古い地下水道を抜けて、あてもなく夜の街を彷徨うように歩いていた。特に目的地が合った訳では無いけど、それでも何かをしなくちゃいけない気がして。燃えるように熱かった身体も、今は酷く───寒い。
ざぁざぁと雨が降り頻る街の、ひっそりとした路地の裏にあるゴミ溜め。古いオイルや、何かもわからないジャンクと生ゴミが一緒に捨てられているゴミ溜めに、ボクは身体を
何時の日か、あなたが『スラム街のゴミ捨て場が似合う……』なんて言っていたけど……こう言う事だったんだろう。確かに、今のボクにはこの場所がお似合いだった。
「早く、会いたいな……あなたに」
あれから数日、なんとかして雨を凌げる場所と食べ物が見つかってボクは生き繋げていた。この数日でこのあたりの『地理』に慣れていた事と『現地の身分証』があったお陰だろう。射出されたコックピットに現地のお金が隠してあったのを見てやっと理解した、あなたはこうなる事を……分かっていたんだね。
あの事件は表向きは、何故か『アマテ・ユズリハ』の起こしたものだと噂されていた。おそらくは、犯人が捕まらなかったことに対してのプロパガンダ的な意味合いもあったのだろう。まさかシュウジが赤いガンダムで、あなたが、赤いガンダムのマヴだったなんて驚いたけど。
ゲーツは……無事かな。
でもそれも、もうすぐ───終わるから。
あれからどれくらいの時間が経ったんだろう、何も聞こえないし何も見えない世界に頭がおかしくなりそうだった。死んだ後の世界って、こんなにも何もないのか。偶に感じていたあの揺れも、ほとんど感じなくなってしまった。
ずっと、独りだ。暗くて寂しい。誰でも良いから声が聞きたい。早く楽になりたい、何時まで続くんだろう。独りは嫌だ。
そんなネガティブな感情が渦巻く中で、彼女との思い出だけが唯一の救いだった。俺は天国には行けないだろうな、沢山の人を殺めてきたから。それでも後悔はしていない、俺の選択した未来に……ドゥーに生きてほしいという選択に後悔は無かった。
だけど、そんな時間にも遂に終わりが来るのだろう。感じた事のない身体の揺れと真っ白な光が近づいて来て──────
「───る?」
ああ、この声を俺が聞き間違うはずがない。
そうか、お前が天国から迎えに来てくれたんだな、ドゥー……
「あのさ、ボクは死んでないよ?」
<エッ シャベッタ…… ナンダ コノコエ!?>
腕を動かそうとしたら、代わりにその場で身体がクルリと回るだけに終わった。それでも、音も聞こえるし世界が見える。此処は天国だと言うには少し汚すぎるし、地獄というには綺麗すぎる。おそらくは路地にある宿の何処かか?だとしてもなんでこんな事に……
「あなたが教えてくれたんでしょ?スラム街のゴミ捨て場が似合うって」
<ヴェッ!?>
不味い、あまりにも失礼な最初の時の印象を未だ覚えていたというのか。あの時はこんな素直で良い子だなんて思ってなかったんだ、愚かな俺を許してくれ……
「そこでボクは見つけたんだ、壊れてたけど真っ黒いハロを……」
そう言って優しく俺の身体を撫でるドゥー、このハロを見つける為に随分と無理をしたのだろう。身体は雨で濡れているし、髪もボサボサだ。
真っ黒なハロ……その存在に心当たりはある。だとしても、俺の本体は確かにあの時爆発したはずだ。今度は偶然近くにあったハロに転生したなんて、世界はそんな魔法のように都合よくはいかない。そこに俺の見落としている何かがある気がする。
<アッ……あーあー…‥やっと喋るのにも慣れてきたよ。それだとしても何で……>
「ボクもびっくりしたよ、先に教えてくれればよかったのに」
<……えっと?>
「まさか、サイコガンダムのサイコミュの起動キーがあなたの本体だったなんて」
……この世界に来る時に、確かに俺は真っ暗な世界に居た。
それは、死後の世界や輪廻の狭間のような場所だったと思っていたが───それがそもそものミスリードだった?考えてみれば、俺の意識が浮上した瞬間とサイコガンダムが起動したタイミングには……少なくない時差があった。
「ボクも、サイコミュの起動キーの中に脳みそが入ってた時は驚いたよ?」
<……俺も初耳なんだけど>
「へぇ、じゃあ、やっぱりあの時本気で死ぬつもりだったんだ」
<俺は機械だから死んだりは……待つんだドゥー!グーは止めて!?>
ポカポカと優しく頭を叩かれる、流石に今のは俺が良くなかったか。あの空間で何も見えないのはカメラが無かったから、何も聞こえなかったのはマイクが無いから。何も話せないのは───スピーカーが無いからだとすれば、確かにあの揺れるだけの空間にも説明がつく。
俺はサイコガンダムではなく……そこに乗せられたサイコミュの起動キーに転生したという事だったのか。確かに抱えないと運べない位には大きいモノだったけど、まさか中に脳が入っているなんて思ってもいなかった。この脳が誰のモノなのかは分からないけど、おそらくは『再利用』とやらの行きつく先が『これ』なのだろう。それは無機物に転生したよりは、幾分か説得力のある話だった。
「積もる話は沢山あるけど……さ」
<あぁ>
そういって目を潤ませて俺を抱きしめたドゥーは、機械の身体であるはずの俺ですら暖かく感じて。そんな彼女が大きくなったなんて感覚を感じたのは……俺が小さくなったというだけでは無いのだろう。
「おかえり、
<……ただいま、ドゥー>
「ぐぅ」という可愛らしいお腹の鳴る音が室内に響く。先ほどとは違う理由で顔を赤らめた彼女は、どうやら俺の修理に夢中でご飯を食べていないらしかった。紳士らしく聞かなかったことにしよう。それにしても、近くに営業中のお店はあるのだろうか。
「ちっ、近くには……確か餃子屋さんがあるよ?」
<なんで餃子なんだ?すっごく美味しいとか?>
「ううん、べつに普通くらいじゃないかな。混んでる様子もないし」
研究所にいる時も、特別餃子が好きだったとは聞かなかったけど。
<そんな普通の所で良いのか?豪華にステーキとか……>
「良いんだよ普通で。普通のお店でご飯を食べて、普通に生きていくの」
確かにそうだ、俺達はあれだけ憧れていた『普通』とやらに手が届いたんだ。サイコガンダムと言う武力も、地位も資金の殆ども失ったけど───それでも、隣でドゥーが居て、笑ってくれる。それだけで十分すぎる程に、満ち足りていた。
「きっと楽しいよ、あなたが一緒にいてくれるなら何処だって」
<ああ、そう……だな>
この戦いを通して痛感した、凡人には何もかもを掴むことはきっと……出来ない。
もしかしたら全てをその手に掴める人なんて、この残酷な宇宙世紀の世界にはいないのかもしれない。それでも───
───必死にかき集めた『普通』をこの手に、俺/ボクたちは今を生きていく。
<それじゃあ、行こうか>
「……うんっ!」
その先にどんな困難が立ちはだかったとしても、2人ならきっと───乗り越えていける。
たとえ行き着く先が、あの暗闇だったとしても。
2人ならきっと寂しくは無いから。
───最後がHappyEndingなら。
これにてサイコガンダムとドゥーちゃんの物語にスポットライトが当たるのは終わりになります。
ですが、この後も彼等の人生は続いていく事でしょう。
この先にどんな未来が待ち受けていたとしても、2人ならきっと幸せになれると信じています。
今後は『蛇足』や『設定集』を出すかもしれませんが、本編はこれにて完結です!
ここまでお付き合い頂きありがとうございました!
願わくば、ドゥーちゃんのイラストや小説がもっと増える事を願っています。
評価や感想、ここ好き等々お待ちしております!
「面白かった!」の一言でも作者的にはとっても嬉しいです。
この後ジークアクス視聴予定の作者のXはこちら↓
https://x.com/AmanoMira43648
それではまた、何処かでお会いしましょう。
ゲーツ君がどうなったか気になるという声も多かったので、後日談とか設定集とか
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いる
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いらない
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どっちでもいい
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閲覧用