ある放浪者の備忘録   作:名もなき放浪者

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封印の解除、書庫にて

「おお、ようやく来たか」

 モノモンの書庫、酸と泡で作られたアーカイブ。流れる泡を見ても断片的にしか読み取れなかったが、関係者であればもう少し読める内容でもあるのだろうか。

「拙者もあまり理解出来ている訳ではないな。なんとなく読み方は分かりそうな気もするのだが、そもそもの知識が足りていない。かつても専門的な話は聞かされていなかったのかもしれんな」

 これまでもクィレルは出どころの分からない知識を見せる事が度々あった。だから、失われているのは記憶を取り出す為の精神であり、思い出と呼べる記憶の形である。

 

 夢見の守護者。彼らは病の泉である古い光を封じる器を守る者。それは単純な外敵の排除のみならず、器が少しずつ壊れていくのを抑え、器を維持する存在でもある。

 自分の最終目的地が器にある以上、必ず排除せねばならず、同時に1度手を付ければタイムリミットが間近に迫る事となる。その為、守護者に近付けるようになった段階で、ひとまず必要な物を調べようとしたのだが、封印の解除だけならおおむねそれ以上の物は必要ないと分かった。このモノモンの封印だけは少々厄介ではあったが。

「それで、準備は出来たのだな」

 頷く。以前はホーネットが示した物すら揃ってはいなかったが、もうやり残した事はない。細かく言えば、神の家などはあれ以上攻略しないと決めただけだし、王国のはずれの胞子の碑文もまだ時代の終わりではないのかそれらしきものを見つけられなかった。愚者の闘技場最終試練も外から眺めている限りあれを確実に勝ち抜ける自信がない。他にも、本人もいないのにやたらとしつこく夢がこびりついている像や、深く眠っているオグリム、もはや見せる気も感じられない白い宮殿の秘密の封印……。好奇心に身を任せるのならいくらでも行くところのある王国だ。思えば好奇心だけは、自分の心の中で初めから比較的自由だったのかもしれない。

 しかし、それももう終わり。3体の守護者達を倒し、封印を解除する。同じ虚無として感じられる器の状態はまだ一刻を争う程ではないが、今から何かに取り組むような時間はないだろう。

 試験管の中のモノモンに仮面が返される。かつて生まれる前の器に仮面が付けられた時も、ああやって殻越しに行っていたのだろう。定義、集中、存在を与え、その正体を隠す古代の仮面。仮面を手放した事により、仮面によって長い時間を生かされていたクィレルが座り込む。

 あとは夢見の釘で夢に隠れた守護者の元へ行くだけ。封印の解除を選ぶ彼女ならば、これ以上の障壁はないだろう。

 

 

 様々な謎に満ちたハロウネスト。好奇心に身を任せ、己の心の赴くままに旅して来たつもりだが、結局はマダムに呼ばれてこの場所に辿り着いた。

 果たすべき役目は終わった、と思ったところで、ふと彼について何も気になっていなかった事に気付く。確かにハロウネストは興味深いもので、多少の事なら気にならないのもおかしくはない。しかし、考えれば考える程彼の存在は浮いていて、いくつかの要素については自分も何度か言及していた筈なのに、それ以上深く考える事はなかった。

 マダムが彼の為に封印を解かせるのだから、少なくとも封印に関係する存在なのは確かだ。そして、我々はこの書庫のみならずハロウネストに戻ったタイミングもほぼ同じであった。やはり彼は相当に特別な存在なのだろう。だが、その詳細を推測するにはあまりに情報が少な過ぎる。

 少なくともマダムにとって彼は特別だ。しかし、それをいつから認識していたのか? マダム以外の守護者達は知っているのか? もっと彼の事を追っていれば分かったのかもしれないが、先々でたまに会う程度では彼がこの王国からどう扱われていたのかを知る事は出来ない。

 1度気付けばそれをどこまでも探究してみたい気持ちが湧いてくるが、役目の為だけに生かされていた自分にそれだけの時間は残されていない。老いが表面化したこの身体では、もはや彼と共に行動するのも不可能だ。今から出来る事と言えば、せいぜい己の死に場所を選ぶ事ぐらいだろう。そういえば、まだ行っていない場所で、いつか行ってみたいと彼に話していた場所があった。

 もし、もう1度どこかで出会えたのなら、彼自身について訊ねる事くらいは出来るだろうか?

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