仮面ライダーガヴに改造されたビッキーが行くシンフォギア 作:バースデー
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愛機と共に、戦場を駆ける。
──癒えぬ傷を抱えて。
片翼を喪った痛みは、今もなお胸を刺す。
ノイズ襲来の警報に、無意識に肩が震える。それでも、防人としての務めを果たすため、彼女はその感情を無理やり押し殺した。
「……奏」
だけど、忘れられるはずがない。
この理不尽は、否応なく心を抉る。
あの日。あのライブ。
唯一無二の“片翼”は、美しい歌声と共に、彼女の前から消えた。
今でも思う──逢いたいと。
あれは悪い夢だったのではないかと。
けれど、そんな願いを嘲笑うように、時間は残酷に流れていく。
そして、ある報せが、凍りついた心を再び揺り動かした。
『……ガングニール、だとォ?』
世界は、残酷だ。
何を守ろうと、どれだけ抗おうと、犠牲は止まらない。
むしろ、それをあざ笑うかのように、大切なものを次々と奪っていく。
──だが、今回は違った。
その報せは、彼女の中に巣くう“絶望”を、毒のように広げていった。
――嫌だ。認めたくない。あれは、奏のギアだ。
どんな時でも、二人で一つだった。
最期まで誰かのために戦った、誇り高き奏者。
なのに、彼女は、あっけなく──死んでしまった。
その力を、名も知らぬ“誰か”が使っているだと?
許せるはずがない。
それが醜い独占欲や、幼稚な嫉妬だと分かっていても──どうしても、振り払えなかった。
「……巫山戯るな」
吐き捨てたその声に、赫怒の情念が宿る。
そして、彼女は再び戦場へと降り立った。
『Imyuteus amenohabakiri tron』
愛機を捨て、眼前の“敵”を真っ直ぐに見据える。
そこに蠢くのは、名も無きノイズの群れ──そして。
「……また、貴女ですか……?」
反応を示す“ガングニール”の波動。
名も知らぬ“それ”に、黒い炎が再び心に灯る。
「貴様は──何者だ」
怒りを込めて問う翼。
目の前の存在は、ただ静かに、ノイズを一蹴したあと、翼を正面から見据えた。
「答えよ。その鎧で、何を成そうとしているのか。
そして──貴様が、何者であるかを!」
その叫びに、“それ”はぽつりと呟いた。
「……貴女。私が、どんな仕打ちを受けたか……知っているはずですよね?」
言葉が、心を抉る。
“あの事故”──否、“事件”によって、二課は日本政府から厳しい責任を問われた。
ネフシュタンの喪失、民間人の大量死。
それでも、弦十郎含めた、政府関係者の必死の奔走によって組織は辛うじて存続した。だが……。
それ以上は、何もできなかった。
世論の糾弾、情報の封鎖、被害者への謝罪すら遅れに遅れた。
二課は、尻拭いの機会すら奪われた。
努力はした。だが、届かなかった。
誰もが、無力を呪った。
翼は押し黙る。
それは紛れもない事実──逃れられぬ過ちの証だった。
「“なぜ助けてくれなかったのか”なんて、言いませんよ……意味がありませんから」
静かに、だが確かに“それ”は告げる。
だが──次の瞬間、大剣が翼に向けて突き出された。
「これ以上、付き纏うのなら……容赦は、しない!」
*
「ッ……!?」
爆ぜる衝撃。鋼と鋼がぶつかるたび、雷鳴のような音が空間に響き渡る。
斬撃。打撃。足運び。すべてが一瞬ごとに変化する。
二人の戦い方は、実に対照的だった。
翼の剣は、正確無比。長年の研鑽と経験による計算された動作の連続で、無駄など一切なかった。対して響の動きは野生の獣のよう。躊躇も迷いもなく、直感だけで飛びかかるようにして斬り込む。
その差が、鋭い軌道に現れる。
響は防御を捨てた様に攻めるが、それを翼は要塞の様な守りで受け流す。
「甘いぞ。その様な実力でッ!!」
踊る様に立花響の一撃をいなした結果、響の体制が大きく崩れる。
そして、その大きな隙を見逃す程、翼は甘い存在ではない。
舞うように一撃を受け流し、翼は響の体勢を崩す。
一瞬の隙を見逃さず、腰を落とし、居合いの如く鋭く斬り飛ばす。
──しかし。
ムニュッ。
奇妙な音と共に文字が浮かび、響の装甲が柔らかく膨らんで一撃を吸収した。
またも浮かび上がるあの奇怪な文字。
まるで、生きているかの様に、防御が形を変える。
「……なんなのだ、その力は」
その不可解さに、わずかに表情を曇らせる翼。
だが、空中では動きは鈍る。この瞬間を逃すな──そう判断した翼は、無数の剣を喚び出し、それらを一斉に放った。
逃げ場は無い。
だが、響はわずかに浮かんだ“ムニュッ”の文字を掴むと、
何の迷いもなくそれを剣の群れに向かって投げつけた。
文字が剣に当たった瞬間、紫色の液体を撒き散らしながら弾け、剣の雨にわずかな空間を生み出す。
「…………ッ!」
翼が目を見張る中、響は身を滑らせ、形成されたスペースに身体を押し込み、その空間を通り抜け、背後のコンテナに斜めに着地し、跳ね上がるようにコンテナを踏みつけ──
そのまま、全身のバネを使ってコンテナを翼に向けて放り投げた。
金属が軋む。空気が振動する。
コンテナが凶器となり、唸り声のような音を立てて突進してくる。
真正面から受け止めるには、あまりに重すぎた。
だが──翼は臆さなかった。
片手を掲げ、剣を肥大化させる。
その長さも厚みも、常識を超えた斬鉄の塊。
ひと振り。
風を裂き、空間を断ち、巨大なコンテナを真っ二つに叩き切った。
破片が飛散し、火花が舞う。
舞い散る金属片の雨の中──翼は構えを崩さず、前方を見据える。
「……居ない?」
切り裂かれたコンテナの先に、立花響の姿はなかった。
逃げた……?
一瞬、脳裏をよぎる。
が──その刹那。
“ドガァン!”
残骸の奥から、衝撃波と共に何かが突き破って飛び出した。
煙を巻き上げ、金属片を弾き飛ばしながら、突進してくる影。
青黒く変質した右腕。
まるで岩肌のような凹凸が走り、拳は常人の頭ほどのサイズへと膨れ上がっている。
〈PUNCHIN GUMMY!〉
その質量。速度。そして殺意。
翼がそれを視認したときには、既に距離はゼロ。
「これで、終わりです」
「くっ……」
反射的に剣を突き出す。
だが、響の一撃は剣と正面から打ち合った瞬間、より強く膨張し……
瞬間、翼の左腕に衝撃が走った。
「何……!?」
骨ごと軋むような痛み。
足元が滑り、わずかに姿勢を崩す。
そこを逃さず、響の追撃が入る。
左足を軸に回転しながら、拳ではなく、肘を突き立ててくる。
風圧すら刃のように鋭い。
翼は反撃の体勢を整える暇もなく、後方へと跳躍して距離を取る。
着地。剣を構え直す。肺が酸素を求めて荒く脈打つ。
「……それは、本当に、ガングニールなのか?」
ふと、胸に湧き上がる疑問を、抑えきれず口にする。
かつて共に戦った肩翼の力。その姿も、響き渡る音も、よく知っている。
──だが。目の前のそれは、あまりに異質だった。
違いすぎた。
見た目も、力も
まるで──別物。
「…………答える義理はありません」
響は低く言い放ち、無感情な目でこちらを見据えたまま、腰のベルトに手をかける。
回転。
無機質な電子音が繰り返される。
〈チャージミー! チャージミー! チャージミー!〉
そして、“それ”を押し込もうとしたその瞬間。
「や、やめて、響ッ!!」
少女の声が、戦場に響いた。
走り込んできたのは、ひとりの少女。
何も守る術などない、ただの人間。だが、真っ直ぐに響へと声をぶつけていた。
「響……私のこと、覚えてるでしょ? 未来だよ」
叫ぶ声は震えていた。
必死に、何かを伝えようとする。痛みを、罪を、後悔を──全てを背負って。
「ごめんね……響。私が、あの時、ライブのチケットを渡したから……
私のせいで、こんな……ことになっちゃって。怒ってるよね……?」
その目は潤み、唇は震え、それでもまっすぐに響を見据えていた。
「ずっと……言いたかったの。だから……だから、そんな辛い顔、しないでよ……!」
声は届いたのか。
しかし、響は無言のまま、ベルトからもう一つのアイテムを取り出す。
冷たい銀色の意志がそこにあった。
「……響」
〈Candy!〉
一つ、ため息。
そして──何も言わず、彼女はバイクに跨がり、エンジンを咆哮させた。
砂煙を上げ、風のようにその場を去っていく。
「――――響ぃッ!!!!」
未来の叫びが、空に溶けていく。
煙が舞い、咳き込んだ彼女の視界に、遠ざかっていく背中が小さく映る。
その背中は、まるで言っていた。
──止まる理由など、何もない。
「待って、響! お願い、戻ってよ!!」
その願いは、風に引き裂かれた。
未来は必死に追いかけようとするが、足がもつれ、地面に膝をつく。
顔を上げたときには、もう──その姿は、彼方の影の中だった。
「響……」
涙を隠すこともなく、未来は地面に顔を埋めた。
嗚咽がこぼれる。
けれど、いくら泣いても、現実は何も変わらない。
──そのとき。
「大丈夫か?」
静かな声が、頭上から降りてきた。
「は、はい……ありがとうご、ざいま……えっ……!?
翼さん……! す、すいません、私……響のことで、夢中になって……気づかなくて……!」
動揺する未来に、翼は優しく手を差し伸べる。
その手は、今まで数多の戦場を越えてきた、鋼のような温もりだった。
「大丈夫だ。……それより、聞かせてくれないか?
君と……あの子のことを」
*
そこは、未来の通うリディアン音楽院の地下――
まるで世界の裏側へ迷い込んだかのような場所だった。
「危ないから、手すりに掴まってください」
翼のマネージャーの緒川によって手すりに捕まり、未来は地下へと向かっていた。
ゆっくりと沈んでいく空間。壁は不思議な遺跡の様な紋様で覆われ、日常の延長とは思えない光景が広がっていく。
ここが音楽院の地下だなんて、とても思えない。
(……弓美ちゃんが見たら、鼻血出して倒れちゃうよ)
未来の脳裏に、オタク気質の友人・板場弓美の興奮した顔が浮かぶ。
その後の歓迎に面食らった後、未来は響へと思いを馳せる。
「改めて自己紹介をしよう。俺は風鳴弦十郎。この施設の責任者だ」
そう言った男は、大柄な体に似合わず穏やかな声だった。
彼に続き、彼の隣に立つ、グラマラスな肉体をした白衣の女性が続く。
「私は櫻井了子、よろしく。こう見えても出来る女なのよ?」
その軽口に、未来はかすかに微笑んだ。緊張の糸が少しだけ解けた気がした。
部屋の一角に案内され、未来は改めて、響のことを語った。
あの日のことは、ニュースで知った。
事件後、病院に入院していた響に一度だけ会いに行ったこと。
でも、それっきり――彼女は突然姿を消してしまったこと。
何度も手紙を書いた。返事はなかった。
そして今日、数年ぶりに再会した彼女は、まるで別人のようだったこと。
「……私、響の力にはなれなかったんです。ずっと謝りたかったのに……」
唇が震える。
思い出すのは、強くて、優しくて、歌が大好きだった響の笑顔。
でも、今日見たのは、あんなにも冷たい目をした“戦う響”だった。
「……すいません。こんな話、きっともう聞いてることばかりですよね」
申し訳なさそうに俯く未来に、弦十郎は静かに首を振った。
「いいや。君の言葉で、彼女が“どこに戻るべきか”が少し見えた気がする」
その言葉に、未来は顔を上げる。
彼の言葉はまっすぐで、どこか優しかった。
その言葉に、未来はそっと顔を上げる。
彼の声はまっすぐで、どこか人を安心させる不思議な優しさがあった。
「ふふ……あの子の正体が少しでも見えただけ、今回は大きな前進よ」
了子はそう言って口元に微笑みを浮かべ、少し身を乗り出すと、手元のタブレットを二人に見せる。
「でもね、代わりに──別の角度から気になる情報が見つかったの」
タブレットに表示されたのは、数年前の古びたネット投稿。
日付は2025年。
タイトルにはこう書かれていた。
【最近噂の仮面ライダーに助けられた話】
そこには、ブレた画面越しに撮影された一枚の写真。
暗がりに立つ、紫色の装甲を纏った何かの姿が映っていた。
「……これは……」
翼が小さく息を呑み、画面を覗き込む。
写真は荒く、その姿形をはっきりと確認できるわけではなかったが、それでも――
「……あれは、立花響の姿に似ている……ような……」
その声は疑念と戸惑いを含みながらも、どこか確信に近いものが滲んでいた。
「ふふふ、ね?なかなか面白いでしょ?」
了子がタブレットを指で弾きながら、得意げに笑う。
「二十年近く前の話だし、当時は都市伝説扱い。掘り出すのに骨が折れたわ。でも当時、ネットの一部じゃ結構騒がれてたのよ」
だが、翼は少し顔を曇らせて口を開く。
「ですが……2025年といえば、立花はまだ、生後間もない頃では……。この姿と彼女が、同一人物とは……」
その指摘に、了子は「それそれ~」と呑気に返す。
「そうなのよね〜。年齢的には完全にアウト。
それに当時の話で、仮面ライダーがノイズに対抗出来た、なーんて話も無い。
でも不思議でしょ? これが別人だとしても、妙に似てるのよ。あの“口”の部分とか、特に」
了子が画面を拡大し、紫の装甲の腹部を指差す。
そこには確かに、現在の“響”にも見られる、口のような開閉構造がぼんやりと確認できた。
「形は違っても、意匠がほとんど同じなの……偶然ってレベルじゃないわよね」
「兎に角、少なくとも詳しいことは響ちゃんに聞いてみたらいいんじゃ無いかしら?」
了子の言葉に、翼は頷くしか無かった。
*
「仮面ライダー……」
翼たちが姿を消した後、特異災害対策機動部二課の一室で、了子はただ黙って画面を見つめていた。何をするでもなく、じっと――。
「完全聖遺物とは異なる、未知の力……」
その表情は冷たく、無機質。先ほどまでの明るく朗らかな姿とはまるで別人のようだった。
「確かに、その力を使えないわけではない。でも……何も考えずに扱うには、リスクが大きすぎる」
そこで一度、口をつぐむ。
「……となれば、やはり彼女の身体を詳しく調べる必要がある、ということか」
その瞬間、机の上の携帯が静かに振動した。
「あら? 弦十郎くん?」
着信相手を確認し、了子はふっと微笑む。
「ああ、広木防衛大臣の件ね。――ええ、ちょっと待ってちょうだい」
電話を取るその表情には、もうさっきまでの冷酷さはなかった。いつも通りの、あの明るい了子へと戻っていた。