アリウスに生まれたとある少女   作:ネコミミの小屋

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二回目の接触の時が来た。
今度は予想した通りの子が来たけど……
その時にもらった一枚の紙が、また運命を動かした。


とある少女と、命令……

以前、姫さまと接触したのとおんなじ廃墟。

同じように人の気配がなく物音ひとつさえしない環境の中で……

 

「あぁ〜……美味しいですねぇ……嬉しいですねぇ……ハムハム」

 

接触しに来た子が、すっごく蕩けた笑顔でケーキを頬張っていた。

 

「その〜……ヒヨリ(・・・)さん……口周りに色々、ついちゃってるけど……」

 

「え?……そうなんですか?自分じゃ見えませんね、そういうの……」

 

アリウスからの接触のはずなのに、それを思わせられないくらいに平和な時間が過ぎる。

なんでこうなったのかは……すこし、時間を戻してお話しないといけないね。

 

 

---

 

 

それは、昨日寝る前にアズサさんが、

 

「明日はまた接触の人員が来る……場所は互いに同じ場所へ向かうこと、だって」

 

と、さりげなく伝えたことがきっかけだった。

 

「ん、そうなの……今回も、同じ人員がくるの?」

 

「……どうだろう?私の方はサオリが来ると思うけど……正直そっちは予想が……」

 

「……まぁ、だよね」

 

ボクの方には、いきなり姫さまがやってきた。

それをアズサさんに伝えたら、それはもうとんでもなく驚いた様子だった。

多分、隣にいるのがアズサさんじゃなくてもこうなると思うし、それはいいとして。

 

そういうことで、また姫さまが来るかもしれないと思うと用意するものも悩んじゃう。

本来はアリウスから離れて活動するなんて、“マダム”が許可するとも思えない人だから。

でも一回、しかも最初に来たならそんな考えしない方がいいのかもしれない。

接触もまだまだ回数を重ねていないけど、これからもあるだろうし。

 

「う〜ん……何を用意すればいいんだろう……」

 

「……前に用意した物資はしっかり送り届けられた様子みたいだし、同じものでもいいんじゃないのか?」

 

「それはもっともなんだけど」

 

せっかくだから、一緒に何かを食べてその喜びを分かち合いたいというのはダメなのかなぁ……

それも立派な情報共有だと思うんだけど……アズサさんにとっては違うのかも?

ともあれ、その時は慎重に考えておくよ、と話を終わらせてどうするか考えるのに集中してた。

 

でも結局ふつうにものを集めることに決まってさっきまで悩んでたのが変に思っちゃって。

なんとももやもやした心持ちのまま接触場所に向かって……

 

その時に前とおんなじケーキ屋さん通りかかって、何にも考えずに買っちゃったの。

 

しかも二つも。

もし姫さまが来ちゃったらどうしようかなとか思いつつも手は動いてたから困ったよね。

一緒に食べたい欲の方が勝っちゃって……気がついたらもうね。

しょうがないじゃん、だっておいしいんだもの。

 

で、やっちゃったことはしょうがない、もし食べてくれなかったらアズサさんにあげようと考えながら現場に着いたら、そこにいたのはヒヨリさん。

 

「あぁ〜!リエルさーん!待ってましたぁ!

さっそくですが、まず私のぶたれちゃった頬を癒やしてください!」

 

「こんばんわ、ヒヨリさん。まず、静かにしようね……怪しまれちゃうから」

 

ボクが知ってるいつもの様子で、ヒヨリさんが腰掛けて待ってた。

普段通り、体にできた小さめの怪我でもすぐに頼ってきちゃうのが困ったところ。

いや、頼ってくれるのはいいんだけど……他の子と比べると、あまりにも気軽なんだよね。

 

 

---

 

槌永ヒヨリさん、アリウススクワッドの狙撃手。

突然「うわぁん!」と叫んだり、何かと思えば美味しいもの食べたからだったり……

やたらと後ろ向きなことをいっぱい言ってると思ったら、やってることは前向きだったり……

ちょっと不安定なタイプの子で、ボクもたまに叫び声を聞いてびっくりしちゃうの……

 

でも、結構したたかな子で、この前“マダム”の目を盗んでアリウスの外の雑誌?って本を手に入れてた。

……ボクはあんまり見たことないけどどんなのが中にあるんだろうね。

 

今日の怪我は平手打ちにやられちゃったんだって。

普通に放っておいてもすぐ治ると思うけど、すぐ治しちゃうのがボクなあたり……ボクってあまい子なのかなぁ……?

 

それで、処置したらすぐにケーキ入りの箱に興味を示して。

中身がお菓子だよって伝えたらすぐに「欲しいですぅ〜!」って言って……

情報共有そっちのけでケーキ食べ始めたのが、今なんだよね。

これ、サオリさんに見つかったらとんでもないことになっちゃいそうだ。

 

「美味しいです〜……こんなの、アリウスでは食べられませんよ〜……」

 

うーん、夢中になってもきゅもきゅ食べて……ああ、口周りが大変なことに。

ヒヨリさんのことだから自分でペロペロ舐めてどーにかするんだろうけど……

ひとかけらでも残ってたら他の子たちにすごい勢いで詰められそうだよね。

 

「えーと、そのケーキね?みんなの分も用意したかったんだけど……

ボクひとりじゃやっぱり多くは用意できなかったから、今ヒヨリさんが食べてるのと、ボクが食べるのとで全部なの……」

 

それ対策に、あえて言葉にし教える。

それを聞いたヒヨリさんは、紙のお皿の上にフォークをぽろっと落として……

 

「へ……?そ、それって……もしかして、私だけがこれを……」

 

「そ、そうだね」

 

「そ、そんなのリーダーや他のみんなに知られたら……きっと吊し上げられて……たたきのめされて……みんなの前で、最後には……うわぁぁぁあぁぁん!!もうおしまいですぅ!」

 

……うん、ヒヨリさんらしい反応だなぁ、って逆に安心しちゃう自分がいる。

別にいじめたいとかそんな邪な気持ちはないけど、いつも通り爆発している姿を見るとね?

ああ、これがヒヨリさんだ〜って思っちゃう。

 

「こ、これが最後の晩餐……こうなったら食べられるだけ食べちゃいますぅ!」

 

そしてこの子はまた、意外と図太い。

後ろ向きなのにバイタリティに溢れているというか、楽しめる時は楽しもうとするような……

きっとアリウスの外でもイキイキとやっていけるんじゃないかなぁと思えるような、しぶとくカッチカチなメンタルな子。

……その上で使えるものを使うし、貰えるものはもらうのが目立ってる。

 

「そう言わずに……お口拭けば大丈夫だから、ね?」

 

「むぇぇ〜……あ、そうです。お菓子が美味しすぎて忘れかけました」

 

空になったお皿をその辺に置き、リュックサックをガサゴソと漁ってる。

あのおっきい、中身ぱんぱんの荷物を常日頃持ち歩くの疲れないのかなぁ。

持ってる銃も随分と重いだろうし……そう考えると力持ち?

 

ええっと、中から出したのは……折り畳まれた封筒……?

あれをアリウスの中で使えるのは……うっ……

 

「それ……“マダム”から……?」

 

「はい……お二方宛ですので、アズサちゃんとお二人でご確認を……

あ、私は中身を確認してませんので……それでは、ケーキごちそうさま……」

 

「えっ、もう行っちゃうの……?」

 

「今日はリーダーが待ってますので……」

 

えーと、お口周りまだ拭いてな……あー、いっちゃったぁ〜……

あのままの姿で帰ったら大変なことに……あ、でもサオリさんが待ってるのならそっちでどうにかしてくれる、かも。

それにしても……“マダム”から、かぁ……なんでか、嫌な予感がする……

一体どんな命令が下るのか……でも、一旦戻ってから。だよね。

 

 

---

 

 

「はぁ〜…………」

 

戻ってきて、何回ため息をついちゃったのか数えてないくらい出たと思う。

机の上に置いた封筒……これの中身が、なんだか怖くって……

 

そんな考え事してたら、後ろから扉の開く音。

アズサさんがお部屋に戻ってきたみたい。

 

「帰ったぞ……って、どうしたんだ?そんなに悩んだような姿で……」

 

「あ、おかえり……ちょ、ちょっとね……」

 

多分今のボクはすっごく気分が落ちてしまってるからそれが後ろ姿からわかっちゃうんだろうなぁ……

みんなからはボクの考えてること時折わかんないって話だけど……そう思わないよ……

落ち込んでる時とか絶対わかりやすいと思うし……大怪我してる時とか、とっても慌ててるし。

 

「……それは……なるほど、“マダム”からか」

 

「うん。……新しい命令が、書かれてる」

 

「中身は見たのか?」

 

「見てない……アズサさんが戻るまで待ってようと思ってたから」

 

……本音を言うと、見るのが怖いから……

アズサさんが一緒にいてくれなかったら絶対見ようとも思わなかったから。

そんな言葉を飲み込んで、最初の理由だけを教える。

 

「わかった。それじゃあ出して一緒に読もう」

 

「うん……」

 

それでも、いつまでも手をあぐねてるわけにもいかない……

アリウスにとって“マダム”は絶対、逆らうなんて思う子はいないから……

 

……少し震えてる指をどうにか押さえて、封筒を開ける。

中身は……紙が一枚だけ……うん、間違いなく……命令書だ……

 

なになに……

 

 

『潜入して短くない時間が経ち、潜入用の経路や内部構造などの情報が集まったと判断。

作戦を次段階へ移行。

2日前、内部の協力者より”百合園 セイア“を襲撃して懲らしめてほしい、との依頼を受けた。我々はこの要請を受け入れ襲撃を決行する。

任務担当は潜入中の二名とする。

本指令、協力者の要請による襲撃時に』──────………!?!?

 

 

そんな。

これは。

なんで。

どうして。

 

 

目を通して、全身に電気を流されたみたいな衝撃が走ってきて、体が固まる。

はぁ、はぁ……と、荒く激しい息遣いが自分の呼吸の音だと気付くのに時間がかかった。

体から熱が一斉に引いて、頬を伝う汗の感覚がやたらと強く感じてくる。

自分の足元が、ぐらぐらゆれる。まるで地震のよう。

 

その紙に。

命令されてたのは。

 

 

『“百合園 セイア”のヘイローを破壊せよ』

 

 

”暗殺指令“……トリニティ総合学園のティーパーティーホストを。

ボクたちで、殺せ……って……

 

「これは……まさか、こんなに早いとは……予想してなかった……」

 

アズサさんの声が、遠い。

隣にいるはずなのに、まるで何を言っているのかわからない。

まるで、自分以外の音をなくしてしまったようで。

 

 

「……だ……」

 

「?……リエル……?」

 

ボクは、今、何をしているのかあまりわからないまま、心の衝動に身を任せてる。

 

 

「……ゃだ……」

 

「ど、どうしたの……?り、リエル……??」

 

だって、こんなの、こんなこと……!!!

 

 

「やだ……やだ、やだっ、やだぁ!!いやだっ、こんなのっ、いやぁっ!!!」

 

「!?……リエル!落ち着いて!…声を抑えて!」

 

こんなの、受け入れられない。

たとえ、”マダム“からのご命令だったとしても、ボクにこんなことできない。

やりたくない、したくない、こんなの…………!!!!

 

「私を、私を見てっ!!……どうか、落ち着いて!!……リエル!!!」

 

「いやだぁっ……いやだよぅ………なんでぇっ!!!」

 

 

ぽろ、ぽろと自分の目から、何かがこぼれ落ちる。

それがなんなのか、まるでわからないけど……

 

ボクは、こんな気持ちになるのも、させるのも……嫌だから………

 

 

---

 

 

「ふぅっ……ふぅーっ……う、うぅぅっ………ふぐっ、ひぐぅ……」

 

……どうにか考えることができるようになってきたけど、全く落ち着かない……

あれだけ柔らかく、気持ちよかったベッドの上にいても、そんな感覚を感じられない。

まるで頭の中が叩き割られたようにぐちゃぐちゃになって、もうめちゃくちゃで。

頭の上から被った布団のもふもふだって、今は邪魔にも感じちゃいそう。

 

 

……いったいなんで……?

どうしてこんなことをさせようとしてるの……?

ボクも、アズサさんも……そんなことやりたくても、できるわけがないのに……

戦う術も自分の身を守るためって、言ってたのに……あれは、嘘だったの?

 

もう、わかんない……

”マダム“のことも、自分のことも、みんなのことも……なにも……

やっとのことで手に入れたものを、捨ててしまうような気持ちが心を支配していく……

残ったものは……虚しさ……だけなの……?

 

 

やっぱり、全部。全部は、虚しいだけなのかな……

 

 

「リエル……指、怪我してる……手を離して……」

 

「へ……あ、いたっ……」

 

 

そのアズサさんの声で、自分の指の痛さにやっと気がつけた。

……無意識に力を入れすぎて、爪が食い込んじゃったみたい……手のひらの上に、真っ赤な液体が流れ出てる。

 

……自分の血なんて見たの、いつ以来だったかなぁ……

そんなことを思いつつ、億劫な気分のまま、ボクの”ちから“を使う。

流れた血は残るけど、指の怪我はきれいさっぱり──

 

 

「り、リエル……い、今のは……?」

 

「ん……あ。そういえば、アズサさんは医務室あんまり使わないから、見たこと無かったっけ……」

 

今になって思い出した。

アズサさんはセルフケアが上手いし、あんまり使わないしで……

そういえば、ボクの”ちから“を使って癒してあげたことは、なかったね。

 

 

「……これだ」

 

 

でも、それを見たアズサさんは。

まるで、何かを決断したようなかおをして。

ボクの手を取った。

 

 

「……リエル。……命令を遂行しつつ、“マダム”の目を誤魔化して、百合園セイアを殺さずに済む……私たちふたりなら、できるかもしれない」

 

「………ふえっ??」

 

 

その自信と、確信に満ちた輝く瞳をしたアズサさんを。

ボクは困惑の瞳で、じーっと見つめるしか無かった。




【槌永ヒヨリ】
アリウススクワッド所属の狙撃手。
何かと騒がしくネガティブな発言が目立ち、外見も物憂げな印象を持つ少女。
しかしその内面は欲しがりさん、甘えたがり、図々しいと印象とはまるで正反対のバイタリティしかない少女である。

かなり体の肉つきがよく、アリウスの環境でなぜか太りがちな体格になってる。
どうしてあの環境であんな恵まれた体型になれるかは永遠に謎。
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