アリウスに生まれたとある少女   作:ネコミミの小屋

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リエルがトリニティに潜伏している間。
アリウスの自治区内では戦力化の訓練は絶えず続けられていた。
そんな中、一際異彩を放つ、一人の少女がいた……


0.5章 四馬の結成
白と黒の少女、邂逅


アリウス自治区。

リエルが一時的にこの地から離れることになった後も、その過酷な訓練に終わりはない。

しかし、この頃は……

 

「そこっ、少し遅れているぞ!射撃準備を怠るな!」

 

「了解です」

「はーい」

 

訓練の間も身が入らず、どこか空気が緩んでいる。

教官を担当する者もそれを肌で感じながらも、その空気に自分も若干呑まれつつあるが故に、強く他のものへ声を上げることもしなかった。

そんな状況でもリロードは正確で、射撃も精度が高く保たれている等、練度の高さを窺える成果を出すものだから、何もいえない。

これも日々の積み重ね。これくらいしかやることがないのだから自ずと伸びていく。

 

 

なので今日も今日とて、緩く……どこか満たされない日々が続くと思っていたその時。

 

 

「あはははははははははっ!!!それそれぇぇぇ〜〜!!!

どかんどかんだぁぁぁぁぁ!!!あっはははははははははははっっっ!!!」

 

 

響く、幼子のような高笑い。

その直後に連続して発生するドカン、ドカンと鳴り響く爆発音。

この場の雰囲気など知らないと言わんばかりの騒音の嵐があたりを埋め尽くす。

 

 

「うっ……!?」

「……えっ、この声って……白いの(・・・)??」

「え、あの子が出てるの??」

 

 

最初は困惑ばかりしていたアリウスの生徒たちも、その正体を悟った時には納得しかなかった。

なにせ、その少女がいる時はいっつも騒音が鳴っているものだから、慣れてしまったのである。

 

「……あの子って誰だっけ?」

「ちょ、覗くの危ない!!」

「まてまてまて」

 

ただ、ド忘れするものというのはいるもので。

あの子が誰なのか正体を覗こうと好奇心を見せた一人がその音の方をチラリと覗き込む。

そしてそれと同時に……

 

 

「えいえいえいえいっっ!!!まとめてとんじゃえぇぇぇぇーーーー!!!」

 

「あっ、うおわぁ〜!!」

 

 

連鎖する破裂音と共に消し飛ぶターゲット。

一箇所を何度も何度も叩きのめしたような、破壊的な爆発。

その余波の風圧をもろに喰らって覗き込んだ子は大きく怯んだ。

 

そこには、他の生徒たちと比べても一際小柄な、かわいらしいと言える小さい白髪の少女がいた。

その両手に重装のグレネードランチャーを装備し、一心不乱に乱射しまくる。

先にある的を木っ端微塵にしても、なお続く猛攻に側で見ていた教官役が動いた。

 

 

「そこまで。訓練は終わりだぞ……相変わらずデタラメな戦い方だ……」

 

「えぇぇぇぇ!!?やだやだぁ!!もっと遊びたいぃぃーーー!!!」

 

「ダメだダメだ!他の者の訓練がつかえているんだ。わがまま言うんじゃないぞ」

 

「むぅぅぅぅ〜〜〜〜………!!」

 

 

どかんどかん、と盛大に破裂をばら撒いた少女にストップをかける教官。

衝撃を受けこてんと倒れた覗きの子に目もくれず、今日は終わりと言われた白い少女はむくれ顔。

 

 

「やだ」

 

「だめだと言っている」

 

「やだやだぁ!!だってまだちょっとしかやってないもんっっっ!!」

 

「そのちょっとでもうマトが壊滅状態だ……点数はつけるから、もうやめてくれ」

 

「そんなぁぁ……やっとひさしぶりにいいよっていわれたのにぃぃ!!

こんなのものたりないよぉぉ〜……」

 

「限度があるんだ……わかってくれないか……」

 

 

アリウスという環境にも関わらず、駄々っ子が如くごねる白い髪の少女。

こうなってしまってはずーっとこの調子なのだから、聞く側もたじろぐしかない。

 

本来はこんな状況はありえないものである。

アリウスの教育……というより訓練は相応に厳しく、何より感情面に厳しい。

ごねたり少しでも口答えしようものなら、折檻ものだし、

何度もこの調子なら、矯正訓練送りにされ強烈な精神教育を施される。

 

徹底的従順を強制……それを繰り返し従順な兵士を作る。

これが、“マダム”が行ったアリウスへの“教育”。

拒否も、逃走も環境が許さず。ただ受け入れるしかない……

 

 

のだが。

この白髪の少女にはその手の教育が、全く効果がなかった。

 

 

なにせ精神的に幼すぎて、教育を理解しない。

何度も何度も矯正訓練送りににしても、翌日にはけろっとした様子で戦線復帰しているし、元気が有り余っているのか、強めのものをやってもまるでなんともない。

なんならアリウスの教育基本である言葉……

『vanitas vanitatum et omnia vanitas』も全く言えない始末。

こればっかりは言えたほうがいいと教官が一日付きっきりで詰めこんでも……

 

 

「ばにたすはにたーたむ???えとあにあばにたす???」

 

 

それっぽい言葉を言わせるのが限界だった。

しかも明日になったらさらに言葉が変な方向に変わって原型なかったし。

多分その教えの意味なんてまるでわかっちゃいない。

 

 

と、頭脳面では凄惨だが。

それでは訓練の方はというと、それはもう想像に絶する有様であった。

戦い方、ペース配分、周囲の協調性……その全てがめちゃくちゃで、手の施しようがない。

 

両手にグレネードランチャーを持ち、連射連射、また連射。

指をどう動かせばそうなるの?と疑問を持ってしまいそうな恐ろしい乱打。

時にブン回し、時に体当たりと気まぐれに奇行に走る姿はまるで予測不可能。

体力配分なんてものも頭になく、体力がなくなるまで暴れ散らしてしまう。

 

しかもこれでマシになった方で、過去模擬演習時は敵も味方も関係なく。

無差別に、目についたものを片っ端から破壊して回るじゃじゃ馬っぷり。

その上自分が爆発に巻き込まれようが、お構いなし……

 

 

無邪気に、それでいて凶暴なその少女は出る杭そのもの。

しかし打とうものなら爆発する……

厳格な教官たちもどうすんだこれ、と頭を抱え悩むのも仕方のないくらい、白の少女は制御不能だった。

 

 

唯一、ある部屋(いむしつ)に放り込めばそんな様子が嘘のように静かになるのだが。

あいにく部屋の主人はここにはいない。

なので最近は白の少女をどうするべきかと悩む時間が教官側に増えていたのであった。

 

 

「ぐぅぅ……」

 

そう言うわけで、今日の担当官も頭を悩ませざるを得ない。

以前無理矢理に彼女を止めようとした別の教官が、機嫌を損ね暴れ狂った白の少女に連鎖爆破され、いまだに再起不能にされているのをよく覚えている。

同じように止めたとしてもただの二の舞……しかし他のものの訓練だってまだ残っているのだし、このままにしておくのはまずいのだ。

 

 

「……そこの白いの、こっち見て。」

 

 

そうして、もう考えすぎて胃が痛くなっていた担当官の耳に聞こえた別の声。

あんな危険なやつに声をかけるなんて誰だ……と思い顔をあげて見えたものは、

白い少女とは、とことん対象的な黒い髪の少女であった。

 

 

「むぅぅ〜??なにぃ?だれだれぇぇぇ〜〜??

ヴィクのこと、白いのなんて呼んだのぉ?!

ヴィクはヴィクってなまえがあるのにぃぃ〜〜〜!!」

 

「落ち着く。……こっち。……自分の方みる。注目」

 

「……うんっ、みたよぉ??それでぇ……??」

 

 

白の少女はあまり機嫌を直さないまま黒の少女の方へ振り向く。

その視線の先にいた黒の少女もまた、どこかむくれた顔で白の少女を見つめる。

 

 

「……アレ、ルランじゃん」

「なんか、いつもより機嫌が悪そうだけどどうしたんだろう?」

「……いや、考えるまでも無く……」

 

 

「さっきの爆風で、配られたご飯がちょっと落ちた。

すぐ食べたけど、ちょっと不味くなってしまった。残念」

 

 

(((((だと思った〜……)))))

 

 

自分の大切なご飯時に水を差されて、心穏やかじゃない様子をふんだんに伝える。

しかし、そんな言葉で止まるような相手ではない。

 

 

「えぇぇぇ〜……そんなの、こんなところで食べようとしたのがわるくないのぉぉ??」

 

「そんなことない。暴れすぎて色々舞いあげたそっちがわるい。ばか」

 

「あーーーーっっっ!?!?いま、いまヴィクのことばかって言ったぁぁ!!?」

 

「いった。発言」

 

「むぅぅぅぅぅ〜〜〜〜〜〜!!!そんな言葉いう方がばかだもんっっ!!」

 

「自分の方がおりこうさん。そんなムキになって言い返されてもばかじゃないって思えない。失笑」

 

「またバカにしたぁぁ〜〜〜〜〜!!!!」

 

 

ああ言ってはこういう。

アリウスという環境にはまるで似つかわしくない子供らしい言葉の喧嘩。

もしここにリエルがいれば心のどこかでほっこりしつつも急いで止めに入ることだろう。

 

しかし、ここにいる生徒や教官達はリエルほど心穏やかにはいられなかった。

なにせ、目の前にいるのは問題児が二人、しかも片方はとても凶暴ときた。

迂闊に手を出すとどうなるか……そんな気持ちが巡って動けない。

 

 

「そんなのじゃ、だめだめ……出直す。再補」

 

「むむむむむぅぅぅぅ〜〜〜〜〜!!!

うるさいうるさいうるさーーーーい!!!おまえなんて、こうだぁぁぁぁ!!!」

 

「ん………」

 

 

叫んだ白の少女の方向からポンッ、という独特の発砲音が響く。

ハラハラしながら見守っていた少女達の予想通り、癇癪を起こした白い少女が、黒い少女へとグレネードランチャーを発射する。

誰かが止める前に、放たれたグレネードが爆発を起こし黒煙が黒の少女を包みこんだ。

 

 

「ふふーーーんだっっ!!ヴィクをばかにしちゃいけないんぞぉぉ〜〜!!」

 

 

「あらら〜……」

「これ大丈夫なの??……思いっきりやっちゃってるけど」

「いや、確か黒いのって……」

 

自分がやったことに悪びれもせず、白の少女はえっへんと胸を張ってしたり顔。

その行為でスッキリしたのか、先ほどまでの癇癪が嘘のように機嫌を良くした白の少女は、踵を返して、鼻歌を歌いながら訓練場を後にしようとする。

だが、その後ろから……

 

 

「……そんなもの?だとしたら自分には効かない。無効」

 

「ほえっ???」

 

 

まるで平然とした様子の黒の少女が、黒煙から現れる。

その手に巨大なシールドを構えて、どっしりと構えている。

 

 

「えぇぇぇ〜〜〜………!?ヴィクのばくはつで倒れなかったの初めて見たよぉぉぉぉ!?」

 

「自分の盾と身体、傷に強い……あんな程度の攻撃じゃ平気でへっちゃら。無傷」

 

「むむむぅぅぅ〜〜〜!!せっかくすっきりしたのにぃぃ!!もう一回だぁぁぁぁ〜〜〜〜〜!!!」

 

「ん、何度でも来る……結果は同じ。不毛」

 

 

自分のやってきたことが通じなかったのがかなり応えたようで、まるで特攻するかの如く再び攻撃を始める。

黒の少女はそれをものともせず、真正面から迎え撃つ構えである。

周りの生徒達を置き去りにしたまま、互いに自分の得意をぶつけ合った。

 

 

「あの〜……私らの訓練……」

「いやいや、アレの間に挟まれる??」

「むりー」

 

「……全員、一旦待機だ……もうどうにでもなってくれ……」

 

 

そんな様子を見続けた教官はもう遠い目で空を仰ぐしかなかった。

普段は熾烈な振る舞いをする者も、こうなっては形無しである。

普段は恐れを感じる相手に対して、此度ばかりは同情が止まらなかった。

 

 

---

 

 

その白と黒の少女達の激突(せいだいなじゃれつき)は数十分にも及んだ。

盛大に暴れ狂い、あちこちにグレネードが飛び火して周りがヒヤヒヤする、短く長い時間。

 

 

「は、はらららぁぁぁぁ〜〜〜〜…………ぐえぇ〜〜〜………」

 

 

自分の中にあった体力を全部使い切った白の少女が、潰れたかえるのような声を出しながらぽてっとその場に倒れ伏す。

少女の欠点として、体力配分がめちゃくちゃで無くなるまで暴れる……

それを無自覚ながら突き切った黒の少女の、我慢勝ちである。

 

 

「ゔぃ、ヴィク……くてくてぇぇぇ………ふきとばせないなんてぇ、くやしいよぉぉぉぉ……」

 

「ふふん。自分の勝ち。こんな成果なら、リエルにも………」

 

 

声高らかにガッツポーズを決めて、無表情ながらも嬉しさを醸し出す黒の少女。

しかし、その次の瞬間。

 

 

ギィルルルルルルルルルル…………………………

 

 

豪快に腹の虫が鳴った。

それを周囲に響かせた後、顔色ひとつ変わらないまま、その場にすとんと座り込んだ。

 

「………空腹………」

 

流石にこちらも消耗したのか、肉体が栄養を欲している。

……こう見えて、彼女は食が細めで一回の食事量はどちらかと言えば少なく済むのだが。

ちょっと時間が経てばこうして腹を鳴らす、いわゆる腹ペコというものであった。

 

 

「今のうちに二人とも回収して運んでくれ」

 

「「「了解」」」

 

 

先ほどまでの盛大な戦いをしていたと思えないほど、可愛らしい理由で行動不能になったのを見届けた教官は即座に周りの生徒達に二人の身柄を確保させる。

それぞれの背丈も小さく、それと同様に重さも相応であるから容易く担がれる。

しかし、また暴れられたら困るどころの騒ぎじゃないのでしっかりホールド。

特に白の少女はがっちりと。

 

 

「うへぇぇぇぇ、さらわれだぁぁぁ………」

 

「ごはんもってきて〜……空腹〜……」

 

 

なおそんな中でもお互い自分の調子を崩さない所がもう流石としか言いようがない。

教官は遠い目をしながら、連れて行かれる二人の少女を眺めて呟く。

 

 

「………マダムは、本当にあんな制御できない生徒らでチームを作るというのか……??」

 

 




【□□ ヴィク】
アリウス分校所属の生徒。
低身長で純粋無垢な、とてもアリウスの過酷な環境で育ったとは思えない性格の少女。
しかし裏返せば、無邪気故の残酷さがひどく見え隠れする、歪な存在。

誰かの近くでは、驚くほどにおとなしくなるらしいが……


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