俺が、俺達が(サイコ)ガンダムだ!   作:天野ミラ

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広義の意味で言えば純愛


本編
第一話 紫のガンダム


 時はキリスト世紀2025年、極東の島国日本では今日も謎の猿叫が響き渡っていた。

 

「今年は蛇年ィィィィ!」

 

 大声を出すと近接格闘が当たりやすい、ガンダムもそう言っている。

 

緻密な計算の元に(ブッパにより)放たれた特殊格闘が突き刺さり、相手の体力を削り切る。そうして画面の中央に表れた〈WIN〉の文字と増えたポイントを確認して。俺はフルダイブ型のVRチェアのコントローラーから手を離してゴーグルを外した

 

 煌々と輝くランキング1位俺の名前(sept)を見ても俺の心は動かない。誰が呼んだか悲しき殺戮マシーン、現代が産んだ強化人間。俺、大学生だけど正直感情がなくて全てが滑稽に見える。

 

 

 

 外したVRゴーグルをテーブルの上に置き、お湯を沸かす。今から5年前ほど前、突如として起きた特異点とも言える規模の『技術的革新(テクノロジー・ノヴァ)』。

 通称テクノヴァにより、人間の技術は大きく前進する事となった。その結果として生まれたのがこの、フルダイブ型VRデバイスであり……今俺がプレイしていた2vs2のオンライン格闘ゲームでもある。

 

 タイトルは『ガンダムエクストリームバーサス2オーバーブーストVR』。

 通称エクバ2VRである。

 

 何と言ってもこのエクバ2VRの売りは一人称視点による、本物さながらの操縦の自由さと奥深さだ。まぁ、もちろん本物のロボットなんて動かしたこともないけど。

 

 マニュアル操作でファンネルの一つ一つまで操作可能と言う……そのバカげた操作の自由性は当時、数多の人を湧き立たせ───トイレへと叩き込んだ。当然だ、あんなの真っ当な人間に耐えられる負荷じゃない。

 

 そんな遊べる訓練シミュレーターとも、強化人間製造機とも呼ばれるこのゲームを俺は極めた。その事は、画面で光り輝く2位の文字が証明してくれて───?

 

「ムッキー!? 俺のランキングが!?」

 

 これは到底許せた行為ではない、怒りのあまり3秒でランクマッチにインQしたはいいものの何かを忘れている気がする。珍しく数秒でマッチングした、味方は上位ランクマッチの常連。敵は探していた現ランクマッチ1位。

 

 そしてこれから、『元1位』になる事になる負け犬だ。

 

「見たことないハンネ*1だな、『ブル・ドック』……?」

 

 マッチング画面が開けて、敵機の構成が明らかとなる。俺からランクマッチ1位の座を奪い取ったのは───奇しくも俺と同じ『サイコガンダム』使いであった。

 

 

 試合が始まって1分と少しで、僚機が地獄のような偏差撃ちのメガ粒子砲により1度目のダウンを取られる。その射撃の隙を狙った、俺の駆るサイコガンダムが放った指部ビーム砲がすんでのところで躱される。

 

 こちらの攻撃が当たらず、相手の攻撃はこちらを削り続ける。まるで自分の上位互換のような動きに、着実にアドバンテージを稼がれていく。 このゲームをやっていて長らく感じていなかった、相手の方が強いという感覚。

 

 リフレクタービットがばらばらと不規則に散らばっていく、まるで意思を持っているかのように。

 

「おいおいマジかよ、ビットのマニュアル操作ッ……!?」

 

 放たれたメガ粒子砲が反射する事───6度。

 正面から放たれた『それ』は、背後から突き刺さり俺の機体の体力バーを全損させた。

 

 その後の奮戦も虚しく、試合は終了した。

 敵のサイコガンダムの撃墜数は───最後まで0のままだった。

 

 リザルト画面で敗北を噛みしめながらも、久しぶりに胸が高鳴るのを感じた。

 同キャラ使いに負けるのが一番イラつく、でもそれ以上に───憧れちまったんだ。 自分よりはるか高みを飛ぶ、その姿に。

 

 俺は再戦を申し込むべく、ボタンを押して───

 

 視界が明滅する、何かしらのアラートが聞こえる。

 

 あれ、最後にご飯食べたのって何時だっけなんて。

 消えゆく意識の中で、そんなことを思った。

 

 


 

 ゆっくりと意識が浮上する。

 音も無い、光も何も見えない真っ暗な世界。

 とても孤独で冷たくて……寂しい世界で。

 

 感じるのは体が揺れるような感覚、それだけが一切の刺激のない世界にある唯一のモノだった。独りは───寂しい。 ずっとこのままなのだろうか、誰かと話したいという……焦燥感ばかりが募っていく。

 

 少しして身体が何かに流し込まれるような、何かが身体に流し込まれるような感覚が全身を襲う。それと共に少しずつ視界が開けていく、声が───聞こえる。

 

「───サイコミュの起動テストは成功か、後は生体部品を乗せるだけだな」

「二番実験の完成体が丁度良いだろう、今期は出来が良い」

 

 視界に広がるのは、アニメや漫画に出てくるような工廠だった。そんな場所で、男性二人の声が俺の()()()響き渡る……中から? 一体どういうことだろうと、下を確認しようとするが……身体は動かない。

 

<あの、一体ここは何処なんですか?>

 

 話しかけてみても、彼らはこちらに返事を返すことは無かった。まるで、俺の声が聞こえていないみたいに。無視されてるんだとしたら、凄い悲しいんだけど?

 

 視界に映る部屋には小さなモニターや工具らしきものが小さな机の上に置かれている。そして小人が忙しなく工廠を動き回って───違う、俺が大きくなっているんだ。

 

「強化人間を連れてきました」

 

 ドックらしき場所のモニターに映っているのは、俺の記憶とはかなり違うものの見覚えがある機体だった。紫色を基調としたボディ、身体の前面に付けられたメガ粒子砲と指部にあるビーム砲。目測にして、50mを越える可変型のモビル()()()()

 

「これがお前の身体───サイコガンダムだ」

これが……ボクの身体

 

 足元で繰り広げられる、不穏な会話によって疑惑は確信に変わった。

 どうやら俺はよりにもよって、サイコガンダムに転生してしまったらしい。

 

 いくら憧れたからと言って、サイコガンダムに転生する奴があるだろうか? しかもパイロットじゃなくて機体の方に……いや、サイコガンダムの搭乗者は軒並み非業の死を迎えているからパイロットでも変わらないのだろうか。それにしてもよりによって、ガンダムの世界に転生するなんて。この世界のパイロットや機体の命? なんて非常に軽いというのに。

 

 それに、俺はこのままずっと独りで無機物として生きていかないといけないのだろうか?

 誰とも話せないまま操縦され続けるなんて、それはあまりにも───寂しすぎる。

 

<誰か、誰か聞こえないのか!?>

 

 出来るだけ大声で叫ぶ、誰かに届くように必死に。といっても発声器官が無いから、心持ちの問題ではあるが。そんな想いが届いたのか、はたまた偶然かは知らないが……不健康そうな白い髪の少女がこちらを見つめている。

 

「───でる?」

「何の話だ、ドゥー?」

 

サイコガンダムが──────呼んでる

 

 どうやら幸運な事に、俺の声が聞こえる存在が居たらしい。不幸中の幸いと言う奴だろう、神様は俺を見捨ててはいなかった。

 

<俺の声が聞こえるのか!?>

「うん、待ってて。今そっちに行くから、ボクの身体」

「待て! サイコスーツを着用してから……!」

 

 制止を振り切ってこちらに歩いてきたのは、病的なまでに細く白い小さな身体とそばかすが印象的な少女だった。なんというかスラム街のゴミ捨て場が似合いそうというか、酷い事をされているのが似合いそうな娘というか。そんな印象の娘。

 

「……スラム街のゴミ捨て場?」

 

 ……まずい、思考が読めるのか。これがニュータイプ特有の感応現象と言う奴だろうか、隠そうとしなければ全てが丸聞こえになってしまう。

 

<なんでもないんだ、それよりも君の名前は?>

ボクの名前はドゥー。ドゥー・ムラサメ

 

 どうやらボクっ娘らしい、声は可愛らしいし恐らくは女の子だよな。膨らみは何処にも見当たらないけど。

 

あなたの……『心臓』だよ

 

 そしてどうやら俺の『心臓』らしい。

 ……どういうことなのだろうか、さっぱり分からない。

 

 ただ、ムラサメとサイコガンダム……それらが示すのはおそらく、目の前にいる彼女が『強化人間』であるということ。かなり厄ネタの臭いを感じるが、俺一人で何とかできる類のものでは無い。

 

 それよりも今は目の前の少女に挨拶を返すのが先だろう。

 

俺が───サイコガンダムだ

「うん、よろしく」

 

 それが、これから長い時を供にする少女との出会いだった。

*1
ハンドルネーム:インターネット上で活動する際に名乗る仮名




次回 第二話『黒い研究所』
サイコガンダムもびっくりの真っ黒さ
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