仮面ライダーガヴに改造されたビッキーが行くシンフォギア   作:バースデー

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四話です


ザクザクの剣、砕けた心。

「ハアッ!!」

 

 ノイズに大剣を突き立て、一閃。動かなくなった異形の影が、地に崩れ落ちる。

 

 ゴチゾウたちからの報告を受けて現場に急行した私は、巨大なノイズと、襲われていた三歳ほどの少女を発見した。

 仕方なく──いや、当然のように──その子を庇いながら、戦い続けていた。

 

 この戦いを終わらせるために、私は“最後の手段”を起動する。

 

 

〈GuruCan! Pero! Pero!〉

 

 音声起動と共に、“バギー”が変形を始める。普段はオフロードバイクとして使っているこの機体には、戦場仕様の武装形態が存在する。

 そう、巨大なガトリング砲としての姿だ。

 

 

 一刻も早く、ノイズを消し飛ばす。それが今の最優先事項だ。

 

 本来なら、あまり使いたくない。反動が大きすぎるからだ。

 だが──私は、誰かを見捨てるために戦っているわけじゃない。

 

 ゴロゴロと音を立てて駆動輪が回転を始める。一回、二回、三回……。

 

 ――これでいい。

 

 私は銃口を、ノイズの塊に向けた。

 

〈ドッカーーーン!!〉

 

「ぐっ……! うぅっ……!」

 

 予想以上の反動に、身体が仰け反る。足元がずるりと滑りそうになるが、踏みとどまる。

 姿勢を低くして砲身を固定し、全弾を敵に叩き込む。

 

 やがて、ノイズは音もなく崩れ落ち、空気中へと霧散していった。

 

「……ふう」

 

 腰を下ろし、息をつく。ガトリングは熱を帯び、白煙を上げていた。

 完全にオーバーヒートだ。しばらくは使えそうにない。

 

 ……まったく、負荷が大きすぎる。

 

 使いづらさに溜息が漏れる。そもそもこの砲、私がこの形態で扱うための設計じゃないんだろう。

 それでも、使わざるを得ない場面がある。それが今だった。

 

「あ、あのお姉ちゃん……」

 

 怯えたように、それでも勇気を出して話しかけてきたのは、さっきの女の子だった。

 

 ──やめてくれ。私は、そんな人間じゃない。

 

 言いかけたとき、彼女の方へ顔を向けた、その瞬間──

 

「……ちゃん!!」

 

 一人の女性が、声を張り上げて飛び込んできた。

 おそらく、彼女の母親だろう。

 

 彼女の視線が、私に向けられる。

 目が合った瞬間、彼女は息を呑んだ。見開いた目が私に向けられ、怯えを映していた。

 ノイズの死骸はもう消えている。

 残っているのは、紫色の異形の装甲と、煙を上げるガトリング砲。

 ──状況だけを見れば、私こそが“脅威”だ。

 

 

「ば、バケモノ……!!」

 

 言葉は想定の範囲内だった。

 

「待って、お母さん! お姉ちゃんは──」

 

 少女が慌てて口を挟むが、母親は聞く耳を持たない。

 

 ──構わない。

 

 慣れている。そう、これが人の反応だ。

 

 感謝が欲しくて戦っているわけじゃない。

 ノイズを狩る。それだけが私を支えている。いや、それしか残っていない。

 

 そもそも、私自身ですら「私は化け物ではない」と言い切れないのだから。

 

 ノイズが消えた今、あの母親から見たこの状況は、訳の分からない化け物に、娘が襲われていて、母親は必死に娘を守ろうとしている。

 それだけだ。

 私は、二人に背を向ける。

 この場に私の居場所はない。余計な混乱を避けるためにも、今は立ち去るべきだ。

 

 「っ!!」

 

 風が、音を変えた。

 何かが、こちらに向かってくる──

 

 

「……!?」

 

 気づいたときには遅かった。

 まだ残っていたノイズが、突如として飛び出してくる。

 

 母親と娘に一直線──

 

 ──間に合わない。

 

 そう思った、その瞬間。

 

  剣が、空を裂き、ノイズを断ち割った。

 青い残光を引いて、風を切るように──鋭く、美しく。

その姿に、一瞬、私は言葉を失った。

 

「立花、戦場(いくさば)で、気を抜くな」

 

 そう言って現れたのは、風鳴翼……その人だった。

 

 

 *

 

剣がノイズを断ち割ると、灰のような粒子がふわりと舞い上がり、空へと消えていった。

風が吹き抜け、その残滓をさらっていく。

 

「立花、戦場(いくさば)で気を抜くな」

 

その声に、響は顔を上げた。

そこにいたのは風鳴翼。颯爽と──まるで、最初からこの場のすべてを見通していたかのようだった。

 

彼女は剣を静かに納めると、響に近づくことなく、数メートル先で足を止めた。

 

「……ありがとうございます」

 

響は素直に礼を言った。

もし翼が一瞬でも遅れていれば、あの親子は命を落としていた。

それだけは、否定のしようがない。

 

すでに二課の職員たちが到着し、親子は安全な場所へと避難している。

 

「立花──どうか、戻ってきてくれ。

 小日向の元へ。彼女も、それを望んでいる」

 

「……未来、ですか」

 

響は目を伏せ、言葉を濁す。

 

自分が捨てたものに、後悔はなかった。

あの日、自分は“化け物”になった。

人としての過去は、もう必要ない。そう決めた。

 

けれど──

 

消したはずの後悔が、いま、この場所に彼女を縛りつけている。

きっと、戻れば温かいのだろう。

あの陽だまりは、きっと心地よい。

 

……だが、それでも。

 

「無理です。私には……戻る場所なんて、もうありません」

 

響は顔を上げた。少しだけ、挑むように。

 

「翼さん。今の私がどう見えますか?

 人からどう見られて、そして私が自分をどう思っているか……想像できますか?」

 

そこで一度、言葉を切る。

まるで、これから吐き出す言葉に、わずかな恐怖を覚えているかのように。

 

「化け物ですよ、私は。

 もう人間じゃない。立花響は……死んだんです。

 ここにいるのは、その皮を被った、ただの化け物です」

 

──静寂が訪れる。

 

風が吹き抜ける。

灰も、痛みも、その風がすべてをさらっていくようだった。

 

それでも、翼はほんの少しだけ眉を動かした。

 

「……そうか」

 

静かに、けれど確かにそう言って、翼は一歩、前へ踏み出した。

 

「なら……私は、その“化け物”に助けられたことになるな」

 

響の瞳がわずかに揺れる。

 

「命を救った。それだけの力を使って。

 だから、私はそれを誇りに思う」

 

 翼の声に、怒りも哀れみもなかった。

 ただ、事実を告げるように静かで、それがかえって響の心に波紋を広げていく。

 

「だからな、立花──

 私はお前を、無理矢理にでも小日向の元へ連れて帰る」

 

 響は視線を逸らし、ため息をつく。

 先ほど使ったバイクは、まだオーバーヒート中で動かない。

 手元のゴチゾウを探っても、キャンディタイプはすでに使い切っていた。

 

「……はあ」

 

 大きく、重いため息。

 

 ベルトから取り出したゴチゾウたちを、未だ煙を上げているバイクに向けて放る。

 

「フーフー!!」

 

 ゴチゾウたちはがむしゃらに息を吹きかけ、冷却を試みる。

 

「申し訳ありませんが……私は戻るつもりはありません」

 

 そして、ゆっくりと翼に向き直る。

 

「まあ、逃げるのも難しそうなんで──」

 

〈Snack!〉

 

「……力づくで、押し通らせてもらいます」

 

 *

 

〈ザクザクチップス! ザックザク~!!〉

 

 電子音が響き渡ると同時に、立花響の姿が変化する。

 先ほどまでの異形の紫の装甲ではない。

 今の彼女の姿は──まるで“ジャガイモの鎧武者”。

 

 金属光沢のある装甲は、どこかカリカリとした質感を思わせ、装飾はスナック菓子を模したユニークな意匠。

 その手に握られた二振りの日本刀も、刃の縁にポテトチップのようなギザギザが施されている。

 

「……姿が変わった!?」

 

 翼が驚きの声を漏らす。

 

 その声を聞いても、響はどこか余裕を見せるように両手の剣を軽く振るった。

 その動きは重厚さとは裏腹にしなやかで、研ぎ澄まされた武人のそれだった。

 

「それじゃあ──始めましょうか?」

 

 淡く笑みを浮かべ、響が剣先を構える。

 

 風が吹き抜け、砂埃が舞う。

 次の瞬間には、刃が火花を散らす。

 

「シィッ!!」

 

 響の一撃が、風鳴翼の剣と激しく交差する。

 

 ――パキンッ。

 

 鋭い音が響いた次の瞬間、翼の《アメノハバキリ》が真っ二つに断ち割られた。

 

「なっ……!?」

 

 翼の目が大きく見開かれる。

 動揺しつつも、翼は冷静に距離を取る。

 聖遺物――たとえ欠片とはいえ、そう簡単に折れるはずのない武器。

 それが、まるで玩具のように、あっさりと叩き折られた。

 

 距離を取る翼は、冷静に戦況を見極めようと努める。

 

(あの剣……ただの悪ふざけじゃない。

 あの“スナック”めいた刃が、ここまでの切れ味を持っているとは……)

 

 真正面からでは分が悪い。

 

 だが――

 

 

「だが、その程度で、我が護国の剣は破れはしない。」

 

 正直に、真正面から剣と剣をぶつけ合うだけが、剣と剣の戦いでは無い。

 再び手に剣を生み出し、響の振るう剣に向かい合う。

 響の再突進に合わせて、構えを切り替える。

 

 そして――受けない。

 

 真っ向からぶつかるのではなく、剣筋を“いなす”。

 

 滑らかに、水のように、柔らかく。

 響の振るう剣の一振りを、上空へと弾き飛ばす。

 

 

「チッ!」

 

 舌打ちと共に、響はバックステップ。

 そして、着地した瞬間、間髪入れずに再び跳びかかる。

 

「来るか、立花!」

 

 翼はまたも受け流す構えを取る。

 そこへ響は再び、剣を叩きつけ……

 

パキリ

 

 割れた。

 響の持つ、剣が。

 真正面から、まるでスナック菓子の様に、アッサリと。

 

「これは……」

 

 

 

 驚く翼の前で、響は一切表情を崩さない。

 まるでこれが計算通りだとでも言うかのように、柄をしっかりと握ったまま。

 

 (まさか……!)

 

 剣の柄が、翼の防御の隙を潜り抜ける――。

 

 ――刃が、生まれる。

 

 音を立てて膨らむように、砕けた剣が再生する。

 それは鋼ではなく、意思すら宿しているかのような、異質な成長。

 

 生まれたばかりの刃が、翼の鎧を裂いた。

 

 

 

「ぐっ……!」

 

 火花と共に吹き飛ぶ破片。

 翼は後方へとよろけ、背を壁に預けた。

 

 そこへ、先ほど吹き飛ばされたもう一振りの柄が落ちてくる。

 タイミングを見計らったかのように、響は壁を蹴りつけ、その柄を足と壁に挟み込む。

 

 刹那――刃が、伸びる。

 

 再び生成されたその剣の先は、もはや狙うべき一点を見失ってはいなかった。

 

 翼の身体。

 

「ぐあああああっ!!」

 

 刃が貫いた。

 真っ直ぐに。容赦なく。

 壁が震え、火花が散り、赤く染まった空気が、ふたりの間に熱を孕む。

 

 互いの間に、広がる距離。

 

 燃え残る煙と焦げた空気の中で、立花響と風鳴翼が向かい合った。

 

「ならばっ!」

 

 翼が叫ぶと同時に、宙へと飛び上がる。

 その手には、再構築された巨大な剣。

 空中で体をひねり、剣に向かって蹴りを叩き込むことで加速する。風を切り裂く音が、衝突の予兆を告げていた。

 

 だが――

 

 響は避けなかった。

 

 真正面から、翼の突進を迎え撃つ構えを取る。

 

 ぐっと腰を落とし、両手でベルトのレバーを回す。

 

〈チャージミー! チャージミー! チャージミー!〉

 

 ベルトが喚くように連続で鳴動する。

 視線は逸らさず、ただ前を見据える。

 翼の一撃は重い。それを承知で、なお立ち向かおうとしていた。

 

 この距離、この動き――避ければ背を晒す。

 ならば、潰す。力と力の正面衝突。これで、終わらせる。

 

 響は、ベルトの横にあるボタンを押し込んだ。

 

 ――刹那。

 

 両手にあった剣が音もなく砕け、細かい破片となって空中に舞い上がる。

 そのひとつひとつが、まるで生き物のように方向を定め、翼を狙う。

 

〈ザクザクチップス! フィニッーシュ!〉

 

 叫びと共に、破片が一斉に発射される。

 無数の小剣が、鋭く、正確に、爆風すら纏って突撃する翼の剣と体を貫かんと襲いかかる。

 

 空気が震え、世界が一瞬、音を失った。

 

 そして二つの技が接触を―

 

「おりゃあッ!!」

「なぁ!」

「ッ!?」

 

 弦十郎の右の裏拳が翼の巨大な剣を吹き飛ばす、そして力強く地面を踏み締めて隆起させ、響の放った破片を受け止める。

 響はいきなり現れた謎の男が生身で自身の技を受け止めたと言う事象に、目を白黒させて困惑している。

 

「あーあこんなにしちまって……何やってんだお前たちは……」

 

 力を入れて踏み込んだ代償なのか地面が陥没して靴が破けている。

 

 地面陥没の影響で下水が噴き出す。そして自分の破れた靴を見ながら、

 

「この靴高かったんだぞぉ…いったい何本の映画を借りられると思ってんだ…」

 

 そう呟いた。

 

「なんなんですか……貴方」

 

 攻撃を止めたことへの警戒よりも、理解が追いつかない。

 力も、気配も、圧倒的。だが――何より、目の前の男には“怖さ”より“謎”が勝っていた。

 

「ッ!?」

 

 短い驚きの息とともに、機械が機動する音が辺りに響いた。

 ――ガチャリ。

 ガトリング砲の本体が形を変え、オフロードバイクへと収束していく。

 排熱が終わったのだ。もう走れる。

 

 響は、何も言わない。

 ただバイクのもとへ歩み寄ると、黙ってシートに跨がる。

 背を向けたまま、心も言葉も遠ざけるように。

 

(もう……ここには、いられない)

 

 戦いは終わった。けれど、心の痛みは収まらない。

 これ以上、ここにいたら――壊れてしまう。

 

「響君」

 

 その背に、静かな呼び声がかかる。

 

 弦十郎だった。

 

「……なんですか?」

 

 ヘルメット越しの声は硬く、冷えていた。だが、完全に拒絶する響きではない。

 

 弦十郎は、その背にそっと言葉を投げかける。

 

「君が助けた子の母親はな……

 事情を知って、君に、心から感謝していたよ」

 

 その言葉を、響はただ静かに受け止める。

 

「……そうですか。」

 

 それきり何も言わず、彼女はエンジンを吹かす。

 背を向けたまま――振り返ることすらせず、音もなく去っていった。

 夕焼けの中、土煙を上げながら、彼女の影だけが遠ざかっていく。

 

 その姿を見送りながら、翼が弦十郎のもとへと歩み寄る。

 悔しさと申し訳なさの混ざった表情を、隠そうともしなかった。

 

「叔父様……すみません、私……」

 

 だが、弦十郎は優しく首を横に振る。

 そして静かに、しかし確かな意志を持った声で言う。

 

「良いんだ、翼。

 

 無理に引き戻すことは、誰にもできない。

 ……俺はただ、彼女に“自分の意志”で戻ってきてほしいと思っている。

 

 戦うためじゃない。

 ――心のままに、生きてくれれば、それでいい」

 




早くクリスちゃんを出したい
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