Re:✦亡国のフィエリア ─Another_WORLD TRIGGER─   作:CABIN.

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敗者への暖かな拍手が、修練場に響き渡る頃。
王宮の象徴たる王座殿には、重々しい静寂が漂っていた。

玉座に深々と腰掛ける国王と、隣に立つ王子殿下。
その前に並び立つ宮廷五官──。
錚々たる面々が揃う中。

この双星に、"新たな制度"が設立されようとしていた。





《第11話》宮廷十騎

 

 

玉座に向かって直立する幾人かの宮廷騎士達。

その先頭に立つ騎士団長が、目の前に立つ"使節卿"を睨み付ける。

 

「……騎士団を玩具にするな」

「──やだなぁ。熟慮と審議の結果じゃないですか」

 

昨日、王政評議の後。

ニアの突飛な提言に端を発し、最終的には上手く丸め込まれたが──。

 

……熟慮だと? 貴様の一人相撲だろう。

エルゼンは諦めたように首を振った。

 

「……では──カンデラ殿?」

 

ニアにそう呼び掛けられた"尚書"カンデラが、"国王"クラウスに視線を送る。

クラウスが静かに頷いた事を確認し、カンデラが口を開いた。

 

「まずは、宮廷騎士諸君。多忙の折、招集に対応頂き感謝する」

 

何の説明もなく王座殿に招集されるなど前代未聞。

各々が、何事かと固唾を飲む。

事情を知るエルゼンだけが、複雑な表情を浮かべた。

 

「本招集は、昨今の王政不審及び昨日の王政評議を受け──治安再建の手段として、諸君らへの"宮廷十騎(デカリオン)"の称号授与を通知するものである」

 

騎士達の頭上に、疑問符が浮かぶ。

聞き覚えのない単語だった。

 

「……宮廷十騎(デカリオン)とは?」

 

最年少の少女が、首を傾げて単刀直入に訊ねる。

 

「──クラリス! 陛下の御前で不躾な!!」

「ああ、堅苦しい感じじゃなくていいですよ。任務や非番の方々は呼んでませんし、全員揃う時に改めてやりますのでね」

 

騎士を制止したニアが、騎士達の前に躍り出た。

 

宮廷十騎(デカリオン)とはですね──簡単に言えば、宮廷騎士の上位十名です」

「はぁ。……それと治安に何の関係がございますの?」

「騎士の象徴として抑止力強化に尽力して貰いたい──と言うお話です」

 

各々がその内容を咀嚼するが──余りに突拍子もない。

未だ疑問の残る様子で、騎士達が俄にざわつく。

 

「ちなみに、後ほど徽章なんかもお渡ししますけど──貴方がたの目線で言えば、基本的には単に順位が付くだけです」

「──改めて言うが、私は反対だ。数字に何の意味がある」

 

騎士達の困惑を代表し、エルゼンがニアの演説を遮った。

 

「指揮系統に準じぬ上下関係は、必ず無用な軋轢を生む」

「元"三英傑"の貴方がそれをいいますか? ──ありますよ、意味」

 

人を喰ったような態度。

 

……そう、自ら名乗った覚えはない。

エルゼンが、明らかな苛立ちを浮かべた。

 

大戦に抗った全ての騎士が等しく英雄であり、その矜持に優劣を付けるべきではない。

美名は、重荷にも、枷にも、火種にもなり得る。

 

「精鋭の可視化は、無辜の民には安心と尊敬を、反逆者には畏怖と抑止を。──騎士の皆さんに対しては、矜持と競争心を煽る効果もあるでしょうし」

「……なるほど。筋は通っていると思う」

 

状況を静観していた騎士──マクセル=イェーガーが、小さく頷いた後、ニアを横目に見る。

 

「そうでしょう? これは和平施策最適化の契機でもありますし、民意にも応える形で──」

 

ペラペラと捲し立てるニアに、マクセルが苦笑する。

……まぁ、筋は通っている、が──。

 

「……建前は分かった。それで、本音は?」

「──皆好きでしょ? こう言うの。異論あります?」

 

途端に悪戯っぽい笑みを浮かべたニアが、騎士達を順に一瞥する。

 

「……気に入らん」

   ──"第一席" 守衛手(ガーディン)

     騎士団長 エルゼン=ハワード

 

「はは。まぁ、世代交代の契機に丁度良いんじゃないか」

   ──"第二席" 重装手(レギオン)

     副団長  マクセル=イェーガー

 

「異論はありませんけど 順位付けはどなたが?」

   ──"第四席" 遊撃手(フェリオン)

          クラリス=フランソワ

 

「いずれにせよ、評価賜り恐悦至極ですな!」

   ──"第七席" 守衛手(ガーディン)

          ゴードン=シュタイナー

 

「……おれ非番なんすけど……夜警明け……」

   ──"第九席" 遊撃手(フェリオン)

          シーザー=クリケット

 

「異論、ないようですね」

 

ニアの勝ち誇った目線に、エルゼンが溜息を溢した時。

 

「──ある」

 

玉座の隣で騎士達を眺めていた王子殿下──アルマが、ふてくされた表情で言った。

 

「お前の中で、僕は十番手未満か?」

 

……立ち直りが早いな。

虚勢もあるだろうが──普段通りの王子殿下に目を細めたニアが、大袈裟に肩を竦める。

 

「あなた謹慎中でしょ? アルマ王子。──そもそも、殿下に順位付けなんて恐れ多い」

「むっ、確かに! 特別枠のようなもの、お気になさらず! 王子殿下っ!!」

 

ゴードンの暑苦しさに、アルマが顔をしかめる。

 

「そもそも武勇のみで決めてませんし。──最終的には、陛下による"熟慮"の結果ですよ、アルマ王子」

 

その発言に、アルマが半目で父を見る。

クラウスは、意に介さず正面を見据えていた。

 

「──殿下ほどの腕前でしたら、実質六席には入ると存じますわ」

 

ニアの発言に付け足した"第四席"クラリスの発言。

アルマがぴくりと眉を動かした。

 

「……お前は僕より格上か、クラリス」

「いえいえ、決してそのような」

 

どこ吹く風とでも言いたげに、クラリスが微笑む。

 

「──よし、分かった。修練場まで来い」

「あらあら。果たし合いなど野蛮ですわ」

「だからあなた謹慎中でしょう、アルマ王子」

 

途端に騒がしくなる王座殿。

その火付け役が息子である事実に、クラウスは静かに頭を掻く。

 

……塞ぎ込むよりは幾分良いとも言えるが──。

 

「……"禊"はどうした、アルマ」

 

その様子を、マクセルは微笑ましく見ていた。

 

「──意味、ありそうじゃないか。エルゼン」

「……つくづく気に入らん。飾りに固執すれば本質を見失うぞ」

「士気高揚に繋がるなら、飾りも長期的には本質になっていくさ」

「同感ですな! がはは!」

「──と言うことで」

 

収集がつかなくなる気配を察したカンデラが、手を叩く。

途端、王座殿に静寂が訪れた。

 

「決定で構いませんね、国王陛下」

「……うむ」

 

……相応の懸念もある、益も不透明な発案だが──。

自身もまた、大戦の窮地を"獅子王"の名に支えられた事も事実。

 

玉座から立ち上がったクラウスが、ひとつ咳払いする。

 

 

「──只今より、貴殿らに"宮廷十騎(デカリオン)"の称号を付与する。良いな」

「「はっ!」」

 

各々の感情を胸に。

揃い踏みの騎士達が、斉一な敬礼を返す。

 

「……じゃあ、帰っていいすか?」

 

関心や名誉よりも眠気が勝ったシーザーは、目を擦りながら言った。

 

 

 





【登場人物】
✧エルゼン=ハワード(45)
 宮廷十騎"第一席"の騎士団長。守衛手。
 宮廷十騎制度とニア=ハドリーに不満。

✧マクセル=イェーガー(45)
 宮廷十騎"第ニ席"の副団長。重装手。
 宮廷十騎制度の創設を比較的高く評価。

✧クラリス=フランソワ(16)
 宮廷十騎"第四席"の女騎士。遊撃手。 
 アルマを無自覚に挑発。

✧ゴードン=シュタイナー(42)
 宮廷十騎"第七席"の御意見番。守衛手。
 国家の平和ボケを疑問視。

✧シーザー=クリケット(20)
 宮廷十騎"第九席"の若手騎士。遊撃手。
 夜警明けで疲労困憊。

✧アルマ=フィエリア(17)
 宮廷十騎"特別枠(枠外)"の王子。遊撃手。
 自己評価では第三席辺りらしい。


【用語解説】
✧獅子王
 大戦時代のクラウスの異名。
 後、王妃との婚姻により真に王となった。

✧三英傑
 大戦時代、獅子王を支えた英傑達に与えられた称号。
 現代三流派それぞれの原点でもある。

✧宮廷十騎
 ニア=ハドリーが唐突に提唱したランク制度。
 本人曰く様々な思惑があるとか。
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