ちょっぴり○○な生徒たち   作:霜乃

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サヤ編では攻撃性を使ったのに対し、今回は支配を母性のテクスチャとして貼り付けています。カス?

原案≠執筆


ちょっぴり母性強めなノノミ

 

 

…子守唄だろうか。穏やかな音色が、優しく耳に響く。それはどこか楽しげな様子で…どこまでも、慈愛に満ちていた。

 

身を捩れば、赤みを帯びた日光が瞼を照らす。もう太陽は沈みかけているらしく、横から差し込む光が眩しくって、私は顔を隠そうと枕に手を伸ばした。

 

 

“ん…”

 

「…あら?」

 

 

しかし私の手は、ついに枕を探し出すことができなかった。

 

代わりに、ふにゃり、と柔らかい触感を掴み取り、その正体にひどく驚かされた。

 

 

「お目覚めですか、先生?」

 

“…ノノミ?”

 

「はい!ノノミはここにいますよ~」

 

“…。”

 

“私はなんでノノミに膝枕をされて…?”

 

 

何時だかの感触を、不意に思い出す。

 

ただ今回は、事の経緯がどうしても思い起こせない。直近の記憶を引き出そうにも、対策委員会の皆で会議をしていることまでしか私は覚えていなかった。

 

 

“…さっきまで皆で会議をしてた気がするんだけど…おかしいな…?”

 

「あら?覚えていないんですか?」

 

「先生ったら、会議の途中ですぅすぅ寝始めちゃったんですよ~?」

 

“…あぁ、”

 

 

…なるほど。

 

尚も霞んだままの思考が、ようやく理解に追い付く。しかしそれは私にとって恥ずべき事実で、またも生徒の前で失態を曝してしまったのかと、気分が沈んでいくのを明確に感じた。

 

 

「それで、起こしちゃうのも悪いと思って。私が保健室のベッドまで運んできたんです~」

 

“う…そうだったんだ、ごめんね…”

 

「ふふっ、先生が元気なら何も問題ありませんよ。」

 

「先生ったら、学校に着いたときからすごく顔色悪そうだったんですから。心配したんですよ~?」

 

 

その口調は温かく、撚りなす言葉には依然として気遣いが籠っていた。伸ばされた手が私の顔を包み込み、何か確かめるように輪郭をなぞっていく。

 

 

「私たちのために頑張ってくださっているのは、充分知っています。」

 

「…でも、自分のことも大切になさってくださいね?」

 

“はは…善処するよ…”

 

「も~…」

 

 

 

 

「…本当に分かってるんですか?」

 

“…っ”

 

 

僅かに間を置いて、静かな怒声が突き立てられる。

 

…完全に油断しきっていた。

 

向けられた威圧感は私を微睡みから引き剥がすには過剰な程で、代わりに、ささやかな恐怖が内側で目を醒ます。

 

 

「…なんて、そんな怒るつもりじゃありませんよ~」

 

「ただ、皆先生が元気でないと悲しくなっちゃいますからね?私だって、その一人なんですから。」

 

“…そっか。心配かけちゃったね。”

 

「ふふ、程々にお願いしますよ。」

 

“…勿論。”

 

 

いつもの間延びした声が、そんな恐怖を和らげる。

 

すぐに場の空気は中和され、しかしそれでも、私の心は一度揺らいだきりしばらく元に戻らなかった。

 

…私は、何を見たのだろうか。

 

 

“…そういえば、皆は?”

 

「あ、皆さんには先に帰ってもらいましたよ~」

 

「これ以上先生に無理をさせる訳にはいきませんから。今日はしっかり休むのが先生のお仕事です。」

 

“…そっか。ごめんね、折角の会議だったのに…”

 

「そんなことありませんよ、私は…」

 

「……先生の身に何かあったら、」

 

“…ん?”

 

「…いえ、何でもないです~☆」

 

“?…そっか。”

 

 

…僅かに言い淀んだのが少し気になったが、こうして夕刻の対談はつつがなく幕を閉じた。

 

とても長い時間が過ぎたように思えたのだが、傾いた陽の位置は先程とほとんど変わらない。

 

時間とはかくも人を閉じ込めるのかと、時計の針を眺めながら思いに耽る。

 

 

「ところで、この後は何か用事とかありますか?」

 

“うーん、特にはないけど…?”

 

「それなら好都合です!今日は私が先生を駅まで送りますからね~?」

 

「…さぁ、一緒に行きましょう!」

 

“え、遠くはないの?ノノミも帰りとか大変じゃ…”

 

「私がそうしたいんです。それとも、私が一緒ではダメでしたか…?」

 

“…そんなことは。”

 

「ふふ、ならオッケーですね~☆」

 

「それじゃ、手を繋いでください!」

 

“…はい”

 

 

頭を撫でる手が一瞬離され、すぐ私の手に宛がわれる。

 

渋々といった風に握り返したのが気に召さなかったのだろうか、存外に強い力で指を絡み取られ、その後駅で別れるまで一度と離されなかった。

 

…ただ、頭には撫でられた時の感覚が、不思議なほどに色濃く残っていた。

 

遠い過去に経験したはずの感覚なのだが…その時の喜びを、いつしか私は忘れていたらしい。

 

 

あるいは今日感じたそれが、かつて私が知り得なかった感覚だったのかもしれない。

 

 

 

~~~

 

 

 

…ちょっと、怖がらせちゃったかな。

 

両手に抱えた体温を思い起こしながら、一人内省に耽る。

 

先生を怯えさせてしまったのは不本意だったけど…やっぱり先生が関わってくるとこの心は融通が利かなくなると、改めて思い知った。

 

…今握っているこの手も、どうしたって離せない。離そうと思えない。

 

だって、先生には…

 

 

“………ミ、”

 

“…ノノミ?”

 

「…はい?」

 

“あ、いや。ぼーっとしてたみたいだから…何か考え事?”

 

 

…しまった。あれこれ考え込んでいたあまり、先生から声を掛けられてるのに気付かなかった。

 

どこか心配そうに顔を覗かれていて、その気遣いが少しくすぐったく感じて。

 

でも…考え事、か。

 

 

「…えぇ。少し…そうかもしれませんね、ふふっ。」

 

 

…私にとってそれは、間違いなく大切な事だった。

 

 

“ん…なら、邪魔しちゃったかな?”

 

「いえいえ。…それより、最近はちゃんとご飯を食べてるんですか?」

 

「ベッドに運んだ時も、軽くてびっくりしたんですからね~」

 

“…まぁ?結構食べてるつもりだよ?”

 

「惣菜パン一つで、ですか~?」

 

“う…”

 

 

ポケットからはみ出たレシートが、先生の生活事情を事細かに語っていた。

 

下手くそな嘘がどうしようもなく可愛くって、けれど先生はやっぱり掛け替えのない存在なのだと、分かち合った時間を経てより強く認識する。

 

 

「ふふ、先生は食べ盛りなんですから。ご飯はちゃんと食べなきゃ、めっ、ですよ~」

 

“気を付けます…”

 

 

少しばつが悪そうにしている姿すらも、愛おしくてしょうがなかった。

 

それでもいつか、またあの眩しいほどの笑顔を私に見せてほしいなと、そう願いながら先生を窘める。

 

…私たち生徒の声なら何でも真面目に受け取ってしまうところは、先生の弱点なんじゃないかと時々思う。

 

先生には、先生の人生があるのに。その立場のために何でも全部一人で請け負って、誰にも相談しようとしない。

 

だから…先生が安心して休める場所に、なってあげることができれば…

 

 

“…なんか、ノノミってさ。”

 

 

…空いた間を埋めるように、先生が口を開いた。

 

 

“世話焼きで、面倒見がよくて…皆のお母さんみたいだね。”

 

 

…先生は、何気なく呟いたつもりなんだと思う。

 

けれどその一言は、私の内面に深く作用した。

 

何故だか気分が浮わついて、出そうとしてた言葉が喉元で引っ込んで。ついに歩く足が動きを止める。

 

 

“…あぁいやっ!!その、変な意味はなくて…っ!?”

 

「…うふふ、分かってますよ~」

 

 

そんな私に違和感を抱いたのか、先生は急いで言葉を濁した。勿論褒めようとして言ったのはよく分かってるし、実際嬉しかった。

 

…でも。

 

…そっか。

 

 

お母さん、か。

 

 

…ふふっ。

 

 

 

~~~

 

 

 

対策委員会の皆と、先生が揃った団欒の時間。

 

同じ机を囲み、皆がお喋りに花を咲かせている。

 

 

「…ノノミちゃん、ちょっと先生とくっつきすぎじゃない?」

 

 

でもその一言は、私にとって耳障りだった。

 

 

「…あれ~?そうですかね~?」

 

「ん…ノノミちゃんだけちょっとずるい。私も先生のこと、抱っこしたい。」

 

 

…私は足の間に先生を座らせて、後ろから抱き抱えてるだけなのに。

 

()先生()を抱き締めることのどこが、そんなに気に食わないんだろう。

 

 

「確かに…もう何十分も先生のことを…///わ、わたしだって…」

 

「…ノノミ先輩、ちょっとイチャつきすぎよ…」

 

 

…うるさい。

 

誰も彼も、先生のことを分かってない。

 

 

“…んん………”

 

「…先生が起きちゃいますから、もうちょっとだけ静かに、ですよ~」

 

「…」

 

 

皆、先生を利用しているだけ。

 

誰も先生の力になれていない。

 

先生をシャーレという狭い空間に閉じ込めて、そこが先生の居るべき場所だと本気で信じ込んでる。

 

…それが、どうしようもなく許せなくって。

 

先生には…立場としてじゃない、ありのままの先生でいられる場所が必要なのに。

 

…だから。

 

私が、ならなきゃ。

 

先生の、居場所(家族)に。

 

 

“すぅ…”

 

「よしよし…いい子、いい子…」

 

 

誰にだって渡さない。

 

誰にだって触れさせない。

 

他の誰にも成り得ない存在に、私が成ってみせる。

 

…いや、絶対に成れる。あの女(先生の実母)にだって、取って代われる。

 

あんな女よりずっと上手く、先生を愛してあげられる。他の生徒達にだって決して負けない。誰も教えられなかった愛情を、私なら目一杯注ぎ込める。

 

…ですから、先生。

 

ノノミ(お母さん)に、全部任せてくださいね?

 

 

 

~~~

 

 

 

「先生、痒いところはないですか~?」

 

“ん…大丈夫…”

 

「…ふふっ、良かったです~」

 

 

…むしろ、何だか心地良かった。

 

髪を梳かされる感覚が、どこか頭を撫でられたときのそれに似ていて…すごく、気が安らいだ。

 

…ノノミと一緒にいると、何故だかそんな気分になれる。同じ空間にいるだけで、安心できる。

 

仕事とか、立場とか。そんな心に負担を強いる内実を棚上げして、私のままでいられる。

 

このようにまで心を開けるようになったのも、何時ぶりだろう。もしかしたら、生まれたときから経験し得なかったものかもしれない。

 

でも、今は…

 

ノノミと一緒にご飯を食べて…

 

ノノミと一緒にお風呂に入って…

 

ノノミと一緒の布団で寝て…

 

ノノミと…

 

 

「…はい!髪型はこれで完璧ですね~☆」

 

「次は服の着付けをしますから、こっちを向いてください~」

 

“うん…お願い、ノノミ(お母さん)。”

 

 

…あれ?

 

私は、ノノミのことを、何と…?

 

 

「…ふふっ」

 

「ノノミが、何でもしてあげますからね…♡」

 

 

 




ハーメルンの執筆フォーム、難しいですね…
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