ある放浪者の備忘録   作:名もなき放浪者

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緋色と蒼白、子の宿命

 私は誰よりも彼の近くにいた。似たような立場に小さなイトアミグモもいたが、彼らよりも更に近く。彼の認識、彼の心、そこに燃える緋色の炎として。

 その点について彼はあまり自覚がなかったように思う。器としてどうなのかと言う気もするが、王国から放り出されて精神の連続性を失った際に細かい認識が甘くなったのだろう。しかし、認識がなくとも性能は十分に高い。なまじ呪いによる制約が多い分、特に意識せずとも機能する部分が大きい。そうした不自由さは無意識ながら感じているようだったが。

 王国内でたまに見かける斃れた器達。その苦痛を彼はあまり理解出来ていなかった。呪いに縛られる精神を失い、呪いの上に新たな意識を積み上げた故に。

 全てを失う前の命の残響。かつて必死で外と自由を求めたそれは、もう1度斃れた時にきっと全て失われる。全てが作り直され、鍛え直された無機物の精神故に。

 

 私の視点だから見える物は多い。けれど、彼にそれを話した事はない。彼自身に話しても意味はないからだ。

「知ってはいたが、随分な扱いだな御母堂よ」

「勝手に他者の生み出したものを利用しておいてその言種ですか、緋色の一族」

 少し話したい事があるからと彼には離れてもらった。

 彼の旅は終わりが近付いている。私との別れも近い。そんなタイミングで現れた関係者。それも彼の行動、立場に大きな影響を持つ者に、私は言いたい事を言う事にした。

「全てを捨てさせられ、身一つで放り出されてもなお、鎖だけは失われないあの姿。それを肯定しながら後悔とは、随分滑稽な話だ」

「器とはその宿命に縛られる者。緋色に縛られた貴方だけには言われたくありませんね」

「悪いが我々に後悔はない。お前達のあの器もきっと後悔はしないだろう。しかしお前達のその姿は何だ? 蒼白が聞いて呆れる程に真っ黒な染みが残されていたぞ。お前もいつかあの大きな影に食い殺される時が来るだろう」

「忠告のつもりですか? その程度の事は我々もよく知っています。貴方方こそいつかあの子に捨てられるでしょう。あの子には大きな仕事がありますし、貴方方はそれより優先される事はありません」

「それこそよく知っている。だから、今こうして言いたい事を言っている」

 私の父は儀式の完遂までは求めなかった。一族は父の最期の演目の為に動いてはいるが、その中にもう1つの終わりを考えている者がいる。私は彼と誰よりも仲が良いと思っているが、王国に縛られた彼がそれで思い止まる事はないだろう。

「……縛られた立場にありながら、随分と自由に振る舞うのですね。あの子が貴方に気を許す理由がよく分かります」

「……貴女にはそう見えるか」

「あの子達は本当に心を持たぬ存在ではありませんから。友と呼ぶには純情過ぎる、そして共通点もある貴方の存在は、確かに得難い存在だったでしょう。それが貴方と言うのは皮肉のようですが」

「くっくく、その言い方は確かに貴女も1体の親のようだな!」

「同じ気を許すならあの性を持つ子の方がずっと良かったのに!」

「ははは、安心せよ。彼はあの娘も信頼しているし、娘の方も絆されつつある。これから彼は己と向き合い、その根源に至るだろうが、あの娘なら上手くやるだろう」

 

 言いたい事を言い切って彼の元へ戻ると、彼は先程手に入れたばかりの白いチャームを眺めていた。

「そのチャームが気になるか?」

 大いなる力が必要になると渡された白いチャーム。渡されたのは破片のみで、1つに復元したのは彼の力であり、渡した本人にも驚かれていた。

「ふむ、その必要性がよく分からないか。確かに今の状態ではソウルの供給以外の効果は無さそうだ」

 ソウルが供給され続けるだけでも、内部からのダメージに耐え続ける封印の器を維持する助けにはなりそうだが。滅びた王国では現行の器のような守護者は用意出来ないだろう。

「しかし、それは友の根源にも導いてくれる物だ。そこへ行けば中に秘められた物も分かるかもしれんな」

 知っている訳ではないが、おおよそその検討はついている。

 さて、友の旅に私はいつまで付いて行けるだろうか。しかし、出来る限りその先を見届けたいと願っている。

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