ノッブとカッツに愛されて夜しか寝れないトッキ   作:星乃 望夢

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久し振りに戦国時代の事を勉強しつつ、歴史家でもないのでだいぶフワッとした感じで書いてますので、細かい所は拙くて粗いのは堪忍してつかぁさい。

図書館で本借りて信長の事を調べるなんて小学生以来だったよ。
 


第一話 織田信時=トッキ

 

 戦国時代──。

 

 ざっと500年前の安土・桃山時代の戦乱期とも呼べる時代。

 

 全国各地の大名が天下人たらんと鎬を削る時代。

 

 現代なら車で楽に他県へと渡れるが、戦国時代ともなれば一番速い移動手段は馬である。

 

 そんな馬でも車みたいに長時間を高速で動き続ける事は出来ないのだから、人の移動というものはそれ程頻繁且つ長距離の移動は旅人や商人でなければ先ずやらない。

 

 そも生まれた村から出ることも殆どない。

 

 村同士の距離もあるが、村から村へ移動するなんていうのは現代人に言わせると歩いて他県まで行くみたいな感覚だ。

 

 自分の生活圏、生活する為の物が自給自足が当たり前の村で殆ど完結しているのだから他の村へ行く用事もないのなら行くこともない、そんな感覚だ。

 

 これが城下町に近い村であるのならば人の流れが一定数あるので、その限りではないけど。

 

 そもそも現代で言う県が一つの国の様になっていて、全国各地の大名が国家元首の様に自分の領地を統治しているのだから、領地から領地を渡るのは他の国に行くようなもの。

 

 そこらの農民とかならいざ知らず、織田家の人間に生まれてしまうと中々領地の外に出て行くというのは、それ即ち他の大名にどうぞ人質として使ってくださいと言うようなものだ。

 

 織田信秀の子として生を受けた自分。

 

 自分が戦国時代に転生したと判ったのは、自分の兄弟に吉法師という名が居る事を知ったからだ。

 

 や、織田と聞いて、国は尾張だと言われたら戦国時代と日本人なら誰でも判るとは思う。

 

 とは言ったって自分がいつの時代に転生したなんて指標が無ければ分からないぞ。

 

 ただね、どーにも水面に写る自分の顔がどっかで見たような顔なんだ。

 

 男児だというのに女の子みたいに整いまくった美貌というか、あ、この子将来絶対美人になるぞって分かる顔をしていた。

 

 そんでもって自分の兄であり、周りからうつけ者と言われている吉法師に一目会った時、確信した。

 

 この世界、絶対にヤバい。

 

 なんでこの将来大六天魔王と呼ばれて敵の髑髏の盃でカンパーイ!なんてしそうな兄は声がくぎゅーなんですか?

 

 そしてまた別の兄の信勝は盲目的な崇拝に近い程に吉法師の後をひよこみたいに姉上姉上と付け回しているのか。

 

 え? この世界、型月なの?

 

 そう思ったら俄然やる気出てきちゃったんだけど。

 

 てか鷹狩りと言ってもなんか思っている鷹とはてんで違うデカい鷹とか出てくるんですよ。

 

 あんなのモンスターなハンターに出て来る奴やろ。

 

 型月世界は時代が遡れば遡るほど神秘が強くなって魔物なんかも居るとは聞くけど、猪が猪してない。

 

 もののけ姫みたいにデカかったり、ふつーにタタリ神居るんですけど?

 

 そんな魔物が跳梁跋扈する戦国時代、人間もなんか一部普通じゃない。

 

 例えば姉上はデタラメに強すぎる。

 

 周りが普通の人間なのになんで一人だけコーエーみたいな無双で敵をバッタバッタと薙ぎ倒すんですかね?

 

 はぁ、良いなぁカッツはノッブといつでも遊べて。

 

 こちとら側室の子だからあまり部屋の外には出るなと言われているので部屋の外には出られないし、城の外など以ての外。

 

 一応家督を継ぐ権利はあるが為に教育はされているが、平成に生まれ育ち令和の日本に生きていた時とは価値観がまるで違うから苦労が多い。

 

 倫理観も違いすぎて頭が痛くなる。

 

 言ってしまえば軟禁みたいな感じて育てられているが、側室でも殿様、大名の血を引いているから蔑ろにされているわけではない。

 

 とはいえ側室の子だから姉上の、つまりはノッブの母である土田御前からはめっちゃ嫌われているというか、一言も話した事もなければこちらを睨んでくる。

 

 戦国時代といういつ死ぬか分からない上に、ぶっちゃけ病に罹れば死ぬかもしれないくらいには医療なんてあってないような時代。

 

 正室の他に側室も迎えて血を残すというのは別段珍しい事でもない。

 

 ただまぁ、正室の自分の子ではなく、なにかまかり間違えば側室の子が家督を継ぐ可能性も捨てきれないともあれば、そうなってしまった時に家では軽んじられるというたらればから、側室の子の姿など見たくもないか、或いはどうにかして口封じでもしようとするのか。

 

 陰謀論を考えた所でキリは無いのだが、それでも毎日の食事に何かされてないかと、自分で一度毒味をする様にはなった。

 

 つまり何も疑わずに食事をいきなりかっ食らうのではなく、箸で米粒ひとつや、汁物に一浸け、おかずを僅かに摘んで味見して少しでも舌に違和感を抱いたら食べないという生活をしていた。

 

 ものすごーくランダムではあるが、舌に何かヒリつく感覚を感じる時もある。

 

 そしてその食事を気分が優れないからと下げて貰った次の日は大抵土田御前からの視線を頂戴する。

 

 部屋から出るなと言われているが、父上である信秀公に朝の評定には出るように言われているからそこで嫌でも顔を出す事となる。

 

 ノッブはその評定も基本ブッチするから家臣からもうつけ者と評判が悪い。

 

 まぁ、既に自分の城を与えられて物理的に住んでいる所も違うからとは言っても、元服前の一緒に住んでいた頃でさえ殆ど評定に顔は出さなかったからなぁ。

 

 でも全く見せないのではなく、言ってしまうと月末の総決算みたいな場にはちゃんと出て来ていたから、ノッブとしてはそれで事足りたんだろう。

 

 あれはうつけ者というより傾奇者と言うんじゃないか?

 

 というか、あまりに頭が良すぎるから月末の評定に出るだけで領地や政策の流れを把握している。

 

 1を聞けば10を把握する人間って、本当に居るんだな。

 

 側室の子である俺には一切口を開く権利はないから、評定に参加していてもただそこに居るだけ。

 

 しかし評定の内容を右から左に聞き逃しているわけではなく、そこで聞いた内容は部屋に帰ってから書に記している。

 

 大名の息子とあればこの時代では滅茶苦茶貴重な紙を使う事も出来る。

 

 ヒラコーなノブノブが言っていたが、戦とは始まる前までに何をしたかで決まる。

 

 戦備え、つまりは戦略。

 

 戦う為に必要なのは武器や食料、即ち兵站である。

 

 戦備えを理解していたのはサルだけだったとノブノブは言った。

 

 戦略家で戦術家、政治も出来て武勇もある織田信長。

 

 俺に戦術家は多分無理だ。

 

 スクランブルコマンダーみたいにリアルタイムシミュレーションは肌に合わなかった人間だ。

 

 とはいえ艦これにどハマりしたのは各イベント前に、プレイヤーである自分に出来ることは艦娘を揃え、練度を上げ、武器を開発し、そして資源の備蓄、その諸々が楽しかったからだ。

 

 それらすべて、イベント前にやる事をやれるだけやり遂げ、それを全ツッパして勝利を得る。

 

 いくら強い武士や兵隊が居たとしても、戦う為の道具や食料がなければ人は戦えない木偶の坊と化すのだ。

 

 その戦備えこそが戦だと、俺は考えている。

 

 まぁ、争い事とは基本的に無縁だった現代人であるから、戦国無双はムリムリカタツムリで、信長の野望なら出来るかなって話だ。

 

 しかし大名の息子であるのだから最低限の武術は身に付けなければならない。

 

 でなければ、存在価値のない穀潰しと見做されればその先にあるのは死。

 

 だから最低限、コイツは生かしておいても良いかと思われるくらいにはやるべき事はやっておかなければならない。

 

「おーい、時ぃ。()るのかー? ()らんのかー?」

 

「はいはい。()りますよ、姉上」

 

 うつけ者と言われ、天上天下唯我独尊の権化の様な姉上であるが、不思議と俺の部屋には勝手に入って来ない。

 

 というのは嘘であり、結界を張っているから俺の許し無しで部屋の戸が開かないだけだ。

 

 そら魔法とか魔術とかある世界なのだ。

 

 魔術──というより陰陽術だなこれは。

 

 御札に呪術的に意味のある文字と図を書いて、それを部屋の四隅に貼っておく。

 

 そうする事で俺の部屋は外界とは仕切られた空間となり結界の意味を持つ事になる。

 

「のう時、一々声掛けんと開かぬ戸など面倒じゃぞ」

 

「姉上、普通は部屋の主の承諾を得てから入るのが世の常なのですよ?」

 

「知らんわそんなもの。なによりつまらん」

 

 正室の第一子ともあって、姉上に逆らえる者は中々居ない。

 

 うつけ者と馬鹿にされていても、物理的に姉上をどうこう出来るのは父上だけである。

 

 ただ母である土田御前は既にノッブに見切りをつけてカッツの方へ精力的に教育を施しているのであるが、そのカッツはあろう事かノッブに対して重度のシスコンであるから、ノッブに対する分断教育を吹き込もうと全く無意味なのは可哀想な事だ。

 

「ふっ。しかし、いつ見てもまるで鏡を見ているようじゃのぅ」

 

「ちょ、姉上、邪魔をしないでくださいませ」

 

「ふん。その様な書記し、おぬしには必要なかろう」

 

 いや普通に必要なんですけど。

 

 そんな貴方みたいな天下人ではなくこちとら一般ピーポーなんだからちゃんとメモ取っとかないと忘れるし、確認しないと不安にもなるんです。

 

 ノッブに手から筆を奪われてしまい、ズイッと身を寄せられると、着物の襟を割り開かれる。

 

「ほう……。なんじゃ、勝の奴にまたやられたか」

 

「うっ、て、手前は、兄上の弟です故……」

 

 まるで浮気でも見られたような、居心地の悪さと気恥ずかしさの入り混じった様な気分になる。

 

 姉上大好きちゅき♡ちゅき♡カッツは、その腹の底に抱える黒い愛を、姉であるノッブにぶつけられない代わりとして、俺の事を滅茶苦茶にする。

 

 なのに普段は優しいお兄ちゃんも出来るんだから、なんなのあの織田サーのクレイジーサイコヤンデレシスコン。

 

 今もノッブの視線の先にある鎖骨や胸元には噛み傷や引っ掻き傷が見えている事だろう。

 

「あ、姉上? ひゃっ」

 

「どうした? ただ傷痕を舐めただけぞ?」

 

「ま、まだちょっと痛、んっ」

 

 顔もそっくりで声もそっくり、その為に俺は姉上の影武者としての教育も受け、髪の長さも同じになる様に伸ばし続けられた。

 

 だからかなぁ、あのカッツが俺に歪みに歪みまくった重くて真っ黒な愛し方をして来るのは。

 

 この時代、男色というのはなんというか、一種のステータスみたいな物だからなぁ。

 

 ちなみに俺はノッブの6歳下、カッツの4歳下である。

 

 6つ違いとはいえ、自分はノッブにそっくり、声もそっくりなら啼かせてみせればまぁさぞ良い気分になれるのではなかろうか?

 

 なんというか、歪んでいるというか、バカというか。

 

 そんなカッツが愛おしく感じる俺は、一回抱かれたら彼女面するアホかな?

 

 でも側室の子の俺にカッツは目を掛けてくれているし、土田御前からも守ってくれる事もある。

 

 しかしてノッブもノッブで俺を構うものだから姉上ファーストのカッツからすると複雑な物で、手に入らない姉への思慕を、俺を使って発散させているという倒錯的なわけわかんない関係だ。

 

「時、おぬしはわしの影じゃ。いくら勝であっても、傷付ける事は許さぬ」

 

「姉上…、いたっ」

 

 舐め上げた事で柔らかくなった傷痕、瘡蓋の上から爪を立てる姉上。

 

 その爪でまた傷痕が増える。

 

「おぬしの身体はわしの写し身、即ちわしの物だ。おぬしに傷をつけても良いのはこのわしのみ。是非もなかろう?」

 

「い゛っ、う゛っ、ぐぅん゛ん゛ん゛ん゛っっっ」

 

 鎖骨の上の歯型の痕を上書きする様に歯を立てられ、犬歯が肌に喰い込む痛みを、唇を固く結んで耐える。

 

 元々そっくりなのもあっただろうが、魔法や魔術が存在する世界で言霊を吐き続ければどうなるのか?

 

 俺は織田信長の影としての型枠(テクスチャ)に当て嵌められ、それに沿った型に成長していく。

 

「牙を立てられているというのに、その様な蕩けた面をしよって。勝がつけあがるわけよなぁ」

 

「ご、ごめんな、さい…、みない、で……」

 

「隠すな。ふふ、まるで女子のようじゃ。女子の様に抱かれるのが好いのじゃろう? 昨夜はどう勝に抱かれたのか、わしにも見せいよ、時」

 

「んんっ、あああああああっっ」

 

 覆い被さられ、下から突き上げられる様な衝撃と共に脳髄を焼き尽くす感覚に、背中を反らして聲を上げてしまう。

 

 ノッブとカッツ、姉と兄に徹底的に調教されているこの身は、2人に何をされても逆らえない。

 

「はぁ、母上も困ったものよのぅ。勝には政は無理だというのに、あやつも真っ事可哀想な奴じゃ」

 

「兄上はその辺り不向きですからね」

 

 無茶苦茶にされて、まだ腰が溶けて動かない俺を腕枕するノッブが溜め息を吐いて言い出した。

 

 百舌鳥なんていう扱いの難しい鳥を調教して鷹狩りするという根気の強さというか、趣味人の様なカッツ。

 

 しかし傍から見てもお世辞にも領地経営が上手いとは言えない。

 

 根っからの職人が会長の息子だからという理由で会社の社長に据えられたものの、そちらへの才覚は乏しく、頑張っているものの結果が振るわない赤字経営をしていると言えば伝わるだろうか。

 

「時の下支えがあってこれじゃものなぁ。ここに来るまでに軽く城下を見たが、あまり良いとは言えぬぞ」

 

「今年の雨季には大雨で川が氾濫。それによって土壌が流され田畑も荒れてしまいましたし、聞く所によれば村がひとつ流されたと。夏季も曇り空が多く、日光を得られず作物の育ちも悪かったと思います。そうなれば税として納めなくてはならない米の収穫にも悪影響。しかして税を工面する為に民は己の糧すら削り、結果として痩せ細り、冬を越せぬと堪忍袋の緒が切れれば一揆は起きましょう。秋季に入ってからもう4度となれば、昨年と比べても多過ぎる程です。冬季がまた近づけば更に増えましょう」

 

「それをわからんのじゃよ、勝も母上もな。それをわかる時は大成するぞ? なにしろわしの影じゃし」

 

「お褒めに預かり光栄の至り」

 

 まぁ、農業というのは農民の仕事。

 

 農作物は農民が作って持って来る物であるが、それを育てる為の苦労など知る由もない。

 

 報告で聞くのと実際の現場の惨状は、その立場にない人間には伝わり辛い。

 

 俺の口からカッツにそれとなく伝えて領地運営はギリギリの赤字経営をしているが、側室の子である俺がズバズバとあれやれこれやれそれやれと言ってしまうと、カッツの面子が潰れてしまう。

 

 しかも側室の子のクセに出しゃばるなと俺にも被害が出て来るから、問題の山積みをどうする事も出来ないのだ。

 

 かと言ってノッブがカッツを助けてしまうのも駄目だ。

 

 自分の領地も整えられないとカッツの面目が潰れてしまう。

 

 片やうつけ者と呼ばれながらも才覚に溢れ領地を富ませるノッブ、片や母の寵愛を受けながら平凡故に領地を整えられないカッツ、しかも床の間での言葉であるとは言え、俺からの助言でどうにかこうにか面子は守れている現状。

 

 ノッブと比べ、そして俺と比べ、政の才覚の無さにストレスを抱えていれば、そりゃ手を出しても問題のない俺に対する倒錯的な接し方がエスカレートするのは目に見えている。

 

 そうでもしないととっくの昔に潰れていたんじゃないか、カッツは。

 

 着物を着て露出する首から上はなんともないのだが、着物を脱いでしまえば身体の至る所に噛み傷に引っ掻き傷が無い所を探す方が難しい。

 

 あまり傷をつけられると感染症が怖いんだけど、ぼろっぼろで泣きながら姉上姉上と俺を求めて来て、事が終われば酷い事をしてすまなかったと謝られると、どうしても突き放せないんだよなぁ。

 

 典型的なドツボにハマっているDVカップルか夫婦のやり取りである。

 

「のう時、やっぱりわしと暮らさぬか? おぬしの才を腐らせるのは惜しいのじゃ。時がわしのもとに来てくれれば百人力なのじゃが」

 

 あの天下人の織田信長にピロートークの後に口説かれるって、世の中の女からすれば大変羨ましいシチュエーションだろう。

 

 織田信秀の正室の第一子とあれば、黙っていても嫁さんを貰えて男漁りにも困ることはない。

 

 そんなノッブから口説かれているのはとても名誉というか、畏れ多いというか、オーケー出さないのバカなんじゃねーの? って後の歴史家とかには言われそう。

 

「母上が許しますか? それ」

 

「じゃから母上には困ったと言うておるではないか」

 

 一番上の兄、織田信広は側室の子であるとは言え信秀の第一子の男児。

 

 ノッブが居るから家督を継ぐ権利はあっても継ぐ事は無い。

 

 それこそノッブ含めて全ての兄弟が死んだとあれば話は別だが、それはさておき。

 

 側室の子であろうとも殿様の第一子の男児であると如何に正室の土田御前でもどうする事は出来ないし、どうかしようとすれば自分の首が切られるだろう。

 

 しかして俺は同じ側室の子でもノッブやカッツが居るから、居ても居なくてもどうでも良い立場にある。

 

 しかし目の届かない所に置くと何を仕出かすかわからないという名目で、俺は土田御前とカッツの所に身を置かれている。

 

 俺を引き抜きたいのなら、土田御前とカッツを説得しなければならない。

 

 基本姉上イエスマンのカッツなら、ノッブの鶴の一声で問題ない。

 

 そもカッツの話題を出していないのだから、カッツは既に説得済み。

 

 待ったを掛けているのは土田御前だと言うのが読み取れる。

 

「そこまで察せられるのじゃから、余計に惜しい。おぬしなら問題なく領地も回せよう。後顧の憂いなくば、わしも楽が出来るというものじゃ」

 

 物凄くノッブは俺の事を買ってくれているのは、まぁ、この時代の人間からすれば結構頭が良いからだろう。

 

 それは地頭の良さというわけではなく、算術が出来て速いという物だ。

 

 足し算引き算、掛け算割り算。

 

 掛け算、九九についてはなんか万葉集にもう歌としてあるっぽく、既にそんな時代から日本に伝わっていたらしい。

 

 だから足し算引き算は出来て当たり前、掛け算も出来て一人前。

 

 しかし割り算まで出来るとなるともう天才という領域らしい。

 

 そして兵站管理の重要性を知っている、つまりノッブからすると己の価値観が共有出来る稀有な人間として映っていると思われる。

 

 一国一城の主ともなれば嫌でも兵站は理解するのであるが、それでも農民から物資を集め、溜め込んだそれを使って戦うのは馬鹿でも理解出来る。

 

 ただ、それを作る農民の生活まで考え、富国強兵の為に何をすれば良いのかというのは、結局もって農作物を作る農民を先ず飢えさせず、農民が肥えれば自然と生産性は上がり、結果として資源の備蓄も上がる。

 

 田畑への水も雨に頼るのではなく生活用水として用水路を作れば川の氾濫を防ぐ支流を作り、そして貯水池を作れば更に氾濫を防ぎ、雨が少なくなれども生活用水の足しにもなる。

 

 ではそんな一大事業をどの様にすれば良いのかとなれば、農民の力を借りる。

 

 そして事業に参加した農民には一定期間の税の低減、そして日当を渡す、これは金でもその日の食料でもどちらでも構わない。

 

 つまり事業に参加し励めば食い物に困らず、税を減らして貰えると人伝えで広まれば勝手に人は集まって来て結果として働き手が増え、用水路工事は成すことが出来る。

 

 その為には領主が身銭を削るという事をしなければならないが、長期的に見て川の氾濫が減り、被害への復興への手間暇が減り、しかして農民の生活は豊かとなって資源の備蓄に税収の増加も見込めるとなれば、即効性は無いものの長い目で見るとプラスとなるだろう。

 

 何も言えない鬱憤が俺にもある。

 

 そんな溜め込んだ物を引き出すノッブは流石である。

 

 ノッブの領主運営が上手く行ってるのって、もしかして俺の鬱憤晴らしの影響もある?

 

 いやいや、それは流石に自惚れがすぎるか。

 

 俺が言わなくてもノッブならそれくらい簡単に思いつくでしょ。

 

 あの時代で楽市楽座なんてものをやった信長公ですよノッブは。

 

 …………ごめん、カッツに床で「信時の所為だ信時の所為だ。姉上が信時が姉上があんな。姉上姉上姉上姉上ッ」なんて言いながら攻め立ててくるのって、ノッブまさかカッツに俺のお陰で領地が賑わっておるわ、わっはっはっはぁ!! とかやってないよね?

 

 やりそー。

 

 あのノッブだよ?

 

 サーヴァントではないから現代知識のインストールが無い分まだマイルドではあるけれども、それでもぶっ飛んだ傾奇者みたいなノッブぞ?

 

 この間も琵琶を担いで路頭で演奏会を開いてやったぞ!

 

 なんて自慢話聞かされたなぁ。

 

 戦国ゲリラライブとか進んでんねぇノッブ。

 

 いやごめん、ノッブに無理やり連れ出されて、その時握りっぱなしで持ち出した琵琶を路上で奏でて詩を唄って人を集めた俺の所為だ、多分。

 

 現代感覚が抜けない俺の所作のせいでノッブが軽くカルチャースルーして現代色を俺を通して見ているかも知らん。

 

 いやだってノッブなら水着ノッブのロックンロール通じるかなぁって調子ぶっこきました。

 

 宣教師の言葉を、英語で赤点取らない為に必死こいてリスニングは頑張った俺が訳して、いらん事企んでたのノッブにチクったのもある?

 

 甘味が少な過ぎて米粉とか小麦粉と蜂蜜とかでなんちゃってハチミツパンケーキしてたのもある?

 

 確かカステラ好きだったんだっけ信長って思って、頑張ってカステラっぽいもの焼いたのもある?

 

 あの時はお目目キラッキラにしてどう作ったんじゃ!?って珍しくしつこくノッブは食いついてきたんだよなぁ。

 

 女の子だからなのか、ノッブはしこたま甘い食べ物好きなんだよ。

 

 オーブンなんて無いから土釜を使って試行錯誤するしか無いものの、野苺のショートケーキなんか作った時はノッブに百万年無税!!って言われたっけ。

 

 俺が食べたいから洋菓子をぽんぽん作ってるけど、これ将来剪定とかされないよね?

 

 イヤだよ日本洋菓子特異点とかぐだぐだイベント起きるの。

 

 というか俺という存在が居て好き勝手してる時点で剪定事象にならんの?

 

 そこんところどうなんすか抑止力さん。

 

「お前がっ、またっ、余計な、事をっ、言うから! 姉上は、姉上がっ、姉上っ、姉上っ、姉上えええっっ!!」

 

 なんで姉上にクリソツな俺を攻め立てているのに涙ボロボロ流して辛い顔をしてるのかこのヤンデレシスコン兄上は。

 

「姉上ぇ……」

 

「よしよし。勝はよおく頑張っておるのぉ」

 

 泣き疲れたのかハッスルし過ぎて疲れのか、良くわからないで俺の上で俯せに寝ているカッツの頭をよしよしと撫でながらノッブの真似をして労う。

 

 カッツは頑張っているけれども、向いてない、才能が無い事をやっても凡人は結果が伴って来ない事が多い。

 

 俺だって凡人ではあるさ。

 

 ただ一般人と比べて広く浅くとも色んな事を齧っているから、多才に見えているだけだ。

 

 あとは現代人という下駄履きがあるから今の時代の人よりも様々な事を識っているというアドバンテージがあるだけ。

 

 それがなかったら俺はただ顔が良いだけの、織田信長の影武者だったかも知らん。

 

 だからカッツはカッツなりに頑張っているのを俺は知っている。

 

 でも結果こそすべての世。

 

 結果が伴わなければ過程なんぞ顧みられない。

 

 誰ぞこのカッツを幸せにしてやってくれんかね?

 

「姉上……」

 

 自分に向いていない事を立場故にやらなければならず、本人は姉上大好きなのに表向きにでも姉上と対峙しなければならず、その思慕も打ち明けられず。

 

 自由奔放で天才の姉、柵に囚われ凡才の自分。

 

 その事実の摩擦に擦り減らす心に寄り添える人が居れば良いんだけどなぁ。

 

 しかしよりにもよってその寄り添って欲しいと願うのは誰よりも自由な姉上。

 

 天上天下唯我独尊の姉上にそんな事が出来るか。

 

 慰めて欲しいのならお前が近う寄れなあの姉上ぞ。

 

 家のことなんぞ知らん、僕は姉上と共に居ます!

 

 って言えるのなら信勝も苦労はしないのだろうけど、そうは出来ない。

 

 正室の長男となった信勝は、否応なく家督争いの最前線に立たなくてはならず、それを周囲の事を知らぬ存ぜぬと言える立場にはなく、責任放棄など出来る人間でもない真面目ちゃんなのが祟って、担ぎ上げられてもどうしようも出来なくて、八方塞がりと言っても良いんじゃないだろうか。

 

 だからこそ、姉上に反発する勢力を纏め上げて謀反を企て、その勢力諸共に散る事で姉上の国に後顧の憂いを無くすなんていう散り様となるのだろう。

 

 そんな哀しい信勝を放って、俺だけ信長の所に転がり込む事は──出来なかったんだ。

 

 

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