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ニュータイプの音、意見が分かれますよね。
作者的にはティロリロリロリーン派です。
衝撃の8話でしたが、この小説ではその内容には触れませんのでご安心ください。
「ご飯って……美味しいんだね」
<当然だ!あんな……あんなパサパサのチキンとペーストは栄養であって食事じゃない!>
私達は機械じゃない!人間なんだッ……機械だったわ。
まあ俺はともかくドゥーは人間だ、あんな食事ばかりじゃ食も細くなって当たり前だろうが。
「
<ああ、それは良かった。でもニンジンは残しちゃダメだぞ?>
「わ、分かってる……後で食べようとしただけだし?」
ドゥーの痩せぎすだった身体は少しずつ肉付きを取り戻しつつある。それでもあばらは浮いていて、標準的な体格からは程遠い細さだが。これもあの性能テスト以来、ドゥーの事を重用視しつつある上層部の判断によるものだろう。
「お薬もカウンセリングもないしさ」
<もう必要ないからな>
「ボク苦くて嫌いだったんだよね!何かこう……頭がぽわぽわするし」
そして前より、表情や言動に『好き』や『嫌い』と言った感情を覗かせるようになった……これは良い傾向だ。
ニュータイプは肉体を強化して作り出すものでは無く、あくまでテレパシーや勘の鋭さという精神面的な問題が大きい。彼らのやり方はあくまでニュータイプである事の結果が見せる側面しか再現できない。
それに何より、こんな年端も行かない少女が薬漬けにされて実験されるなんてあっちゃいけねぇ事だろうがよ……許せねえよムラサメ研。
「あのね、ここで過ごすようになってから嫌な夢を見ないんだ」
「やっぱりここが、ボクの本当の居場所だからなのかなぁ?」
部屋のベッドの方が環境的には優れている筈なのに、ドゥーの目元のクマは少し薄くなっていた。衣食……住?が担保された事で精神的に余裕が出来てきたのだろう。
ドゥーの体調は順調に回復している、このまま行けば何時か健康な姿を見せてくれるだろう。
だけど物事はそんなに単純じゃない、良い事ばかりじゃあないんだ。
「明日は遂に『お外』で遊べるんだって!
<……あぁ、頑張ろうな>
外でサイコガンダムに乗る、それが意味するのは───遂にドゥーが実戦に投入されるという事だ。分かっていた事だった、結果を見せればそれだけ実戦が早く来るであろうことなんて。
<……はぁ>
ドゥーが眠った後、思わず溜息をつく。
まあ、思念体の俺に溜息なんて概念があるのかは分からないが。
やれるのだろうか、俺に。
平和な日本で暮らしてきた一般人でしかない俺に、パイロットの乗った
<いや、やるしかないんだ>
やらなきゃ大切なものを守れない。
結局
天候は晴天、ピクニックに行くのには絶好の天気だが今から赴くのは生憎の戦場だ。今日の作戦はジオン側と通じているとされている裏切者の粛清らしい。何故地球にまでジオンのスパイがいるのか疑問に思ったが……この世界では『一年戦争』で地球連邦はジオンに敗北を喫しているらしい。
それはつまり、俺が転生者であるアドバンテージはほとんど役に立たなくなったという事だ。まあ、サイコガンダムの造形や訓練機がガンキャノンもどきだったせいで何かが違うとは思っていたのだが。
僚機はハンブラビ。ハンブラビと言えば高速変形による機動力の高さが売りで……変形おっそ!?やる気あんのかお前!?何で?もしかしてマグネットコーティングが普及してない?*1
「地球連邦軍ゲーツ・キャパ中尉だ、よろしく頼む」
「ん」
そしてパイロットはゲーツ・キャパ。金髪に浅黒い肌の整った顔をした好青年だ。あまり良く覚えていないが、Zあたりでサイコガンダムの周りにいた気がする。それにしてもドゥーが返したのはあまりにも不愛想な挨拶だ。
<ちゃんと挨拶しなさい、ドゥー>
「えぇ、面倒臭い……」
「め、面倒くさい……?」
ほら、ゲーツさんも困惑してるでしょうが。
挨拶は大事、古事記にも書いてあるんだぞ。
「はぁ……ドゥー・ムラサメ、よろしく」
「あ、あぁ……よろしく」
何故か変形の遅い、高速変形抜きハンブラビとかいう地雷機体と飛行をする事……数時間。遂に作戦エリアに辿り着いた、今回は本格的な作戦という事でオペレーターがついているのだが……
「スペースノイドなんぞに加担する裏切者を許してはおけん。良いか、失敗は絶対に許されない」
「了解です、少佐」
「ん、りょーかい」
何処かで聞いた声のような気がする。
「それではミノフスキー粒子の散布を開始する。諸君、死力を尽く───」
ブツリと言う音が響いて、通信は聞こえなくなる。低ミノフスキー粒子下でも長距離の通信は遮断される。高ミノフスキー粒子下で通信を行いたいならケーブル等で物理的に繋ぐか、ニュータイプ特有のテレパシーで行う他ない。ゲーツ君は強化人間みたいだから、もしかしたらサイコミュを通じて会話が通じるかもしれないけど。
作戦空域に辿り着くと、やはり警戒はしていたのだろう。粛清対象のいるらしい基地の周りには巡回用のMSが警戒態勢を敷いていた。心が揺れない訳ではないが、彼らも軍人だ。『そうなる事』を覚悟してこの場に臨んでいるのだろう。
「───ドゥー・ムラサメ、作戦を開始するね」
<───サイコガンダム、これより作戦を遂行するッ!>
俺達に正義は無い、そこにあるのは思想のぶつかり合いだ。
だから俺も加減や手心は───加えない。
「ゲーツ・キャパ、これより作戦を───」
「───遅すぎるッ!待てないからもう行くね!」
「あっ、ちょっと待っ!そんなに先行したらマヴの意味が……!」
そうやって一機で空へと飛び出していくドゥーと俺。こちらを視認される前に墜としたいというのに、いつまで変形バンクに時間をかけてんだよ。俺達がやってんのはプリキュアじゃなくて、戦争なんだぞ……ッ!
<俺たち二人なら、恐れるものなんて無い!行くぞ、ドゥー!>
「そうだよ!行こう、サイコガンダムッ!キラキラを掴みに───ッ!」
基地だから実弾兵器もあるだろうし、容易に装甲をパージするのは得策じゃない。それに、必殺技はここぞって時に使ってこそ必殺技だしな。
<まずは一番近いマヴから堕とすぞ、ドゥー!狙いは良いか!?>
「当たり前だよ、この距離なら外す訳ないッ!」
指部から放たれた五本の光条がMSの進路へと突き刺さり、爆発を引き起こす。今ので基地へ侵入者の存在は気づかれただろうが、まだ奴らの兵装じゃこの距離は狙えない筈だ。
<まずは厄介な対空施設から狙うとしようか>
「アハッ、来た───キラキラだッ!」
そしていきなり視界が何か別の物に切り替わる。ドゥーを通じて、俺にもキラキラと言う奴が見えているのだろう。まるで光の海とも言えるような光景の中に居るのはドゥーと俺。青と紫の泡が浮かんではこちらに向かってくる。
えぇ、何これぇ……知らない……というか何でドゥーちゃんは服を着てないの……?
「あなたと一緒だから、あの時よりずっと綺麗!」
<これが……キラキラなのか>
「うん、そうだよ!二人なら行ける!あの光の向こう側にッ!」
これが、キラキラなのか。溢れ出るような全能感……つまりエクバの『覚醒』みたいなものか。
「さ、さっきから一体誰と話しているんだ?長距離通信は使えない筈じゃ……」
「サイコガンダムとだけど?」
「じ、自分のMAと会話……ッ!?やはりムラサメ研は普通じゃない……」
いや、まあムラサメ研究所でも普通じゃないんだけどねこれ。要らん所で風評被害が広まった気がするが、まあ普通じゃないのは周知の事実だから今更だろう。
そんな時、突如として【キュルルリィン】というニュータイプ特有のフレクサトーンの音が脳裏に響き渡る。
ようやく変形を完了させたゲーツが駆るハンブラビが放ったビームが、対空施設の内の一つを破壊する。悪くない狙いとエイムだ、操縦者の腕は悪くは無いのだろう。
「やるじゃんゲーツ!悪くない───ってサイコガンダムも言ってる!」
「何故呼び捨てに……まあいい。このまま落としきるぞ、ドゥー!」
サイコガンダムとハンブラビのマヴに、量産型のMSで対抗できるわけもなく……この基地の占領はものの数十分で終わった。だが、その中に───粛清対象リストに書かれていた裏切者の彼の姿は無かった。
裏切者と呼ばれていた彼だが、作戦地域である基地からかなり離れた居住区にどうやら潜伏しているらしいとの情報があった。居住区の規模からしても住んでいるアースノイドは数千人はくだらないはずだ。何処に潜んでいるかは分からないが、MSで逃走を図ったといっていたし、地下が怪しいだろう。
とは言えこの巨体では居住区の中を捜索など出来る筈も無い。このままどうしようか迷っている所に、一本の無線通信の音がコックピットに響き渡った。長距離通信はミノフスキー粒子下では使えない筈だ、おそらくは散布されている地域を何時の間にか抜けていたのだろう。
「貴様ら、何をモタモタしている!?そんなもの、民間人ごと焼き払えば良いだろう!」
そう言えばこの声が誰のモノだったのかを今、思い出した。サイド1の30バンチコロニーに毒ガスを注入し民間人を大虐殺したゴーグルをつけた最低最悪の男。その名は……
「バスク・オム少佐!?通信が回復したのですか!?」
「そんな事はどうでもいい!早く作戦を遂行せんか!」
「ですがあそこは居住区で……」
「憎きスペースノイドに与する裏切者を粛清できるのだぞ!その礎となれるのは、生粋のアースノイドとして本望であるッ!」
ゾッとするほど残酷な考え。友軍だとか、民間人だとか関係ないんだ。こいつの目的はスペースノイドの根絶。その為なら例えアースノイドの犠牲すら厭わないというのか。
「……撃たないの?」
ドゥーのその一言に一瞬驚きはするが、直ぐに納得した。彼女は何も知らない子供なんだ。
当然だ……ムラサメ研究所で情操教育なんて無駄事をする訳がないんだから。
<俺はドゥーには撃って欲しく……ない>
「それはどうして?戦略上の理由?」
確かに撃てば地球連邦に対する反感の芽を育てる事になるだろう、だがそんな事はどうでもいい。さっきまで相手にしていたのは戦う意思のある軍人だった。今からやろうとしているのは、戦う意思のない人の虐殺だ。だからこれは……
<いや……エゴだよ、これは>
「そっか、
今は理由というより、俺の意思を尊重してくれたドゥー。今はそれで良いんだ。甘いかもしれないけど、ここで撃ってしまったら人として大切な何かを失ってしまいそうだったから。
<ゆっくりとカウントダウンをするんだ、おそらくそれで決着は……つく>
「うん、分かった。10……9……8……」
街に向けてサイコガンダムがビームのついた手を向けたまま、ゆっくりとカウントダウンを開始したドゥー。隣にいるゲーツ君は理解が出来ていないようだが、通信機越しのバスクは何やら満足そうにしていたあたり……察しているのだろう。
「6……5……4……」
カウントダウンが3になり、サイコガンダムの指部にビームが放たれる直前の煌めきが漏れ出たのとほとんど同時に、ジムのような顔をしたゲルググが居住区からこちらに向かって飛んでくる。
「貴様らクズの!そういう所が気に食わんから、俺はジオンに───ッ!」
「見───つけた」
サイコガンダムからゲルググ目掛けて放たれた10本の光の雨。当然、量産機にこのビームの雨を避けれる筈もなく直撃し……空中でゲルググが爆散する。せめてもの救いは、この威力だから痛みも無く逝けたであろう事くらいだろう。
「───これで作戦完了、帰投する」
「良くやった、流石はムラサメ研究所だ!」
テストと戦争は違う、その事は理解していたつもりだったが……俺は理解していなかった。
だけど、俺はこの時の判断を後悔する事は無いだろう。
次回 第五話『ドゥーは普通を知らない』
彼女は知らない、海の広さも──―家族の暖かさも