「少しは足しになったかな、もの足りないけどね。」
2階層まで難なく来てしまった、ベルは剣を正眼に構えながら前からくる3体のゴブリンを一瞬で切り裂いた。
「でも、エイナさんからは2階層までならいいって言われているけど、それ以上降りると怒られちゃうからなぁ、それに、恩恵をもらって体と意識の齟齬があるから、それを直さないとね。」
切り裂いた剣には血がべっとりとついていた、普段通りなら、剣に血が付くようなことは起きない、意識と体で差があるからこんなことが起きるんだ。
「しばらくは、ゴブリンを数多く斬って錆落としかな?」
剣を血払いしてから、懐から布を取り出し剣を拭い、再びゴブリンを探そうと歩き出した。
「助けてくれー!!」
突如、ベルの正面から大声が聞こえて、冒険者が血相を変えてやってきた。
「どうしたんですか!?」
ベルが精神を冷静に保ちながら、相手に問いただした、どうやらイレギュラーが起きたみたいだけど、イレギュラーが起きたらまずは冷静になること、スレナ姉さんに習ったことを実践しよう。
「はぁ、はぁ、5階層でミノタウロスが出たんだ!俺のパーティがミノタウロスに襲われて、俺だけ何とかギルドに救援要請を頼もうと戻っていたんだ!!まだレベル1だからこのままじゃあ、俺のパーティが全滅しちまう!」
狼狽しながらも冒険者が答える。
「っ!5階層のどのあたりですか?」
緊急を要すると思い手短に尋ねる。
「4階層へ上がる階段の前だが、聞いてどうする!?お前も新米だろ!」
焦りながら冒険者も答える。
「わかりました、僕が行きます、5階層までなら地図も頭に入っています。」
ベルは冷静に答える。
「行ってどうする!お前も、って、えっ?」
その冒険者がベルを止めようとした瞬間、もう目の前には白髪の少年はいなくなっていた。
「もうすぐ、5階層だ、急がないと。」
ベルはレベル1とは思えない猛スピードで迷うことなく3・4階層を駆け抜け、邪魔するモンスターをしなやかな体裁きで避けていった。
「あれがミノタウロス!大きい、けど、アリューシア姉さんやスレナ姉さんに比べたら問題ない。」
3人の冒険者が何とかミノタウロスの猛攻に耐えていたが、戦線が崩壊するのも時間の問題だった。
「加勢します、負傷者を下がらせてください。」
ベルは持っていたナイフをミノタウロスの眼にめがけて投げ、冒険者たちを庇うように前に出て、すかさず抜刀した。
「応援・・・、あいつが呼んでくれたのか、でも、早すぎないか?」
「呆けている暇はないです、早く負傷者を下がらせてください。」
冷静に再度負傷者たちに下がるように言い、呼吸を整える。
(ここで、僕までやられたら、ここにいる冒険者たちだけでなく、上層の冒険者も危険だ、ここで仕留める!)
剣を正眼に構え、ミノタウロスをどこからでも攻撃できる位置を取った。
【ヴモオォォォ!!】
ミノタウロスは自分の邪魔をした小さい存在に苛立ちを感じ、突進を仕掛けた。
ベルは負傷者が離れたことを確認し、自身の全速力で駆けた。
【モ?】
ドシーンッ!
そして、ベルとミノタウロスが交差した瞬間、首はポトリと落ち、その体は崩れ落ち、ミノタウロスの意識は闇へと帰っていった。
「何、あれ?」
金糸の長髪に金眼のレイピアを携えた少女、アイズ・ヴァレンシュタインは先ほどの一瞬の一閃を目の当たりにして驚愕していた。
【あんな、冒険者見たことない、それにあんなにきれいな剣術も見たことない。】
「おいっ!アイズ、ミノタウロスはどうし、って何してんだ急ぐぞ!」
アイズの後方から現れた銀髪の狼人(ウェアウルフ)べート・ローガが苛立ちながら向かってきた。
「べートさん、あの子一瞬でミノタウロスの首を斬ったの。」
呆然とした様子でアイズはべートに先ほどのことを語る。
「はぁ、何言ってんだ、どう装備を見ても新米の冒険者だろう、しかも、見たことねぇ、レベル1ってことになるぞ。」
べートが訝しげに尋ねる。
「うん、そうだと思う、けど、本当に一瞬ミノタウロスと交差した瞬間に首が斬れて消滅したの。」
「レベル差があればできるだろうが、レベル1でこんな芸当できるやつなんてありえねぇ。」
べートは白髪に紅眼の冒険者の近くに転がっている魔石と剣にべったりと付着した血を見て、アイズの嘘ではないことを悟った。
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