「久しいな、我が友」
ああ、何もかもが懐かしい。かつての旅の途中で一時訪れた神の家。友はその最初の3つの神殿の上に置かれたベンチでチャームの動作を確認しているらしい。
気配を辿ると、どうやらハロウネストから追放された筈のグリムもここに招かれているようだ。ただし本命ではなく、システムの都合で本命の前に呼ばれたその他大勢のような扱いとも言える。だが、私にとっては些事。ここではいくらでも踊る事が出来るし、何より永遠の別れだと思っていた友と再会出来たのだから。
「私は本命の装備品の1つか? いくつかの者は理想や全盛期の姿だったが、私の姿もそういう事かもしれぬな」
最後の儀式まで完遂した姿。友に見せる事は叶わなかった、父のマントのような翼と、父と同じ緋色に燃える目。友なら辿り着こうと思えば達成出来たと思うが、友にとってそう思う事のなんと難しい事か。
「イトアミグモ達も息災のようだが、あの後はどうなった?」
「およそ想定通り。我らの王女は道を作り、虚無はそれに応えた。現実において光輝はもう無い。虚無は1つの存在に還った」
「ふむ、無事に成し遂げられたようだな。我が友、よくやった」
実のところ、それなりに心配はしていた。いくら我が友が古い光を滅ぼし得る存在だとしても、それはあくまで可能性の話。たとえ致命傷を与えられる能力を持っていても、それを生かせる状況に持っていけるかは別の話だった。役目に関する部分だけは慎重だったし、それ以外では度々不用意に強敵の巣へ入り込んでは根性で攻撃を凌ぐような妙な信頼はあったが。
頭を撫でて褒めても反応はないが、私が褒めたかっただけなので気にしない。元々大きな反応をするタイプではなかったが、特に近頃この手の触れ合いに対する反応が鈍い。もはや無とでも言うべき態度だが、今後もやめてやるつもりはない。
「それで、これからどうするつもりだ? と言ってもまたあまり道は多くなさそうだが」
友は下方を指差す。あの方向は確か1つ目の神殿だったか? つまり、求められる通りに再び神殿に挑んでいくつもりか。
「チャームはこのままなのか? この神殿はそこまで苦労はしなかったから問題はなさそうだが……うん?」
神殿の前に立つと連続で響き渡る鎖の音。それは以前一切触れなかったシステムで、それらが眩く輝くと間髪開けず扉が開かれる。いや、システムを動かして開けているのは友自身の筈だったな。躊躇の欠片もない。せめてまずは1つずつにしろと助言を言う暇もなく、友は光の中へ入って行った。
「……おかえり」
当然クリアは出来ず、強制終了である。負けても死なないと分かっているような時に友の底力は働かない。弾き出されて倒れる友を見下ろす。
「水路の騎士はかろうじて突破したが、あの悩める獣に一気に削られたな。うん? ああ、一応こちらでも見えていた」
束縛と呼ばれるいくつかの能力制限。友が連打した中のチャーム縛りによって我々は同行出来なかった。
「我々もいくつか発見があったが、まずは友がどんな感覚だったのかを聞こうか」
友から何かを聞き取るのは基本的に手間がかかる。なにせ友には声がない。その辺に石でも転がっていればそこに書かせるのだが、残念ながらここは綺麗に整備されてしまっているし、手元にペンの類はない。何となくで感じ取るにも限度があり、YESNOで答えられるような質問で絞って推測するしかない。
「……釘は何かが巻き付くような切れ味の阻害、殻はダメージを軽減する筈の仮面のいくつかが機能停止。ソウルは友自身の内面を別の物で埋めるように制限された上に外付けの器も同様の状態。更にチャームは……友と一体化していた筈の虚無の心さえ引き剥がされた、と」
いくら友自身の行動をトリガーにしているとはいえ、束縛の効果が強過ぎる。釘や殻は元々外付けだが、内面の本質に関わるような部分にまで干渉されている。
我が王曰くこの場所の神々は儀式に縛られているらしいし、儀式を行う側も束縛めいた姿をしているが、ここまで束縛に特化する意味はなんだろうか。
「さて、我々の方の話だが、どうやら色々な者がここへ勝手に入り込んでいるようだぞ。彼らが手当たり次第に呼び寄せた結果もあるだろうが、大した力のないただのムシが人目に付かないところで好き勝手していたり、明確な意図をもって集団で潜んでいる者がいたりな。いずれにしても以前に友が勝手に侵入した事がきっかけだろう。前者に関しては特に得られるものはなさそうだが、見に行くのは容易だから気が向いたら行ってみると良い。後者についてはおそらく彼らは基本的に味方だから、今は気にせずとも良い」
主賓であり、そうでなくとも目立つ存在である友が現時点で行ける範囲は限られているが、ただのムシの方は特に守りもない。今から行くかと問えば、案の定肯定が返って来たので早速案内する。
ここへ呼ばれた神々の像が置かれた神々の間。上段の奥、グリムの像より少し奥の上辺り。上手く天井に飛び付き、脆い壁を2つ壊したその先。聞き覚えのある声とともに開かれるのは、かつて度々遭遇した見覚えのあるムシの像がある部屋。壁には聞くムシがいなくとも延々と語り続けられたくだらない教えが貼られ、その前で玩具のような釘を掲げている。
「存外、本人は姿に関しての偽りはないのだよな」
「……我々も行くのか?」
イトアミグモ達は完全に引いている。
「所詮はただの余興だ。夢見でさえ一切のブレがない愚か者の自覚なき夢。彼にとっての現実とでも言うべきそれがどんな形か見てみたくはないか?」
妙な戦闘くらいはあるだろうと言って用意されたチャームはお供系主体編成。シナジーまで考慮されており、完全に指名されたと思った方がいい。しかし、最近はほぼ釘特化の編成で固定されていた中でこれは遊び心と思っていいのか? 単なる実験か、案内役が欲しかっただけか?
挑戦の意思をトリガーに夢が展開される。悩む私も尻込みするクモ達も置き去りに、永劫の試練と名付けられた妙な戦いは開始された。
だが、彼らの気配が薄いと思えば、ここでの戦いを全て見ている筈の求む者達が全くいない。それで……これは何だ? 思い付く限りのデタラメ、これまで我々が相対してきて面倒だと思ったタイプの詰め合わせ、果てには我らの特権のような能力であった相手のソウルを奪う敵まで……。
「これは……そいつと我々の夢が混ざった存在か……?」
「考察は後にしてくれ」
舞台はあまりにぐちゃぐちゃである。相手もこちらも数に訴え過ぎだ。観客席は静まり返っている一方で舞台は賑やかさと言うより騒がしさの極み。手数が増えても敵味方が入り乱れ、かえって回避が困難になるのはもはや本末転倒。各々は真面目に戦っているが、うん、これはもう笑うしかないな。あ、友が吹っ飛んだ。
戦闘が終わると逆に笑いが抑えられず、次の話に移るまでに友を待たせるはめになったのは余談である。
「こういうのもたまには良いな!」
「2度とやりたくない」
ちっとも起き上がらない友はどちらの意見だろうか?