俺が、俺達が(サイコ)ガンダムだ!   作:天野ミラ

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ムラサメ研究所ならこれくらいはやってる


第二話 黒い研究所

 物心がついたときから、『ボク』には記憶が無かった。正確にはこの『ムラサメ研究所』と呼ばれる、ここに来るまでの記憶が。ここに来る前何があったのかとか、家族はいるのかとか……そして自分の名前も。そしてなぜここに来たのかも、どれもさっぱり分からない。

 

【違うでしょう? 貴方は自らの意志で進化するためにここに来た】

 ……そうだ、ボクは自らの意志でここに居る。どうしてこんな簡単な事を忘れていたんだろう?

 

 それとは別にここに来てからの、記憶も何故か朧気だった。 それでも、大人がボクをサイコガンダムの心臓(生体部品)だと言っていた事。それと苦い薬と甘ったるくて意識がフワフワする匂いが苦手だったのだけは覚えていた。

 

 今日もカウンセリングが終わって、自分の部屋へと帰る。ボクと同じような子供は周りに沢山居たけど、最後に残ったのはボクともう一人だけ。大人たちは『再利用』って言ってたけど、あの子達がどうなったのかは分からない。

 

 だけど───()()()()()に大して興味も無かった。

 

 

 

 そんな日々が過ぎて、ついにその日が来る。

 ボクがニュータイプとして完成するという……その日を。

 

 いつものシミュレータ室や手術台の上ではなく、外の演習場に集められたボクともう一人。太陽が眩しい、外に出たの何て何時ぶりだろうか……なんてどうでも良い事か、ボクはあくまでサイコガンダムの心臓なのだから。

 

「これよりテスト戦闘を行う」

 

 研究所の大人が告げたテストとは、模擬戦によりどちらがサイコガンダムに相応しいのか決めるというもの。実戦形式で先に機体が動かなくなった方の負け、至極単純なルールだった。相応しくないと判断された方の行く末は───気にする必要も無いだろう。

 

 対戦相手の名前は何だっけ。そうだ、大人達は『2-D』って呼んでいた気がする。

 

「私はあなたには負けないッ!勝って、勝って……それでっ!」

「……?うん、そっか。頑張ってね」

なんでそんな他人(ひと)事みたいにっ……!

 

 随分と感情的な娘だ、前会った時はもう少し大人しかったと思ったんだけど。それにしてもどうしてこんな事をするんだろう。サイコガンダムに相応しいのがどっちかなんて、やらなくても分かり切ってるのに。

 

 テストに使うのは、データにあったサイコガンダムを一般のMS(モビルスーツ)と同程度のサイズまで小さくしたような見た目のMS。確か大人たちは『サイコガンダム:プレ』と呼んでいた。

 

「これがサイコミュで……」

 

 どんなサイコミュなのかとかは分からないけど、起動に必要だと渡されたキーを差し込むとサイコミュとMSが起動する。ボクがあくまでサイコガンダムの心臓であって、プレが偽りの身体だからだろう。頭が割れるように痛むけど、耐えられない程じゃない。

 

───出撃する

 

 移動も問題なく行えた。兵装は腕部に取り付けられたビーム砲のみ。資料で見たサイコガンダムよりも随分と簡略化されている、まあ問題ないか。

 

「所定の位置につけ、これよりライン2の最終テストを開始する」

 

 そんな言葉を待たずして、相手の駆るMSが放ったビームがボク目掛けて放たれた。何とか直撃は免れたものの、無傷とはいかず機体が揺れる。これはテストであり実戦、そういうことなのだろう。割れそうな頭を押さえ、機体の制御を戻す。

 

だけど突如として揺れていた視界が───極彩色の光に包まれる。

 

「これは───キラキラしてる?」

 

 極彩色の海から生まれた、青と紫の光の海から湧き出た泡がこちらへと向かってくる。大人たちが言っていた気がする。ニュータイプが特殊な知覚によって見ることが出来るというハルシネーション(幻覚)。その海の中に、MSとあの娘の姿が見える。

 

「これが───キラキラっ!」

 

 世界がをもっと身近に感じる、先ほどまでぎこちなかったMSがまるで手足のように動く。

 

「あはは、これがボクのキラキラなんだ!」

 

 相手の動きが手に取るように分かる、この後どう動くのかも。ボクの放った射撃を避けようとする相手のMS、ビームは避けようとしたその先に置くだけで良い。

 

「───なんでっ!?」

 

 無線なんて繋がってないのに、相手の声が聞こえる気がする。これがニュータイプの感応現象って奴だっけ、まあもうどうでもいいか。体勢を崩したMSに馬乗りになる形で拳を振り上げる。

 

 これで終わり、やるまでも無い戦いだった。ああ、でも……

 

「……もっと、キラキラで遊びたかったなぁ」

「ひっ……やだっ!死にたくな───」

「そこまでで良い!試験機とは言えMSは貴重なのだ。意味も無く破壊するな!」

 

 振り上げた拳を下す前に、大人が待ったをかけた。どうやらテストだからここまでで良いらしい。キラキラは……いつの間にか見えなくなっていた。

 

 

 

 

「私は……私はサイコガンダムのパイロットになって!それで、いつか海を見にっ……!」

 

 テストの後、MSから降ろされたボクと彼女だったが……彼女の方はずっと一人ごとをブツブツと続けている。負けが受け入れられないのだろうか、あれがサイコガンダムの生体部品に相応しくない事なんて、分かり切ってたのに。極めつけは最後の台詞だ。

 

「……貴様は『再利用』行きで正解だった。生体部品がまさか『死にたくない』などと宣うとはな」

「……っ!」

 

 その場から脱走を図ろうとした彼女は。

 

「お願いしますッ!? 次こそは、次こそはご期待に応えてみせますからっ!?」

 

 取り押さえられて大人達に連れて行かれた。それにしても様子のおかしい娘だったな。

 

「……次なんて、負けたら来る訳ないのにね」

 

 そんなボクの呟きは、誰にも聞こえる事無く虚空へと消えた。

 

 

 そんな試験の後、いつものブリーフィングルームで待機していたボクの前に普段は見た事のない大人が現れる。彼はパスポートのようなものを手渡してから、ボクにこう言った。

 

「お前の名前は今日からドゥー(二番目)だ、そう名乗れ」

「ドゥー……それがボクの名前」

 

 その日からボクは、ムラサメ研究所の2番目。

 ドゥー・ムラサメになったんだ。

 

 

 


 

 

「───それで、ボクの話なんて聞いて意味はあるの?」

<意味があるかは……分からないけどさ。聞けて良かったとは思ってる>

 

「ここがボク(心臓)の居場所だから」そう言って俺のコックピットに座っているドゥー。そんな彼女が語ってくれたのは、平和な世界で過ごしてきた俺にとっては想像もつかない程過酷なものだった。俺が……俺が守護(まも)らないと。

 

「……そっか、それにしても結構お喋りなんだね。サイコガンダム(ボクの身体)が話すなんて、研究所の大人は誰も言ってなかったから」

<きっとそれだけドゥーが特別だってことだよ>

「特別かぁ……」

 

 ドゥーはダウナー気味というか、平時の感情の起伏が少ない娘だ。恐らくは人体実験の結果だろう、ムラサメ研はやはり普通じゃない。そもそも宇宙世紀の世界なんてまともな機関の方が少ない気もするけど。

 

<ドゥーには何かやりたいことは無いのか?>

「やりたい……こと?」

 

 コテンと首を傾げたドゥーは、そんな事を考えた事も無かったのだろう。こんなことは聞くべきでは無いのかもしれない、夢を持たせるのは残酷な事だから。それでもこんな場所で個をすり減らし続けるよりは、きっとマシだと思ってしまったから。

 

「キラキラが……見たい。あなた(サイコガンダム)に乗って、キラキラで遊びたい」

 

 そういって何かを思い出すかのように、恍惚そうな表情を浮かべた彼女。

 キラキラっていうのはつまり『全体』みたいなものか?あくまで1MSならぬ1モビルアーマーでしかない俺には分からない事だが、それが本当なら彼女は随分と選ばれた存在らしい。この世界がそう言うものだという可能性もあるが……そもそも今は宇宙世紀何年くらいなんだ?

 

<分かった、2人でとびっきりのキラキラを見に行こう>

「うん、ボク(心臓)あなた(身体)なら……もっと綺麗なキラキラで遊べるよね」

 

 そう言ってマスクを外して、楽しそうに笑ったドゥー。それを目指すのが、本当に正しいのかは分からない。それでも、キラキラについて語っている時の彼女は年相応の笑顔を見せてくれたから。

 

 

俺はきっとこの時、この世界で足掻いていく覚悟を決めたんだろう。

 




次回 第三話『テストバトルのサイコガンダム』
サイコガンダム……出撃するッ!
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