御陵ナグサは七綾アヤメの事を友達だと思っている   作:あばなたらたやた

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一話

 七綾アヤメは花鳥風月部の制服を纏いながら、心底見下したような、侮蔑の籠もった口調で言う。

 

「大嫌いだった」

 

 深い夜の帳が下り、冷たい風が頬を刺す頃。

 彼女の心は、まるで砕けた鏡のように鋭く、脆く、映るのは歪んだ自分自身だけだった。

 誰にでも優しく、誰より強く、誰もが尊敬するアヤメ委員長。笑顔が眩しい少女の本音が、御陵ナグサへ向けられる。

 

「大嫌い。大嫌い大嫌い大嫌い大嫌い大嫌い。何かあると重荷を背負わせてくる連中が。何かあるとすぐに泣き出すアンタが。私は嫌い」

 

 ——その言葉は、胸の奥で燻る炎のように、静かに、しかし激しく燃えていた。本当に嫌いだった。誰もが自分の痛みしか見ず、彼女の笑顔の裏に隠された涙に気づきはしない。

 

「高くなるハードルと、救いの声を助けてやるためにクズノハ様の元へ足を運んでも、あったのはおとぎ話だけ」

 

 役立たずの神話など、彼女の傷を癒すどころか、ただ虚しさを刻んだだけだ。

 それでも、彼女は立ち上がる。凍てつく決意を瞳に宿し、囁く。

 

「どいつもこいつも無能な猿ばかり。いいよ、分かった。だったら私が世界を作る。みんながおとぎ話に縋るなら、私が怪異譚を作り出し、みんなを見守れる瞳を得る」

 

 その声は、風よりも鋭く、星よりも遠い。誰も守ってくれないなら、彼女自身が守るための「目」を手に入れる。どんな犠牲を払っても。笑顔の裏で押し殺した悲鳴、誰にも理解されないその痛みを、彼女は力に変える。世界を塗り替えるために。

 彼女の心は、壊れながらも、確かに輝いていた。

 

「私がみんなを助けてあげる……私が、全部救ってあげるよ」

 

 

 銃弾が空を切り裂き、硝煙の匂いが肺を焼く。瓦礫の影に身を潜め、アヤメの瞳は燃えるような怒りと、どこか冷たい諦めで揺れていた。

 

「アンタには一生分からない。私がどんな気持ちで笑顔を振りまいていたのか!」

 

 その言葉は、銃声よりも鋭く、ナグサの胸を貫いた。彼女の声は、偽りの笑顔で塗り固めた心の叫びだった。誰も見ようとしなかった彼女の傷、押し殺した涙。それを、目の前のこの少女——友達だと信じ込むこの少女には、永遠に理解できないのだ。

 

「私はアンタを友達だと思っていない」

 

 アヤメの言葉は、まるで刃のように冷たく、しかしどこか震えていた。戦場の喧騒の中で、ナグサの心は孤独の淵に立っていた。しかし、それでも銃撃の合間、弾丸が地面を抉る音に混じって、ナグサが言う。

 

「それでも」

「なんで、そこまで!! 他人の為に!」

「友達だから」

 

 その答えは、シンプルで、愚直で、まるで戦場の煙を突き抜ける光のようだった。アヤメの目が一瞬揺らぐ。だが、すぐに彼女は顔を歪め、声を荒げる。

 

「だから、私はアンタなんてどうでも良いんだ!」

 

 銃声が一瞬途切れ、静寂が二人を包む。

 ナグサは息を切らし、血と汗にまみれた顔で、ただ真っ直ぐにアヤメを見つめた。

 

「知らない、アヤメが私をどう思ってるかも知らない。でも、私は助けたいと思う。だから助ける」

 

 その言葉は、戦場の無情な響きを裂き、アヤメの心の奥に小さな、しかし確かな波紋を広げた。銃を握る手が震え、彼女の瞳には、怒りと、痛みと、ほんの少しの迷いが生まれた。

 

 瓦礫の向こうで再び銃声が轟く。だが、二人の間には、まるで時間が止まったかのような、熱く、脆い瞬間が漂っていた。友達という言葉が、戦火の中でどんな意味を持つのか、アヤメはまだ知らない。

 それでも、ナグサの愚直な瞳は、アヤメの心に何かを取り戻そうとしていた

 

 

銃煙が立ち込める戦場の只中で、爆音と悲鳴が空気を引き裂く。アヤメの声は、まるで心の底から絞り出したように、震えながらも鋭く響いた。

 

「何なの、何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も!!  アンタは一体何なんなの!? なんでそこまで、私に!!」

 

 その叫びは、瓦礫の隙間を縫い、まるで世界そのものに問いかけるようだった。彼女の瞳には、怒りと混乱、そしてどこか埋もれた悲しみが渦巻いていた。

 

 どれだけ拒絶しても、どれだけ突き放しても、目の前の少女——ナグサは、決して離れようとしない。その執念が、アヤメの心を焼き、苛立たせ、揺さぶった。

 

『友達だから』

 

 ナグサの答えは、いつもと同じだった。シンプルで、愚直で、戦場の無慈悲な喧騒を切り裂くほどに純粋だった。アヤメの拳が震え、銃を握る手に力がこもる。

 

「私は、アンタを友達だって思ったことない!」

 

  言葉は刃のように鋭く、しかしその裏には、彼女自身も気づかない脆さが滲んでいた。ナグサを拒絶することで、彼女は自分の心を守ろうとしていたのかもしれない。

 それでも、ナグサは一歩も引かない。

 

「だとしても。私は友達だと思ってる。この想いが届くまで」

 

 その声は、銃弾よりも強く、風よりも柔らかく、アヤメの心に突き刺さった。彼女の瞳は、血と汗に濡れながらも、揺るぎない光を宿していた。

 

 アヤメは唇を噛み、過去の傷が胸を抉る。

 

「百花繚乱を裏切り、怪異をけしかけた。空が赤くなった時も助けなかった。それでも友達?」

 

  彼女の声は、まるでナグサを試すように、過去の裏切りと失望を突きつけた。

 

「友達だから、いや、友達でも、そういうこともある。」

 

 ナグサの答えは、どこまでも穏やかで、どこまでも頑固だった。戦場の爆音が一瞬遠のき、彼女の言葉だけが二人の間に響く。

 

「私も弱い。でも支えてくれる友達がいる。だから私も、アヤメの友達でありたい」

 

 アヤメの目が細まり、感情が爆発する。

 

「昔から苛立させるんだ……アンタのそういう態度が! 弱いくせに! 私に縋ってくる猿の癖に!」

 

  彼女の声は、まるで長年抑え込んできた感情が堰を切ったように溢れ出した。ナグサの変わらない姿勢、その一途さが、彼女を苛立たせ、同時に心のどこかを締め付けた。

 ナグサは静かに、しかしはっきりと口を開く。

 

「アヤメみたいになりたかった。アヤメは私の憧れだった」

 

 その言葉は、戦場の熱気の中で凍りつくようにアヤメの耳に届いた。彼女の心が一瞬止まる。憧れ? そんな言葉、誰も彼女にかけたことなどなかった。笑顔の裏で押し殺してきた痛み、誰も見ようとしなかった彼女の心を、ナグサは見ていたのだ。

 アヤメの唇が震え、言葉が喉に詰まる。

 

「だったら……友達だっていうなら、ナグサが私を守ってよ!」

 

  その叫びは、怒りではなく、どこか懇願に近いものだった。彼女の心の奥底で、孤独が砕けそうになる音がした。

 ナグサは一歩踏み出し、アヤメが放つ銃撃の嵐をものともせず、アヤメを見つめた。

 

「もう、一人で絶望なんかさせない」

 

 その言葉は、まるで誓いのように重く、戦場の硝煙を突き抜けてアヤメの胸に届いた。

 

 銃声が再び轟き、瓦礫が崩れる音が響く中、二人の間に流れる空気は、熱く、脆く、しかし確かに繋がっていた。

 

 アヤメの瞳に、初めて小さな光が灯る。それは、拒絶と憧れ、怒りと願いが交錯した瞬間だった。

 

 戦場の空気が一瞬凍りつき、銃煙と血の匂いが絡み合う中、アヤメの叫びが荒々しく響き渡った。

 

「ナグサァァァァ!」

 

 それは怒りか、絶望か、それとも何かもっと深い感情の爆発だったのか。彼女の声は、瓦礫の山を越え、砕けた大地を震わせた。

 

 銃弾が唸りを上げ、爆風が髪を乱す中、彼女の瞳は燃えるようにナグサを捉えていた。そこには、拒絶と願いが絡み合った、複雑で熱い光があった。

 

「アヤメェェェェェ!」

 

 ナグサの叫びが、まるでその声に応えるように戦場を切り裂く。

 彼女は血と泥にまみれ、肩で息をしながらも、アヤメに向かって一歩踏み出した。

 

 銃撃の嵐の中で、彼女の目は揺るがない。友達だと言い続けたその信念が、どんな弾丸よりも強く、どんな爆音よりもはっきりとアヤメに届こうとしていた。

 瓦礫の影で、ナグサの握る銃が震え、彼女の唇が小さく動く。

 

「もう、離さない」

 

 その囁きは、戦場の喧騒に飲み込まれそうになりながらも、アヤメには届いていた。

 

 二人の叫びが交錯する瞬間、時間は止まったかのようだった。銃声も、爆風も、まるで遠い世界の音に変わる。

 

 アヤメの胸の奥で、何かが砕け、溶け、再生するような感覚が広がった。ナグサの愚直なまでの想い——友達だというその言葉が、彼女の孤独を、ほんの少し、温めた。

 

 戦火の中で、二人の視線は絡み合い、壊れそうな絆を必死につなぎ止めようとしていた。

 

 




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