ノッブとカッツに愛されて夜しか寝れないトッキ   作:星乃 望夢

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第五話 戦国野戦病院24時!精神科併設in守山城

 

 文通自体はしていたけど、久し振りに会ったカッツは物凄い窶れていた。

 

 せっかく用意したショートケーキをもさもさと感情が死んだように食べる光景は、まぁ、普通じゃないのは見て判る。

 

 ていうかこの時代のショートケーキをストレスと疲れから萎びたサラリーマンみたいに食えるの、物凄く贅沢なのに勿体ない喰い方ぞ。

 

 お前病院行った方が良いよと言えれば良いが、残念ながら精神科なんて戦国時代にあるわけがない。

 

 だから、どしたん?話聞こか? くらいしか出来ない。

 

 ただその話すらもしないから、いよいよもってヤバいんじゃないのカッツ?

 

 戦国JIN-仁-じゃないからペニシリンとか作れんけど、取り敢えず傷口には酒をぶっかけ、大掛かりな傷の手当て、傷口を縫うとかするなら強い酒に酔わせてからとか、敢えて気絶させて、針は煮沸して消毒とか、もう家庭の医学程度のにわか知識のヤブ医者みたいな事しか出来ないけど。

 

 合戦があれば刀傷とか、矢が刺さればその鏃を摘出するけど、刀傷を縫うにも怪我人は意識があるまま激痛に耐えるしかないとか、刺さった矢は豪快に抜くからそれだと返しで余計傷付くので、わざわざ彫刻刀を改造して作ったメスとか、衛生管理もクソもないからとにかくてんてこ舞いだ。

 

 なんでノッブの影武者の俺が野戦病院でヤブ医者やってんだ?

 

 美濃だから岐阜で良いんだっけ?

 

 ノッブの嫁さんの濃姫の実家の義父上が襲われたから救援に駆け付けると言って、影武者の俺もそれに付いて行く事になった。

 

 まだ編成途中の石火矢鉄砲隊は出陣せず、殆ど俺だけが守山城から駆り出された。

 

 なんで城主が出陣して、家臣団は居留守なんだ?

 

 まぁ、うちの家臣は数が少なくて皆戦どころの暇じゃないから良いんだけど。

 

 編成途中なのもあるけど、ノッブからすると義理家のお家騒動にわざわざ虎の子の石火矢鉄砲隊を備えるは愚。

 

 ノッブとしては自分の戦の何処か重要な所でドカンッと一発お披露目したい様だ。

 

 それは俺も同じだ。

 

 やるなら派手に逸話が轟く場面で使いたい。

 

 ただ新型石火矢は披露となった。

 

 大良河原よりの撤退。

 

 長良川での合戦で濃姫の父斎藤道三が討ち取られ、それによる敗残兵を回収。

 

 もう織田陣地は野戦病院と化して、医者とか薬師に片っ端から指示を飛ばして奔走していたら、勝利の勢いに乗った斎藤義龍軍は織田軍へも攻め入って来た。

 

 殿を務めるというノッブの言葉に、俺はその視線にただ頷き備えた。

 

 川を越えて撤退する織田軍を背に、その川の上に浮かべた船の上で立ち続けた。

 

 殿として奮戦する兵らの鼓舞と、俺が影武者として通じるのかという姉上の試しの場だ。

 

 謀反討伐があったとは言え、あれは領内での戦。

 

 言ってしまうと身内の小競り合いで、相手もこちらを知っている。

 

 そしてこちらは兵器で上回っていたから敗ける気もしなかった。

 

 しかし今回は、本物の敵と戦場。

 

 俺は敵方に織田信長として認められなければならない。

 

 殿、しかして捨て奸ではなか。

 

 現代人の俺には戦国倫理観は難しい。

 

 なら解る奴を頭に飼えば良か。

 

「信長様! 兵は河越え終いにて御座います!」

 

「ん、であるか…」

 

 川を渡る兵の声に答え、俺は船の上で川の向こう岸を見据える。

 

 久方に着る鎧兜は重たか。

 

 普段は洋服、そして戦でも機動力を重視するから石火矢鉄砲隊は脛当てと手甲、頭を守る鉄帽、胸当てと軽装じゃ。

 

 正直、重たか。

 

 じゃっどん、いっちょパーッと殺るか。

 

 俺は手を置いて支えて(エレガントポーズ)いた石火矢を担ぐ。

 

 もう耳に慣れた轟音と骨身に染み渡る衝撃を伴い撃ち放たれた石火矢の一撃は、川を渡ろうと川岸に寄せた騎馬の馬の頭を貫通して騎手の鎧を撃ち砕いた。

 

 ノブノブがオルテでやっていたな。

 

 一発目は何をされたか判らない。

 

 二発目は何をされたか理解する。

 

 さすれば及び腰となり恐怖に動きを止める。

 

 石火矢の効果、大なり。

 

 ニヤリと笑いながら一発目の石火矢を置き、二発目を放つ。

 

 今度は馬は射抜けなかったが、騎手の頭が木っ端微塵に砕け散った。

 

 三発目は敢えて馬の胴体を貫通させた。

 

 四発目を構えると、斎藤義龍の兵は退いて行った。

 

 突出した騎馬では渡る前に撃たれると理解した様だ。

 

 危ねぇ危ねぇ、四発目は虚仮威しで、一発目の空の石火矢を構えただけだ。

 

 あれで前に来られたらと思うと冷や汗掻いた。

 

 うるせー! 悪いかバカヤロウ!!

 

 こちとら急に救援に向かう言われたからなんも戦備えなんてしてなくて取り敢えず完成してる石火矢3丁持って来るので精一杯だったんだよコノヤロウ!!

 

 しかし相変わらずスゲー命中率。

 

 偉いぞ職人衆、百万年無税!って言ってあげたい。

 

 まぁ、そんな事すると後世にややこしい事持ち込むから、豪華な食事と酒をプレゼントフォーユーで赦してくれ。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「なぬ? 勝が心労で倒れた?」

 

「はっ。現在は信時様の守山城にて静養とのこと」

 

 時め、一服盛ったか?

 

 いや、あやつがその様な短絡的な手に出る理由がない。

 

 そもそもそんな面倒事を起こしておる暇なんぞないから、これは勝が本当に倒れたということじゃな。

 

 もう少し保つとは思っとったが、勝の限界が早かったか。

 

 もう少し気張れや勝め。

 

「であるか…」

 

 さて、これで末盛城に残された家臣らは、母上はどう動くか。

 

 目障りだったろうなぁ。

 

 時のやつは自覚ないんじゃろうが、居城の隣で富国強兵の為の文明改革に邁進するんじゃもん。

 

 わしだって隣に居たらやめてくりゃれと泣くわ。

 

 あれは自身の置かれた立場をわかっておった。

 

 しかして、あれも人じゃ。

 

 抑圧されれば鬱憤は溜まる。

 

 そしてあれの堪忍袋は菩薩の如し。

 

 しかしそれが解き放たれればどうなる?

 

 自由の身となり、己に付いてくる家臣を篩に掛け選別したあとはどうなる?

 

 宴に有頂天となったと見せ掛け、あやつの望む物を与えてやったらどうなった?

 

 この清洲ではない。

 

 守山こそが今はこの尾張の中心ぞ。

 

 尾張だけではない。

 

 美濃や三河、伊勢からも流民が後を絶たぬ。

 

 しかし時め、余程慎重じゃ。

 

 あやつは国というものがわかっておる。

 

 自らの民を守る為、守山には関所が設けられておる。

 

 手形が無ければ入れん様になっておる。

 

 そしてその手形は民にも配られ、仕事や普請をやる為には手形が無ければ就けん。

 

 手形無き者は手形を与えるが、その手形分働かせる。

 

 その間も手形とは別に働いた金は貰える、手形分ちと少ないが、飢えぬ程度の金にはなる。 

 

 そうやって民が誰なのかを見れる様にしておる。

 

 流民であるから手形は無いどころか住処も無し。

 

 そうして手形を手に入れた時期ごとに民を仕分け、村作りをさせる。

 

 住処を建てるのだ、皆必死こいてやるぞ。

 

 そして村で何かが起これば、その一定の時期に手形を貰った組みを監視する。

 

 良く出来た牢じゃ。

 

 普段優しいくせに、その腹の内は真っ事恐ろしき物よ。

 

 そうして村々で秩序を保たせる。

 

 悪さをすれば村八分に遭う。

 

 村から出ても、手形により何処ぞの誰ぞとわかるのだから、名に傷が付く。

 

 一見極楽浄土に思えて、息苦しい国よ。

 

 しかし一線を越えねば誰も文句は言わん。

 

 要は、秩序を乱すな、不和を引き起こすな、人様に迷惑を掛けるなという国じゃ。

 

 それを御法度に触れれば罰則が与えられる。

 

 罰金やただ働き、牢に入れる等だ。

 

 行き過ぎれば首を落とすまでやる。

 

 そうする事で御法度の重さを理解させる。

 

 そうした荒くれ者は自然淘汰される。

 

 残るのは法度を犯さぬ清き民か。

 

 しかし傷者でも娑婆への復帰の為の道筋も作っておくとは、不平不満が溜まらぬ様にも気を配っておる。

 

 あれは徹底して文明改革をやっている時の膝下であるから成せる荒業よ。

 

 わしの清洲で同じ事は罷り通らぬ。

 

 それは末盛でも同じ事。

 

 なまじ隣であるから末盛の民は守山の民が羨ましくて是非もなしと来とる。

 

 時が離れてから勝の領地は回っておらん。

 

 いつ白紙を持って来るかと楽しみにしとったのじゃが、その前に城主が潰れてどうする。

 

「殿ーーー!! 殿ーーーっ!!」

 

「なんじゃ騒がしい」

 

「す、末盛の柴田勝家が、守山に攫われた信勝様奪還の為出陣したとの報せが…!」

 

 あーあ、やっちまったわな母上。

 

 勝家死んだぞおい。

 

「そ、それと、宿老林殿も軍を率いて出たとの報せが…」

 

 あーあ、こりゃもう滅茶苦茶じゃ。

 

 茶釜が噴く様に時のやつかんかんになるぞ。

 

 態々美濃くんだりまで援軍に駆け付けた場での退き程度で、どいつもこいつも浮かれよって。

 

「如何なさいますか」

 

「決まっておろう。常備えの騎馬を出せ! 先発として守山に向かわせよ! 兵を集めよ! 信時の援軍に向かう!!」

 

「ははぁっ!!」

 

 わしは声を張り上げながら命を下す。

 

 平時でも常備えの兵を用意しておくのはこちらでは貧乏籤扱いだが、守山では大変名誉ある兵職として人気であるらしい。

 

 守山の兵らは日中と夜通しの兵役に別れ、厳格な時間で交代や休息を挟むという。

 

 それを時期を決めて兵役を交代し回せ、そして兵役を改めて募って就かせるという。

 

 また夜通しの兵には追加の金を用意する。

 

 金が欲しくば夜通しの兵役、寝たくば日中の兵役、そして常時備えの即応の兵役。

 

 石火矢鉄砲隊は金が掛かっておるが、しかして兵は皆新兵や若輩、或いは各隊の弱兵を敢えて集めておる。

 

 それは素人でも人を殺せる武器を与えるのなら、城備えは鉄壁を心掛けるのならば精鋭を置く。

 

 普通なら逆をするのだが、剣の達人に銃を渡すのは阿呆のやる事よ。

 

 弓の名手に銃を渡すのもまた阿呆。

 

 何故個人の技を活かさぬ。

 

 代替出来る凡夫でも扱える強力な武器は凡夫を揃えて扱わせれば良い。

 

 達人名人はその分野で活かせば良い。

 

 素人や新兵には刀も弓も扱えまい。

 

 じゃが、鉄砲や石火矢は違う。

 

 火薬を込め、玉を込め、狙い銃爪を引けばそこらの小童でも武者を殺す。

 

 しかし弓の名手には弓の、剣の達人には剣の働きが必要となる。

 

 なにより金掛かるんじゃ石火矢鉄砲隊は!!

 

 あんなの幾つも拵えられるかぁ!!

 

 なんじゃよ、鳥凧に乗って空から爆弾降らせるとかぶっ飛び過ぎて誰が考えつくんじゃ!

 

 帆船の帆を使って空を飛び、敵陣の後ろに兵を降ろして挟み撃ちとか卑怯じゃろ!!

 

 天狗でもなければ出来ぬわっ!!

 

 じゃから、守山城は落とせぬよ。

 

 あの鉄筋こんくりぃとと言ったか?

 

 なんじゃあれ、卑怯じゃもんあれ!

 

 土壁や石積み壁が鼻で笑えるわ。

 

 木型に流し込んで乾燥させれば頑丈な壁となるなんぞ、卑怯じゃ卑怯!!

 

 しかも木型は釘で固定しとるだけじゃから他にも使い回しが出来るとはもうおかしいぞあれ。

 

 その鉄筋こんくりぃとの壁が幾つも並ぶ迷宮の様な、守山城まで登る路を、いったい何人の兵が越えられるか。

 

 物陰に隠れ潜み、時には土に紛れ、時には草に紛れ、息を殺して襲って来る信時守山兵に、いったい何人の兵が正気を保てるか。

 

 籠城するのならばわしの援軍まで持ち堪えよう。

 

 打って出ても城と城下の先の平原、兵の教練場で迎え撃つのならば3倍の兵であろうとも耐えられよう。

 

 虎の子の石火矢鉄砲隊を出陣させれば王手よ。

 

 しかし城を枕にする寸前まで行かねば、時は石火矢鉄砲隊を使う事はなかろう。

 

 こんな身内争いのしょっぱい戦で解くには惜しいと時のやつもわかっておる。

 

 出て石火矢と、数発の花火程度か。

 

 或いは花火の一発で決まるか。

 

 しかし、嫌な予感がする。

 

 姉上ぇ……──

 

 また我が儘を仰りますね、姉上──

 

 何故我ら姉弟、あの頃の様に過ごせぬのじゃ。

 

 のぅ、勝、時……。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 カッツがもう限界だとわかった俺は、カッツを守山城に留め、病故に暫し守山城にて看病すと末盛城に使いを出したのだが、帰って来たのは使者の首。

 

 そして末盛城の柴田勝家が兵を率いて出陣。

 

 名目は守山城の織田信時に攫われし我が主、織田信勝様の奪還である。

 

 マジかよ……。

 

 すげぇ頭痛くなった。

 

 馬でも30分程度で着くくらいしか離れていない。

 

 足軽の足並みに合わせるなら1時間程度か。

 

 これは謀反と取って良いのか?

 

 美濃での撤退後、ノッブでは尾張を纏められないと離反する者らが相次いだ。

 

 なんか日本一謀反された回数の多いらしい織田信長って言っても、傾奇者とうつけを履き違えてるバカ共のバカがバカやって、あーーーーもうっ!

 

 ホントになんなんだよバカヤロウコノヤロウ!!

 

 デストロイヤー菅野どころか人殺し多聞丸召喚スッゾコラァ!!!!

 

 昔だと気が狂れたとか言うけどさ、絶対重責のストレスでの自律神経がメチャメチャになった末の自暴自棄の表れだよ。

 

 俺、この戦い終わったら精神科医開業するんだ……。

 

「如何なさいますか、信時様」

 

「如何も何も、迎え撃つ。城備えは夜備えの兵を叩き起こせ。日備えの兵は出陣の備えをさせよ。常備えは先発し斥候として柴田の動きを逐一報せよ。信号弾の使用も許可する」

 

「御意!」

 

 俺はそう命令を下すと、一度自室に戻った。

 

 目許の隈の濃さからまともに眠れていなかったのは理解出来る。

 

 あの姉上ファーストのカッツが、ノッブと敵対出来るわけないじゃないか。

 

 そのノッブを見限った連中が、カッツを擁立し、ノッブ打倒後はカッツを傀儡にして実権を握るつもりなのはわかっている。

 

 だからカッツを城に引き留めた。

 

 これ以上は、信勝の心が死ぬ。

 

 だから今は、ゆっくり休んで良いんだよ、兄上。

 

「信時……」

 

「兄上、起き──」

 

 腹を何かが襲った。

 

 衝撃?

 

 この感覚は知ってるぞ。

 

 以前背中に感じたやつと同じ……。

 

 痛い、お腹が?

 

 なんかお腹壊す物食べたっけ?

 

「かっ、つ、……ごふっ」

 

 食道を込み上げてきた鉄臭い液体が、逆流に逆らえなくて口から溢れた。

 

「は、ははは、はは、信時、信時が、信時はっ、僕は、僕が、僕がねっ!!」

 

 信勝が離れ、支えを無くした俺は膝から崩れ落ちた。

 

 寝間着の白い生地が、真っ赤に染まっている。

 

 あぁ、そうなのか。

 

「僕が、僕がやらなくちゃ……母上、やめてください……お願い、します、ぶたないで…、やめて……」

 

 ホントに、生真面目バカなんだなぁ。

 

 嫌ならさっさと逃げれば良かったのに……。

 

 がたがた震える信勝の身体に縋り付いて、服を引っ張ってなんとか立ち上がる。

 

 そして、信勝の唇を奪ってやって、その身体を抱き締める。

 

「もう、いい……」

 

「え?」

 

「もう、終わったよ、……兄上」

 

「っ、あ、ああ、あっ、あああ、っっっッ、信時ぃぃぃぃぃーーーー!!!!

 

 

 

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