俺が、俺達が(サイコ)ガンダムだ!   作:天野ミラ

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明日、水曜日の20時に最終回である第八話を投稿予定です。
ジークアクスの放送一日間違えてた……恥ずかし。
感想は明日の更新までは返せませんが、見て楽しみたいので一杯送ってくれると嬉しいです。


第七話 ボク達のリベリオン

 

時刻は夜、辺りはすっかり暗くなってきている。今夜遂に作戦が決行される、ここまででやれる事は全てやった……はずだ。

 

<ドゥー、分かってるな?>

「民間人の被害は最小限に、対象を始末したら速やかに逃走する……でしょ?」

<その通りだ。よく覚えてたな、偉いぞドゥー>

「ふふん、これくらいヨユーだって」

 

 作戦の実行を告げるかのように、ミノフスキー粒子が散布される。

 

「コロニー内にミノフスキー粒子が散布されたな、それにしてもこれは……」

<大丈夫か、ドゥー?>

 

 だが、計器に異常な量のミノフスキー粒子の濃度が計測されている。ニュータイプには少し刺激が強すぎるのではないかと思ったが……

 

「大丈夫、ボクはミノフスキー粒子の匂いが大好きなんだ」

<それは……どうして?>

サイコガンダム(あなた)を近くで感じれる気がするから」

 

 それもどうやら、杞憂だったらしい。もし俺に顔があれば真っ赤に染まっていただろう。全くうちの子は……一体何処でこんな歯の浮くようなセリフを覚えてきたというのだろうか。

 

 

 ゆっくりとその場からサイコガンダムとハンブラビが浮上し始める。周辺は通信が停止した事と市内にMS(モビルスーツ)/MA(モビルアーマー)が出現したことで、混乱状態へと陥っている。

 そして、一応クランバトルの体でここまでMAとMSを運んで来たので戦闘相手が姿を現すのだが……そちらをドゥーがじっと見つめていた。

 

「へぇ、そこにいるんだシュージ。遊んでみたかったけど───今日は忙しいんだ」

この試合が終わったら、マチュとニャアンと一緒に地球に行くんだ

「へぇ、そういうこと? 地球の海は良いよ、キラキラしててとっても綺麗なんだ」

「ドゥー、お前には何が見えてるんだ……?」

 

 今日のドゥーは仕上がっている。否、仕上がりすぎているとも言っていい。同じ強化人間であるゲーツ君ですら見えないモノを、彼女は捉えているのだから。白いMSと赤いガンダムに向けて挨拶代わりと言わんばかりに放たれた光条は、防がれて小さくない爆発を起こす。それが、開戦の合図となった。

 

 突如として出現したMS(モビルスーツ)MA(モビルアーマー)に、現地の治安維持部隊である軍警がかけつける。今の爆発で軍警は二手に分かれた。片方は逃走する二機のMSを追う部隊、もう片方はコロニー公社のビルへと向かう……俺達を止める部隊だ。

 

「あはっ、良いよ! それじゃあ……キラキラしよ?」

武器(MS)をその手に取った以上は……容赦はできない>

 

 俺達に正義は無い、そんな事は分かっているが……立ち塞がる壁は壊さねば前には進めない。これだけの数を落とすなら、最初からフル出力でいくしか無い……! 

 

「サイコ───」

<───ファンネル!>

 

 辺りを蹴散らすために、近寄ってくるMSを優先してパージした装甲で叩き潰す。分離した外装はまるで環のように俺たちの周囲を回り続け、周囲のMSをこちらに近づけさせない。あちらも攻めあぐねているらしい、事態は膠着したまま俺達は順調に目的のビルに近づいていく。そんなときに、街の何処かで赤色の爆発が起きたのが見える。

 

「───キラキラが消えた?」

「あれは……ゼクノヴァか!? なんでこんなところで!?」

 

 『ゼクノヴァ』研究所の人間が話しているのを聞いたことがある。赤い彗星こと『シャア・アズナブル』がグラナダとザビ家を救うために起こしたと噂される、ニュータイプとサイコミュの暴走現象……シャアがそんな殊勝なタマかよとは思うけど、実際に起きた以上は事実なのだろう。*1

 

 そんな現象が、今この場で起きている。まさか、キシリア・ザビに危険が迫っているからだというのか? だとしたら赤い彗星と一戦交えるのも視野に入れておかなければならない。

 

 コロニー公社のビルの屋上にキシリアを誘導するので、そこで暗殺をすればいいという情報がスパイからあった。こちらとしてもビルを一つ消し飛ばすと関係のない市民に沢山の犠牲が出るだろうから、ありがたい話ではあったのだが……あぁ、問題なく屋上に居るらしい。

 

 

 ビルの屋上へとよじ登り、遂にキシリアの姿をメインカメラに収めた。ここまで順調なら、逃げ切る事も視野に入れられるかもしれない。そう思った───矢先の事。

 

「───なっ!?」

 

 宇宙(そら)から放たれた一筋の光条が、やけにゆっくりとこちらに向かってくるのが見えた。今から回避は間に合わない、装甲はパージしていてあれだけのビームは受けきれない。今から装甲を戻すのも間に合わない、何をするにしてもあまりにも───遅すぎた。

 

「───ぐっ!」

「何やってるのゲーツ!?」

 

 突如として目の前に飛来して盾になったハンブラビによって、そのビームの出力は大きく減衰された。俺達は、頭部を失って爆炎を上げながら堕ちていく青いMSを目で追う事しか出来ない。

 

「良い判断でした、彼もこんな場所でなければ良き隣人に()()()のでしょう」

「───お前ェッ!」

<ドゥー! 気持ちはわかるけど、冷静になれ……! >

 

 無謀にも突っ込もうとするドゥーを必死で抑える、気持ちは痛い程分かる……が。戦場では冷静さを欠いたものから死んでいく、ここでまだ倒される訳には……行かない。

 

 全身に取り付けられた4つの有線制御式のメガ粒子砲、グレーと紫で構成された飛行船のような造形。そして、その姿はあまりにも───俺の知るブラウ・ブロに酷似していた。それが意味するのはつまり……

 

「こんな所でなければ我々は分かり合えたのかもしれませんが……キシリア様を狙った暗殺者を陣営に引き込めば、ジオンに叛意ありと捉えかねられませんから」

 

 灰色の幽霊と呼ばれ、ジオンの技術の結晶とも言えるMA(モビルアーマー)キケロガ。

 

「サイコガンダムのパイロット、あなたにはここで……ご退場願います」

 

 それを駆るのは……この世界ではシャア・アズナブルのマヴであり───

 

「シャリア・ブル……!」

 

 ───ジオン最強とも噂されるニュータイプが、夜の宇宙(そら)に君臨していた。

 

 

 僚機が撃墜されたというのに、いや……だからこそと言うべきか。彼女の目から闘志は消えていなかった。急いでパージしていた装甲を近くまで呼び戻す、奴の攻撃を完全に防げるとは思っていないが……それでも、ある程度は減衰することは出来るはずだ。

 

「見事な操作精度です、驚きました。人の造ったニュータイプ(強化人間)がここまで進化しているとは」

「高みの見物も今の内だよ……! お前たち(ニュータイプ)の方が、今日からボク達(強化人間)の劣化版って呼ばれるようになるんだから……!」

 

 売り言葉に買い言葉というような言葉の応酬、それでも互いに動かないのは相手の出方を伺っているのだろう。とはいえ、奴の攻撃が『あれ』ならばこのままというのは───拙い。行動を起こそうとしたその瞬間、先に動いたのは『あちら』だった。

 

<オールレンジ攻撃が来るぞ!>

「りょー……かいッ!」

 

 有線式のメガ粒子砲がこちらを取り囲むように動き始めたのを見て、予想が当たっていた事を確認する。記憶の片隅にあったアムロ相手に見せたオールレンジ攻撃、ここにきて知識がある事のアドバンテージを初めて活かせた気がする。

 

 これに対して撃ち合いに転じるか、距離を詰めるかだが……距離を詰めても機体性能の差で引きはがされる可能性が高い。戦争に負けた連邦のMAは、ジオンのモノと比べて性能が数段落ちる。ジオンのエースパイロットのモノと比べれば猶更だ。だから撃ち合って少しでも攻撃に意識を裂かせないようにするしかない。

 

 有線式の砲台が右に、左にと動き回る。計四つの砲台が無規則に動き回り、攻撃が読み辛い。そんな砲台も動きを止めてこちらに向かって一斉に射撃を行う。

 

「直上と前方に一機ずつ……!」

<───そして下と真後ろに一機ずつだ!>

 

 だが、その移動先が見えていれば……どうということはない。機体を動かし斜め後ろへと移動した鼻先をキケロガの放ったビームが掠める。

 

「この攻撃を、初見で躱しますか。腕を鈍らせたつもりは無かったのですが……」

<前だけ見てろ、お前の死角は───俺が守る>

「信頼してるよ、相棒ッ!」

 

 綱渡りの攻防は続く、互いに勝負を決める一手が……未だ見つからずにいた。

 

 


 

 キシリア様を助けるべく、ギャンに乗ってビルの屋上へと降り立った僕は……繰り広げられる戦いを盾を構えて見ている事しか出来なかった。

 

 夜の闇を駆ける二体のMA(モビルアーマー)、そのどちらもが当たれば一撃で勝負を決めるであろう攻撃を繰り出しつつも───まだ一度の被弾も許してはいない。そして何より、あまりにも異質なのは……

 

「どちらも一機なのに、これじゃまるで───M.A.V.(マヴ)同士の戦いじゃないか」

 

 昨日見た、非合法の『クランバトル』なる催しにそっくりだったのだ。

 有視界戦闘をする必要に迫られた現代の戦場で、先制攻撃の優位性を失わせるため。そして2機1組の連携により互いの死角をカバーしたり、片方を囮にして奇襲をかけるなどの形で補完しあうというM.A.V.(マヴ)戦術を、彼らは一人で行っていたんだ。

 

 戦いは苛烈さを増していく、とてもじゃないが僕じゃ付いていけそうにない。もしこの勝負に割って入っても、中佐の邪魔にしかならない事は……誰よりも自分が分かっていた。

 本物の才能とやらには、何時だって手が届かない。

 

 戦力は完全に拮抗しているように見える。機体性能と経験の豊富さで攻める中佐のキケロガと、並外れた危機回避能力と異次元のビット操作能力で翻弄する紫色のガンダム。

 

 きっとこの勝負を制するのは、幸運の女神とやらに愛された者なんだろう。

 そう思わずにはいられない程に拮抗した勝負だが……それも何時かは終わりが来る。

 


 

 

「……一人でマヴをやっているのというのですか」

「一人じゃないッ、ボク達は二人で一人のサイコガンダムなんだッ!」

 

 機体の性能とパイロットの経験が足りてないというのなら、俺達は互いに助け合う事でその差を埋める。いかに奴がジオン最強のニュータイプだったとしても、シャリア・ブルは所詮───1人だ。

 

「……あぁ、成程。妙な反応があると思えば()()()()いるという訳ですか。これは厄介ですね」

 

 流石はジオン最強のニュータイプ、自発的に俺の存在に気付いたらしい。だが、それは別に何のアドバンテージを産む訳でも無い。分かりすぎるというのは、必ずしも幸福であるとは限らないのだから。

 

「惜しいですね、もし出会いが違えば。運命の歯車が違えばきっと分かり合えていたのでしょう」

「運命なんてクソッたれだ! ボク達はボク達の手で未来を掴んで見せるッ!」

 

 次にもう一度、『あれ』が来た時。

 それが勝負の分かれ目に───なると、言わずとも俺達は分かり合えていた。俺達の周りは4機の砲台が取り囲み始める、その時を───待っていた! 

 

「それはもう───」

<───1度視た!>

 

 ビットから放たれるメガ粒子砲が防ぎきれないのなら、撃たせなければ良い。ビットの動かせる数はこちらが圧倒的に勝っているのだから。

 

<遅いッ! ファンネルは───>

「───こう使うんだよ!」

 

 ぴったりと砲台の前に張り付いたサイコガンダムの装甲ビットが射線を隠す、この距離で撃てば誘爆して装甲一枚と引き換えに自爆するだけだ。だから、必ず射線をずらす必要がある。その内に胴体のメガ粒子砲を発射するべくチャージを始める。

 

「させるとお思いですか!」

 

 その時だった、反撃と回避を行おうとしたキケロガを───

 ハンブラビから放たれた、一条のビームライフルの光が揺らす。

 

「ゲーツ、遅いッ!」

「───まさか!?」

 

 信じていた、ドゥーのマヴは俺じゃなくて───ゲーツ・キャパなのだから

 生まれた一瞬の隙、それは奴に狙いをつけるにはあまりにも───十分すぎた。

 

「沈めッ、灰色の幽霊───ッ!!」

「まだ私は、終わるわけには行かないんですよ!」

 

 破れかぶれでキケロガから放たれたビームも、今や止まって見える。

 これを避けて、胴体のメガ粒子砲を奴の機体に叩き込む。そうすれば……終わり。

 

 

「───民間人ッ!?」

「───なッ!?」

「嫌ッ……!?」

 

 その驚愕の声は、誰のモノだっただろうか。足元の割れた瓦礫の下敷きになった一人の少女と目が合った、合ってしまった。

 身体が動かない、まるで時間が止まった様に。

 

 眼前へと迫った、白い光の奔流を避ける術は疾うに無く───辺りは爆炎へと包まれた。

 

 

 


 

 燃え盛る道路に横たわる(サイコガンダム)の身体。両腕は破損していて胴体の拡散メガ粒子砲も完全に破損している。即ち、武装をすべて失ったという事。誰がどう見ても戦闘の続行は不可能だという事は、明白だった。

 

「痛ッ───あっ、違ッ───ボクは!?」

<……ドゥー>

「女の子が居て……ちがっ、違うの!? ボク、避けられたはずなのに……なのに!」

<良いんだ、ドゥー。それにどの道ジオンから逃げ切るのは難しかったんだから>

 

 確かに崩落した瓦礫に足を挟まれていた少女の姿は、俺にも見えていた。ドゥーにせっかく芽生えた優しさが、戦いの中でになったのだ。戦争って言うのはそう言うもんだ、優しい人から先に亡くなっていく。それでも……

 

<ドゥー、お前は避けられなかったんじゃない……避けなかったんだ>

 

 これだけは言わなくちゃいけない、君がしたことは間違った事じゃないって。

 君は『抗った』んだよ、『戦うために生まれた』って言う強化人間の運命って奴に抗えたんだ。

 それは敗北なんて名前じゃなくて、叛逆と呼ぶのだと───俺は思う。

 

<やさしい子に育って、お母さんは……嬉しいよ>

「うっ、動いてよ……そんな冗談面白く無いから早く動いてよッ!?」

 

 俺の機体がもう限界なのは、彼女も痛いほど理解しているのだろう。それでも現実を受け入れられない、仕方ない事だ。どうやら瓦礫の下の少女は、ここから離れられたようだ。だから君の優しさは、確かに一人の少女を救えたんだよ。

 

 そんな優しい君に……俺からも、最後に一つ贈り物をさせてくれ。

 

<愛しているよ、愛しい愛しい……ドゥー>

「これが最後なんて……そんなの嫌だよ!!!」

 

『身体』としてなら、離れるべきじゃないんだろう。

『相棒』としてなら、最期まで戦うべきなんだろう。

 それでも『俺』としては、彼女に『普通の幸せ』を掴んで欲しかった。

 

 自身の身を盾にしても、子を守りたいという『エゴ』。

 この『エゴ』を、人は『愛』と呼ぶのだろうか。

 

<自爆シークエンスを起動>

「そんなのヤダっ、ボクも一緒に───!」

 

 このサイコガンダムの鹵獲を防ぐための、小規模な自爆プログラムを作動させると同時に、コックピットを地下に向けて射出する。これできっと外から見れば爆発したようにしか見えないだろう。こんな事をすれば、本来なら生き埋めになるだろうが……事前にこの下が地下水道なのは分かっている。逃走に使える下道も既に下見に行かせた。きっと彼女はもう大丈夫だろう。

 

「───で! ボクを置いていかないでよッ!?」

 

 揺れと共に爆音が地面を揺らす。そして彼女の声は聞こえなくなった。

 

 音も無い、光も何も見えない真っ暗な世界が広がっていく。体が揺れるような感覚だけを唯一感じる、あの時のとても孤独で冷たくて……寂しい世界へと堕ちていく。独りは嫌だ、だけど君から貰った思い出のお陰かな……あの時よりも寂しくは───無かった。

 

 

 


 

「……仕留め損ねた? そんな筈は無いのですが」

 

 確かに仕留めたはずだ、現に敵のMAは爆散したのだから。

 それでも何故か、嫌な予感が背筋を冷たく流れるのは……何故なのでしょうか。

 

「あのパイロット……いえ、パイロット達こそ、真のニュータイプに違いなかったのでしょう。そうでなければ……死んでいたのは私でした」

 

 まさか、逃げ遅れた少女にすら感応して動きを止めるなんて。軍人というにはあまりにも───優しすぎる。それでも、ニュータイプの本質が他者と愛を共感し、感応する事だというのを考えれば……『本当のニュータイプ』とは彼女達の事を指すのでしょう。

 

「───中佐? シャリア・ブル中佐! ご無事ですか?」

「えぇ、呆けている場合ではありませんね。少尉、キシリア様を頼みます」

 

 

夜の闇を駆けていくキケロガと、夜の闇の中に消えたドゥー・ムラサメ。

彼等の行く先が、交わる事はもう───ない。

 

*1
冗談ではない! 




最終話 『ボク達のエピローグ』
エンディングは君の目で確かめてくれ
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