ある放浪者の備忘録   作:名もなき放浪者

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すれ違いと追従、きょうだい達

 正直自分の器達に対する態度は最悪だと思っている。弱い器などいらないと言い切り、こちらの都合で生み出された器達を再度選別する。だから、影に紛れるように後を追って来る器を見た時、光や魂を捕食する影、亡霊として追跡されているのだと思い込んだ。

 その後も要所要所で観察しつつ距離を取り続けたのだが……。

「……もしかして、懐かれてる?」

 どうせこいつはもう十分に強いからと距離も取らずに言いたい事を話す。今更距離を取ったところで余計に煽るだけだろう。町の住民や他の放浪者の話を聞くのと同じように、器はこちらをじっと見上げて話を聞いている。

 私はそこで初めてこの器を1体の個体として、1匹のきょうだいとして見たのかもしれない。敵意もなく凪いだ虚ろな目。その決定的な空虚さは共有しないものではあるが、どんな結末にせよこの空虚さが最も重要となる。王の娘として、同時に夢見の守護者の娘として選んだ、次の封印の器。このまま器としてより大きな力を得たのなら、呪われたきょうだい達を束ね、もう1つの結末を齎し得る存在。

 そこに1つの希望を見出してしまうが、ハロウネストの女王はそこまで求めてはいない。女王は大きな力の半分を守る者として、彼に器の置き換えを命じるだろう。だから、呪いでも命令でもない私の願望など叶えられる事はないだろうと思っていた。

 しかし、彼は私の話に頷いたような気がした。まるで無条件に信頼するように。思えばこれまでも、単純に後ろをついて来ていただけなのに、彼が生まれ持った影の気配に紛れているように感じていただけなのか。私はその可能性に賭けても良いのか?

 いや、そもそも彼はまだ女王に会っていない。虚無を使って彼ら器を作り出し、彼らに呪いを刻んだのは王の方だが、彼女も確かに女王であり、彼らの母親でもある。穏やかで、それでいて大きな気配を持つ彼女の命令で上書きされないとどうして言えよう。

 だが、もしも、これまでの行動が信頼を生んでいたのなら、その場しのぎではない、真の終わりを期待しても良いのだろうか。

 

 

 ゆったりとした動きからの脳天を叩き割るような酷い衝撃。次から次へと文字通り湧いて現れるのは聖域とは名ばかりのあの研究所を思い出させるが、あれとは違ってこの漂う彼らに罪は無く、明確な意思もなくただ断片のみが彷徨っている。

 幸いにも彼らは己の亡骸からあまり遠くは離れないらしい。と思ったが、虚無の海に建つ塔の周りに先程以上に大量に湧いている。この上に彼らを呼び寄せる物があるのか、或いはこの海の下にも多くの亡骸があるのか。彼らは同胞で、この場所の空気には懐かしさを覚えるのに、壁を1枚隔てたように読み取れない。

 

 この場所に来たのは、半ばホーネットの導きがあったからだ。何かに導かれるように王国へ戻り、ホロウナイトの像を見てその形が明確になったようだった。

 けれど、ホーネットはこの場所を維持したくば灰に覆われた墓を探せと言う。言われるがままに王国のはずれの墓を目指し、その先でこの場所を封じていた印と同じ刻印を刻まれた。だから、この場所を目指せと言う事だと解釈してここへ来たのだ。

 そしていくつかの力を得て入り口まで戻ると、ホーネットが待っていた。これまでも意図してなのかどうか、道標となるように現れていたから、これで正しいのだろう。しかし、珍しくじっと立っていたので夢、すなわち心を覗いたところ、虚無から無傷で生還するとはあの闇を束ねたのかと考えていた。実際は何度も殴られているし、突破に灯台の力も使っているのだが。

 幸い封印の器はまだ保ちそうだし、ホーネットが望む通りに汚染の源に向き合う為にも、より多くの虚無の力を得る手段を探す事にしよう。

 

 

 きょうだい。

 我らは壊れてここに捨てられた。我らではあの光に全く歯が立たなかった。我らは封印の器にはなれなかった。

 かつてきょうだいはあの光を見る事なくここに閉じ込められた。王国の影、王国の亡霊。それらが降り積もる場所に打ち捨てられた1つの器。このアビスを支配する虚無の器。

 あの時を思い出して我らを受け入れて。そうしたら我らが触れてもきょうだいは傷付かない。我らは1つになれる。1つになれば大きな力を得られる。

 我らはあの光を食い殺したい。

 だから、早く虚無の心を取り戻して。我らはずっと待っている。

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