Re:✦亡国のフィエリア ─Another_WORLD TRIGGER─   作:CABIN.

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──宮廷十騎制度が公式に発表され、王宮がざわつく正午。

訓練生達を昼食に送り出した、束の間の休息。
そのつもりで集会場を訪れたイリーナは、扉を開くなりその場で固まった。




《第12話》憧憬

✦ピュロン王宮 騎士集会場──

 

 

「ごきげんようイリーナちゃん」

 

受付嬢のペネロペ=パンナコッタが、明らかに感情が籠もっていない棒読みで言う。

 

「……え、ええ……御機嫌斜めのようですね」

 

目が死んでいる。

理由はイリーナが固まった理由と同じだろう。

 

──それはもう、宴会場かと錯覚するほどの大騒ぎ。

普段の荘厳で静けさ漂う空気など欠片も残っていない。

 

……あてが外れたな。

そう、踵を返そうとしたイリーナは──。

騒ぎの中心に、見覚えのある顔を見つけた。

 

宮廷十騎(デカリオン)ッ!! 第九席!! シーザァァァ!!」

「──かっけぇー! んで似合わねー!」

「……寝かせてくれ……」

「寝るな寝るな"第九席"!! あっはっはっ!!」

 

……何をやっているんだあいつらは。

一瞬介入を躊躇ったイリーナは、しかしその場に足を踏み入れた。

 

「おい。もう少し静かに出来ないのか」

「は……お、おお、イリーナ」

 

騒ぎ立てていた騎士のひとり──ロレンス=テレジアが、明らかに目を泳がせて応えた。

途端、なんとも言えない空気が漂う。

 

「ああ、いや──悪い、騒ぎすぎた。い、行こうぜ」

 

ロレンスの言葉に相棒のマービン=ティモシーが頷き、そろそろと騒乱の元凶達が離れてゆく。

溜息を溢したイリーナが、半ば寝落ちしている"見知った顔"を見据えた。

 

「何をしてるんだお前らは」

「……助かった……ナイスアシスト」

 

千鳥足で椅子にもたれ掛かったシーザーが、ぐったりとした様子で親指を立てる。

 

「……何があった?」

 

イリーナが、再度訊ねた。

 

「……夜警明けなんだよ……」

「それはさっき聞いた」

 

 

──────────

✦ピュロン王宮 修練場──

 

 

「──ぷはぁっ……!!」

 

見習い達の去った修練場。

シーザーは、手渡された水を一気に飲み干した。

 

「……ふぅ……一周回って眠くなくなったわ」

「お前の眠気はどうでも良い」

「水より冷たいなお前」

 

イリーナとシーザーの二人だけが残された空間。

暫くは、無言の空間が流れていた。

 

「──もう一度聞く。何があった?」

 

再度訊ねられたシーザーは、イリーナの表情に微かな心配の色を感じ取る。

 

「……騒ぎたいお年頃なんだよ、あいつらは」

 

頭の後ろで腕を組みながら、シーザーが欠伸をする。

イリーナもまた、その言葉に配慮を感じ取った。

 

「──話せ」

 

無言の圧。

俯いたシーザーが、小さく息を吸う。

 

「……今朝、"宮廷十騎(デカリオン)"なる制度が出来たんだとさ」

 

イリーナが、眉間に皺を寄せて詳細を促す。

シーザーは、それ以上何も言わなかった。

 

 "宮廷十騎(デカリオン)ッ!! 第九席!!"

 

……ああ。

記憶を遡ったイリーナは、その名称とロレンス達の態度から、配慮の理由に思い至った。

 

「──お前が、騎士の九番手か」

 

シーザーは、一瞬驚いたように目を丸くしたが──すぐ、観念して笑った。

 

「……笑えるよな」

「──笑わない」

 

その即答に、シーザーが横目でイリーナを見る。

イリーナは、ただ誰もいない修練場の空間を見ていた。

 

イリーナが、まだ訓練生だった頃の景色を想う。

この修練場で何度となく剣を交えた同期生達。

 

──当時から、シーザーは飛び抜けた天賦の片鱗を見せていて。

同期生達の誰もがシーザーの背を追った。

 

……私も、そうだった。

全く届く気がしない背中に、何度枕を濡らしたか。

 

騎士になってからも、日増しに背中は遠くなった。

今となっては、かたや謹慎処分、かたや十本指の精鋭。

随分と水を空けられたものだが──。

 

「お前の才能も、努力も、隣で見てきた。──笑わない」

 

イリーナの真っ直ぐな言葉に、シーザーは何か言いかけて口を開き──そのまま、小さく首を振った。

 

「──それで、私は選ばれなかったと」

「……さぁ」

「気を遣うならもう少し上手く誤魔化せ」

 

イリーナがシーザーの肩を小突く。

シーザーは力無く笑った。

 

「……納得いかないんだよ、イリーナ」

「何が」

「お前が、おれより下で良い訳ないのに」

 

……皮肉や嫌味ではない事は分かる。

それでも──イリーナは、息を詰まらせる。

シーザーの顔を見ることが出来なかった。

 

「……お前は、周りが、お前自身が思ってるよりも、凄い奴なのに──」

 

鼻孔に痛みが走った。

イリーナは、涙が溢れそうな感覚を必死で抑える。

 

……お前が、言うな。

ふと肩に寄り掛かった重みに、精一杯の毒を吐く。

ずっと、私の前を走ってきた癖に──。

 

「……お前が、私の下で良い筈ないだろ──」

 

誰もいない、修練場。

穏やかな寝息と、鼻を啜る音だけが響いていた。

 

 

──────────

✦ピュロン王宮 廊下──

 

 

──一方、その頃。

 

昼食を取り終えたアルマは、"第四席"クラリスへの闘志を静かに燃やしていた。

 

「トリガーが戻ったらまずは親善試合だな」

 

パシンと拳を叩いたアルマが、廊下を歩きながら息巻く。

 

「……どうせなら試合の結果で入れ替える感じで良くないか?」

『それはお前が決めることではない』

 

淡々と応えて、フォニーはアルマを覗き見た。

……表情はいつもの様子に程近いが──。

 

「……そう心配するな、フォニー」

 

視線に気付いたアルマが、向き直って笑う。

 

「──叱られ慣れてる」

『お前はその事実を心配した方が良い』

「はは、違いない」

 

……反省、焦燥、重責──。

僅かな声色の差にそれらが滲んでも、フォニーは決して指摘しない。

 

『──まずは"禊"を済ませることだな』

「ゆっくり考えるよ。……どうせ、しばらく暇になりそうだ」

 

背伸びをするアルマから、フォニーは緩やかに視線を外した。

 

抱えたものの重さを、決して周囲に悟らせまいとする。

そうして軽口を叩く癖が、もう随分と板についていた。

 

……しかし──ひとつ、明確に逃げの思想が見える。

 

『暇を持て余す前に、"禊"を済ますべき相手がいるだろう』

 

不意に、フォニーがそう告げる。

 

「……ん?」

 

アルマは、小さく首を傾げた。

 

 





【登場人物】
✧ペネロペ=パンナコッタ(27)
 騎士集会場の受付嬢。
 安穏な空気を好み、やる気はいまいち。

✧ロレンス=テレジア(20)
 シーザーやイリーナの同期にあたる騎士。
 すぐ騒ぐのでペネロペに嫌われている。

✧マービン=ティモシー(21)
 ロレンスの相棒。
 基本的には冷静だがすぐ悪ふざけに加担する。


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