ノッブとカッツに愛されて夜しか寝れないトッキ   作:星乃 望夢

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第七話 戦国マインスイーパー(手動起爆式)

 

 松川に陣を構えた柴田勝家は、目の前に聳え立つ守山城をどう攻略したものかと頭を悩ませた。

 

 歩けば一刻で辿り着ける守山と末盛。

 

 その名の如く、守りに重きを置いた山城と言うに相応しい。

 

 その城主は尾張一の陰陽師、そして稀代の戦略家織田信時。

 

 勝家は信長、信勝、信時の父、信秀に若輩より仕えた重鎮。

 

 しかし信長の考えが理解出来ず、勝家はまた主の遺言である信勝の味方として腕を振るっていた。

 

 そして、庶子でありながら姉信長に比する、いや、南蛮文化を積極的に取り入れ国作りに励む信時の方が、考えが理解出来ぬ信長よりも何倍も恐ろしかった。

 

 夜叉か羅刹か、分別に窮する。

 

 さりとて真っ当な人ではない。

 

 陰陽術に長けているのだからこの世の理とは別の理を生きる、人にして人ならざる者。

 

 勝家は信時をそう評していた。

 

 こうして軍を率いて対峙してみても、いったいどうやって攻略すれば良いのかという案が出て来ない。

 

 浅いが四重の掘、その掘の中も、その掘を越えた上土にも、火薬が仕込まれている。

 

 堀に入れぬのならば渡しを付けて乗り越えようとしても、その渡しを置く上土にも火薬が仕込まれているのならば、この堀を越えることは容易くはない。

 

 かと言って城を囲うには兵を散兵にし過ぎる。

 

 それでは薄い所を突かれ、兵が壊乱する危険がある。

 

 そしてあの火龍だ。

 

 城から放たれた火の龍は、空を駆けて地に落ちれば、今迄に見たことのない火花と音と衝撃を撒き散らして爆ぜた。

 

 それにより農民兵は恐れを成して遁走した。

 

 無理もない。

 

 あれは火薬だろうと理解は出来る、だが理解が追いつかず、火薬が身近には無い農民からすれば神の御業に違いないと受け取るだろう。

 

 今迄に戦った、どの武将も全く参考にならぬ戦術。

 

 先ず己の兵を蛆虫以下、厠の壁にこびり付いた糞だと称して罵倒し、教練するという意味が分からん、意図が分からん。

 

 重い丸太を担がされてひたすら罵倒されながら円陣を走り続ける、それが二日食い物無しで続く。

 

 縄梯子を登り、櫓の上から飛び降り、泥沼を進み、土の上に板を被せた狭く暗闇の中を這って進み、鉄の棘のある縄を編んだ柵の下を傷だらけになりながら仰向けに進み。

 

 その最中も絶えず罵声が飛ぶ。

 

 最早教練ではなく拷問の類だ。

 

 狂うておる。

 

 そうして兵を選別した。

 

 己に付いてこれる兵を生み出した。

 

 恐ろしい。

 

 信長の考えは理解出来ぬが、何をされたのかは理解出来る。

 

 信時の考えは理解出来ぬ上に、何をされたのかを無理矢理理解させられる。

 

 まだ理解出来る兵法を用いる信長を相手にする方が気が楽だ。

 

 理解出来ぬ、予測の出来ぬ兵法を用いる信時を相手にさせられる恐怖。

 

 己でなければこの恐怖に押し潰されていただろうと、勝家は内心で息を吐く。

 

 歩兵は壊乱、足軽衆も恐怖に慄いている。

 

 騎馬もようやく落ち着いたが、同じ手を使われたら二の舞。

 

 林殿の軍が参じれば城は包囲出来よう。

 

 だが既に信長へ向け伝令が放たれているはず。

 

 城下町から城を囲う城壁は漆喰、火矢を放った所で無意味。

 

 大砲は信勝様の身の危険を案ずるならば使えず。

 

 この堀は兵の選別後に普請されたものらしく、守山から末盛に鞍替えした兵でも知らぬと来ている。

 

 全て計算の上で成し遂げているのならば、いや、あの算術の天才である信時ならば全て計算済みで事を運んでいる。

 

 掌で踊らされている。

 

 城から兵が出て来ないとなれば、信時は籠城の構えで信長の援軍を待つ姿勢。

 

 林殿の軍と合流後、守山城に攻め入るしかない。

 

 援軍に駆け付ける信長軍を先に相対するかと考え、即刻棄却する。

 

 背中を見せれば必ずそれを突き噛み付いてくる。

 

 そしてこちらは信勝様救出という名分で兵を出した。

 

 信長軍と当たればその名分を無くし謀反となる。

 

 謀反人には一切の情け容赦が無い信時へ大義名分を渡す事となる。

 

 そうなれば柴田家は一族郎党根切りとなる。 

 

 こうして手を拱いている時すら、あちらへ有利になる。

 

 しかし掘を越えられぬ、いや、既に火薬の爆ぜた所へもう一度渡しを掛ければ爆ぜる物が無く渡しを掛け続ければ何れは掘りを越えられるか。

 

「怯むな! 堀の爆ぜた所へもう一度渡しを掛けよ! 一度爆ぜれば次は無い!」

 

「し、しかし勝家様、またあの火の龍が放たれれば…っ」

 

「我らの殿を鬼からお救いするのだ! 皆の者、続けぇ!!」

 

 勝家は狼狽える者らに檄を飛ばしながら騎馬を駆り、前へ出た。

 

 それが彼の命を救った。

 

 彼の背後で大爆発が起きたからだ。

 

 その爆音に暴れた馬から振り落とされ、落馬した勝家は信じられない物を見た。

 

「織田信時空軍第一飛行部隊大将坂井孫平次、推ぃぃぃ参あああああんっ!!!! 殿に弓引く謀反人は死ねよや馬鹿垂れ共ぉ!!!!」

 

「…ば、馬鹿なっ、空を、人が、空を飛ぶ、だと……!?」

 

 まるで天から獲物を狙う鷹の様に、鳥凧の様な物に吊るされた人間が、爆弾を落として、その勢いのまま再び空へ舞い上がって行った。

 

 そして坂井孫平次の置き土産である爆弾が次々と爆ぜて行った。

 

「我、空軍一番槍奇襲成功せり!! 虎・虎・虎ぁぁぁ!!!!」

 

 そして爆風を受けてさらに空へと駆ける孫平次に続くように、鉄砲でも届かない遥か上空を旋回する織田信時空軍の兵らより次々と爆弾の雨が降った。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 30号花火をぶち込んで、体感的には10分もせずに連続した爆発が外から聞こえてきた。

 

「孫平次か」

 

「はっ、坂井孫平次、空襲成功!」

 

 この守山城から見て北東の山中を切り拓いて作った飛行場がある。

 

 信号弾の合図を受けて、飛行場からハンググライダーで駆け付けた空爆部隊の攻撃だ。

 

 メインフレームを鉄にしながら、羽は竹製の骨組み。

 

 アルミなんてないから重い代わりに頑丈な鉄をメインフレームに使った分、軽量化には強くて撓る竹を使うしかなかった。

 

 そして、空軍の中で唯一、急降下爆撃から再上昇の出来る天才が坂井孫平次。

 

 俺はやって見せ、言って見せ、やらせてみせだから、俺がやれなきゃ全て机上の空論だ。

 

 俺以外に今現在唯一急降下爆撃の出来る孫平次は出世頭だ。

 

 なにしろ今の時代世界広しと言えども、空爆が出来る軍隊なんぞ何処にも居ない。

 

 他の者らも飛べるが、しかし飛びながら片手でポールを掴んでバランスを取り、吊るしたランプの中に爆弾の導火線を入れて着火、括った爆撃を切り落としてと、中々に大変な作業をするから水平爆撃が手一杯だ。

 

 だから無理にやらせずに水平爆撃しか出来ないのなら絨毯爆撃をさせれば良い。

 

 無理にやればそのまま地面とキッスでお陀仏だからな。

 

 ハンググライダーだって造るの大変だから壊したくないし。

 

 そのハンググライダーを訓練でぶっ壊しまくる孫平次には頭痛くなるけど、あれで俺より飛ぶの上手いから文句言えねぇんだよ。

 

 そして急降下爆撃はピンポイントでの攻撃と、今や空からも襲われるという戦国時代ではあり得ない現実離れした現実を叩き付ける。

 

 その効果、絶大なり。

 

「信号弾上げろ。絨毯爆撃に切り替え。第1、第2分隊の備えは」

 

「はっ、既に通路を抜け、柴田陣左右に展開」

 

「王手だな」

 

 そして信号弾である花火が打ち上げられ、再び連続した爆発が3度続いた。

 

「戦況」

 

「はっ、我が空軍により柴田本陣被害甚大」

 

「上空、空挺兵待機!」

 

「敵陣の後ろに空挺降下。左右の隊と合わせ包囲殲滅。伏せていた第3分隊も前に出せ。四方を囲み、鼠一匹取り逃すな」

 

「御意!」

 

 上空からの絨毯爆撃でもう戦う力もまともに残ってはいないだろうが、それでも最後まで手は抜かない。

 

 また信号弾が上がると、爆発が連続する。

 

 パラグライダーで降下する二人一組の空挺兵から爆弾を落として着地点の安全を確保する。

 

 そして敵陣の後ろに次々と降下した空挺部隊の着地に合わせて姿を見せるのは、城からひたすら掘った地下道を使って堀の外に出て伏せていた兵たち。

 

 後ろに空挺降下、左右に伏兵、ならもう前に行くしか無い。

 

 しかし前にはガチガチに盾で防備したファランクス部隊が現れる。

 

 最早壊滅状態の軍に、俺の軍隊が止められるものか。

 

 石火矢鉄砲隊の編成があまり進まないのも、こうして城を守る兵達の装備を優先したからだ。

 

 来るってわかってるんだから、城を枕に切腹なんて絶対に嫌だから、やれるだけの事を毎日精一杯やったんだ。

 

 この勝利は当然の帰結だ。

 

 しっかし、あの爆撃の中で生きていた柴田勝家はバケモンかな?

 

 取り敢えず取っ捕まえて縄で縛って捕らえたらしい。

 

 なに? 林秀貞と林通具が到着した?

 

 もう遅い、と言いたいものの、空軍は爆弾を使い切って帰還。

 

 柴田勝家との合戦はこちらの勝利。

 

 さて、どんな名目で林は軍を出したのか。

 

 姉上、もうちと身内を抑えてくれません?

 

「俺は寝る。姉上が来たら起こしてくれ」

 

「御意」

 

 指揮が終わり、俺は擲っていた身体を起こして部屋に向かう。

 

 部屋の布団にはまだ信勝が眠っている。

 

 俺は符術札を焼いた傷口にペタペタと貼ると、魔力を込めて治癒力を高める。

 

 これ、痕がくっきり残るなぁ。

 

 札の上から布をぐるぐる巻にして結ぶと、あとは身体が勝手に治してくれる。

 

「兄上…」

 

 俺は信勝の頬を優しく撫でると、その隣に横になって目を閉じた。

 

 流石に、ちょっと…、疲れた……。

 

 

 

 

 

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