Re:✦亡国のフィエリア ─Another_WORLD TRIGGER─ 作:CABIN.
「──本議は、アルマ=フィエリアの独断専行、並びに暴動騒ぎに係る是非を問うものだ」
"国王"クラウスが、アルマをじっと見据えて言う。
アルマが見つめ返したその瞳は、父ではなく王のそれだった。
「では──まずは経過と処置の報告を、騎士団長殿」
進行役が、掌で促す。
"騎士団長"エルゼンは、小さく頷いて立ち上がった。
「王子殿下──アルマ=フィエリアは、妹君である王女殿下離宮の報せを受け、正規の命令系統を経る事なく、自ら追跡を開始」
「巡回任務中のイリーナ=ベルベットと合流し、反体制組織"
──エルゼンが、ひとつ咳払いする。
「……連行の最中、密売人の謀略により民衆扇動の惹起に至り、王家及び騎士団への信頼を著しく毀損。──騎士団長、エルゼン=ハワードによりこれを鎮圧」
矢継早の報告を終え、エルゼンが席につく。
「相違ないな」
「──はい」
クラウスに問われたアルマが、視線を重ねたまま頷いた。
「……騎士が、ましてや王家の者が独断で民に武力を振るったと言う事実──軽く扱えば、法はその意味を失いますな」
──
ロワール=カランビック
口火を切った司法卿の向かいに座っていた女性が、釈然としない様子で手を挙げる。
「王女殿下の身を案じたが故の行いでしょう? その法を先に踏み越えたのは"密売人"なのでは?」
──
イシア=ネメセト
──バン、と机を叩く音がした。
「そのような理屈、民が知るところではないわ。──いずれにせよ何らかの処分を下さねば、王政の不審が加速しかねん!」
──
ブラン=エスペラント
語気を強めるブラン。
その様子を眺めていた最若年の男が、大袈裟に肩を竦める。
「処分を下したとて信頼に繋がりますかね、ブランさん? ……いっそ、英雄譚に仕立てると言うのも面白い」
──
ニア=ハドリー
「違反行為を美談で飾るなど言語道断だ」
「面白みで政を弄ぶな、うつけ者が!」
瞬く間に割れる意見、飛び交う怒号。
脳内でそれぞれの意見を纏め終えた進行役が、それらを諌めるように手を叩いた。
「……いずれの処遇にせよ、民心の乖離に伴い、治安と統治に影響を及ぼすことは明らか。──陛下、裁定は如何か?」
──
カンデラ=パリストン
カンデラの確認に、クラウスがじっとアルマを見つめる。
クラウスは、黙して語らぬアルマのその瞳に──あらゆる処遇を受け入れる、決意の光を見た。
「──アルマ=フィエリア」
「はい」
「本件をもって、何を知り、何を思う」
……問うた先は息子か、いずれ王家を継ぐ者か。
境界は曖昧なまま、クラウスがアルマを見つめる。
アルマもまた、真っ直ぐな瞳を王に返した。
「──立場には、責任が伴うこと。浅慮の償いを果たすには、力が足りないこと。……禊を願います」
一切の弁明も、皮肉もなく。
アルマは、本心をありのまま応える。
自省、矜持、悔恨、そして──覚悟。
それら全てを内包する言葉。
押し黙る
クラウスもまた、感慨深く頷くと──騎士団長へと視線を送る。
「エルゼン。──どう見る」
問われたエルゼンが、アルマを一瞥する。
数秒の逡巡を経て、エルゼンは口を開いた。
「当人の意思に依らず、騎士団長として不問とは致しかねる。……が──」
エルゼンが、小さく息を吸った。
「……私にも、密売人の存在を知りながら泳がせた落ち度がある。──王子が即座に対応しなければ、王女殿下の身に更なる危機が生じ得たことは高配賜りたい」
「……分かった」
クラウスが重い腰を上げて立ち上がり、つかつかとアルマに歩み寄る。
「ピュロン王子──アルマ=フィエリアに、十日間の騎士資格凍結とトリガー没収を言い渡す。……果たすべき"禊"は、己で課せ」
瞼を閉じ、深々と頭を下げるアルマの隣を、クラウスが通り過ぎた。
「──
「「はっ!」」
遠ざかるクラウスの背中に、それぞれが一礼する。
「──その他の"些事"は、全てお前に任せる」
『……心得た』
──王家直属"記譜官" フォニー
最後に、静かに浮かんでいたフォニーが答えて。
迷いなく扉を開くと、クラウスはその場を後にした。
「……ほら、カンデラ殿」
"使節卿"ニアに促され、"尚書"カンデラが慌てて取り繕う。
「む……では。──これにて、王政評議を閉議とする!」
──こうして。
双星の王女とその兄に訪れた非日常は、ひとまずの終結を見るのだった。
──────────
✦ピュロン王宮 廊下──
言葉なき空間に、赤絨毯を踏み締める足音だけが響く。
窓から忍び込んだ夕陽が、長い廊下を朱に染めていた。
「……戦争は、動機達成の為の"手段"」
今朝の講義を思い返して、アルマが独り言ちた。
隣に浮遊するフォニーは、じっとその横顔を見つめる。
「良く、分かったよ」
そう語るアルマの表情が、逆光に隠された。
"王家として判断する。──根城の位置を教えろ、イリーナ!"
それが、どんな動機であれ、相手が誰であれ。
今回の一件は、アルマ自らが選択した"手段"だった。
「……今回の相手が国家だったとしても──僕は、きっと同じ判断を下していたと思う」
……お前は、聡いな。
フォニーが正面へと視線を戻す。
『そう言う事だ。……それを"戦争"と呼ぶ』
咎を背負う事は最初から理解していた筈。
王家の重みこそ測り違えたが、それもすぐに理解した。
立場を知り、浅慮と無力を恥じ、禊を願う。
王政評議でのアルマの発言は、つまるところ──全ての責は自身にあり、それを背負うと言う意思表示だ。
『アイルは、これでニ度お前に救われたな』
「……二度?」
アルマが立ち止まる。
フォニーもまた、その隣で静止した。
『……クラウスは、王政評議の展開次第ではアイルの無断離宮やソフィの監督不行届をも罰するつもりでいた』
「──!」
アルマが目を見開く。
……やはり気付いていなかったか。
『エルゼンがアイルの無断離宮を"経緯"として報告し、
アルマが瞼を閉じる。
脳裏に、エルゼンの言葉が蘇った。
"覚悟を語って良いのは、結果としてその責任を取り得た者のみ"
"覚悟と一度宣ったなら──評議にて、その責任を果たされよ"
「……父さんは──僕の回答が他責や楽観であれば、単独で責任は取り得ないと判断するつもりだった」
フォニーが頷く。
……尤も、仮にそうなったとして。
幼いアイルやいち侍女であるソフィに重罰を下す程、クラウスは無情な男ではないが──。
『王子が責を負うに足ると認め、王女と侍女については不問──それが、評議の結果だ』
暫し呆気に取られていたアルマが、苦笑いを浮かべる。
「……試されてたのか」
『とは言え、相応の処分が必要と言う
「煽るな」
アルマが、空中に浮かぶ"教官殿"を軽く小突く。
身体を震わせたフォニーを一瞥して、アルマはまた歩き始めた。
「……口にした以上、責任は持つさ」
『では、その様を見届けさせて貰うとしよう』
『気が散る。──お前はアイルの寝かしつけにでも行け』
心持ち明るい声で掛け合う最中──ふと。
柱の先に見え隠れする夕暮れの中庭に、アルマは今朝方そこにいた二人の背中を重ねる。
……しっかりと、仲直り出来たんだろうか──。
未だ複雑な感情渦巻く胸中で、そんな事を思った。
【登場人物】
✧カンデラ=パリストン(42)
宮廷五官を統括する"尚書"。
国王クラウスとは旧知の仲。
✧イシア=ネメセト(41)
国家の儀礼と信仰を司る"典礼卿"。
宮廷五官唯一の女性。
✧ブラン=エスペラント(50)
国家の財政を司る"歳出卿"。
王政に携わる者の中でも最古参。
✧ロワール=カランビック(45)
国家の規律を司る"司法卿"。
立場上、イシアとの仲がやや険悪。
✧ニア=ハドリー(31)
国家の外交を司る"使節卿"。
宮廷五官の最年少者。