Re:✦亡国のフィエリア ─Another_WORLD TRIGGER─ 作:CABIN.
敗者への暖かな拍手が、修練場に響き渡る頃。
王宮の象徴たる王座殿には、重々しい静寂が漂っていた。
玉座に深々と腰掛ける国王と、隣に立つ王子殿下。
その前に並び立つ宮廷五官──。
錚々たる面々が揃う中。
この双星に、"新たな制度"が設立されようとしていた。
玉座に向かって直立する幾人かの宮廷騎士達。
その先頭に立つ騎士団長が、目の前に立つ"使節卿"を睨み付ける。
「……騎士団を玩具にするな」
「──やだなぁ。熟慮と審議の結果じゃないですか」
昨日、王政評議の後。
ニアの突飛な提言に端を発し、最終的には上手く丸め込まれたが──。
……熟慮だと? 貴様の一人相撲だろう。
エルゼンは諦めたように首を振った。
「……では──カンデラ殿?」
ニアにそう呼び掛けられた"尚書"カンデラが、"国王"クラウスに視線を送る。
クラウスが静かに頷いた事を確認し、カンデラが口を開いた。
「まずは、宮廷騎士諸君。多忙の折、招集に対応頂き感謝する」
何の説明もなく王座殿に招集されるなど前代未聞。
各々が、何事かと固唾を飲む。
事情を知るエルゼンだけが、複雑な表情を浮かべた。
「本招集は、昨今の王政不審及び昨日の王政評議を受け──治安再建の手段として、諸君らへの"
騎士達の頭上に、疑問符が浮かぶ。
聞き覚えのない単語だった。
「……
最年少の少女が、首を傾げて単刀直入に訊ねる。
「──クラリス! 陛下の御前で不躾な!!」
「ああ、堅苦しい感じじゃなくていいですよ。任務や非番の方々は呼んでませんし、全員揃う時に改めてやりますのでね」
騎士を制止したニアが、騎士達の前に躍り出た。
「
「はぁ。……それと治安に何の関係がございますの?」
「騎士の象徴として抑止力強化に尽力して貰いたい──と言うお話です」
各々がその内容を咀嚼するが──余りに突拍子もない。
未だ疑問の残る様子で、騎士達が俄にざわつく。
「ちなみに、後ほど徽章なんかもお渡ししますけど──貴方がたの目線で言えば、基本的には単に順位が付くだけです」
「──改めて言うが、私は反対だ。数字に何の意味がある」
騎士達の困惑を代表し、エルゼンがニアの演説を遮った。
「指揮系統に準じぬ上下関係は、必ず無用な軋轢を生む」
「元"三英傑"の貴方がそれをいいますか? ──ありますよ、意味」
人を喰ったような態度。
……そう、自ら名乗った覚えはない。
エルゼンが、明らかな苛立ちを浮かべた。
大戦に抗った全ての騎士が等しく英雄であり、その矜持に優劣を付けるべきではない。
美名は、重荷にも、枷にも、火種にもなり得る。
「精鋭の可視化は、無辜の民には安心と尊敬を、反逆者には畏怖と抑止を。──騎士の皆さんに対しては、矜持と競争心を煽る効果もあるでしょうし」
「……なるほど。筋は通っていると思う」
状況を静観していた騎士──マクセル=イェーガーが、小さく頷いた後、ニアを横目に見る。
「そうでしょう? これは和平施策最適化の契機でもありますし、民意にも応える形で──」
ペラペラと捲し立てるニアに、マクセルが苦笑する。
……まぁ、筋は通っている、が──。
「……建前は分かった。それで、本音は?」
「──皆好きでしょ? こう言うの。異論あります?」
途端に悪戯っぽい笑みを浮かべたニアが、騎士達を順に一瞥する。
「……気に入らん」
──"第一席"
騎士団長 エルゼン=ハワード
「はは。まぁ、世代交代の契機に丁度良いんじゃないか」
──"第二席"
副団長 マクセル=イェーガー
「異論はありませんけど 順位付けはどなたが?」
──"第四席"
クラリス=フランソワ
「いずれにせよ、評価賜り恐悦至極ですな!」
──"第七席"
ゴードン=シュタイナー
「……おれ非番なんすけど……夜警明け……」
──"第九席"
シーザー=クリケット
「異論、ないようですね」
ニアの勝ち誇った目線に、エルゼンが溜息を溢した時。
「──ある」
玉座の隣で騎士達を眺めていた王子殿下──アルマが、ふてくされた表情で言った。
「お前の中で、僕は十番手未満か?」
……立ち直りが早いな。
虚勢もあるだろうが──普段通りの王子殿下に目を細めたニアが、大袈裟に肩を竦める。
「あなた謹慎中でしょ? アルマ王子。──そもそも、殿下に順位付けなんて恐れ多い」
「むっ、確かに! 特別枠のようなもの、お気になさらず! 王子殿下っ!!」
ゴードンの暑苦しさに、アルマが顔をしかめる。
「そもそも武勇のみで決めてませんし。──最終的には、陛下による"熟慮"の結果ですよ、アルマ王子」
その発言に、アルマが半目で父を見る。
クラウスは、意に介さず正面を見据えていた。
「──殿下ほどの腕前でしたら、実質六席には入ると存じますわ」
ニアの発言に付け足した"第四席"クラリスの発言。
アルマがぴくりと眉を動かした。
「……お前は僕より格上か、クラリス」
「いえいえ、決してそのような」
どこ吹く風とでも言いたげに、クラリスが微笑む。
「──よし、分かった。修練場まで来い」
「あらあら。果たし合いなど野蛮ですわ」
「だからあなた謹慎中でしょう、アルマ王子」
途端に騒がしくなる王座殿。
その火付け役が息子である事実に、クラウスは静かに頭を掻く。
……塞ぎ込むよりは幾分良いとも言えるが──。
「……"禊"はどうした、アルマ」
その様子を、マクセルは微笑ましく見ていた。
「──意味、ありそうじゃないか。エルゼン」
「……つくづく気に入らん。飾りに固執すれば本質を見失うぞ」
「士気高揚に繋がるなら、飾りも長期的には本質になっていくさ」
「同感ですな! がはは!」
「──と言うことで」
収集がつかなくなる気配を察したカンデラが、手を叩く。
途端、王座殿に静寂が訪れた。
「決定で構いませんね、国王陛下」
「……うむ」
……相応の懸念もある、益も不透明な発案だが──。
自身もまた、大戦の窮地を"獅子王"の名に支えられた事も事実。
玉座から立ち上がったクラウスが、ひとつ咳払いする。
「──只今より、貴殿らに"
「「はっ!」」
各々の感情を胸に。
揃い踏みの騎士達が、斉一な敬礼を返す。
「……じゃあ、帰っていいすか?」
関心や名誉よりも眠気が勝ったシーザーは、目を擦りながら言った。
【登場人物】
✧エルゼン=ハワード(45)
宮廷十騎"第一席"の騎士団長。守衛手。
宮廷十騎制度とニア=ハドリーに不満。
✧マクセル=イェーガー(45)
宮廷十騎"第ニ席"の副団長。重装手。
宮廷十騎制度の創設を比較的高く評価。
✧クラリス=フランソワ(16)
宮廷十騎"第四席"の女騎士。遊撃手。
アルマを無自覚に挑発。
✧ゴードン=シュタイナー(42)
宮廷十騎"第七席"の御意見番。守衛手。
国家の平和ボケを疑問視。
✧シーザー=クリケット(20)
宮廷十騎"第九席"の若手騎士。遊撃手。
夜警明けで疲労困憊。
✧アルマ=フィエリア(17)
宮廷十騎"特別枠(枠外)"の王子。遊撃手。
自己評価では第三席辺りらしい。
【用語解説】
✧獅子王
大戦時代のクラウスの異名。
後、王妃との婚姻により真に王となった。
✧三英傑
大戦時代、獅子王を支えた英傑達に与えられた称号。
現代三流派それぞれの原点でもある。
✧宮廷十騎
ニア=ハドリーが唐突に提唱したランク制度。
本人曰く様々な思惑があるとか。