦闘力。

一方同格の才を持つ私はそこそこ努力をして、学年首席を維持していたし、戦闘力についてはアホみたいな修行を繰り返して、ぶっちぎりだった。

ミカも努力すれば、最強にも最高にも成り得たが「そういうのは面倒だから全部姉に任せればいい」というのが透けて見えた。同世代で唯一身近な対等以上の存在が自身に惜しみなく愛を注いでくれる姉だったのだから、依存するのも仕方なかったように思える。

私もそこまで自分を高めてしまったから連邦生徒会長とつるむ時間が多くなったし。彼女は確かに「超人」と呼ぶに相応しい能力を持っていたが、すぐ居なくなることも分かっていたので、互いにどこか達観しながら付き合っていた。

会長は唯一私と戦闘で引き分けたことがある人間だ。ヒナちゃんやホシノ、ツルギやネル達との戦いは他よりはかなり楽しめたが、もうアレ以上誰かとギリギリの勝負になることはないだろう。

まあ今の私と当時の会長が戦えば流石に余裕でひねり潰せるだろうが。会長が今でも健在で私と似たような修行をしていれば五分だったかもしれないが、もう意味の無い仮定だろう。

そもそも政務に多くの時間を割いていた彼女は元々頭脳寄りの人間だし…ハナコの頭脳と計算高さにヒナちゃんの戦闘力を積み、ミカの明るさとカリスマを加えたような、完全無欠の超人だった。

そんな彼女が自己犠牲紛い(恐らく)のことしなければ、どん詰まりになるこの世界のシビアさには恐れ入る。

私がよくアビドスに居ることも知っている者は知っていたので、ミカは私を追っかけてアビドスに突貫した挙げ句、口論の末に巨大隕石を喚び出してしまったのだ。

キヴォトスが滅ぶほどでないとはいえ、アビドスは普通に滅ぶレベルの物を。他人の前では初の「完全テラー化」を披露し、全力で隕石を砕いて被害を抑えたのだが。

砕いた隕石はミカと私の神秘が込められた非常に貴重な物になり、集めたらミレニアムに高額で売れた。そもそも隕鉄自体が元々希少で貴重な物だ。迷惑料として大半をアビドスに殆どを寄贈したので、借金額は結構減った。

 

 

便利屋68の少し見栄を張った賃料高めの事務所にて───

 

「次の獲物は…アビドスよ、報酬も多くて仲介人によれば大口の依頼らしいわ」

 

「アビドスか…私は止めたほうがいいと思うけど…『ルカの縄張り』って話もなかったっけ?」

 

「う”!ルカ…ね…」

 

「あいつは確かに私達に甘いところあるし、社長も妙に気に入られているけどさ『一線』を踏み越えた者には容赦し無くなると思うよ?怒らせたらヒナの何倍も恐いし、そもそもアビドスにはあいつが『ヒナと同格』と評した小鳥遊ホシノがいる…」

 

「『ホシノは普段はやる気なさそうに見えるけどヘタに追い詰めて怒らせて本気出されたらヒナちゃんやツルギやネルより恐くなる』ってあいつが言っていたでしょ…」

 

「『小鳥遊ホシノと美甘ネル、剣先ツルギの3人は空崎ヒナと同格の実力者、もし已む無く対立したらせいぜいが時間稼ぎまでにして逃げなさい』…だったかしらね」

 

キヴォトスには個人で戦略を覆す傑物がしばしば存在する。ゲヘナ生の自分らがよく知っているのは、ヒナとルカだけだが…その連中が口々に「最強」と認めるルカは更に別格だ。

 

「ちゃんと覚えているじゃん。私達も普通に結構世話になったことも有るし、社長と妙に気が合う部分が有るのも仲間想いで規則より仁義を重んじるところがあるからでしょ?あいつの忠告や助言は役に立ったものが多いじゃん、

それを無視してあいつ自身を怒らせたら眼も当てられないよ」

 

「アビドスを首尾よく追い詰めてもそのホシノちゃんに本気出されたり、ルカちゃんが飛んできたら詰んじゃうよねえ?」

 

「ヒナと同格」というのはゲヘナ生にとっては絶望そのものだがそれ以上のルカは怪物を越えたナニカだ。本気で追いかけられたら逃亡すら許されない。

 

「文字通りに『飛んで』来るからね…本当冗談みたいな奴だよ…」

 

「アルちゃん浮かない顔だねぇ?前に言われたこと気にしてるのぉ?」

 

「『そもそもアウトローなんてものは『憧れて成る』ようなものじゃなくて『成らざるを得なかった』はみ出し者達のことを言うの。そんな中でも誇りを捨てずに自分を貫けるようなほんの一部の者だけがカッコ良く見えるのよ…

本当に格好良いのはそういう極少数の強者だけ。大抵は真面目に正道を生きている者達の方が立派でそちらの方が格好良いんだし、『アウトローそのものが格好良い』なんてことはまずないから。

悪人てのは大半が罪もないカタギの弱者を食い物にして踏み躙るゲスのことを言うの…『誇り高い悪』なんて創作の中にしか居ないから。アルちゃんも仲間や弱者を思い遣れる優しい良い子なんだから良い加減

漫画や映画に憧れたごっこ遊びは止めないとそのうち大火傷するよ?』だったっけ…まあ概ね同意だね」

 

「…一字一句違えずに覚えているのね…」

 

「まあ、あいつの言葉はすんなりと入ってきやすいから。頭の固い他の風紀委員なら『社長が優しい』なんてことまず言わないし…私らのことも1人1人向き合ってくれているような思い遣りが感じられるし」

カヨコの言葉に3人共納得する。アル本人からすれば不本意なのだが「アルが優しい」なんて仲間たちからすれば今更だし、彼女らからしてもアルの良さが理解っているルカには割と好意的だ。

アル全肯定のハルカも概ね同意だ。アルのことを馬鹿にしているわけでなく、きちんと評価した上で思い遣っているのだし。3人共アルを慕って付き合っているだけで別にアウトローに対する妙な拘りはない。

便利屋はかつて「千銃」を名乗る彼女と仕事で対立した時にこっぴどくやられた。その後は正体を明かした彼女から何故か「神秘(チカラ)の使い方」を全員が叩き込まれ、仕事の成功率が一気に上がったのだが。

今少し困窮しているのはアルの散財が主な原因である。

 

「ぐ…ルカにビビって自由に生きられるかぁ!構わない!アビドスを落とすわよ!」

 

「はあ…嫌な予感しかしないんだけどね…」

 

この際もう全員で痛い目に遭ってもらうしかないようだ。でも嫌だなああいつの攻撃銃でも素手でも無茶苦茶痛いし。カヨコは諦観と共に自分達の運命を受け入れた。

 




次回「陸八魔アル死す!?」
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