ちょっぴり○○な生徒たち   作:霜乃

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今回の原案というか、元ネタなのですが、先日B1の鯖メンが「近交系マウスの母性攻撃行動に関する研究」なる論文を引っ張ってきました。

それです。

原案≠執筆


ちょっぴり母性強めなサヤ

“…こりゃダメそうだねぇ。”

 

“先生、悪いけどオレが役に立てるのはここまでみたいだ。”

 

 

そう言って、運転手は会計の準備を始める。

 

…今日は何やらイベントが開かれているようで、街はいつも以上に賑わっていた。

 

各所で交通規制が行われており、やっとの思いで見つけたタクシーも西通りの手前まで送るのが限界らしい。

 

事前にスケジュールを確認していなかった自分が悪いのだが…これはサヤになんて言い訳しようか。財布を取り出しながら、こうなってしまった経緯を思い返す。

 

…今日こうして山海経まで来ているのは、昨日サヤから届いた一通のモモトークが始まりだった。

 

その通知によると、

「また新しい薬ができたぞ!先生に見せたいから、明日山海経まで来てほしいのだ!」

…とのこと。

 

仕事が詰まっていたため、待ち合わせを午後にずらしてもらったのだが…この様子じゃ、日が暮れるまでに間に合うかすら分からない。

 

一先ず遅刻するという旨のメッセージを送信して、タクシーを降りる。どこもかしこも人だらけで、油断したらすぐに方向を見失ってしまいそうだ。

 

 

 

~~~

 

 

 

…人混みを抜け、スマホで現在位置を確認する。

 

サヤから送られてきた待ち合わせ場所は街角にある有名な茶屋のようで、ナビを見るに最短経路を選んでも30分はかかるらしい。

 

既に日は傾き始めており、本来予定していた約束の時間はもうとっくに過ぎている。

 

…生徒を待たせていることに後ろめたさを感じ、ため息をつきながら足を動かす。この辺りはまだ歩き慣れていないもので、土地勘のない私はマップに表示された道をそのまま進むことにした。

 

…残り2km。まだ先は長いなぁと思ったとき、ふと後ろから私を呼ぶ声が聞こえた。

 

 

“あん?センセーじゃねえか!”

 

『…うん?』

 

 

…振り返ると、スケバンたちが横並びに立っている。

 

 

“ウチら今からカラオケ行くんだけどさぁ、センセーもどうよ?一緒にさ?”

 

『…嬉しいけど、今日は先約があってね、ごめんよ。』

 

“ったくノリ悪ぃなー!ほら、今日はツケで持ってやるからさ、ウチらと楽しいこと──”

 

 

…今日はツいてないなぁ。

貧弱な私では、彼女らに無理やり連れてかれるのがオチだろう。さて、一体どうすればいいものか…

 

しばらく口で粘ったものの、やはりこれといった抵抗もできず肩を掴まれてしまう。隙も無く彼女らに取り囲まれ、ついに逃げ場を失った。

 

…今日はもうダメかな、サヤには後で何と話せばいいだろうか。

 

そう思案していたとき──

 

 

 

~~~

 

 

 

「まだかなぁ…」

 

 

…先生が来ない。少し遅れるとモモトークで連絡が来ているけど…だからといって、こんなにぼく様を待たせるのはやっぱりおかしい。

 

早く来てほしいなと、通知のないスマホを気だるげに見つめる。しばらく操作がなかった画面はぷつんと光を消して、真っ暗な鏡はぼく様の落ち込む顔を写すだけになった。

 

 

「…ん?」

 

 

…不意に、胸騒ぎがする。

得体の知れない不安のようなものが、ふつふつの胸の奥から沸き上がってきて。ただ理由もなく、ここにいる場合じゃないと焦りが生まれてきて。

 

 

「っ!」

 

 

カタンと、食器が揺れた。

気付くと自分は、食べかけの茶菓子をそのままに席を立っていた。

 

荷物を持ち上げ、ふらふらと出口へ進む。店員の呼び止める声も耳に入らず、待ち合わせの約束も忘れて店を飛び出る。このまま何もしなかったら、後悔する気がして。

 

そうして、直感が示す方向に足を進める。

何だか分からないけど、近づいている、という感覚が掴めた。多分…匂いだ。一歩進む毎にその匂いは濃さを増して、より鮮明に嗅ぎ取れるようになって…

 

…この匂いは、

 

 

「っ先生!!」

 

 

本能で先生の居場所を知覚する。

それと同時に、さっきの胸騒ぎの正体を理解した。先生に、何か起きているんだ。それもきっと、良くないことが。

 

歩くペースを早め、歩幅は徐々に広くなっていく。進めば進むほど、抱いていた疑念が確信へと変わっていく。危険な匂いだ、先生はきっと危ない目に逢ってる。…急がないと。

 

人混みを掻き分け、狭い路地を潜り抜け、先へ先へと走り続ける。そうして、ある閑散とした商店街に辿り着く。

 

膝に手をつき、ぜぇぜぇと息を切らしたぼく様が顔を上げると──

 

 

そこにいた先生は、スケバンたちに肩を掴まれていた。

 

 

 

「…は?」

 

 

 

…ヘラヘラと笑いながら、ゴミ虫共が先生にたかっている。

 

…許せない。許せない。許せない。

 

ぼく様の先生が汚されちゃう。ぼく様の先生が傷つけられちゃう。…早く、早くぼく様が行ってあげないと。

 

…先生、今助けてやるからな。

 

 

 

~~~

 

 

 

「…ぼく様の先生に何してるのだ?」

 

 

…その一言から発せられる圧力は、周囲の喧騒を掻き消すのに十分なくらいだった。

 

場の空気は一瞬にして張り詰め、各員がぴたりと動きを止める。その迫力に気圧されたのかスケバンたちの顔はみるみる青ざめていき、腰を抜かして座り込む者までいる。

 

…彼女らは何か言おうとしていたようだが、その口はパクパクと動くだけで、ついに言葉を発することができなかった。

 

 

「…先生から、離れろ」

 

 

その威圧的な気迫は、気を抜くと今にも気絶してしまいそうな程にまで増幅する。

 

圧倒されたスケバンたちは、しかしその場を離れることすら叶わない。無理もないだろう、こんな脅迫を直に受けて、まともに動ける方がおかしい。

 

…我慢の限界に達したサヤは、手を震わせて拳銃を抜き、安全装置を解除した。

 

ここでサヤを刺激したら、ヘイローを破壊されるどころじゃ済まない。それよりもっと酷い目に逢う。

 

一瞬の過ちが命を奪いかねないこの状況下で、スケバンたちはただ必死でサヤの顔色を伺い、体を凍りつかせるだけだった。

 

 

「早く」

 

 

…撃鉄が起こされる。

 

冷たい音が響き渡り、我に返ったスケバンたちが状況を理解する。

 

 

“っはいぃ!!!”

 

“おお前ら!急げ!!”

 

 

…僅かに立ち上がることのできた者たちが、残りの仲間を引きずって一目散に逃げていく。

 

 

 

その一帯には、もう私とサヤの他に誰も残らなかった。

 

 

 

~~~

 

 

 

「…先生?」

 

 

…緊張が解けた瞬間、私は力が抜けてへなへなと座りこんでしまった。

 

 

「…あ」

 

 

サヤがそんな私に気づいたらしく、急ぎ足で駆け寄ってくる。

 

 

「ご、ごめん先生!先生まで怖がらせちゃったのだ…」

 

「で、でももう大丈夫だぞ?悪いやつはもう皆いなくなったからな!」

 

『…ぇ、あぁ…うん…』

 

「…先生!?泣いてるのか!?」

 

 

…いつの間にか涙を流していた。それなりに肝は据わっている方だと思い込んでいたのだが…少し考え直す必要があるらしい。

 

…正直なところ、サヤがあそこまで怖い顔をするとは思ってもいなかった。それにあのドスの効いた低い声は、聞いた瞬間に脳が危険信号を発するレベルだった。

 

私のために立ち向かってくれたのは嬉しいけど、サヤの評価はちょっと変えるべきかもしれない。

 

彼女はきっと…人の為ならどこまでも強くなれる子なんだろう。…きっと。多分。

 

 

「えぇっと…ほ、ほら先生!よしよし…怖くない怖くない~…」

 

「うーん…そうだ!チ、チーズ食べるか!?たぶん元気になるぞ…?」

 

『…え?…あ、ありがとう…』

 

 

結局その後、涙が止まるまでサヤにあやされ続けた…

 

 

 

~~~

 

 

 

「先生、立てそう?」

 

『えっと…ごめん、ちょっと腰やっちゃったみたいで…あはは…』

 

「そ、そうか…」

 

「…じゃあ、ぼく様の家まで運ぶぞ?」

 

『え?』

 

「ここからそう遠くないし、今日のところはぼく様の家に泊まってくのだ。そんな様子じゃ、多分シャーレまで帰れないでしょ?」

 

『…そうかも』

 

「なら、決まりなのだ。ご飯はぼく様が作るから、楽しみにしてね!」

 

 

…最初は断ろうと思ったが、自分の状況を鑑みるに…ここはサヤの厚意に甘えた方が賢明だろう。

しかし今日は、遅刻して、スケバンたちから助けてもらって…サヤに迷惑をかけっぱなしだ。

 

 

『今日は何から何までごめんね、面倒かけてばっかりで。』

 

「そんなことないぞ!?むしろぼく様がいつも先生のお世話になってる分、今日くらいはぼく様に頼って欲しいのだ!」

 

『ははは、恩に着るよ。』

 

「…それと先生。歩けないなら、家まではぼく様がおんぶしてくぞ。ほら、背中に乗って?」

 

『………え?』

 

「遠慮しなくていいんだよ?先生なんてネズ助より軽いくらいだからな。」

 

『…その、杖とか車椅子とかは…』

 

「そんなものはないぞ?」

 

 

その後、本当に背負われてサヤの家まで行った。これルミに見られてたら相当笑われただろうな。

 

…でも、ありがたいことに帰り道には人通りのないとこを選んでくれたらしい。

 

今度お礼をするときはなるべく良いものを用意しようと、その日の私は決心したのだった。

 

 

 

~~~

 

 

 

連れてきた先生をソファに座らせ、急ぎめに夕飯の支度をする。

 

実験はしなくていいの?と先生に聞かれたが、先生のお世話に比べたら、そんなことは別にいい。また他の日にやればいいだけのことだ。

 

…それにしても、道中で背中に感じた先生の体重は、不思議なくらい軽かった。成人の体重はデータで見たことがあるが、身長を鑑みても先生は平均より10キロ以上軽いだろう。

 

…ちゃんとご飯を食べれてるのかな。

 

…何か病気にかかってはいないのかな。

 

そんな不安が、否応なしに湧き上がってくる。

 

…いつまでも先生に元気でいてほしいという願いは、ぼく様の勝手なエゴだろうか?

 

…っと、早くご飯を作らなきゃ。きっと先生はお腹を空かせてるに違いない。

 

 

 

~~~

 

 

 

家にある食材を惜しみなく使い、目一杯の愛情を込めて料理に腕を振るう。

 

せっかく先生が帰ってきたんだから、とびきり美味しいものを食べさせてあげたいな。

 

…あれ?

 

いま、ぼく様はなんで「帰ってきた」だなんて思ったんだろう?

 

…まぁ、いっか。

 

 

 

「…できたぞ、先生!」

 

『…これ全部サヤが作ったの!?すごいね…!』

 

「ふふん!もっと褒めてくれたっていいんだぞ?」

 

 

テーブルに料理を並べると、先生はキラキラと眼を輝かせた。その様子は本当の子どもみたいで、見てるこっちまで幸せな気持ちになってしまう。

 

 

『…ヤ、』

 

『…サヤ?』

 

「…うん?」

 

『その、もう食べてもいい…?』

 

「っあぁ、勿論だ!ほら、いただきますするぞ?」

 

 

「『…いただきます!』」

 

 

危ない、ついつい見とれていた。気を抜くとすぐこうだから、ぼく様も困りものだな。

 

…しかし、美味しそうに食べるなぁ。ご飯を頬張る姿はどうしようもなく可愛くて、見ていると自然に口角が上がってしまう。きっと今のぼく様は、相当に浮かれた顔をしてるだろう。

 

そうして幸せそうな先生の顔を眺めていると、夕食の時間はあっという間に過ぎていった。

 

 

 

~~~

 

 

 

意外…と言ったら失礼かもしれないが、サヤの料理が存外に美味しくてびっくりした。

 

味付けだけでなく、切り分けられた食材の大きさすらもが完璧に好みと一致している。

 

私のことを知り尽くしたかのような彼女の料理に、ただただ驚かされるばかりたった。今日食べた料理を再現できる自信はないが、いつかサヤに料理を習いたいものだ。

 

…満腹になって少し寛いでいると、扉越しにサヤの声が聞こえた。

 

 

「先生ー?そろそろお風呂入るー?」

 

『いいの?ならお言葉に甘えて…っいだだだ!』

 

「先生!?」

 

 

…しまった、腰のことを失念していた。立ち上がろうとした瞬間に激痛が走る。この調子じゃ、一週間は出張できないかなぁ。

 

…なんて考えていると、私の悲鳴を聞き付けたのかバタバタと足音が近づいてくる。

 

 

「大丈夫!?」

 

『いや、ちょっと痛んだだけだよ。もう平気。』

 

「ぼく様、心配だぞ…?」

 

「…先生、やっぱり今日はぼく様と一緒に入らないか?その様子じゃ、一人でシャワー浴びるのもきついでしょ…?」

 

『…』

 

 

…サヤの顔を見るに、どうやら本気で言っているらしい。でも、いくら体を壊してるとはいえ…こんなことまでサヤの世話になる訳にはいかない。

 

 

『…えーと、お風呂くらい一人で大丈夫だよ?』

 

「ほ、ほんとにか?無理してるように見えるぞ?…ここはぼく様と、」

 

『き、気持ちだけ受け取っておくよ。それに…』

 

『…よいしょ、ね?もう自力で立てるから。』

 

「いやいやいや!足震えてるよ!?転んじゃったらどうするのだ!?」

 

『流石にそこまでドジじゃないって!いけるいける。』

 

「壁に手ついてるやつが言うことじゃないのだ!」

 

 

…結局、口論してる時間よりもお風呂に入る時間の方が短いのだった。

 

 

 

~~~

 

 

 

うーん、先生も頑固なものだ。

そんな恥ずかしがることないのに…先生も思春期ってやつか?それとも、これが親の心子知らずってやつか?どっちだろう。

 

まぁでも…

 

親子で一緒の布団に入るくらいは、おかしくないよね?

 

 

『…えーと、サヤ?ソファで寝させてもらってもいいかな?』

 

「え?」

 

 

…先生は何を躊躇してるんだ?

 

 

「何言ってるのだ?今日はぼく様と一緒に寝るんだよ?」

 

『…同じ布団で?』

 

「そうだぞ?」

 

『……』

 

 

ふふーん、さては先生、恥ずかしいんだな?

ぼく様、先生の成長を感じられて感激だぞ!

 

 

「ほら、こっちに来て?」

 

『…もういいや』

 

 

渋々、といった感じで先生が布団に入る。顔を赤らめる先生も、やっぱり可愛い。

 

 

「今日はぼく様が寝かし付けてやるぞ。」

 

『…うん』

 

 

向かい合わせに寝転んだ先生は、私と目が合うとすぐに下を向いてしまった。そんな先生を、私は頬杖を突きながらゆっくり撫でた。

 

先生は一瞬驚いた顔をしたけど、すぐに大人しくなってぼく様に頭を預けた。

 

 

「…もう寝ちゃったのだ?」

 

 

気付くと先生は規則的な寝息を立てていて、へにゃりと力の抜けた幼い顔を、無防備に晒していた。

 

…そんな安らかな寝顔を見せられたら、ぼく様も困っちゃうのだ。

 

目の前にいる先生が可愛くて、愛おしくてしょうがない。ぼく様はすっかり魅了されていた。

 

 

「…♡」

 

 

いつか大きくなったら、先生を全身で抱き締めてあげたいな。

 

…いや、我慢できない。待ってられない。それにぼく様なら、すぐにでもそれを実現できるじゃないか。

 

 

 

さて、次はぼく様を大きくする薬と、先生を小さくする薬。どっちを作ろうかな。

 

 

 




括弧の使い分けがバラバラなのは執筆の担当が異なるためです。さっさと直すべきなんですが…
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