ノッブとカッツに愛されて夜しか寝れないトッキ 作:星乃 望夢
俺の腹に短刀ぶっ刺して、もう全部限界が天元突破したカッツは意識を飛ばした。
取り敢えず布団に寝かし直したカッツの頬に触れて、優しく撫でながらその閉じられた目尻から流れ落ちる涙を親指で拭ってやる。
その雫を、無念を、握り締める。
「殿っ!? その短刀は…っ」
「何も無い。轡を持て。施術する」
「はっ、は、しかし」
「二言は無い。今は一刻を争う」
「ぎょ、御意っ!」
俺は淡々と命を下し、持って来られた轡を噛み締め、腹の短刀を引き抜く。
無意識に身体が動いたか、それとも信勝の無意識か。
短刀は左脇腹に刺さった。
まぁ、腸の辺りを少しやったかは判らん。
俺は符術札を傷口に当てる。
「アンサズ!」
そして符術札に魔力を流して魔術を使う。
「ぐむ゛う゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛っっっッ」
傷口を焼いて防ぐという乱暴な施術で出血は収まった。
内出血は、まぁ、是非もなし。
噛み締めていた轡を吐き出し、脂汗を掻きながら身体を畳の上に大の字に擲って息を整える。
2度3度気絶しかけたという大佐の言葉通り、2度3度気絶しかけた。
俺の怒りが有頂天でなかったらヤバかったな。
「伝令、柴田の動きは」
「はっ、その足行き鈍し、松川の関所にて布陣!」
「数は」
「およそ千」
「総動員発令。城と城下の
守山城はそこまで大きな城ではない。
まだ富国強兵政策を始めて1年。
城の拡張工事なんて物が出来るはずもない。
しかし集まってくる民に城下町は次々と区画整備と長屋建設を指示した。
城領地は一つの国と例えられる。
そして多くの流民は言ってしまえば外から来る難民だ。
難民を受け入れて滅茶苦茶になった国の末路は悲惨だ。
だから俺は手形を一人一人に配って戸籍制度とマイナンバーカードもどきで何処の誰さんが何処に住んでいるかという戸籍謄本を作った。
そして法治国家として機能する様に法度を細かく決めて出した。
自警団を募って警察の代わりとした、消防もあるぞ。
とにかく法で厳正に裁かないと、異なるコミュニティからやって来た人間が同じ空間で生活するという事で生じるトラブルに対処出来ない。
手形を無くす=住民表を無くすのも同義で、何があっても商いも普請もさせない徹底振りだ。
情に訴えても決して揺らいではならない。
また手形を取るために働かせる。
しかし何度も手形を失くす輩には再取得の度に罰金と罰則としてさらにキツい仕事を振り分ける。
3度紛失すると再発行を受け付けず、領地から放り出す。
不法滞在には強制退去を執行する。
甘くするとつけ上がる上に、前例を生めばなし崩しになる。
チャンスが3回は少なすぎる?
初発行含めて4度もチャンス作ってるんだからこれでもかなり甘くしてるぞ。
それくらい厳しくしないとこの時代の人らは憶えてくれなんだよ。
盗みは程度によって裁くが、殺しは一発アウト。
打ち首にして晒し首だ。
もう恐怖政治もかくやって感じだけど、そうでもしないと喧嘩の流れでつい殺してしまったとかザラにあるんだよ。
殺しの償いは命で取らないと駄目だ。
話が逸れた。
総動員令は、そうでもしないと兵の数が足りない。
城の常用兵はたったの450人だ。
50は石火矢鉄砲隊だから実質的に運用出来る兵力は400。
総動員令で集められる兵力は300程度。
合わせて700。
数は揃えられても約半分は農民で、練度は正直期待出来ない。
というか、守山城に常駐する兵士は俺がブートキャンプやり過ぎのウォークライで魔改造したから、農民との連携は多分無理。
石火矢鉄砲隊は砲兵、しかし他の兵列が古いままでは性能は発揮出来ない。
だから手持ちの全ての兵に現代戦を出来るよう叩き上げなければならなかった。
450人という超少数兵だから出来た事だ。
伝令が簡潔なのも一々全部言っている暇に戦況が変わるから、そんな悠長に語ってる暇が無いからだ。
俺は頭の中で地図を描く。
身体は動かずとも頭は動く。
柴田勝家は松川関所に陣を構えた。
城の中からでも陣地が見える。
ざっと1.5kmか。
なにしろ守山城と末盛城は5km程度しか離れてないからなぁ。
川挟んで別れてるからそこが領地の境界線だ。
そしてその松川は城の目と鼻の先に流れている。
望遠鏡でもあれば勝家の顔をここからでも拝めるんじゃないか?
「望遠鏡で陣の動きは見えているな」
ちなみに望遠鏡は宣教師伝手で買った。
「はっ、陣を構え、攻め入る様子無し」
妙だな。
松川からここまではそれこそ走って直ぐだ。
ま、それは想定済みで塹壕陣地と鉄筋コンクリートで作った石壁があちこちに並ぶサバゲー場みたいになっているからなぁ。
城下町も鉄筋コンクリートで囲って取り敢えずの防備はしてあるが、拡大の一途だから実は末盛城のある南側から西に向かってはそれなりに備えてあっても、北側はガラ空きなんだ。
それも是非もなし、南は直ぐ松川で末盛、つまりは信勝の領地なのだから拡張しようもない上に潜在的には敵方だからそちらの防備を固めるよなぁ。
こちとら歴史とFGOからカッツが謀反起こすの知ってっからさぁ、そら備えるわ。
「大砲は」
「否、大砲認めず」
城攻めするのに大砲を持って来ていない。
それこそお隣さんなのだから大砲くらい運ぶのはわけないだろう。
いや、此処に信勝が居て、その奪還を名目に軍を出したのだから、城ごと生き埋めにし兼ねない大砲を使わないのか。
となると、正攻法での攻城戦となる。
「姉上への伝令は」
「既に駿馬にて出立、半刻には到着かと」
こういう時の為に速い馬と、そして馬を潰すのではなく乗り換えて疾く辿り着く様に幾つかの中継地を設けていた。
わかっているんだから、起こった時に対する備えは幾らでもあるぞ。
「敵斥候、塹壕に侵入!」
すると外から盛大な爆発音が響いてきた。
「幾つやった」
「点火四! 時差爆発、戦果大!」
「ん、であるか…」
この城は、石火矢鉄砲隊以外は俺が居なくても城を守る程度の事はしてくれるように鍛えた。
まぁ、ブートキャンプを乗り越えた猛者だからやってもらわないと困る。
でないと安心して家の留守を任せられん。
塹壕には地雷が埋めてある。
とはいえ対人地雷ではなく、城からながーく繋がる導火線の先にある火薬地雷だ。
だから斥候が塹壕に入る前、入る時を狙って火を点けなければならないシビアな工程を見事やり遂げてくれた。
これで塹壕に入ったら死が待っていると向こうには知れた。
南側は良く掘ったからなぁ。
塹壕、あと4つあるぞ。
そこが死川よ。
これなら城下町の塹壕は使わなくて済みそうか。
先程開けさせたのは城下町の塹壕だ。
簀子と板で普段は普通の路でも、それを退かせば塹壕となる。
俺が目指したのは現代戦。
なにしろ数が少ないからな。
しかもブートキャンプに落ちた奴らは自分から兵役を辞めて行った。
やる気のある奴が残り、やる気の無い奴は去った。
別にイジメたわけじゃない。
規律と統率を徹底する為に新兵訓練をした程度だ。
あれで折れていたなら俺の軍として使えなかったというだけだ。
まぁ、そんな根性なしのウジ虫以下の奴らが役に立つわけない。
だって塹壕掘ったり地雷仕掛けたの訓練のあとにやったんだもん。
ウチでやれなきゃそら隣ん家の信勝の所に士官するよな。
そこから告げ口しても無駄の極み。
城主が率先して塹壕掘るって中々ないぞ。
でなきゃ城を枕に死ぬかもだから頑張ったんだよ。
謀反起こして信長の清洲まで攻め上がるのには、末盛からはどうあっても守山を通らなければならない。
その守山城主は信長の影武者である織田信時、つまり俺。
信長派の俺をぶっ倒して行かないと信長には辿り着けない。
信長の影を討たねば先へとは進めぬ。
全部計算して俺を守山に入れたんだろうなぁ、おーコワ。
「敵兵種は」
「長柄四、弓一、足軽二、歩兵三、鉄砲隊零、他騎馬およそ三十騎」
槍衾兵400、弓兵100、歩兵200、農民兵300、鉄砲無し、騎馬30ね。
鉄砲隊無しは仕方ない。
なにしろまだ鉄砲は強力でも合戦で使えるって普及してないもん。
砲無し銃無し、火矢を届かせるには塹壕を超えなくてはならない。
しかし城下町や城を守る城壁は鉄筋コンクリート製だから燃えない。
曲射しようとも、消防隊が火消しをしてくれる。
用水路が城下町には流れているから水はジャブジャブ使える。
しかも長屋も鉄筋コンクリート製だから燃えない。
戦場になるってわかってるんだから、火計対策だってするでしょ。
まぁ、城下町でも南側だけで、矢の届かない距離からはまた漆喰、さらに離れると木造になるけど。
4つの塹壕を渡らなければ柴田は城へ攻撃も出来ない。
しかしその塹壕には死が待っている。
「堰を開ける備えをしておけ。4の塹壕に入れば開けろ」
「御意」
塹壕は4つであるが、4つ目の塹壕は用水路から水を入れられる様になっている。
そして第1から第3塹壕は普通の塹壕だが、第4塹壕は少し幅広い。
それは城が攻められた時に退けられない最後の塹壕だからだ。
大人数展開出来るように幅を広くしたのである。
一見するとただの干上がった小川だ。
「柴田側、関所の材を渡しにする模様!」
「ん、であるか…」
塹壕に入れないのなら塹壕に入らない様にする。
流石柴田勝家、謀反やっても信長に重用された戦国武将。
柴田勝家っていうとランスのロリコン勝家が思い浮かぶけど、侮れんな。
伝令は馬を乗り継いで急いで20分程度で清洲城に届くはず。
そこから信長の事だから常駐兵から騎馬隊を先ず先発で寄越してくれるはずだ。
ただウチの隊との連携は難しいだろうな。
「幾つだ」
「点火三! 渡し崩落!」
ふむ、塹壕を越えた所にも当然地雷は仕掛けてあるから、塹壕越えたら安全、なわけねぇよ。
来るのわかっているんだから備える。
そしてそこは普段教練として使いながら、お前達信勝派が攻め入ったら必ず殺す死地として拵えたんだ。
じっくりと味わって逝け。
「榴弾弾込め」
「御意!」
普通の野戦砲なら届かないが、攻城用の30号なら曲射で余裕で届く距離だ。
爆発範囲は約300m
花火大会の締めに使う様な超大玉だ。
曲射というより、殆ど直射みたいな角度で撃つ事になる。
なにしろ城の上からだから塹壕まで届く前に角度を上げすぎると通り過ぎてしまう。
「玉込め良し!」
「殿」
「撃て」
ボンッという音と共に、ヒュ〜〜〜ルルルルルっと音が鳴る。
そしてけたたましい爆音と衝撃が駆け巡る。
「着弾! 柴田方、歩兵壊走! 暴れ馬にて騎馬隊一時無力化!」
「ん、であるか」
そらあんなデカい爆音を目の前で響かせれば、農民兵は腰が抜けて逃げ出すわな。
馬だって暴れるから使い物にならん。
やっぱ花火って人に向けたら危ないわ。
「斥候はどうなった」
「気絶にて不動の模様」
あんな爆発至近距離で受けたら鼓膜は確実に破れるわ、おそらく衝撃でショック死しても無理はない。
それにしても最初の勝家の動きの鈍さが気になる。
こちらを小兵と侮っていたか。
いや、そうであれば疾く城攻めから一刻も速く信勝を奪還する為に突撃するはず。
まるで何かを待っているかの様だ。
兵糧攻めとしようとも、それは城を包囲しなくては意味が無い。
兵糧攻めでなければ、侮りでもない。
待っているというのは時間か?
この情況で待つもの。
「敵の増援を覚悟しておけ。最低でも倍に増える想定でな」
「御意」
敵兵が二千にもなると言われてるのに、戦国兵士をブートキャンプで魔改造したらめっちゃ頼りになる兵隊の完成は嬉しいねぇ。
「伝令! 宿老林秀貞並び林通具、守山へ出陣」
「ん、で、あるか…」
これで柴田勝家と信長の家臣林秀貞まで此処を攻めてると、まるで俺が本当の悪党みたいじゃないか。
或いはそれで大義名分を得ることで両手を挙げて俺を潰す気か。
最悪、石火矢鉄砲隊を使う事になるか。