ある放浪者の備忘録   作:名もなき放浪者

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とある観客の雑談

 狂気と怪物に満たされた王国の墓場にも娯楽はある。ここでは観客も舞台に上がる者もある意味正気ではない。いつ自分や隣にいる奴が恐ろしい病に囚われるか分からないと知りつつここに居座るのだから当然だ。

 王国のはずれ、ハロウネストの奴らにとっては聖なる墓の近く。ハロウネストの美しく豪華な建物も遠慮したその場所に、いつからあるのか分からない闘技場がある。愚者の闘技場と呼ばれるその場所では命知らずな戦士や狂気に侵されたムシ、ハロウネストの獣達を集めて殺し合わせ、笑い者にする。身の程知らずが挑んだって止める奴はいないし、無様に死んだ奴は酸が流れる谷底へ投げ捨てられる。倫理観も一緒に投げ捨てられていそうな酷い掃き溜めであった。

 さて、そんな中で個人的に最近比較的印象に残った事でも語ろう。

 この闘技場に身の程知らずが来るのはいつもの事だが、その中でもそいつは飛び抜けて弱かった。木製の釘紛いを自信満々に振り回して、構えもクソもない振り方でどんな相手にもダメージ1つ与えられない馬鹿の中の馬鹿。声だけでかいチビのおっさんだが、1つだけ強みがあり、驚く程頑丈で打たれ強かった。もっとも、多少打たれ強かろうが攻撃力皆無では勝負になる筈もなく、別の奴の試合の最後に投げ込まれ、当然のように負けてそのまま放置され忘れ去られた。

 ちなみに、こっちの別の奴についてはなかなか見所がありそうな奴だった。背格好はさっきの奴とほぼ同じ。ただ、こっちはどうも子供のようだった。俺は見た事がないんだが、別の観客曰く、ハロウネストでたまに見かける種らしい。皆よく似ているがサイズや角の形と本数には個性があり、こいつは特に小さい方。こいつ自身を交叉路の方で見たって奴もいた。奇妙で虚ろな姿に無口無表情。最初に見た時は影の中から歩み出たように見えた。細っこいし正直全く強そうには見えなかったが、いざ戦いとなればその印象は消え去った。

 どこかで訓練したらしい釘さばき。あまり滞空能力はないようで足場の少ない空中戦はやや苦手なようだが、基本的に身のこなしは軽く、綺麗に敵の猛攻を躱していく。何より見た事のない魔法をいくつも使いこなし、その威力も凄まじい。1つ惜しいのは、報酬が充実した第1第2の試練だけこなして、第3の試練である愚者の試練までは挑まなかった事。確かに愚者の試練は難易度が跳ね上がるし、報酬もジオと栄光のみ。戦いそのものを目的としていないなら用はない。

 もし愚者の試練に挑んでいればきっといい線は行っただろう。俺としては影のような黒い魔法で一気に相手を薙ぎ倒す様は爽快だったから、その内また戦いに来ないだろうか? そうやって堅実に動くからこれまで生き延びてきたのだろうが、先日自信満々に愚者の試練に挑みながらパフォーマンスに気を取られて呆気なく獣に踏み潰された馬鹿の半分ぐらいの無鉄砲さがあれば良かったのに。

 ま、そうやって他者の死をなんとも思わない奴らの望みなんぞ、あいつには知った事ではないだろうがな。

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