アリウスに生まれたとある少女   作:ネコミミの小屋

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襲撃という大きなものを過ぎた後でも。
日常はまるで当たり前のようにやってくる。
いまだに、心に燻るものを残しながら。


0.9章 始発前の小さな幕間
とある少女と、次の日


……夢を見る。

 

 

果てしない白が広がる、何もない空間にぽつんとボク一人だけ。

音もなく、声もなく、ただ何もない空間でひとり。

ただ立ち尽くす。

 

自分自身の感覚も曖昧で、立っていると認識してるのに浮いている気がしたり。

それとは別に水の中に沈んでいるような……そんな気持ちも同時にやってくる。

 

いろんな感覚がまぜこぜに自分の中にあるから、コレが夢なのかなぁと思うのはそう時間もかからなかった。

それにしても変な夢だけど……

 

 

ふと、瞬きをした一瞬に目の前に何かがいるように見えた。

……人の形をしているような、それにしては別の何かが見えるような……

でも、なんでか。

その姿をどこかで……どこかで見た気がする。

 

 

「あなたは、だれ?」

 

 

無意識に、そう問いかける。夢の中なのに。当然、答えなんて返ってこない。

目の前にいる何かは、ただあるがままに漂い、揺蕩っているようにゆらめく。

それがなんなのか、考えることもできない……けれど、きれいだな、と思う。

 

次第に夢だということを忘れて、そのなにかを見つめ続けることに夢中になって……

 

 

『ようやく、“私”をみつけたね』

 

 

……頭の中に何かの声のようなものを聞こえたと感じた時に、目の前がさらに真っ白になって──

 

 

---

 

 

じりりりり、じりりりり。

アズサさんが大切だからと買ってきた目覚まし時計の音が、とっても大きく聞こえる。

 

 

「……ん……あさ……」

 

 

その音で自分のこころがどんどん冴えていって、気怠い体がどんどん起きていく。

まだ眠たいと言っている気がする頭を少しずつほぐしていって、柔らかい布団から体をあげる。

周りを見渡して、カーテンの隙間から明るい光が入ってくるのを見る。

今日もいい天気そうで、どこか心が穏やかになった。

 

「うーん……?」

 

……さっきまで夢で何か見ていたように思うけど、まるで思い出せない。

憶えているのは、何かを見つめていたことだけ。

その中で誰かが語りかけてきたような気もするけど、夢の中で声を聞いたことなんてないし多分気のせいだよね?

 

……うん、忘れよう。

多分考えてもしょうがないし、思い出せる気もしない。

なんでか気にはなるけど……昨日は大変だったから、考えるのも疲れちゃう。

 

クゥ~……

「……あ、おなか減ったなぁ……」

 

それにしても自分の体のことなのに不思議に思っちゃう。

あれだけのことをやってきたのに、自分のお腹はいつもと変わらないように減ってる。

寝る前は何も食べる気持ちが起きなかったのに、今はすっかりこんな調子。

……もしかしたらボクって、思った以上に単純な子なのかな。

 

 

「ん……おはよう」

 

「ん。アズサさん、おはよう」

 

 

アズサさんは昨日のやった任務の疲れを見せないくらいに、あっさりと起きてる。

……ボクのために、いろいろ必死にやってくれたことは嬉しい。

でも、何でかアズサさんならボクのいるいないにかかわらず、セイア様を死に追いやるなんてしないと思っている。

 

そう信じてる……

 

 

「リエル」

 

「ん、……なに?」

 

「昨日のことは……できるだけ、秘密にする。

トリニティの生徒達はもちろん……アリウスの生徒達にも」

 

「……うん」

 

 

もし、セイア様がまだ生きていると“マダム”に知られてしまったら、ボクらの身も危ない。

それに、再び暗殺のための作戦が始まってしまうだろうし、それに他のみんなが駆り出される。

……それは、いやだ。

ボクはアズサさんにも、みんなにも誰かを殺すなんてことさせたくない。

 

……今でも“マダム”に逆らうなんて、震えてしまうほどに怖いけど。

もう、決めたんだ。

 

 

「……私はトリニティでの動きを探るけど……リエルはどうする?」

 

「……ボクは……」

 

 

……でも、これからどうすればいいんだろう?

まだ心の整理がついてるとは言えないし、やりたいことがあったとして、今できる気がしない。

……それでも、何かした方がいいのかな……

 

 

「昨日いろいろとありすぎたから、今日はここでゆっくりしていてもいいと思うけど……」

 

「……とりあえず、お散歩にでも行ってくるよ……ちょっと、お外の空気を吸いたい」

 

 

でも、今は休みたい……

横になってるだけじゃ体が鈍るから、体を動かしてリフレッシュしよう。

 

 

「わかった。……それじゃあ、私は早速行くから」

 

「うん……気をつけてね……」

 

 

素早く支度を済ませてお外に出るアズサさんを、ゆっくり見送る。

あんなことあった後でもアズサさんは冷静で、いつも通りに振る舞えて。

この辺りも心の持ちようが違うのかな、と思ってしまう。

 

……あ、そろそろ朝ごはん……

でも冷蔵庫の中に何かあったっけ……?

うーん……ぱかっと開けて適当に何かないかなぁ……

ないならないで、お外行って買えばいいから……トリニティってすごいなぁ。

 

 

---

 

 

「はむっ……」

 

結局冷蔵庫の中には飲み物くらいしか入ってなかったから、朝からやっているパン屋さんで適当に美味しそうなパンを買って食べてる。

中で食べていいスペースを作ってたりして、そういう心遣いがちょっと嬉しい。

 

「ん……」

 

……うん、やっぱりボクって単純かも。

こんな時でも、ご飯は美味しいし、お水も飲めるし、体はなんともなく動くんだから。

でも、本当に美味しいなぁ……焼きたてのパン……

ここにきてからアリウスのご飯って、なんだかあったかさがないと思うようになって……

うーん。

 

 

「おはようございまーす」

「こっちにパンを3つ!」

「クロワッサンと……チョココロネ……クリームパンに……」

 

 

それにしても、ここにパンを買いに来る生徒達におかしな様子とかがないね……

あの事件が広まっていないのかな?

……あんなこと、見つかったなら誰かが広めているように思ったけど……

気が付いてないなんてことはまずないよね?

 

「はむ……」

 

食べながら、そんなふうに思い悩んでる。

……うーん、隠し事をしたい人がいるのは何もボクたちだけじゃない……のかなぁ。

セイアさまのことを隠してくれるのはボクとしてはありがたいけど。

……いつか、教える時が来たりするのかな。

 

「むぐむぐ」

 

トリニティにもいろいろあるんだなぁ、と思いながらパンを全部食べ切った。

今日は朝から3つもパンをたべちゃった。向こうじゃ食べ過ぎって言われちゃうね……

でも美味しいものっていくらでもお腹の中に入りそうでついつい……

 

あ、いやいや……時には抑えないと、お腹がぽっこりしちゃう……

そんなことないけど、トリニティじゃそういう子もたまにいるんだって。

……これって、羨ましい……ことなのかなぁ……?

ぽっこりしたら動きが遅くなっちゃうってヒヨリさんが……

 

いや、まぁヒヨリさんはどっしり構えるタイプの狙撃手だったしそこまで……?

い、いやいやいや……

 

 

「あ、失礼しますっ!!」

「あんぱんと牛乳、大至急お願いしますー!!」

「今日は経費で落ちるって、何かあったのかなぁ……」

 

 

そんなこと考えてたうちにふと前を見たら、トリニティの生徒だけど黒い制服の人たちを見かけた。

……ええと、確か……あの子達がここの正義実現委員会……ってところだっけ?

慌ただしい様子であんぱんを買っていってる……あと牛乳も。

 

……流石にこっちには情報が入っているんだろうか。

それとも、普段は別の仕事してる子達を出してるのかなぁ?

アリウスでも普段は備品の管理してる子だっているし、みんながみんな戦うためにいるわけじゃない。

“そういう人もいないと部隊は回らん”……ってサオリさんが言ってたの思い出した。

 

……それはそれとしてあんぱんと牛乳……どう言う組み合わせなんだろう。

なんでかみんな買っていくけど……いいコンビだったりするのかな?

 

「でも今から頼んでもお腹に入らないなぁ」

 

それに、もう売り切れそうな勢いだし。

……と、思っていたら無くなっちゃった。

美味しいものはすぐに無くなっちゃうってトリニティではよく聞くけど、本当だよね。

 

せっかくだから、他のお菓子パンを買って帰ろう。

あんぱんが減っていく様子を見てたら食べたくなってきちゃったし。

それが、今じゃなくってもいいから……ものを買えるってすごいなぁ。

 

えーと、メロンパンでいいかな、あとクリームパンとチョココロネと……

 

 

---

 

 

気がついたら手持ちの袋の中がお菓子パンでいっぱいになってた。

がさ、がさというちょっと大きめな音が耳の中に遠慮なく入ってくる。

 

「買いすぎたかも」

 

でも、みんな美味しそうだったんだもん……と心の中で言い訳する。

実際最近は食べる量もどんどん増えていって大変だ。

もしアリウスじゃ食べ過ぎ罪でお仕置きされてしまうかも。

 

特に、甘いものなんてアリウスでは本当になかったから……いくらでも入って……

晩ごはんもお腹いっぱいぺろりと平らげて……胸が苦しくなっちゃったことも。

それだけ食べられるのは幸せに間違いない、けれど……

 

「このままじゃお腹が膨らんじゃいそうだ……」

 

ちょっとぽよぽよしてるお腹をさすってついつい呟く。

手足の筋肉はともかくお腹の筋肉はそんなに鍛えてないのもあってだいぶんだらしない。

このまんま食べ過ぎたらこのお腹がどかんと爆発するんじゃないかな……とか、思っちゃう。

実際そんなことは起こることないんだけど。

 

いや、でもお腹に関して食べ過ぎ以上の原因は……

 

 

「たまには体も動かさなくっちゃなぁ……」

 

 

運動不足……普段の生活くらいの動きじゃなく、明確な運動が足りない……

保健室にいた頃から他の子と比べて訓練量が少なかった。

ただ、何にもしてなかったわけじゃなく、軽い柔軟とかそう言うのはみんなでやっていた。

 

でも、今は……

トリニティでの生活が楽しくって……自主的な運動はぜーんぶさぼっちゃってた。

しかも戦闘行為とかも避け続けてたから……今ではすっかりにぶにぶ状態に……

 

もし内戦の頃にこんな様じゃすぐにやられちゃうよ……

……いくら平和な時間と言っても、もう少し運動して動けるようにしなきゃ。

いきなり激しい訓練はかえって苦しいだけだから、最初は軽いお散歩から始めよう。

よし、そうと決まればお部屋にパンを置いて、早速お散歩を……

 

 

「……その前にメロンパン食べよう」

 

 

そういって自分の持ってるビニール袋からがさごそと美味しそうなパンを一つ。

ああ、目の前の誘惑に勝てない……

ボクはこころのよわいこです。

 

一口食べた時に外がカリッと、中身がフワッと……その違いに最初は驚いたっけ。

こんなものどうやって作ったんだろうとか思いながら、あまいパンをつまんでいく。

食べてる時にメロンってどんなものなのかなとか考える。

これとメロンは全然違うものだって店員さんが勘違いした時におもしろそうにしながら教えてくれたっけ?

 

本当のメロンは甘くて、柔らかくて、食べ応えがあって……じゅるり。

……ああ、いけないいけない……最近は食べ物のことばっかり考えて……

こんなんじゃ、だらしないおなかのまんまだぁ〜……

 

 

「……はアレが発売されるとは本当ですね!?」

「……違いありません!わたくしの耳は確かですっ!!」

「……こそ、アレを初めて手にする栄光を……!!」

「……っと待ちなさい!一番手は決して譲りませんわ!?」

 

 

「……?」

 

……ところでさっきからなんだかこの辺りが騒がしくなってきた気がする……

それになんだか声がピリピリしてて危ない感じがするような……

 

なんだか嫌な予感がしたからその辺りに隠れられそうなところがないか見渡して……

ちょうど、死角になってるっぽい場所を見つけ、素早く身を隠す。

慎重に、音を立てないようにすれば後ろから来ない限りは気が付かれない……と思う。

たぶん……

 

声の方向には……たくさんの生徒たち。

トリニティ総合学園の人たちが群れをなして何かをやっているように見える。

それにほとんどの生徒が銃を構えて一触即発な空気だ……

も、もしかしてけんか……?それなら隠れている間に隙を見てここから離れてしまった方が……

 

 

 

『トリニティ総合学園の生徒の皆様、お待たせしました!!

ミラクル5000、只今より販売を開始いたしまーす!!

早いものからどんどんと買っていってください!たくさんありますよ〜!!!』

 

「ほへ?」

 

 

生徒たちがきた方から真逆の方から何か大きい声が聞こえてきた。

みらくるごせん??……ってなに??

 

 

「よしっ、一番手いただきっっ!!!」

「待ちなさいっ、先には行かせませんわよ!?」

「うぉぉぉ、ミラクル5000〜〜〜〜っ!!」

「どけどけどけ〜!!」

「さぁ、このわたくしにミラクル5000をお寄越しになりなさいっ!!!」

 

 

その言葉をきっかけに、向こうの空気がもっと激しく……

というかもう銃声が鳴ってるし取っ組み合ってるし互いに攻撃しあってる……

 

い、一体なんなの〜……!?




【雅舞 リエル(2)】
アリウス時代の趣味は保健室内でのお話。
最初はみんなのために手探りでやっていたことだが、いつしか楽しいことのように思い。
誰かがやってくるとのびのびと話すのが密かな楽しみだった。

トリニティに来てからの悩みは、体重が結構増えてしまったこと。
アズサは体格から考えれば元が低い方だった気がするから、悩まなくていいと思う……と言い残している
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