今鎖に繋がれていた少女も、また恐ろしい危険を抱える素質を持つ。
たとえ本人が望まなくとも。
『それで、例の二人はその後どうなっているのです?』
アリウス分校の最奥。
その場に似つかわしくもない輝くステンドグラスの下で、赤い異形が口を紡ぐ。
「はっ。お言葉ながら……
アレからも手を焼き続けており、私から見ても大半のものがチームを組めぬと申しております」
段差の下に控え、報告をする教官。
眼前に見えるアリウスの”指導者“を前に、首を垂れて跪く。
その報告が情けないと思われ処罰を受けるのでは……と内心怯えながら。
『……他のものからも同じ報告が続いていますが、それほど手がつけられないのですか。
しかし、これからの計画を進めるために戦力として活用できるものはしなければならない。
……それはおまえもわかっていますね?』
「……無論です」
申し訳ない、そういう表情を浮かべながら……”マダム“の決定を仰ぐ。
その姿は白と黒の少女に対しての敗北宣言に他ならないが……
事実、もう自分達では打つ手がないとなれば、そうなるのも仕方のないことだった。
しかし、当の”マダム“の決定は……教官の想像を斜め上に超えた。
『では、これから”牢獄“に向かい……特別房に収監している者ら、2名を解放しなさい。
そのものらと例の二人を組ませ、新たな部隊とします』
「なっ……!?!?」
アリウスの特別房。
そこには過去の”内戦“においても相応の悪名を背負った”罪人“が入れられている。
しかも、その危険性は折り紙つき……場合によっては白と黒の少女以上の問題を作りかねない、文字通りの”爆弾“である。
「おっ、お待ちください!!!
奴らを解き放つなど……本気なのですか、”マダム“!?」
当然その危険性を把握している教官は、動揺して声を乱す。
相手が”マダム“だとしても、そう言わずにはいられない……そんな気持ちだ。
『他にいないのでしょう?ならば、たとえ毒になりうるものとて、使う他ないでしょう。……それとも、私に何か異論でも?』
「ッッ!!……いえ、あり、ません」
だが、アリウスにおいて"マダム"の言葉は絶対である。
その当人の決定に逆らうものは存在せず、また彼女にそれ以上口答えするにも他にいないという事実は決して覆らない。
となれば、従う他ない。
『わかったのならその通りに動くことです。
……報告は以上ですか?ならば、下がりなさい』
「……はっ。」
もう話がないなら下がっていい……
そうして報告を切り上げ、"マダム"はまるで関心をなくしたように報告者から視線を外す。
それを確認した教官は、複雑な心境のまま。
その部屋を後にした。
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特別房。
他の折檻用の檻と比べても隔絶されている場所に配置された一角。
アリウスの環境の中でもここ以上に監視の目がある場もそうないであろう。
だが、今からここに収監された危険なものらが、解き放たれようとしている。
「“マダム”……果たして、この指令を完遂させていいものか……」
彼女はアリウスの教官を担当するものとして、ある程度名のある生徒たちの能力は把握している。
有用な生徒らから、要注意な素質をもつものまで……
人の才能はそれぞれ異なる。それは当然のことではある。
しかし大きすぎる才能や異質すぎる素質は、時に爪弾きにされやすい。
特に、今から出す少女は……下手を打てばアリウスにさえ大打撃を与えかねない。
なお、そういう考え方をするなら昨日大きく暴れていた他2名も例外ではないのだが……
それに比べ、ここに入れられた二人は……
奥底が、見えない。
純粋すぎるほど素直な白と黒の少女とはまるで正反対。
それが、時折“マダム”以上に恐ろしいとさえ感じる。
今も独房前に向かう足が、鉛玉をつけられたように重たい。
だがそんな感情とは裏腹に、一人目の独房の前にあっさりとたどり着いてしまった。
「…………………」
中に入っているのは、燃えるような紅色の髪をサイドテールに揃えた少女。
備え付けのベッドに腰掛けて、何を思うのかわからない視線を壁の窓に向け続けている。
自分が放っていた足音も聞こえているだろうに、まるで気にも留めていない。
「……特別収監者、クレナ。」
「……ん……?ああ、これはこれは教官……あたしに何かご用事ですか?」
「“マダム”からのご命令だ。……貴様はこれからそこから出て、新規に作られる部隊に所属してもらう」
「……あたしを出す?本当ですか?」
「……“マダム”のご決定に従うだけだ」
紅の少女は、どこか冷めているような表情で視線を送り続ける。
教官の方を向いているような、それでいて何か別のものを見ているような。
……その視線に戦慄を覚える。
「……まぁ、ご命令ならば従います……それで、あたしは部隊で何を?」
「それは私から伝えることではない。まず全員顔合わせしてからだ」
「そうですか……ではそろそろ開けていただいても?」
「……あぁ」
互いに伝えることを伝えたと言いたげな感じを出す中、静かに鍵を開ける。
厳重な牢屋の扉があっけなく開く瞬間に、一体どれだけの想いが出ているのか。
それすら窺い知れない。静かな、変わらない鬱屈とした表情のまま檻を出る。
「ん……この中は暇でした」
「それが牢屋というものだ」
「それは、そうですね」
なんて事のないやりとり。
じゃらじゃらと、手の拘束を解き鎖が落ちる音がやたらと大きく感じるのは、きっと周りの音がないからなのだろう。
「では、装備を取りに行ってくるように。
……私はこれから
「了解しました」
役割は終わったと言わんばかりに命令を下し、紅の少女もそれに従う。
そして全て終わったとばかりに、それぞれ淡々と自分のやるべきことへ向かっていった。
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ところ変わって、ここは牢屋付近にある装備品の貯蔵室。
収監されていた者の装備をここにまとめて置いてあると言われ、紅の少女は自分の装備をとりにやってきたのだが……
「……ふんっ!!
今更、あたしなんかを引っ張り出して……何しようっていうのかしら?」
完全に一人となって以降、先ほどまでの態度がどこへいったのかと言いたくなるくらい悪態をついていた。
しかも部屋に入る前に周囲を確認し誰もいないことを分かった上でこれだ。
……先ほどまでの物腰を放り投げて、ツンツンとした本性を人知れず晒し出す。
「はぁ〜……あたしはずっと牢屋のなかでよかったのに。
そうすれば、この気持ちだってずっと抑えてられたのに……
出て良いなんて、“マダム”も残酷なこと言い出すわ……」
かつて、彼女は自分で自分を抑え続けていた。
自分から問題行動を起こし、
そうしないと自分が、メチャクチャなことをすると思っていたから。
だが結局、こうして再び表に出ることになってしまった。
心の奥底にあった未練、怨念、激情……紅の少女の中にあったぐちゃぐちゃの感情が、
どんどん溢れて止まらなくなる。
「このままじゃ、あたしはあちこちに八つ当たりしたくなっちゃうじゃない……
いろんなものを滅茶苦茶にしたくて、たまらなくなっちゃうじゃない……」
ぶつぶつと、自分の奥底を吐き出すように呟き続ける。
その表情を窺い知るものはこの場にはいない。
しかし、その言葉はどこか取ってつけたような感情のようにも感じ取られ……
本心とそれ以外が乱雑に混ざり合い溶け合っているような、チグハグさすらある。
それに、本人が気がついているかは。
誰も知ることはないだろうが。
「……そういや、あの子何してるのかしら……
牢屋に入ってから、顔も見る機会なかった……せっかくだし見てから行きたいわ……」
そんな呪詛紛いの独り言の中でぽろりと漏れる言葉が一つ。
沸々と盛り上がり、何が何だかわからなくなってる少女の“素面”とも言える部分が出た。
「……どうせ許可されないか」
だが、そんな部分もまた覆い隠されてしまう。
自分で押し殺すことに慣れすぎて、そんな部分さえも気がつけば底の方へ沈んでしまう。
でも、それでいいと思っている……本心かどうかは、また別だが。
「はいはい、結局は全部虚しいって話なのよね。
余計なこと考えず……自分に与えられた命令をこなすとしましょ」
まるで再確認するように、自分に言い聞かせるように呟きを終える。
全ては虚しい……彼女が口にしたその言葉も、表情からあまり信じているのかもわからない。
これから、自分を使って何をするのか。
なんの意図を持ってこんなことをしているのか……
「ふんっ……どうせ、碌なことじゃないんでしょうけど……せいぜい全部荒らしまわってやるわっ……」
知ったことじゃない。
やりたいようにやる。
……彼女は、そう自暴的な感情のまま、その場を後にしたが……
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「ねぇねぇ………いつまでこんな重たい服着なくちゃいけないのぉぉぉ〜??
ヴィク、重たくってしょうがないよぉぉぉ〜〜〜〜」
「むぐむぐむぐむぐ」
「なにこれ、地獄かなんか?」
早速自分の決意が揺らぎそうな場面に遭遇する。
チームメイトを紹介すると連れられた部屋にて、アリウスが誇る二大とんでも少女が並んでいる。
しかも懲罰用の重し入りの服を着せられているのが、もうやらかした後だというのをひしひしと伝えてくる。
しかし、そんな中でも黒の少女は何食わぬ顔で食料を食っているし、
白の少女はソワソワと貧乏ゆすりのような雰囲気で体を動かし、今にも暴れ出しそうな気配を見せている。
アリウス内で最強であるのは錠前サオリではあるものの、彼女の強さはある程度予測できるもの。
それに対して、目の前の二人は予測不能制御不可。
一度解き放てば後に残るものは何があるだろうと考えるレベルの暴走機関車である。
そんなものを見せられてチームメイトと言われても反応に困る。
教官が口にすれば話しは別だけど……
「なにって、貴様のチームメイトだが?」
「……はぁ〜……聞きたくなかったです」
そんな希望をすぐに打ち砕く教官の一言。
思わず素の自分を晒したくなった衝動に駆られつつ抑制していた最中……
「……それと、あまり猫を被るな。似合わんぞ」
「……あ、バレてますか」
「そりゃあ、貴様敬語苦手だろうしな」
追撃が如く、あけすけと語る教官。
敬語を無理やり放り出した彼女の話しはそれはもうぎこちなかったとは教官の内心のみの話である。
「……そう。じゃあ遠慮しないわ。それであたしにあんな暴走連中の手綱握るとか無理よ?」
「それは心配していない。誰だろうと無理だ」
「ぶっちゃけて言わないでくれる?これから誰が被害受けるとおもってんのよ?」
じゃあもういいやと言わんばかりに自分の素を放り出す紅の少女。
しかし、目の前の光景からは逃げられない……
このままじゃ会いたい子の元に辿り着く前にあたし死ぬんじゃ……とか嫌な妄想をしていたら、さらに教官は続けた。
「その辺りは、貴様の“ご同類”に押し付けるつもりだ」
「はぁ?…………まさか“アイツ”まで出すの?
“マダム”に尊敬も抱かない、教官のシゴキにもまるで興味なし……
もっと言えば、ここの大望でもある“復讐”さえ……どうでもいいとか思ってそうなやつなのに?」
「そんなやつだから、押し付けるにはぴったりだろうというのが“マダム”の思慮なのではないかと私は愚考するが?」
「………」
なるほど確かに……
このチームそのものを“懲罰”と考えれば、“アイツ”の苦労も納得だ。
白の少女も、黒の少女も……噂に聞いた”アイツ“のアレなら、できる限り抑えられるだろう。
当人らがどう反応するかもわからないが、少なくとも単純な戦いの腕前ならあっちが上。
ベストとは言い切れないが、考えればベターな人選ではある。
その問題児の中に自分が含まれていることが腹立つけど、牢屋に入れられてたこと考えるとそこまで文句言えないのも本心。
「ふん……まぁ、それならいいか。」
ならば存分に押し付けよう、と内心ほくそ笑みながらチーム入りを承諾した。
ただこっちに当然被害が来るのはもう仕方ないという開き直りもあったが。
「ああ、それから……最後にもう一つ、貴様に教えておかねばならんことがある」
「……なによ、まだなんか……」
それを聞き入れ、もう一人を解放しに行く前に教官がふと、口にする。
そんな前置きするほど重要なことなのか?と、疑問を浮かべたが。
いざ聞くと、彼女の中では重要そのものな内容でもあった。
「雅舞リエルは……今、トリニティ総合学園にて潜入工作中だ。ここにはいない」
「……………………は?!?」
正直耳を疑った。
えっ、あの子が?
トリニティ総合学園で?
潜入工作…………………???
「……………冗談か何かですか?!」
「これも“マダム”のご意向だ。……では、失礼する。仲良くな」
「ちょ………!!」
もう一度詳しい話を聞く前に、とっとと教官は行ってしまった。
なんだそれはと言いたいし、何かの間違いだと思いたかったが。
……ここの教官は意味のない嘘などつくことはないし、“マダム”からの命令には必ず従う。
そんな事実が、全てが真実であると物語っていた。
「………………なんで、あんたが」
困惑と感情のままに、無意識ながら呟いた一言。
その中に、どれほどの複雑な感情が蓄積しているのかは、本人にさえ把握できていない。
【□□ クレナ】
アリウス分校所属の生徒。
“ある才能”故に特別房にて収監・管理されていた生徒。チームを組むために釈放。
それ以外の面では比較的従順な方で、収監時にも一悶着あったようである。
しかし、“本当の部分”では“マダム”にさえ懐疑的に思い、その上で従うそぶりを見せている。
そんな中、リエルにだけは何か色々混ざった感情を持っているようだが……
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