ある放浪者の備忘録   作:名もなき放浪者

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ずっと主人公視点では話を進めづらいので、グリムの子と紡ぐ者は出ずっぱりです


トゥルーエンドを踏み外す3

 それにしてもこの場所は奇妙だ。全体的に暗く、影の気配が強い。ベンチの周辺は明るいし、上段奥の閉ざされた部屋も光輝の光が漏れ出ている。祈りが少しの光を漂わせているが、これは今回だけではなく、かつての光を求めていた時点でだ。ここ以外の場所は概ね眩しい程に光に満たされていると言うのに。

 友はひとまずここで一通りの敵と戦う事にしたようだ。ここにあるのは神殿で現れる神々の写し。ほぼ全て過去に倒した相手としても、戦い方を忘れている相手もいるし、一部戦っていない相手や状況の変わった相手もいる。

「ん?」

 今、見覚えのない形の像が見えた気がした。ホーネットなどのように再戦がある相手のような切り替えタイプだったから一瞬しか見えなかったが。先程のカマキリの王のように本気を出してくるのかと考えながら流れ作業のように展開された夢に現れた姿には、思わぬ方向に驚かされる事になった。

「ホーネット……ではないな」

 その姿はまやかしの物。己の顔を持たず、相手の記憶を盗んで仮面とする獣が、この獲物を狩るのに最も相応しいと選んだ姿。かつては友自身の姿をもって巣に誘い込んでいた筈の。

「虚無はあの王女にそこまで気を許しているのか?」

「どうだろうな。たとえ本物のあの娘だったとしても手心は加えんだろうが……あえて親しいムシと言えば彼女になるか」

 戦闘面での単純な強化ではないが、ある意味これも本気の姿か。友が精神攻撃によってその釘を鈍らせるとは思わないが、本来このような戦術はよくある物だ。

「もしくは、単に以前の姿がこの獣として認識されているから、次点の別の姿をとっただけか?」

「こいつはそこまで賢い獣なのか?」

「さあ。そもそもこいつに誘われた獲物は、喰われるか2度と近付かないかのどちらかだ」

 こうも厄介で不快な手口なら当然か。友は以前と異なる攻撃パターンには手間取っているようだが、動揺があるのかははっきりしない。多少形が変われども今となってはそこまで強くはない相手。パターンを掴めばあっさりと倒してみせる。

「お疲れ。変わりはないか?」

 何についてかと首を傾げる。ここで動揺がないなら、やはり獣が多少知恵を使っただけか? 追求して余計な事に気付かせても、とまで考えたところで、もはや友が封印の器になる可能性はない事を思い出す。宿命に縛られた器がいらない事を覚えては誰も幸せにならない事はあの器を見れば明らかだが、今はもうその配慮はいらないだろう。

「あれは獲物の記憶を読む獣と聞いたからな。姿が変わっていたから多少動揺しているかと思ったが、単にあれが種の割れた手口を避けただけなら問題ない」

 さて、次の像へ向かうかと思ったが、友はそこから動かない。……もしや、己に読む記憶があるなんて発想自体がなかったのか? 確かに器には通常夢見の釘が効かないが、それはその力の元である光輝を通さない為の仕掛けだろう。ノスクは汚染こそされていたが、その力の源は光輝ではない。形や生息地的にクモ……いや、あの不定形さは虚無に近いか? 何にせよ一切の精神がなければまともな行動は出来ない。特に役目から外れた行動はその証明となるだろう。

 少しして再び動き出した友はどうにも若干ぎこちない。とにかくここでの戦いをこなそうと言うのか、隣の像を見上げている。

「友よ、時間制限などないのだから一旦休憩しよう。すぐそこにベンチがあるし、外には温泉もある。と言うか、やたら休憩スペースが多いのは休みながら進めと言う意味だと思うぞ」

 休まず進めても友なら何とかなるだろうが、それはきっとつまらない結果を齎す。今の友に本当に必要な物は何もしない時間だろう。

 

 とりあえず友を部屋のすぐ外にある温泉へ放り込む。海と呼べる程に深く、当然足は付かない。ただ、軽過ぎる友は放り込まれてもすぐに水面に浮かぶ。特に頭部が軽いようで、ぼんやりしていても姿勢は安定している。虚無と言う空洞を詰め込むと浮力が発生するのだろうか。特に友が抱える虚無は強大である事だし。

「この海も彼らの祈りの産物か」

「全体から見ればそのすごさが霞む程度に過ぎないのが恐ろしい」

「しかし……どこか上辺の見せかけのような気配がするな。架空を好む我々グリムによく似ている。おそらくは見る者によっても姿は変わるだろう」

 何度も外側から夢の刃で切っていれば、もしかしたら裏側が見えたかもしれない。しかし、内側からとなると余程大きな力と、彼らとの完全な同期がなければ厳しそうだ。

 

 十分な休息を取り、再び神殿に挑む。1つ目の神殿、練達者の神殿に挑む友を眺めていた時、また思わぬ事が起こった。

「ちょっと、亡霊! あなたもこれもどう言う状況なのよ!」

 あの娘はこの空間を認識しているのか。しかも、ずっと前に戦った時の状態で調整されている筈なのに、あの意識は確かに今の物だ。

「チャームとしてあの場所にいたのなら多少説明してやれたが……」

「今の我々は勝手に覗き込んでいるだけだものな。……もしや王女も何らかの手段で干渉してここにいるのか?」

「彼女ならやりかねんな。今のところ元々の召喚の上に現実の意識を保持しているに過ぎなさそうだが」

 それでも流石ウィルムの、そして夢見の守護者の娘である。

「そう言えば、お前達の巣に守護者や器を縛る印が残されていたが、やはり彼女は次の守護者となる者だったのか?」

「そうだ。彼女自身望んで訓練もしていたし、我々も協力していた」

 答えを期待しているのかどうか、いくつかの質問をぶつけているが、友は反応せず戦闘を続行している。答える手段がないと言えばそれまでだが、答える気すら見せないのはどうなのやら。ホーネットはむすっとしていたが、神殿もまた無情にも次の場所へと切り替えられた。

 

 

 死んだ筈の者が現れる夢は珍しくない。特に古い光はそう言ったものを留める事を得意としていて、時に自然で無害な現象として、時に悪意をもって病の種として現れた。

 そう言った現象を引き起こせる存在は他にもいるから、古い光が失われた今、同じ現象が起こる事自体に問題はない。だが、特定の過去をなぞり続けるそれではなく、共有された特殊な夢の中で、生者のように経験を積み時間を重ねるとなれば話は別だ。

 この場所の夢自体は以前にも見た事がある。2回程見た若干異なる舞台での見せ物のような戦い。今回はその1回目の方に似た環境だ。前回と異なるのは相手が死者である事に加え、いくつかのハンデを負った状態で戦っている事だ。釘の切れ味が落とされ、釘を振る速度や力、走る速度なども落ちている。魔法も以前のような連発はないと言うか、たまに不発に終わっている時がある。その隙に針を当てれば想定よりもダメージが通っている気がする。ただ、単純な戦闘技術や魔法の威力はそのままだから、様子見の気分でいるとあっさり押し切られる。状況に戸惑っている間に夢は終わってしまっていた。

 前回と同じなら、また同じ夢を見るチャンスはある筈。どうやって回答を得るかはひとまず置いておいて、問い正したい内容を頭の中にまとめておく。求めれば出来る限り応える性格だから、あちらで何か出来るのなら素直に試みるだろう。

 しかし、あれほど大きな夢となれば、現実世界のどこかに核となるものがある可能性は高い。見たところあの戦いを眺めている者は完全な夢の産物ではないように見える。だが、あのようなムシをどこかで見ただろうか? 仮面と束縛によって本来の姿が分かりにくいが、仮面は多分現実世界でも付けているのではないか。同族と思しき者達も似たような仮面をつけていて、何かしらの力を持った代物であるように見える。

 どうにかして本体を見つけ出し、情報を聞き出さなければ。儀式とは何らかの目的をもって行う事。こちらから侵入したり、場合によっては殺してでも中断させる必要があるかもしれない。

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