日間二次ランキング4位だそうです、ありがとうございます!
内容の一部にアンチ・ヘイトを含みます
「ね~本当に
<勉強は将来の選択肢を広めるためにも必要だと思うぞ>
研究員に用意してもらった国語のドリルを、ドゥーが解いているのをじっと見守っている。本当は採点してあげたいんだが……俺の身体で採点なんて出来る訳がない。だから、間違えたら教える形で勉強を教えている。
「でも、面倒くさいし……」
<無理強いはしないけどさ、俺はドゥーには頑張って欲しいな>
「ん~じゃあボクもちょっとだけ頑張ってみる……」
しばらくして、ドゥーが鉛筆を握る手が止まる。道徳の授業の一番下にある空欄。
そこにある、『将来の夢は』なんて欄だけがずっと埋まっていなくて。
<ドゥー、何かしてみたいことは見つかったか?>
「
<ああ、
俺は、彼女に戦い以外の未来も教えてあげたかった。
戦闘のために生まれた強化人間だって、それ以外の道を選んだって良いんだって。
「ボク……分かんないな、将来のボクが他に何をしたいかなんて」
<何でもいいんだ、笑ったり否定したりしないからさ>
その瞬間に、頭の中に見た事のない映像が流れる。
ここは……外か?見た事の無い少女が一人、泣き腫らした目でこちらを睨みながら何かを叫んでいる。
【私は……私はサイコガンダムのパイロットになって!それで、いつか海を見にっ……!】
今のは───ドゥーの記憶だろうか。ニュータイプ特有の精神感応は、俺とドゥーの心が近づくたびに強く……そして頻度を増していた。これが彼女にとって、悪影響を及ぼさないと良いのだが。
「……同期の女の子が言ってたんだ、海を見に行きたいって」
<……ああ>
きっと今見た少女のモノだろう。ただ……あんな子はこの研究所に来てから一度も見たことは無い。それどころか、ドゥー以外の強化人間もほとんど。
「あの時はよくわからなかったけど……何故かボク、あの時の事が気になって」
それは夢というにはあまりにもささやかで、将来設計と言うにはあまりに小さなものだったけど。
<分かった、それじゃあ海に行こうか>
「ゆ、夢って本当にそんな事で良いの?大変だし、海が見たいなんて……」
<良いんだよ、小さい事でも。それがドゥーのやりたい事なら>
夢を一つしか持っちゃいけない訳じゃないなんて詭弁かもしれないが、それでも夢が何もないよりはずっと良い。少しずつ叶えていけばいいんだ、そうすればきっと……もっとやりたい事が見つかるはずだから。
今日は重要な貨物を乗せた輸送列車の護衛任務らしい。そんなものに何故わざわざ50mを越えるサイコガンダムを向かわせる意味は分からないが……それだけ重要なものなのだろう。どのみち任務としてうちに話が来た以上、俺達が断る事は限りなく不可能に近い。
初めての実戦から、こうして地球連邦からムラサメ研究所に依頼が回ってくるようになった。それによって今のドゥーの軍での階級は『軍曹』に相当するものらしい。戦功なんて、求めてはいなかったのに。
「ねぇ、本当にボクたちがこんなことする必要あるの?ゲーツにでもやらせておけばよくない?」
<ゲーツにでもって……彼は中尉だから上司にあたるんだぞ?>
「そうだね、ゲーツはよわっちいから護衛される側だもんね~」
<あれでも連邦では指折りのパイロットの筈なんだけどな、如何せん機体が……>
ゲーツ・キャパとは何度か任務を供にした仲だ、恐らくは監視の意味合いもあるのだろうが……それはそれとして、恐らくドゥーが俺以外で一番心を許している相手だろう。それを裏付けるように、ドゥーの口から『彼以外の人間の名前』が出てきた事は無い。
「これより危険地域に入りま───!」
ムラサメ研との通信が唐突に途切れる、それはムラサメ研究所で何かあったか……ミノフスキー粒子が散布されたという事。恐らく後者だろう。
上空から二機のMSがこちらへ向かってくる。あの特徴的な赤い二本の角と眼球のような肩部装甲は……バウンドドッグだったか?確か、連邦側の
<───ドゥー!>
「───分かってる!」
───そんな、逡巡はこちらに向けて構えられたビームライフルにより無意味なモノに変わる。放たれたビームライフルはIフィールドによって阻まれたものの、拡散して周囲の地面へと突き刺さる。
「───ムラサメ研の犬共……ッ、お前たちは少々目立ち過ぎたァ!」
「そういうこった、騙して悪いがこれも仕事なんでな……ここで死んでもらおうって算段だよ」
分かっていた事だったが、連邦は一枚岩じゃない。バスクと同じ
戦争に負けたとしても、人間は───何時だって同じ過ちを繰り返す。
「オークランドの強化人間こそが真に優れたニュータイプだという事を、その身を以て理解しろッ!」
「───黙れッ!ボクは犬でも猫でも無いッ!」
……今のは比喩表現という奴だ、後で教えてあげないといけない。
それにしてもドゥーの動きに前ほどのキレがない、キラキラとはゾーンのようなものだ……エンジンのように稼働するのには時間がかかる。『それ』ばかりに頼っていると、こういった突発戦闘の時に性能を発揮しきれない。
ビーム兵器では効果が薄いと踏んで、実弾兵器へと切り替えたバウンドドッグが構えたのはハイパーバズーカ。確かに大気圏内での戦闘でIフィールドもあるサイコガンダムに対しては、有効な武装だ。放たれたそれは、直進して機体の腕に直撃する。
「───痛ッ!?」
<ど、ドゥー!?大丈夫か、一体どうして……!>
「大丈夫、掠り傷だから───ッ!」
任務での初めての被弾、それによって彼女は確かに痛みを訴えた。彼女との心の距離が近づきすぎたのだろうか、
もしかしたら、この時に突き放した方が彼女の為になったのかもしれない。それでも、俺には今更ドゥーに冷たくするなんて事は出来そうになかった。
「目障りなんだよ!堕ちろッ!」
バズーカを撃った後の後隙を狙った、指部のビーム砲はもう一機のバウンドドッグに阻まれる。
それにしても先ほどのバズーカは避けれる攻撃だった、それでも避けなかったのは護衛対象の列車を守る為だろう。こんな所でドゥーの成長を感じるとは。とはいえ此処で戦うのは俺たちに不利に動く、だから一気に距離を───詰める。
感情の高鳴りが低い以上、装甲のパージは行えない。こちらも敵の進路を予測してビームを置くものの、敵もやはり精鋭の強化人間なのだろう。直撃する事は無く、躱されるだけに終わる。
「この距離なら
バズーカでは致命傷にならないと踏んだのか、ビームライフルへと武器を換装したバウンドドッグはこちらに向かって一直線に近づいて来る。だが……
<近づいてくれるなら、好都合ッ!>
「サイコガンダムは───伊達じゃないんだよッ!」
視界がキラキラとした海に包まれていく。俺とドゥーだけの綺麗な世界。
そんな場所に邪魔者は───要らない。
「───なッ!?」
近づいてきたバウンドドッグを右手で掴み握る。50mにも届かんというサイコガンダムは、握りしめるだけでも一般のMAに対しては致命傷となる。出力も装甲の厚さも段違いだという事を、彼らは理解できていなかった。
「貴様、その手を放せ……ッ!」
こちらに向かってビームサーベルを持って接近する、もう一機のバウンドドッグ。バズーカを使わないのは掴まれているマヴに気を使ってとの事だろう、
<
「お前を倒せと───輝き叫ぶッ!」
バウンドドッグを掴んだままの右手で、もう一機のバウンドドッグを掴むために手を伸ばす。そうすれば、攻撃がし辛いと思ったから。案の定僚機を盾にされた彼は、思わずと言った様子でビームサーベルを向ける先を失う。
「サイコ───」
<───フィンガーッ!!!>
空中戦で、ここまで精密な動作で敵を掴むのはかなりの操作精度が求められる。彼女がニュータイプであり、
「ヒートエンドッ!」
二機まとめて、手の中で爆発するバウンドドッグズ。
にしても、何故この前口上が言えるんだ……もしかして、俺の記憶も彼女に?だとしたら、物凄く恥ずかしいんだが。
任務帰りの帰路で海の上を通った。
海面は太陽を反射してキラキラと輝いていて───こんな世界でも海は美しいままだった。
「あれは何?水面に何か黒いのが浮いてる……」
<あれはサメっていう生物のヒレだよ>
「ふ~ん……?なんか可愛いかも」
最近の女の子の感性はよく分からない……と思ったが、そもそも女の子の考える事なんて生まれてこの方分かった試しが無かった。はぁ……
<そうだな……降りられそうな所があったら、少し休んでいこうか>
「えっ、良いの!?」
<あぁ、来てみたかったんだろ?>
「やった、サイコガンダム大好き!」
もし何か聞かれたら、ミノフスキー粒子が……で乗り切ればいいし。やはりミノフスキー粒子は偉大だ、ミノフスキー博士には頭が上がらない。
眼前には白い砂浜のビーチが広がっている。
見渡す限りの『地球の海』は、本当に何処までも続いているような気すらする。
「これ、本当に全部しょっぱい水なの?」
<ああ、そうだぞ>
「神様って随分と暇なんだね、こんなに一杯塩水を作るなんて」
<ふふっ、それもそうかもしれないな>
独特な感性だ、でもそう言う事も大切にしていってあげたいと思う。
「……泳いでみても良いかな?」
<そう言うと思って、水着を用意してあるんだ>
ゲーツ君に頼み込んで、女児用の水着を用意してもらった。俺達が挙げている戦果からすればこんなものは微々たるものかもしれないが……男一人で女児用の水着を買いに行ったであろうゲーツ君には……頭が上がらない。
「それじゃボク、泳いでくるね!」
<ちゃんと準備運動をしてから泳ぐんだぞ?>
「えぇ~分かってるって……」
そう言って、海へと走っていくドゥー。そう言えば彼女は泳げるのだろうか。ムラサメ研でわざわざ水泳の訓練があるとは思えないのだが。
「足がつかな───っ!?」
<ドゥー……ドゥー!?>
慌ててコックピットから浮き輪を打ち出す、動け!動けよッ!
一瞬嫌な予感が頭を過ぎったが、そんな思いは杞憂だったらしい。ゆっくりとドゥーが海面から上がってきて浮き輪を掴む。
<今日は浮き輪の上と、足がつくところまでにするんだぞ>
「……はーい」
他愛のない時間だったと思う、それでも確かに楽しい時間だった。きっと何処にでもあるはずの、強化人間である彼女には持ちえない『普通』。
「見て!砂でサイコガンダム作ったの!」
<おっ、おう……よく出来てる……な?>
「喰らえ~サイコウォーターぁ!」
<ぐっ、あっ待って!機体が錆びる!?>
そう言って遊ぶ事数時間。はしゃぎ疲れたのだろう、砂浜に横になっていたドゥー。そんな彼女は打ち上げられて干からびていたクラゲを見つけて……何かを思い出したようにこんな事を言った。
「あれ、クラゲって……フワフワしてるって本で見たのに」
<ふわふわ……してたんだよ、でももう動かなくなっちゃっただけで>
「そっか、動かなく───なっちゃったんだ」
そんな彼女の呟きに、どんな意味が込められていたのかは俺には分からない。
それでも、少しずつ彼女は前に進めているのだろうと……そう思う。
そうして俺達の束の間の休息は、終わった。
帰宅した後、何時の間にかコックピットの中には軍服を着たサメだかシャチだか分からない人形が飾られていた。ドゥー曰く「私が居ない時でも、
それでも心は暖かかった。
次回 第六話『キシリア暗殺計画』
彼らの物語が、今―――交わり始める